甲子市内 商店街
今日も今日とて、ランが遠藤博士と京香先生と一緒に商店街を回って日用品の買占めを行っていた。
ラン「えーっと、後は醤油とお砂糖を…と」
遠藤「おいラン。醤油と砂糖なら今のスーパーにもあったじゃろうが。なんでここで買わんのじゃ?」
ラン「ここのスーパーは、野菜とかは安いけどそういうのは高いの。必需品はかちわりマーケットで買わなくっちゃ」
遠藤「かちわりマーケット… って、バカモン、こことまるっきり正反対ではないか!! 30分は歩かにゃならんじゃろうが!!」
さっきからあっちこっちの店でつまみ食いのように買い物をするランに、遠藤博士は疲労もあって思わずブー垂れたが
ラン「何言ってるのよ!! かちわりマーケットじゃ砂糖とか醤油がここより5円も安いのよ。もったいないじゃない!!」
ランはとんでもないことを言うなと言わんばかりに目を丸くして叫んだ。
京香「…私より経済観念がしっかりしてるわね」
下手な主婦より主婦をしているランに、京香先生は複雑な思いを込めた目で見ていた。
遠藤「全く、なんでわしを引っ張り出すんじゃ。リーフとダイーダに頼めばいいじゃろうに」
当然とも言える愚痴を言った遠藤博士だったが、それを聞いた途端ランはどこか表情を曇らせた。
ラン「…どんな顔して一緒にいたらいいかわかんないのよ」
遠藤「何?」
京香「あの四季ゆうさんのこと? でも、あなたが気に病む必要は…」
ラン「それもあるけど、リーフさんもダイーダさんもいつか別れなきゃならないんでしょ。いつまでも一緒にいられる人達じゃないって思うと…」
俯いてしまったランに、遠藤博士はそっと肩に手を置いて話しかけた。
遠藤「ラン。確かにあやつらは異邦人かもしれん。しかしじゃな、わしらとともに戦い、過ごしてきた時間は確実に存在しておる。その間に結んだ絆や思い出は決してなくならんものじゃ」
ラン「本当に?」
遠藤「当たり前じゃ。多少説得力には欠けるかもしれんが、お前の何倍生きとると思っとる」
京香「そうよ。私も医者をやっているからよくわかるわ。別れたくないと願って願われた人でも、永遠に別れなくちゃいけない時があるの。でもあの二人とは遠く離れるだけ。そういう別れにならないように、できる限りの事を精一杯頑張りましょう」
ラン「…はい!!」
二人の言葉にどうにか納得がいったか、ランは顔を上げて笑顔を見せた。
そんな三人を物陰からこっそり見ている女性がいた。
レポーターの甲斐節子である。
節子「見つけたわ。こないだのバイオテロの時にいたあのおじいさん。前にも一度調べたけど、やっぱりあの人はコズミックプリキュアと何か関係がある。今日こそは…」
決意の表情とともに、マイク片手に節子は遠藤博士に話しかけた。
節子「あの〜すみません、ちょっとお話しよろしいでしょうか。あなたが遠藤 博さんですね。隠れた大天才という噂の」
マイクを向けられたことに加え、珍しく持ち上げられた遠藤博士は気分良く応じた。
遠藤「いかにもその通りじゃ。して、わしに何の用かな? 何でも質問してくれたまえ」
自慢げにふんぞり返った遠藤博士だったが、続けての質問に顔色が変わった。
節子「では大天才の遠藤博士にご質問です。あなたとコズミックプリキュアとはどういうご関係なのですか?」
遠藤「えっ? な、何のことかのう?」
予想外の質問に冷や汗を吹き出し、必死にすっとぼけようとした遠藤博士だったが、節子の質問は止まなかった。
節子「どうしてとぼけられるんですか? 先日のバイオテロ騒ぎの時にあなたがプリキュアのジェット機から降りてきているのを何人もの人が見ているんですよ」
遠藤「ひ、人違いではないのか? ほ、ほら世の中には自分に似ている人が三人いると」
節子「私は突撃レポーターです。人の顔は見間違えません。堂々とおっしゃってください。 あなたと彼女達の関係は? コズミックプリキュアとは一体誰なのですか?」
遠藤「ノ、ノーコメントじゃ!! 逃げるぞ!!」
場所が商店街のど真ん中ということで多くの人がおり、周りの人々がざわめき出す中、大慌てで逃げ出した遠藤博士達だったが、節子はしつこく追いかけてきた。
