私はこの世界にヤドリギを植える   作:まざまざ

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私は産まれた

人は産んでくれる親を選べない

 

「ねぇ、私も見学してていい?」

「勿論です、お嬢様」

 

人は産まれてくる場所は選べない

 

「あれ? 執事さんを入れたままテストをしちゃうの? あのままじゃ巻添えを食うんじゃないの?」

「はい、構いません。お嬢様が2週間前にショッピングにお出になられた日の帰宅途中時、襲撃が有ったのはあの者が我々の情報を売ったからなのでこの機会に始末します」

 

人は産まれてくる環境は選べない

 

 

「あっ、そーなんだ。じゃあ仕方ないよね、それで何人残ると思う?」

「……そうですね、今回のテスト内容であればオーラを見る限り皆中々優秀そうなので全員だと思います。お嬢様申し遅れましたがジュメリとジュメレを使わせてもらいます」

 

人は産まれてくる世界を選べない

 

「え? あの二人を使ったら全員合格できないんじゃ……ってか死んじゃうじゃん」

「ご安心下さい、外壁だけ念で覆うだけなので」

「なーんだびっくりした」

 

それが例え漫画の世界でありーー

 

「ねぇねぇ、試験の間ピアノ弾いてよ」

「わかりました。ではショパンの英雄ポロネーズはどうでしょうか?」

「いいね。私本当ダルツォルネの演奏好きー」

「ありがとうございます……、では今から試験内容をテレビ映像で伝えますので映らないようお下がりくださいネオン様」

 

 

確実に幻影旅団に狙われるマフィアの娘ネオン=ノストラードであったとしても

 

 

 

 

ネオン=ノストラードは前世の記憶を持っている転生者である。

 

 

前世の名前は秋川奈緒美、芸大生で活発な女性だった……死因は強盗致死。時期は冬、その日は卒業修了作品の追い込みで先生から帰りなさいと言われるまで遅く残っていた。暖房が効いた帰りの電車の開閉扉近くの手すりに奈緒美は疲れた体を預け、窓から見える夜景を寝ぼけ眼で見ながら卒業後の結婚生活の事を考え、思いを馳せていた。

 

 そう奈緒美は婚約をしていたのだ。相手は近所に住む5歳年上の社会人、面倒見が良く奈緒美が幼少の頃よく一緒に遊んでもらい、そして中学、高校で勉強を教わり大学では絵のモデルにもなってもらっていた。

 そんな二人が親愛から愛情の感情に変わるのは十分な時間であり、双方の親も心情の変化を感じ理解していたので、本人達には内緒で話し合いもして公認していた。そして二人の付き合いを微笑ましく思っていて、今か今かと奈緒美達が婚約の話をしてくるのを首を長くして待っていたのだ。それを知らない本人達は緊張の面持ちで両親に結婚の要望を伝えると、当の本人達を置き去りにしてトントン拍子で段取りが進み、卒業後に式を挙げる事になった。

 

 その事を思いだした奈緒美は表情は緩み頬が赤くなっていくのを自覚する、周りには人が少ないとはいえ顔を見られ変人と思われないよう下唇を噛み抑えようと努力するが止められそうにないので軽く咳払いをしトートバッグの中からロングマフラーを出して口元が隠れるよう軽く巻く。

 

 アナウンスが停車駅を告げる、電光掲示板を見ると10時30分を回っている……、丁度電車の速度が遅くなり下車するため扉の真ん中に立ち停車するのを待つ、やはり遅いからか降りる準備をする人は少ない、それは降りてからも実感する。奈緒美は眠気覚ましにと歩きながら一度深呼吸をする。冷たい空気が心地良く出入りし意識がはっきりし、明日も頑張れる活力が沸いてくる。

 

 そんな気持ちに水を差したのが奈緒美が改札口を出、信号が変わるのをスマホで時間を潰している時に聞こえた周りに遠慮をしない大きく、下品な複数の男の笑い声がだった。

 

 見ると道路を挟んだコンビニの前に改造車のバイクが複数あり5人程たむろしていた。奈緒美は眉をしかめ憂鬱な気分になる、何故なら家に帰るためにはコンビニの前を通って交差点を右折し、薄暗い歩道の無い道を行かねばならないからだ。

 駅から家まで約15分……、念のため恋人か家族に迎えに来てもらおうか? そう思ったが生憎恋人は出張で他県に行っている事、家族はもう寝ている時間になっていたのを思いだし奈緒美は連絡をしないで帰る選択をする。それにたった15分何も起こらない大丈夫だ、そう自分に心の中で言い聞かせ楽観的になりバッグにスマホを入れる。

