Fate/Passionate Romancia   作:Ekeko

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大変遅くなりました。
仕事のごたごたなどもありまして、五月の後半からは執筆する時間もあまり取れずにおりまして、申し訳ありません。
これからも仕事の関係上、更新期間が空いてしまう事もあるかと思いますが、ご容赦ください。


第四話 Boy meets girl

普通の人間なら、だいたい『ある事』を願うだろうとアタシは思う。

 

「人生やり直したい」

 

どこまで行っても平凡で、才能の無いアタシ、ジナコ=カリギリも例に漏れず同じことを願っている。

 

アタシが平凡であるように、両親もまた平凡な人達だった。

平凡過ぎることに不満が出る位に普通だったけど、それでもアタシの人生は幸福だったと思う。

朝食を食べ、通学し、家に帰って、夕飯を食べながら今日の出来事を団欒の中で語り合う。

そんな人生は15歳までは当たり前に訪れていた。

 

ある日、両親は突然にアタシの前から消えた。

トラックの事故に巻き込まれ、潰れて即死したと聞かされた。

別にそこには怨恨や陰謀といったサスペンスもなければ、重症を負って、医師たちの賢明な治療の甲斐もなくといったヒューマンドラマも無く、ただ死んだだけだった。

深い悲しみを感じると同時に、どうしようもない虚しさを覚えた事は覚えている。

 

両親の死後、アタシの元にはかなりの額の遺産が残った。

ウチの家は富豪というわけでもないが、一般家庭にしてはそれなりに裕福だったからだ。

一生豪遊して暮らせるわけでも無かったが、慎ましやかにすれば一生を過ごせる額が残る程度には。

 

ともあれ遺産を手にいれた後のアタシの人生はイージーモードへと突入した。

進学や就職といった事はしなかった。

意味が無いからだ。

生まれてから死ぬまでがゴールならば、その中間は平坦に生きていけばいい。

頑張った所で死ねば一瞬で終わるのなら、頑張る意味すらないのだ。

 

かくして、アタシの人生は家の中で完結していた。

外に出る必要が無く、ずっと布団の中で暮らしていられれば良かったのだから。

 

でも、もしも人生にifがあったとしたら?

進学、就職、結婚といった人生の道のりを歩めたのだろうか?

リア充と呼べる人種になっていたのだろうか?

満ち足りたはずの人生なのに感じる、空疎な感覚は埋まるのだろうか?

 

それがアタシの聖杯戦争への参加動機だった。

そしてアタシはサーヴァントを呼び出し、現在一回戦の最中だったのだが・・・

 

 

「おっ、レア素材ゲット~♪いやー月に来てからというもの、素材集めがはかどるっすね。

幸運だけで見ればマスターの中でもトップじゃないっすかね」

 

絶賛、引きこもり中だった。

 

「フヒヒ、これで念願のレア装備一式をゲット!また周りと差をつけちゃったッすね。

そろそろシンジくんさん辺りが怒りで発狂するんじゃないっすかねコレ」

 

ここは一回の用務員室の裏口にあたる場所。

偶然ここを発見したアタシは、マイルームではなくココに立てこもり、絶賛ゲームの真っ最中。

聖杯戦争?なにそれおいしい?

 

「今戻ったぞマスター、頼まれていた品を購入してきた。」

背後から声がする。

アタシのサーヴァント、ジークフリートのジークさんだ。

胸元と背中がばっくり開いた謎衣装に身を包んだセイバーである。

武器はバルムンクとかいう剣らしいけど、どっかのRPGの中ボスの落とす武器にそんな物があった。

ようするに中レベルなサーヴァントなのだろう。

 

「おかえりっすジークさん。ちゃんとおつかい出来たっすか~?前みたいに訳の分かんない地雷商品とか買ってないっすよね?」

 

「言いつけられた通り、プレミアムロールケーキを購入してきた。後ろから神父のNPCがやたらと麻婆豆腐を勧めてきていたが、買ってきたほうがよかったか?」

 

「絶対にNO!

