今回は試合前に前回の続きがあります。
一回戦最終試合
更識簪VS織斑一夏
ファイッ!
その日、IS学園を襲撃したのは亡国機業の部隊の一つ・シャドウズと呼ばれる者達で、モノクロームアバターやゾディアックノワールのように秀でた者はいないが、数は多い部隊だ。各国に潜入している工作員の過半数がこのシャドウズのメンバーなのだ。そのシャドウズに今回下された命令は「トーナメントでアリーナに人手が集中している隙にIS学園に忍び込み様々なデータを盗み出す事」。だが、それも兎達には筒抜けで、当日はあえて警備を少し手薄にしてシャドウズを学園に誘い込んだのだ。なお、アリーナは完全防音の為、シャドウズの事を知るのは一部の者だけだ。
「この程度の戦力で私を抜こうとは笑わせる」
「こんなものですか」
雪兎はユーリをお供に東を担当していたが、他の区域を担当していたのは北が千冬と真耶の教師コンビ。
「ふん!口ほどにも無い」
「やっぱ僕達は強い!」
「ほとんどを王とレヴィに狩られてしまいましたね」
西にはユーリを除くマテリアルズ。
「う~ん!久しぶりに思いっきり動いたなぁ」
『全く、弟が弟なら姉も姉だな』
南には雪菜と正体を隠す為にボイスチェンジャーを使ったイヴァン、とそれぞれ雪兎と変わらぬ状況を作り出している。ちなみに一番数が少なかったのは東らしい。
「天野、後始末は教員がやっておく。お前はそろそろアリーナに戻っておけ」
一回戦の終わりも近付いてきたので、雪兎は一度アリーナに戻らせ、代わりに引き続きユーリ残りが、そしてもう一人アリーシャが東の担当に付くことになっている。
「それじゃあ、アリーシャさん、後は任せます。ユーリも頼む」
「よろしくね、ユーリ」
「はい!」
雪兎がアリーナに戻ると、丁度一回戦最終試合が始まるところだった。
『一回戦最終試合のカードはこちら!青コーナー、私は守られる側じゃない!守る側だ!更識簪!』
簪は今回、剣山を装備していた。白雷も暴風も今の白式には効果は薄いと判断したのだろう。
「私だってヒーローになってみせる!」
『赤コーナー、友と戦う為には負けられない!織斑一夏!』
対する一夏は入学当初の頃と比べ雰囲気が変わりつつあった。もう、零落白夜に頼りきりだった頃の一夏はいない。
「悪いが簡単には負けられないぜ、簪。俺は勝ち抜いてあいつとどこまでやれるのか試したい。だから・・・・最初から全力だ!」
エナジーウイングを全開に開き、煌月白牙と雪片参型を構える一夏。
「それは私も同じ・・・・あの日、私達を助けてくれた彼に、私もここまで出来るようになったって証明する!」
一方の簪も、全身の追加総合からブレードを展開し、ミサイルもすぐに発射出来る体勢を取る。
「だったらなおのこと恥ずかしい試合は出来ねぇな」
「うん、私も一夏に全力で挑む」
『今回のステージは・・・・これだ!』
『ポチッとな』
今回ARプログラムが生成したステージは二人もよく知るステージだった。そこは前に雪兎達が迷い込み、己の正義の為に戦っていた友と出会った場所・・・・そう、ジェナス達アムドライバー達と出会ったあの廃墟だった。
『ほう、懐かしいステージが出たな』
『そうなの?』
『ああ、ある意味この二人にはうってつけのステージだ』
「マドカの言う通りだな」
「うん、彼らはヒーローだった」
「強い信念を持ってた」
ジェナス達アムドライバーは二人にとっても大きな影響を受けた者達だった。
『それでは一回戦最終試合、試合開始!』
「「GET RIDE!」」
そして、二人は示し合わせたかのようにジェナスのいつも言葉を真似て激突した。
「はっ!」
「ていっ!」
すれ違い様に放たれた一夏の斬撃は弐式の肩に装着されたシザーズユニットの右側によって阻まれ、逆に左肩のシザーズユニットによる攻撃はエナジーウイングによって防がれる。
「山嵐!」
「させるか!白凰!」
『任された!』
簪が距離を取って山嵐を放てば、一夏は白凰のエナジーウイングによる拡散弾でそれを迎撃する。だが、簪が放ったミサイルはスモーク弾で、視界を奪われた一夏に簪が砲撃槍に改修された夢現・夢幻で斬り掛かるが、一夏もそれを読んでいたのか雪羅弐型のシールドでそれを防御した。
『ここでスモーク!?』
『エナジーウイングでの迎撃を予想してあえて中身を替えていたのか』
「まだ!春雷!」
それは簪も予想済だったようで、瞬時に0距離で春雷を叩き込み一夏を吹っ飛ばした。