 

 この選択が誤りだとは気づかずに……

 

 

 

 

 信号が変わり奈緒美は足早に動き出す、男達に視線を送らずコンビニの前を通る。声や話の内容から年齢は未成年で卒業というワードも聞こえ、男達は学生だと判断し少し警戒を緩める、学生なら無暗矢鱈に人を襲い、進路や就職に響く行動は慎むだろうという損得勘定があると推測したからだ。交差点を曲がる時に男達の様子が気にかかり視線を送るとバイクに乗る気配がなく談笑していたので奈緒美は完全に男達に向けた警戒心を解き内心自嘲する。

 

 自意識過剰だったかな? そう思い歩く速さを緩め何か好みの新曲がないか調べようとバッグに入れた携帯を探そうとするが薄暗いため中々取り出す事が出来ない。焦れた奈緒美は街灯の真下に立ち止まり携帯を探す、この時家の方向からスクーターの音が聞こえてくるが今の奈緒美はスクーターに対する警戒を全くしていなかった。

 

 携帯を探りあてこれからまた歩きだそうとした瞬間、左半身と首が急激に後方に引っ張られ奈緒美は横転し引きずられる、そう二人乗りのスクーターが鞄をすれ違い様に盗もうとしたのだ、この時偶然にも男の手にマフラーが絡まってしまった。

 鞄に手をかけた男は煩わしそうに手を振り払い引きずっていた奈緒美を乱暴に離す、この時男達の誤算が4つ生じる。1つはバッグをすんなり盗めなかった、2つは現場を改造車に乗った5人に見られ10分もしない内に捕まった、3つは引き離した奈緒美が壁に頭から勢いよく突っ込んだ、最後の4つ目は木の枝があり丁度奈緒美の右目を貫き脳まで達した事だ。

 

 ……そして奈緒美の最大の不幸は即死せず、これからゆっくりと訪れる死を体感しながら死んでいくことだ。奈緒美は自身の現状を把握し確実の死が訪れるのを理解する。左半身の痺れと何も見えない右目、左目から見える右目に刺さっている枝、鼻の奥に感じる熱さと息苦しさ、喉に痰のように粘り着く鉄の味がする液体。いやでも分かってしまう、致命傷だと。

 

 「はっ……はっ、コプッゴホッ、ぃあ”あ”ぅぅあ……」

  

 奈緒美は立ち上がろうと痙攣した右腕で体を起こそうとするがうまく動かず仰向けに転がる、もう一度動かそうとするが全く力が入らず脱力してしまう。しばらくすると先の5人組の内2人が声を掛け様子を窺い短い悲鳴を上げ1人は携帯で救急車を、もう1人は奈緒美に声をかけ続け意識を保たせようとする、だがその努力も空しく奈緒美の意識はしだいに遠のいていく……。

 

 奈緒美が死ぬ瞬間左目で見えたのは涙でにじむ自身の家と突き当たりにある恋人の家だった。そして秋川奈緒美は転生する――

 

 

 

 

 

 

 目覚ましが鳴り、目が覚めた6歳のネオンは右目に違和感を覚えベッドから起き上がる、そして目元が濡れている事に気づき拭うが涙が止まらずネオンは混乱する。何故こんなに胸が苦しく哀しいのか何故こんなに罪悪感に苛まれるのか分からなかった、しかしどこか冷静な部分の自分がこう言う、あの既視感のせいだ。数ヶ月前にあの能力を会得してから続く既視感は勘違いではなく元々持っているものであり時々夢に出てくる知らない人達は友達や両親、恋人達であると自覚する。

 ネオンは自覚した事で急速に思い出していく、自身が秋川奈緒美だった頃の記憶を……そして死ぬ間際の事を。思い出したネオンはさらに涙があふれ声を上げそうになる口元を押さえ泣き続ける。ネオンは感情を抑える事が出来ない、何故自分が? という被害意識、あの時両親に電話してればという後悔、5人組を見かけで判断してしまった自責の念、そして婚約していた恋人とそれを楽しみにして応援してくれていた友人と両親達の謝罪の気持ちが混ぜ合わさって止める事が出来ない。

 