あんな殺人兵器をすき好んで食うのは体張ってる芸人だけだから!」

 

買い物袋をひったくると、さっそく布団に籠ってゲームの続きを開始する。

菓子を食べながら自堕落にゲームに興じる。

最高の娯楽だと思う。

 

「マスター。一回戦の相手が掲示板に発表された様だ。見に行かなくて良いのか?」

 

「それなんてオカルト?こんな負けゲー通り越してクソゲー真面目にやる馬鹿がどこにいるっスか」

 

「確かにお前の実力で勝ち残るのは厳しいかも知れん。しかし何もしないままでいればお前は確実にルールに殺される事になるだろう。俺はそれを見過ごすことが出来ない。」

 

死ぬという単語に一瞬体が震える。

普段ならばよくある脅しとして一蹴していただろうその単語は、この月の聖杯戦争では冗談ではない。

確認のしようなど無いが、来ている人間の纏う空気みたいなものが、普通とはなんとなく違う。

だとしてもアタシは・・・

 

「そ、そんな冗談に踊らされるほどジナコさんは情弱じゃないっス!おやすみジークさん。ボクはもう寝るっすよ。」

 

戦う勇気も持てず、そのまま布団の中へダイブ。

アタシの聖杯戦争はもう終わったのだ。

 

 

対戦相手が判明した次の日の朝。

 

『第一暗号鍵を生成

第一層にて取得されたし』

 

端末から音と共に通知が来た。

これでアリーナにトリガーが精製された。

俺とジナコ=カリギリしか入れない空間に。

アリーナは基本、皆同じ扉から入るが、入ってしまえばそれぞれ別のアリーナに入るらしい。

一つのアリーナには対戦相手同士しかおらず、他の参加者も入ることはできないのだ。

 

「ジナコ=カリギリは来るかな?」

 

「わかりませんけど、会う可能性は高いと思います。戦争に参加している以上トリガーは絶対に必要ですから」

 

そうか、と答えると深呼吸をする。

来てほしくは無い。

だが、ここで越えなければいけない敵でもある。

怖くても、逃げるわけにはいかない。

 

「行こうリップ。まずはトリガーを手に入れよう」

 

「はい!」

 

覚悟と共にアリーナに入る。

トリガーの入手とリップの鍛錬。

そして、対戦相手であるジナコ=カリギリ。

ここで会って、敵の情報を入手できるかもしれない。

 

 

そう思っていたが、この日は結局、会うことは無かった。

 

 

夕方。

リップの鍛錬とトリガーの入手を終えた俺は学食にいた。

夕食と、会えなかったマスターであるジナコがここに来ているかもしれないと踏んで。

販売していた一回戦限定商品『泰山の超辛麻婆豆腐』とやらを購入した。

イスに座って一口食べてみる。

 

「美味い!!」

 

思わず立ち上がって叫んでしまう。

周りが何事かとこちらに視線を向けるが、そんなことも気にならなくなるほどだ。

実に惜しい、これほどの物が一回戦限定とは・・・

 

「あとでリップの分も買っておくね」

 

『絶対にいりません‼』

 

おもいっきり否定された。

女の子らしく、彼女は甘党なのかもしれない。

おとなしく席について食事を再開する。

 

「げっ!本当にそれ食べてるヤツがいると思ったら、オマエかよ」

 

病みつきになる辛味を味わっていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると、予選の校舎で見知った相手だった。

 

「シンジ?」

 

「どうやらキミも予選を突破したらしいね。予選ギリギリだったらしいけどさ」

 

青い髪の少年は予選の校舎で自分の友人だった間桐慎二だ。

アジア圏でゲームチャンプと目される少年である。

 

「でも本戦は実力勝負だからね。運で勝てるなんて、哀れな勘違いは良くないぜ?」

 

「そんなの、わかってるよ」

 

相変わらずの性格に内心ため息が出る。

我ながらよく友人でいられたものだと思うが、不思議とそれほど悪いヤツとも思えない。

人徳とも人間的な魅力とも違うが、ともかくこの友人を自分は嫌いきれない。

そういえば、予選の頃に彼がゲームで勝負を挑んでいた人物の名前も確か・・・

 

「シンジ、ジナコ=カリギリって知ってるか?」

 

「は……ハァ!?」

 

仰け反って素っ頓狂な声を上げる。

いったいどうした?

