IS―兎協奏曲―   作:ミストラル0

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今回は色々とネタな回になりそうです。
まあ、このシナリオの元ネタを知る方からすればタイトルである程度お察しかと思いますが・・・・彼女と箒達の接触、これがこのシナリオで一番やりたかった事です。


156話 巫女姫と旦那様 兎、危険を感じる

旅行2日目。特に大きな問題もなく、その日はいくつかのグループに分かれて夜間瀬を観光する事になったのだが、その前に皆で高社神社へ参拝する事となった。

 

「高社神社・・・・何故だろう、嫌な予感がしてならないんだが」

 

「ただの神社なんだろ?そこまで気にする必要も無いさ」

 

「・・・・だよな」

 

雪兎の知る限り、高社神社に神様が出ただの、不可思議現象が起きただのという話は無いはずだ。なので一夏の言う通り気にし過ぎだと雪兎は気を持ち直す。しかし、雪兎は失念していた・・・・今が時期的に1作目と2作目の間に該当するという事は、1作目の主人公・須賀川勇希(すががわゆうき)※1が既にどのヒロインかと付き合っているという事を※2。

(※1 デフォルト、変更可なのでこの世界の彼がこの名前かは不明)

(※2 昨日の様子から星川こはるではないと確定しているので残り二人のどちらか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一行が高社神社に到着すると、一人の巫女服姿の少女が楽しげに境内を掃除していた。

 

「あっ!紗雪先輩!」

 

だが、聖が声を掛けるとその手を止めて聖へ微笑みかけた。

 

「あら、聖さん、お久しぶりです」

 

「おいおい、巫女姫さんまで知り合いかよ!?」

 

その巫女服の少女の正体はヒロインの一人である高社紗雪(たかやしろさゆき)。名前から判るようにこの神社の娘で、地元では『巫女姫』と呼ばれている。

 

「聖ちゃんは妹の雪静(ゆずか)のお友達なんですよ・・・・貴方は聖ちゃんの新しいお友達ですか?」

 

「あっ、申し遅れました。自分は天野雪兎、聖のクラスメイトです」

 

「あら、そうでしたか・・・・あれ?あいえす学園は女性の学校だと聞いていましたが?」

 

「例外の男性適性者が二人いたんだよ。だろ?天野雪兎君」

 

そう紗雪が小首を傾げると、社務所の方から一人の男性が現れ紗雪の疑問に答え、雪兎に声掛けた。そして、雪兎はその男性を見て固まった。その理由は・・・・

 

「旦那様!」

 

「「「「えっ!?旦那様!?」」」」

 

(紗雪ルートかよ!?)

 

そう、紗雪が旦那様と呼ぶその男性こそ1作目の主人公・須賀川勇希その人だったのだ。

 

「あの、紗雪先輩がお付き合いを通り越して旦那様って・・・・」

 

「ははは、それにはまあ色々あってね」

 

その後、改めて自己紹介した面々(やはり名前は須賀川勇希であった)は、主に女性陣(特に箒達一夏狙いの者達)が二人の馴れ初めについて色々と質問をし始めた。

 

「何かすみません、勇希さん」

 

「あはは、婚約した当初は俺の周りもこんなだったよ」

 

一つしか歳が変わらないのに、勇希の対応は慣れたものである。だが、話を聞いているうちにどんどん箒達の様子が暗いものになりだした。

 

「・・・・負けた」

 

「・・・・こ、これが本物のヒロイン」

 

「・・・・正に大和撫子ですわ」

 

「・・・・」

 

そう、日頃から何かと手が出がちだった箒達は大和撫子を絵に描いたような紗雪のあまりの女子(ヒロイン)力に打ちひしがれてしまったのだ。特に同じ神社の娘たる箒には特攻ダメージだったらしく、既に真っ白になっている始末だ。

 

「死屍累々だな、これ・・・・」

 

「まあ、自分達から聞いたんだから自業自得といいますか」

 

それを他人事のように見ていた雪兎だが、次の瞬間には青ざめる事となる。

 

「こ、婚約って事は、その・・・・キスの先までしたんですか?」

 

それは紗雪同様に雪兎と婚約に近い状態にあるシャルロットの質問である。その答えを知る雪兎は旅館での嫌な予感の原因が何だったのかを察する。

 

「それは・・・・その・・・・」

 

