IS―兎協奏曲―   作:ミストラル0

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決勝は色々あって前後編となっております。



138話 決勝戦!雪兎VS一夏! 兎、ちょっぴり本気出す

箒の暴走は特に大きな被害もなかった為、少しのお説教と反省文で済んだ。そして、アリーナのメンテナンスの為に決勝戦は翌日になった。

 

「明日か・・・・」

 

準決勝のあったその夜、一夏は一人屋上で空を見上げていた。

 

「一夏、ここにいたか」

 

そこにラウラがやってくる。

 

「ラウラか、どうしたんだ?」

 

「明日は雪兎との決勝戦だろう?その前に一つ指南をしてやろうと思ってな」

 

そう言うとラウラはいつもの早朝訓練のようにゴムのナイフを構える。

 

「なるほどな、それじゃあ胸を借りさせてもらうよ」

 

「む、胸だと!?」

 

「ん?何か変な事言ったか?」

 

「い、いや、すまん、私が過剰反応しただけだ」

 

言葉の意味は知っていても、意中の相手から言われると変に反応してしまうラウラ。だが、流石は軍人と言うだけあって動き始めればそんな素振りは見せない。

 

「くっ」

 

「大分反応が良くなってきたではないか?」

 

「ああ、ラウラや晶、それに雪兎とも散々やったから、なっ!」

 

ラウラの攻撃を受け流しながら一夏も手にしたゴムナイフでラウラに反撃する。朝の訓練を開始した頃の一夏は反撃はおろか防御すら満足に出来ていなかったのを考えれば、今の一夏は随分と成長したと言える。しかし、まだラウラの方が上手なようで、その反撃の繰り出した腕を掴まれて逆に投げ飛ばされてしまう。

 

「まだまだだな」

 

「いってぇ・・・・やっぱラウラには敵わないな」

 

「当たり前だ。始めて間もないお前にそう簡単に敗れるようであれば私の立つ瀬がなかろう」

 

「それもそっか」

 

その後、ラウラは「負けるなよ」とだけ言い去っていった。

 

「さてと・・・・汗かいたし、部屋でシャワーでも浴びるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラとの組手でかいた汗を流そうと一夏が部屋に戻ろうとすると、部屋の前に鈴がいるのを見つけた。

 

「鈴?こんなとこで何してんだ?」

 

「わ、わわぁ!?な、何だ、一夏か・・・・もう!いきなり後ろから声かけないでよ!」

 

「いや、そんな事言われてもなぁ」

 

「それはそうと、こんな時間にどこ行ってたのよ?それに何か汗臭いし」

 

「ちょっと屋上にな、そしたらラウラが来て少し組手をしてたんだ」

 

「くっ、先を越されてたか!」

 

ラスボス(雪兎)前の決戦前夜の語らいという絶好のシチュエーションで遅れを取ったことに歯噛みする鈴だったが、気を取り直して一夏と部屋に入る。

 

「で、鈴はどうしたんだよ?」

 

「私は・・・・これよ」

 

一夏がそう問いかけると、鈴は自分のstorageを操作して机の上に小ぶりの丼を出した。

 

「・・・・丼?」

 

「そっ、夜食にと思って。運動してきたなら丁度良かったわ」

 

そう言って鈴が丼の蓋を取ると中身は卵とじカツ丼だった。

 

「カツ丼か」

 

「ちょっとした願掛けよ、あいつ(雪兎)が相手なんだし少しでも勝てるようにって」

 

「ありがとな、鈴」

 

「どういたしまして」

 

カツ丼の匂いを嗅いでいたら小腹が空いてきた一夏が丼に手を伸ばそうとするが、鈴はその丼を一度storageにしまってしまう。

 

「その前に!シャワー浴びてきなさいよ。いつまで汗だくでいるつもり?・・・・私は別に構わないけど

 

「おっと!そうだったな」

 

最後の部分は小声で聞き取り難く、一夏には聞こえなかったようだ。

 

「storageに入れとけば冷めないし、早く行ってきなさいよ」

 

「おう」

 

そう言うと一夏は着替えを持ってシャワールームへと入っていった。だが、鈴は自分のやらかした事に気付き赤面していた。

 

(一夏のstorageにしまわせれば良かったのに何で自分のstorageにしまっちゃったのよ、私!)