 

「じ、ジナコ!?あのじな子の事か!?あいつがこの聖杯戦争に参加しているっていうのか!?」

 

「どのジナコかは知らないけど、変わった名前だからな。多分そうだよ」

 

自分のライバルがここに来ている事に驚きを隠せない様子で、シンジは頭に手を当て、ブツブツ呟いている。

 

「そんなに凄いのか?ジナコって」

 

「ハッ!凄いというか、一応は僕よりもゲームでのランキングは上さ。けどそれは、アイツのプレイ時間が6000時間越えっていう廃人レベルのプレイをしているからだよ。僕はそんなのは認めないけどね。本来なら磨き抜かれたスキルとテクニックで勝負するべきって事を、いつか思い知らせてやるつもりさ。」

 

「俺の一回戦の相手なんだけど・・・勝てるかな」

 

一回戦から凄そうな相手だ。

思わずシンジにそんな事を聞いてしまうくらいに、少し弱気になっていた。

また嫌味な切り返しがくるだろうかと思っていたら・・・

 

「ま、勝ちの目はあるんじゃない?あいつの霊子ハッカーとしての実力がどれ程かは知らないけど、ここじゃプレイ時間は皆平等だからね。時間にあかせたプレイが出来ないってだけでもアイツの優位性は一つ消える」

 

などと、嫌味の無い真剣な顔でそう言われた。

というより、此方を気にしていないし、今のも自分に向けて言っている節がある。

ここでジナコとの決着を着けるつもりなのだろう。

先ほどの余裕な笑みは無く、真剣な顔つきをしている。

 

「まあ、せいぜい頑張りなよ。負けても仇ぐらいなら討ってあげるからさ」

 

そう言って足早に食堂を出ていった。

さっきよりも、シンジには嫌味や余裕が無いように見えた。

単にこちらにかまっている暇がないだけかもしれないが。

 

『あんな人に仇なんか討ってもらわなくてもいいもん・・・』

 

リップの方は嫌味と此方に興味を無くした態度が気に入らないらしい。

不機嫌な声で呟いている。

ジナコ=カリギリ。

まだ見ぬ強敵。

一回戦から厳しい戦いになりそうだ。

 

夕食を食べ終わって、マイルームへと向かい途中だった。

 

「こんばんわ。おにいさん」

 

彼女が現れたのは。

銀色のショートヘアに真紅の瞳。

新雪を思わせる白い肌に、妖精の様に現実離れした美しい容姿。

年のころは十歳程度といった所か。

どこか感情を感じさせないその表情は、NPCを思わせる。

しかし、わざわざ自分の様な一般的なマスターに声をかけてくるとは、まさか彼女が?

 

「君は誰?もしかして、ジナコ?」

 

「誰?・・・わたし、ソラリス」

 

ジナコではないようだった。

ソラリスと名乗った少女はしばらくこちらを眺めた後、此方に近づいて、近くで此方の目をのぞき込んできた。

紅玉を思わせる瞳は、眺めているだけで吸い込まれそうになる。

 

「え?何?な、何だ?」

 

「おにいおさんもわたしとおなじ?」

 

「は?」

 

なんの事を言っているのか分からない。

この少女と自分に、何らかの共通点があるとはとても思えないが。

 

「え?言っちゃダメ?言わない・・・でもこの人にも・・・」

 

なにやら横を向いて呟き始める。

おそらく自分のサーヴァントと話しているのだろう。

 

「・・・うん・・・ちょっとだけだから」

 

小さな声で何かを話していた彼女はこちらに向き直る。

ソラリスはこちらの瞳を見て、語りかけてきた。

 

「おにいさん。わたし、あなたの事が知りたいの」

 

 

 

 




ちょっとあっさりすぎるけどトリガーを一つゲット。
ジナコ。出てこないと作品として盛り上がらないぞw

そしてオリジナルキャラを登場。
処女作でここまでオリジナルを入れて、ちょっと無謀かもしれませんが、お付き合いください。

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