質問された紗雪も恥ずかしさから流石に口にはしないものの、顔を真っ赤にして照れている様子から答えは明白である。シャルロットが笑顔で雪兎を振り返り、つられて一行が雪兎を見ると・・・・雪兎は幼馴染の一夏達すら見たこともない滝のような冷や汗を流し思わず後退る。

 

「だって、雪兎♪」

 

「・・・・疾風ダッシュ!」

 

「逃がさないよ!」

 

雪兎はかつてない速度で高社神社から逃げ出した。しかし、シャルロットも雪兎達の早朝特訓で鍛えた脚力を活かして雪兎を追って行き、それを「面白そう!」とレヴィも追いかけていった。

 

「・・・・大丈夫かな?雪兎兄」

 

「シャルロット、恐ろしい娘」

 

雪兎の事になると恐ろしいアグレッシブさを見せるシャルロットに戦慄する一行だが、「雪兎なら大丈夫だろう」と勇希や紗雪と別れてそれぞれのグループで観光を始める事にした。尚、箒が立ち直るまで一夏のグループだけは高社神社に残り続けたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あんなところに伏兵(紗雪と勇希)がいたとは!」

 

念の為にと登山等の滑り止め完備のブーツで夜間瀬を疾走する雪兎。今のシャルロットに捕まるとどうなるか分からない為、正真正銘の全力疾走だ。

 

「ゆぅ~きぃ~とぉ~!!」

 

対するシャルロットは精々市販の滑り止め程度の靴なのに滑る事なく雪兎を追走している。尚、レヴィは逆に滑りながら二人を追っている。こうして、雪兎の平穏な旅行のかかった逃走劇が幕を開けた。

 

「今回ばかしは何が何でも負けられねぇ!」

 

何とかしてシャルロットを撒こうと、雪兎は某逃走劇番組の様に角を利用してシャルロットの視界から逃れようとするが、曲がった先にいたオッドアイの女性とぶつかりそうになってしまう。

 

「えっ!?」

 

「やべっ!?」

 

だが、履いていたブーツのおかげでブレーキが間に合い、正面衝突を回避する。

 

「あ、危ないじゃない!」

 

「す、すみません!?少し急いでるものでっ!」

 

手短に謝罪をすると、雪兎は再び走り出し去っていく。するとそれほど間を空けずシャルロットもその女性の横を通り抜けていった。

 

「・・・・一体何だったのかしら?」

 

残された女性こと、1作目の最後のヒロイン・上林聖(かんばやしみずき)は首を傾げるのであった。

 

「う~ん、二人共速すぎるよぉ~!見失っちゃったじゃないか!」

 

そんな聖の前に次はレヴィがやって来る。

 

「というか、ここ、どこ?」

 

完全に雪兎とシャルロットに撒かれて見失ってしまったようだ。

 

「あら?この辺りでは見ない顔の娘だけど、迷子?」

 

「うん、そうみたい」

 

「素直でよろしい。どこか分かる場所の名前は?」

 

「エンギって旅館とこはるびより!」

 

「あらあら、なら案内してあげるわ。お姉さんも丁度こはるびよりに行くところだったのよ」

 

そんなこんなでレヴィは聖に助けられ、こはるびよりにてディアーチェ達と無事に合流する事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、雪兎は一先ずシャルロットを撒く事に成功し、一息ついていた。

 

「・・・・今日もエンカウント率やべぇな、これは」

 

紗雪、勇希に続いて聖ともエンカウントした事で雪兎は「この旅行中にこの時期に夜間瀬にいる主要キャラと全員接触するのでは?」と疑い始めていた。そんな時だった。

 

「最悪だ・・・・何でこう簡単にはぐれるのかねぇ、あの筋肉馬鹿は」

 

「戦兎、ポテトもいない」

 

「アイツは方向音痴でしょうが・・・・」

 

どこかで見たようなトレンチコートの男性と革ジャンの男性が誰かを探しているようだった。

 

「・・・・似てる」

 

トレンチコートの男性は葛城巧に似ているが、革ジャンの男性の言葉から戦兎という別人のようだ。

 

「もしかしたらこの世界の巧さんに相当する人なのか?」

 

雪兎がそんな事を考えていると、その二人が雪兎に近付いてきた。

 

「ちょっと君!」

 

「お、俺ですか?」

 

「ああ、この辺りで如何にも頭の悪そうなエビフライのような編み込みをしたやつと、モッズコートを着たドルオタみたいなやつを見なかったか?」

 