 

そう、鈴は自分のstorageにカツ丼をしまってしまったために部屋を出られなくなっていたのだ。

 

(い、一夏のシャワーシーン・・・・ゴクリッ)

 

そして、シャワーの音と一夏の鼻歌が聞こえ、その想像をしてしまう鈴。

 

(はっ!私は何を想像してんのよ!)

 

恥ずかしい想像をしてしまった鈴は恥ずかしさのあまりに壁に頭を打ち付け「心頭滅却!心頭滅却!」と呟き出す。

 

「ふー、スッキリした・・・・って、何やってんだ、鈴?」

 

「あ、あははは・・・・何でもない、何でもないわ!」

 

「変なやつだな」

 

そんなやりとりをしていると、コンコンコンコンと部屋の扉をノックする。ちゃんと4回ノックしている事から国際マナーはしっかりした人物のようだ。

 

「い、一夏さん、いらっしゃいますか?」

 

それはセシリアだった。

 

「ちっ」

 

舌打ちをしつつも冷静さを取り戻した鈴。

 

「一夏!これ置いておくね!丼はまた今度でいいから!」

 

鈴はそう言って丼を置いて部屋を飛び出していった。

 

「り、鈴さん!?」

 

「今度はセシリアか」

 

飛び出していった鈴に驚くセシリアだったが、すぐにシャワー上がりの一夏に視線を奪われる。

 

「い、一夏さん、シャワーを浴びてらしたのですか?」

 

「ああ、ラウラとちょっと組手をしててな、その後に鈴が来たからちょっとシャワー浴びせてもらったんだが」

 

「そ、そうでしたか」

 

鈴と何かあったのでは?と疑っていたセシリアだが、裏表の少ない一夏が嘘をつくとは思えずそれが本当だと誤解を解いた。

 

「皆、明日の決勝戦に向けて気を使ってくれてな」

 

鈴が置いていった丼を示して一夏は苦笑する。

 

「夜食ですか?」

 

「ああ、日本の験担ぎさ」

 

「では、私のはその後で」

 

「・・・・セシリアも、食べ物なのか?」

 

改善されたとはいえ、不安が無いとは言えないのがセシリアの料理なのだ。一夏に悪気は無い。

 

「だ、大丈夫ですわ!ちゃんとディアーチェさんに見てもらいましたから!」

 

「ディアーチェに?それなら安心だな」

 

実はディアーチェも料理が得意で、一度一夏達にも振る舞ってくれたのだが、かなりの腕前だった。そのディアーチェのお墨付きなら大丈夫だろうと、一夏はホッと息を吐く。

 

「それで、セシリアは何を?」

 

「紅茶とクッキーですわ」

 

「それは楽しみだ」

 

その後、一夏は鈴のカツ丼を食した後、セシリアから紅茶とクッキーを振る舞われた。カツ丼も紅茶とクッキーもとても美味しく、お礼を言うとセシリアも顔を真っ赤にして帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアが部屋を出てしばらくすると、コンコンコンと再び扉をノックする音がした。

 

「はい」

 

「・・・・遅くにすまない」

 

一夏が扉を開くと、そこには箒の姿があった。

 

「箒?どうしたんだ、こんな時間に」

 

「あ、明日は雪兎との決勝戦だろう?だから私も何か力になれる事は無いかと・・・・」

 

「なんだ、箒もか」

 

「私”も”?ということは・・・・」

 

「ラウラは決勝前最後の組手、鈴はカツ丼、セシリアは落ち着く紅茶とクッキーを作ってくれてな」

 

くっ、出遅れたか・・・・

 

「箒?」

 

「な、何でもない!それより部屋に入れてもらっても?」

 

「ああ」

 

部屋に入ると、箒は少し緊張した面持ちで話し始める。

 

「私も色々と考えたのだがな、結局は大したものは浮かばなかった。そこで紅椿と相談したのだが・・・・」

 

