夢のため約束のため白球を追う   作:yamayama071308

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6球目 あの日のトラウマは味方へ

4月の最終週の金曜日。少し暖かくなってきて汗をかく場面が多くなった。練習も終わり新一年生が慣れた手つきで片付けを始める。しかしそんな片付けに不満があるわけでもなく「ある一件」に悩んでいる部員がいた。

 

 

2年生の小林宏太だ。

 

それは新1年の篠岡圭吾からの相談だった。

 

 

「うーーーん、こりゃ想定外やなぁ」

 

 

と頭を抱えて悩んでいた。

 

 

数日前、練習後に篠岡に相談を持ち込まれ中身を聞いて困惑した。

 

 

「ほう、んでかっこつけて道場破りしに行ってあっさりと負けたのに入部したからどういう態度とったええか分からんと」

 

宏太は篠岡に確認する。篠岡は一度だけ頷いた。

 

 

 

 

 

 

この日以来何とかしなければと思いつつなんとも出来ていない。明後日は練習試合。そこまでになんとかしなければと考えていたが突破口が見出さずにいた。

 

そんな時後ろから肩を叩かれた。

 

 

「なにそんな浮かない顔してんのこーちゃん」

 

「ん?雄大か……ちょっといいか?」

 

「やっぱりか……お前のいいたいことは分かるぞ」

 

「へ?まだ何も言ってねーよ」

 

「俺と打順変わりたいんやろ?こーちゃんも欲張りやなぁ〜5番打つのにやっぱり3番にこだわるか〜」

 

「全然ちゃうわ!」

 

「なーんやハズレかーじゃ俺クールダウンしてくるなー」

 

「雄大、話はまだ終わってないわちょっと待て」

 

「やーだねー!俺の身体デリケートやねん、はよクールダウンせなあかんねん。それに話終わったやろ?」

 

「だからまだ何も言ってねーよ」

 

「帰り篠岡借りるなー」

 

 

雄大は後ろの宏太に向かって左手をフラフラ〜と振ってクールダウンに向かった

 

 

「なーんや、何もかもお見通しってわけですか……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「じゃ、今日の鍵当番は俺だから職員室行ってくるわ先校門いってていいよ」

 

「はいよー」

 

部室の鍵を返すのは1年生の役目だ。職員室に入る。

 

「失礼します!軟式野球部の1年B組篠岡圭吾です!部室の鍵を返しに来ました!」

 

と入室し鍵を所定の場所へ直した。

 

「失礼しました!」

 

職員室から出る。これで今日の部活は終わりだ。

 

1年生みんなが待っている校門に向かうとそこには1年生ではなく2年生の森内雄大が1人でいた。

 

 

 

 

「悪いけど校門にいた1年には帰ってもらったぜ、ちょっと帰り道付き合え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は学校の近くの河川敷に来た。

 

そこで雄大は荷物を下ろしてカバンをガサゴソとしつつ篠岡に聞いた。

 

 

「キャッチャーやったことあるか?」

 

「……え?ああ、まあ少しなら」

 

篠岡はあまりにも想定外の質問で思わず戸惑うがとりあえず答えてみた。

 

すると雄大はカバンからキャッチャーミットを出し篠岡に渡した。

 

「ちょっと受けてくれや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次アウトコース低めの真っ直ぐで」

 

「はいよー」

 

 

鋭く振られる腕から放たれたボールはアウトコース低めにズバッと決まった。

 

 

「ストライクっす、相変わらず憎たらしいほどコントロールいいっすね……」

 

 

篠岡が雄大へコースと球種を言い雄大がそれを投げるのだがコースが大幅にズレることがない。

 

 

「まあそのボールを放り込んだ年下のやつがもっと憎たらしいわ」

 

 

「よく覚えてますね……」

 

 

「まあな打たれたことは絶対忘れられへん、それもピッチャーの特権かもな」

 

 

雄大は笑いながら呟く。

 

 

「けどよ篠岡、今後は夢にでも出てきたトラウマ野郎が味方にいると考えると頼もしいもんだな」

 

 

「まあ俺もそんな感じですね、なんせ万全(・・)の森内さんが味方だと嬉しいっすね。なんせ前に飛んだことないし」

 

 

「はは、よく言うぜ……ラスト1球!インロー低めの真っ直ぐ!」

 

 

パーン!

 

 

心地よい音が鳴り響いた。

 

 

「明日からよろしくな」

 

「ええこちらこそ」

 

 

 


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