「(龍我と一海だろ、そいつら・・・・)い、いえ、俺は見てないですね」

 

「そっか・・・・幻さん、あっちの方を見に行ってみよう!」

 

戦兎のその言葉に幻さんと呼ばれた男性は革ジャンの下に着た「急ぐぞ!」と書かれたTシャツを見せて頷くとあっという間に去っていった。

 

「・・・・なるほど、あれは幻徳ポジか」

 

「あっ!見つけたよ雪兎!」

 

「やばっ!?」

 

Tシャツでの会話で彼が幻徳に相当する人物だと察したところで、雪兎も追っ手(シャルロット)に見つかりその場を走り去っていく。そして、問題の龍我と一海に相当する人物達はというと・・・・

 

「戦兎ぉ~、何処にいっちまったんだよぉ~」

 

「きっと戦兎達はこっちだ!」

 

「そっちはさっき俺達が来た道だってのぉ!方向音痴なんだから大人しくしやがれ!このドルオタ!」

 

「何だ?やんのかエビフライ!その頭にソースぶっかけんぞ、コラァ!」

 

迷子になっているというのに喧嘩を始めていた。その後、たまたまそこを通り掛かったレヴィと聖に助けられ、無事に戦兎達と合流出来たそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・・こんなに、全力で、走ったの、いつ振りだよ、全く・・・・」

 

何とか再びシャルロットを撒いた雪兎だったが、シャルロットの猛追跡に流石の雪兎も疲労を隠せない。

 

「ってか、ここ、何処だよ・・・・」

 

そして、逃げるのに必死過ぎて雪兎も現在地が何処か分からなくなっていた。

 

「えっと、何か目印になるもんは・・・・ん?」

 

そこで雪兎が見つけたのは「山ノ内荘」という看板だった。

 

「・・・・何で俺、彼女に追われながら聖地巡礼(作品の名所巡り)してんの?」

 

そう、この山ノ内荘は勇希や聖が下宿している場所なのだ。

 

「まあ、ここが山ノ内荘なら道は大体判ったようなもんだがーー」

 

その時、雪兎は一人のお婆さんが荷物を持って歩いているのを見かけた。

 

「大丈夫か?お婆さん」

 

「おや、この辺では見ない顔だね?観光かい?」

 

「ええ、そんなところです。ところでその荷物は?」

 

「これかい?これはウチの孫の忘れ物でね。お爺さんがぎっくり腰で動けないから私が届けてやろうと思ってね」

 

「へぇ、何処まで?」

 

「高社神社は分かるかい?孫は今そこの手伝いをしててね」

 

「・・・・お婆さん、そのお孫さんの名前、勇希だったりしません?」

 

「おやまあ!孫を知っているのかい?」

 

「ええ、丁度今朝知り合いまして・・・・」

 

その後、雪兎はお婆さんの荷物を持って高社神社まで同行し、無事に勇希に忘れ物を届ける事が出来た。

 

「ありがとうね、お兄さん」

 

「俺からも礼を言うよ」

 

「たまたま通り掛かっただけですよ」

 

ここで終われば良い話で済んだのだが、そうは問屋が卸さなかった。二人と別れ再び逃走を開始しようとした雪兎の肩をガッシリと掴む手があったからだ。

 

「やっと捕まえたよ?雪兎」

 

「い、いつの間に追い付いたんだ、シャル・・・・」

 

そう、その手の持ち主はシャルロットさんである。

 

「ちょっと待て、話せば判る!ってか、勇希さん!?何合掌してんですか!?グルか!グルなんだな!?」

 

どうやら勇希から(ひじり)経由でシャルロットに情報がリークされていたらしい。

 

「さあ、雪兎・・・・二人で色々と話し合おっか?」

 

その日、縁嬉の部屋が新しく一部屋埋まった。




という訳で、箒達ヒロインズの完全敗北と、雪兎がシャルロットに捕まるお話でした。
今回登場したヒロインは紗雪と(みずき)でした。
箒達の完全敗北の為にこの世界では紗雪ルートとなりました。おかげでもう一人敗者が増えましたが・・・・
他にも様々な人物が登場しましたが、今後登場するかは未定ですw


次回予告

旅行3日目は雪兎もようやく普通の観光が・・・・


次回

「和菓子VS洋菓子 兎、巻き込まれる」

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