「そっか、箒も紅椿と話せるようになったんだったな」

 

今までは雪兎の雪華と一夏の白式に白凰に聖のウェーブライダーぐらいしか話すことの出来るISはいなかったのだが、今日の一件で箒も紅椿と対話が可能性になったのだ。

 

「紅椿は・・・・を貸してやれ、と」

 

「えっ?」

 

紅椿が箒に提案した内容は一夏も驚く内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!今日は長らく続いたこのトーナメントの決戦戦!実況は本日も私、黛薫子がお送りします!』

 

翌日、決勝戦の客席は生徒や試合を見にやってきた各国の重鎮やらで今日も満員状態。それも無理は無い。何故なら決勝戦のカードは両者共に未だに数少ない男性操者なのだ。また、お互いに前代未聞の三次移行IS同士でもあり、そして、その操者自身も織斑千冬の弟であり最初の男性操者の一夏に、篠ノ之束の弟子にして【兎の皮を被った災害(ラビットディザスター)】の二つ名で知られる雪兎の二人。これは正に全世界の注目を集める一戦と言えた。

 

『解説は昨日に引き続き織斑千冬先生とイヴァン=ニルギースさんにお願いします』

 

『よろしく頼む』

 

『引き受けた』

 

『それでは選手に入場していただきましょう!まずは青コーナー!今まで圧倒的な力を見せつけ勝ち上がってきた天災!何でこんなに強いのか!?天野雪兎!』

 

紹介と共に入場した雪兎が今回最初に使用するパックはヴァイサーガ。どうやら一夏に合わせて斬撃戦で戦うようだ。

 

『この天災に挑むは赤コーナー!まるで今までの試合はこの決勝戦の為の砥石!その研ぎ澄まされた刃は届くのか!?織斑一夏!』

 

対する一夏は既に煌月白牙と雪片参型を手に臨戦態勢で入場する。

 

「やっとだな、一夏」

 

「ああ、やっとだ・・・・やっとお前と戦えるぜ、雪兎」

 

雪兎は勝ち上がってきた一夏を、一夏はその場に君臨する雪兎を、互いに待ち望んだ一戦。そこにいつものフザケ合っている二人の姿は欠片も感じられない。

 

『今回は決勝戦という事で普段通りのこのアリーナが舞台!つまり!小細工抜きの真剣勝負です!』

 

今までは様々なフィールドで戦ってきたが、決勝戦とあってノーマルのアリーナが舞台に選ばれた。だが、この二人にはそんな事は大した問題では無い。

 

『それではっ!正真正銘のラストバトル!決勝戦!ファイッ!!』

 

「はぁあああ!!」

 

カーン!というゴングと共に最初に仕掛けたのは一夏。両手の双刃で連撃を放つが、雪兎はそれを回避しつつ、回避出来ない攻撃は五大剣の抜刀で捌いていく。

 

「そんなものか!一夏!」

 

「まだまだぁ!」

 

その目にも止まらぬ斬撃の応酬は音を置き去りにして加速していき、客席には音がズレて聞こえ始める。

 

『の、のっけから凄まじい剣撃の応酬!もう私には二人の手元が見えません!』

 

『ふっ、やっと昔の教えが身に付いたか』

 

『だが、雪兎あの連撃を剣一つで捌くとはな』

 

すると、一夏のスピードが更に上がり、雪兎も抜刀ではなく抜いたままの状態で迎撃しだし、マントまで防御に使い始める。

 

「うぉおおおおお!!」

 

「まだ上がるか!ならば!」

 

雪兎はマントをドリルのように変形させ、一夏を弾き飛ばすとバルニフィカスとネオイェーガーを展開し、武器をスラッシャーに持ち替える。そして、今度は雪兎の方から仕掛けた。

 

「今度はこっちからいくぞ!一夏ぁ!」

 

そのスピードは手元はおろか雪兎自身が捉え切れないスピードで一撃離脱の斬撃を繰り返し、一夏を防戦一方に追い込んでいく。

 