『おっと、一夏君が吹っ飛ばされたが・・・・簪ちゃんのシールドも削れてる!?』
「くっ、でも、ちゃんとお返しはしたぜ?」
咄嗟にエナジーウイングでガードしたものの、完全には防げなかったようで、一夏のシールドエネルギーが削られていた。しかし、一夏もただやられてはいなかった。射たれた直後に雪羅を砲撃モードにして荷電粒子砲を食らわせていたのだ。
「あいつらほんと強くなったなぁ・・・・」
アリーナの観客席の入り口付近から一夏と簪の試合を眺めつつ、雪兎はそう呟く。少し上から目線なのは今まで指導側だったのでしょうがないとはいえ、雪兎から見ても一夏達は最初に比べて一回りも二回りも強くなっている。おそらく、シャルロットだけではなく、一夏達でもオータムを完封出来る実力があると雪兎はみている。
「これならもう俺が保護者面する必要ももう無いな」
そう、今まで雪兎は一夏達を何処か守らねばならない対象としてみていた節があった。雪兎が何かと一人でやってしまうのはそういうところに原因があったのだ。だが、先のシャルロットからの宣戦布告や一夏や簪の言葉を聞いて雪兎は彼らが自分のいるステージまで上がってこようとしているのを感じたのだ。もう転生者だという秘密もこれから起こる事への
「だから、勝ち上がってこい・・・・一夏」
そして、一夏が雪兎との戦いを渇望しているように、雪兎も一夏との戦いを心待ちにしていた。
「やるな、簪」
「一夏こそ」
その後も全力でのぶつかり合いを繰り返し、一夏と簪のISは双方共にもうボロボロだった。しかし、二人の闘志は尽きるどころか未だに燃えている。それはお互いのISも同じだった。白式と打鉄弐式は共に倉持技研で開発され中途半端になっていたのを兎師弟が完成させたという経緯を持つ姉妹機のような関係にある。そのせいか、白式と弐式は張り合う事がある。今回もお互いの主の為に普段以上の力を発揮している。
「白式や白凰もやる気だな」
「弐式も同じ」
そこからは刀と刃のぶつかり合いが続く。
『激しい近接戦!あれ?打鉄弐式って高機動砲戦型だったわよね?あれ?砲戦型?』
『考えるな、感じろ』
だが、徐々に簪が押され始めてきた。原因は白式が白凰とのデュアルコアである故の機体出力の違いだ。それに弐式は機動力を主とした砲撃型として調整をしたISである為、近接戦をメインとする白式にはどうしてもパワーは劣るのだ。
「でも、もう私は諦めない!」
簪の脳裏を過るのはいつも見ているヒーロー達の勇姿。彼らは途中で挫折する事はあれど誰一人として諦めはしなかった。ならば、そのヒーローを志す簪も諦める訳にはいかない。
「お願い!打鉄弐式!」
そんな簪に応えようと弐式は限界まで出力を上げるも・・・・
「エナジーウイング、出力最大!」
一夏もエナジーウイングの出力を上げ、簪を強引に推しきる。
「くっ!」
「今だ!蒼焔の太刀!」
そして、簪の夢幻を跳ね上げ、零落白夜を纏わせた煌月白牙を一閃し、シールドエネルギーを削り切った。
『試合終了!勝者、織斑一夏!』
「・・・・負けちゃった」
ARプログラムが解除され、普通のアリーナに戻ったその地面にゆっくり着地しながら簪は悔しそうに涙を流す。
「簪・・・・」
一夏はそんな簪に近付くとISを解除し、手を差し伸べる。
「いい試合だったぜ、簪」
「一夏・・・・」
簪には一夏はやはりヒーローに見える。どんな時でも絶対に諦めない簪が理想とするヒーローに。
「簪の分も、絶対に勝ってみせるから」
最初は弐式の事で一夏を逆恨みしていた簪だが、雪兎が弐式を完成させてくれ、一夏が逆恨みの件を打ち明けてもすぐに謝罪をしてくれた為、原作のような拗れた出会いではなかった。そのおかげか、簪は素直に一夏への憧れを抱くようになっていた。まあ、箒達が既に壮絶な争奪戦を繰り広げていた為、そこに加わる勇気は持てなかったが、異性としてではなく目的としての憧れは今も続いている。
「うん、絶対だよ?」
「おう!」
そう言って二人は互いの拳を静かにぶつけ合う。その姿はアニメのヒーローのようで簪は自然と笑みを浮かべていた。
簪がインファイター化してた・・・・まあ、ヒーローに憧れてる娘だし、近接のいけるよね?という訳で一夏と近接でドンパチしてもらいました。
次回予告
一回戦も終わり、二回戦が始まる。その第一試合は雪兎とシャルロットの対決。その解説には何と束が!?そして、束は解説をする傍ら、ある事について語り出し・・・・
次回
「恋人対決!雪兎VSシャルロット! 兎、解説される」