 ネオンが静かに泣いているとドアがノックされ開かれる、ネオンの父親であるライト=ノストラードだ。目覚ましのアラームがいつまでも鳴っている事に苛立ったライトは、直接ネオンを起こし軽く説教をするつもりでドアをあけたのだが目に映ったのはすでに起きていて目を真っ赤に腫らし泣いているネオンの姿だった。

 

 ライトは説教をするつもりだった気持ちを切り替えネオンの目線に合わせ、頭を撫でながらどうして泣いているのか訪ねるがネオンはただ泣いているだけで何も答えない。しばらく頭を撫でていたライトは床に散らばる数枚の紙を見て占いが原因か? と憶測しネオンに優しく話す。

 

「ネオン……、パパが悪かった。占いが嫌なら止めていいんだ、パパなら大丈夫だから」

 

 ライトはこの時点ではネオンの占いは半信半疑であり依存をしておらず、そしてネオンを道具としてではなく愛するたった1人の娘として思っていた。

 その愛情を感じたネオンはさらに胸が痛くなり抑えていた声が出始め涙がとめどなく溢れていく、それを見たライトは優しく抱きしめる。抱きしめられたネオンは奈緒美として生きた時に感じた両親と恋人に抱きしめられた温もりが蘇りついには感情が爆発して謝罪の言葉を繰り返しながら赤子のように大泣きする。

 

 

 

 ネオンが泣き疲れて眠ってしまうまで傍にいたライトは静かに部屋から出、ネオンにはもう占いをさせまいと誓い仕事に戻っていく。

 正午に目覚めたネオンは気持ちを落ち着かせ秋川奈緒美の記憶をと現状自身が持っている知識と照らし合わせて整理していく……、そして日が沈み始めた頃気づく。この世界が生前好きだった漫画の世界であり登場人物に生まれ変わってしまった事を、念を盗まれてしまう結末を。

 

 気づいたネオンは憎悪する、盗人を、幻影旅団を、そしてクロロ=ルシルフルを。その感情はスクーターの男達に対する八つ当たりの感情もあり、憎悪は変質しやがて殺意となった。ネオンは幻影旅団を殺す事を決意しライトが止めるにも関わらず父親を占い続け、ライトは占いにしだいに依存していくことになった。

 

(これは私の能力だ、私だけの能力だ! 二度と誰にも渡さない、盗ませない! 殺してやる……狙う奴は皆殺される前に殺してやる!)

 

 

 念は精神に左右される……、秋川奈緒美の記憶を取り戻した日からネオンの具現化した天使の右目からは血の涙が流れ始めた。

 

 

 

 

 そして12年後――、ネオンの瞳にモニターの中で2人目の潜入者を特定したクラピカの姿があり、ネオンはその様子を凶悪な笑みを浮かべる。

 

(始まる、この時を待っていた。準備は十二分にして油断なんてしないしさせないわ、殺す。殺してあげる、きっちりと全員の首を丁寧に切り取って殺してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしネオンは重大な見落としをしてしまった事に気づき背中に冷たいものが流れる。

 

(ああ、何てこと。幻影旅団にばかり気に掛けていてこのことを忘れていたなんて……!)

「いい様ね! 親が見たら泣くわよ!!」

(親ではなく恋人が!)

 

 ネオンの横に無表情でモニターを見つめる1人の美女、エリザがいる

 

「ほらほら! 足開いて! ……どんな念を込めたか言ってごらん? 言わなきゃ踏むのを止めるわよ!」

「言います! 言いますから踏むのを止めないで!」

(これはひどい……)

 

 モニターの中にいる無様を晒している恋人を死んだ魚のような目で見ているエリザを見るに見かねたダルツォルネは咳払いをしてネオンに合図をする、ネオンは急いでモニターを消し1枚の紙に何かを書きダルツォルネに渡し、エリザともう1人の侍女カメリエラと一緒に部屋から出る。

 

「ふぅー、後でフォローしてやらんといかんな……。これは1千万ジェニーの小切手。手当という事ですか、相変わらず部下想いのお方で」

 

 

 

 




スクワラ「うれしいけど複雑な気分」
ネオン、トチーノ、ダルツォルネ「この後無茶苦茶フォローした」 

ハンターの二次を読んで自分でも書いてみたいと思ったのと1番厄介な念能力は何だろうな? と思って投稿しました

 え? ナニカの能力のほうが厄介? 詳細がわからないしハイリスクだし、キルア経由かキルア自身に転生しなきゃ満足な恩恵受けられないですし……、1番の理由が自分が書いたら0スクロールで終わってしまいます

次はネオンの強さを書いていきます

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