「それがここまで勝ち上がってきたお前の力か!?まだ足りない!」

 

「くっ!」

 

「お前に足りないものは、それは情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてぇ何よりもぉおおおお速さが足りない!!」

 

防戦一方になる一夏に雪兎は某速さを愛する文化的兄貴のセリフを引用し挑発する。

 

『よ、よく噛まないであの長セリフ言えますね、彼・・・・』

 

実は雪兎はこのセリフを昔からいつか言おうと猛特訓していたとは誰も思うまい。

 

「白式!」

 

その挑発に一夏も防御を捨ててスピードを上げ、二人の戦いは高速戦闘へと移行する。

 

「やれば出来るじゃないか!」

 

「はぁあああ!!」

 

最早客席を取り残した白と水色の軌跡しか見えぬ高速戦闘。一夏のシールドエネルギーの減りが目立つが、雪兎も決して無傷とは言えず、徐々にシールドエネルギー残量を減らしていた。

 

「雪兎ォオオオオオ!!」

 

「一夏ァアアアアア!!」

 

そして、両者のトップスピードの一撃がぶつかり合い甲高い激突音がアリーナに響いた。

 

「くっ!」

 

「ちっ!」

 

その衝突はほぼ互角だったようで、お互いに弾き飛ばされてしまう。

 

「やるじゃねぇか、一夏。この俺の最速のパックの組み合わせにここまで食らい付いてくるなんてな」

 

「ぜぇ、ぜぇ、知ってはいたが、ここまで速いとは、思わなかったよ」

 

「だが、まだ全速力じゃねぇだろ?お互いに」

 

「ああ!その通りだ!」

 

一夏がそう言うと、一夏の姿がブレて消え、雪兎は咄嗟に背後にスラッシャーを回す。すると、刃がぶつかり合う音が響く。

 

「ったく、危ねぇな・・・・」

 

「くそ!せっかく上手く出来たのに!」

 

『あぁっと!?今のは!?今のは対戦相手の雪兎選手特有のムーブだ!?この土壇場で、一夏選手が掟破りという新たな引き出しを開けてきた!?』

 

そう、一夏の動きは雪兎がダリル・フォルテペアとの試合で見せた瞬時加速の連続使用による移動法。今まで何度も練習を繰り返し磨き続けながらも雪兎にその完成を一度も見せていなかった一夏の奥の手だったその技は雪兎の直感によって防がれてしまった。

 

「もうものにしてやがったのか、それ」

 

「ものにするのに苦労したけど、なぁ!」

 

だが、一夏の奥の手はそれだけではなかった。何と、一夏は左手で持った雪片参型を雪兎に投擲したのだ。

 

「ちょっ!?お前それってあの脳筋(万城龍我)のーー」

 

まさか一夏が特別な思い入れを持つ雪片を投擲するとは思ってもいなかった雪兎が初めて隙を見せ、一夏はその一瞬の隙を逃さず雪羅弐型をクローモードにし再び瞬時加速で一気に距離を詰めると雪兎のスラッシャーの柄を握り潰し破壊する。

 

「なっ!?」

 

これには流石の雪兎も驚愕するが、それが致命的な隙となってしまう。

 

「はぁああああ!!」

 

スラッシャーが破壊され体勢を崩した雪兎に一夏は上段の構えから零落白夜を発動させた煌月白牙を一気に振り下ろし、雪兎は大きく吹き飛ばされアリーナの地面に激突、シールドエネルギーも一気に削り取られてしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・やったのか?」

 

その光景にアリーナ中の全ての者が言葉を失った。無理も無いだろう。今まで圧倒的に優位を崩さなかった雪兎がここまで追い詰められる姿など誰にも想像出来なかったのだから・・・・




前編はここまでです。
続きは後編で・・・・ん?「前編って事はまだ決着はついてないんだろう?」って?
それは・・・・待て、次回!という事で



次回予告

複数の奥の手で雪兎を追い詰めた一夏。だが、理不尽が人の姿をした雪兎がこれで終わるはずがなく・・・・


次回

「決着!決勝戦 兎、新たな札を切る」

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