節子「待ってくださーい!! どうして逃げられるんですか? 何か言えない事情があるんですか?」
一緒になって逃げながら京香先生は遠藤博士に前々からの疑問を口にした。
京香「博士、どうしてここまで秘密にするんですか? 別に公表しても…」
遠藤「いかん!! それだけは絶対にダメじゃ!! もしそんなことになればあいつらが来てしまう!!」
ラン「そうですよ!! パーフェクト達に知られたら何されるかわかんないですよ!!」
京香「それはそうだけど…(でも本当にそれだけかしら? 何か他に事情があるんじゃ… それにあいつらって…)」
そんな彼らの前に一台の黒塗りの車が止まり進路を妨害した。
節子「ナイス!! そのまま足止めして!!」
遠藤「ん? だ、誰じゃ?」
疑問に思う間もなく、車から降りてきたのはゴーロとファルだった。
節子「ああっ!!」
遠藤「!! お主らは!! グオオッ!!」
予想外の存在に驚くも、遠藤博士はいきなりゴーロに首をつかんで持ち上げられた。
首に全体重をかけられた遠藤博士は顔を真っ赤にしてジタバタしていたが、だんだんと動きが鈍くなってきた。
ファル「おい、殺すなよ。大事な人質だ」
ゴーロ「けっ、わかってるよ。ん?」
ラン「何すんのよ!! おじいちゃん放してよ!!」
自分をポカポカと殴って来るランをゴーロは鬱陶しそうに一瞥すると一緒に掴み上げた。
ゴーロ「ついでだ。こいつらも連れて行くか」
ファル「ふっ、たまにはいいことを言うな」
ラン・京香・節子「「「!!!」」」
逃げ出そうとするも、あっさり全員捕まってしまい、そのまま黒塗りの車に押し込められてしまった。
遠藤「わしらをどうする気じゃ!? レポーターまで巻き込みおって」
後部座席に押し込められながらも、遠藤博士は気丈に振る舞っていた。
ゴーロ「言ったろ。人質だよ。せいぜいおとなしくしてな」
遠藤「なにぃ!?」
そんな会話をしつつも、遠藤博士は腕時計の緊急信号装置兼小型マイクをオンにしていた。
遠藤平和科学研究所
遠藤博士からの緊急信号を受け、留守番をしていたリーフとダイーダの間に緊張が走った。
リーフ「この会話、博士達がパーフェクトにさらわれた!?」
ダイーダ「すぐに行きましょう。 豪、準備はいい?」
豪「もちろん!! じいちゃん達を助けに行こう!!」
力強く頷き合うと三人は三冠号に乗り込み出動していった。
信号の発信された方に三冠号の進路を向けていたリーフだったが、行き先に疑問を感じていた。
リーフ「なんか変だよ。この行き先からして、どこかの陸に向かってるわけじゃないみたい。海の真ん中だよ」
ダイーダ「もしかすると連中のアジトかもしれないわね」
豪「じゃあ、ちょうどいいじゃん。一気に連中を倒しちゃおうよ!!」
やる気十分に告げた豪だったが、ダイーダは黙って首を振った。
ダイーダ「ダメよ、連中だってバカじゃないわ。私達が来ることぐらいは計算してるはずよ。何かがあるとみていいわ」
リーフ「それより何より、まずはみんなを助けることが先だよ。博士達に何かあったらそっちの方が大変だしね」
豪「うう…」
二人の正論に豪は何も言えなかった。
海底 Dr.フライ秘密研究所
先の黒塗りの車は途中から空を飛び、さらには海上に出るや否や小型の潜水艇となり、海底深くにあるDr.フライ秘密研究所と連れ込まれていた。
さらわれた遠藤博士たちは、ゴーロとファルに脅されるようにしながら研究所内を進んでいた。
遠藤「何と!! フライの奴め、こんなところに基地を作っておったのか!!」
京香「こんな海底にこんなものが作れるなんて… 一度死んだ人間という利点を最大限に生かしているわね。こういうところに基地を作るなんて普通は補給が大変だから作らないのに…」
節子「全世界の皆様。この突撃レポーターの甲斐節子、全くの偶然ながら諸悪の根源のアジトへと潜入することに成功いたしました。果たして私たちにはこれから何が待ち受けているのでしょうか」
ラン「…プロね」
この状況にもかかわらずペースを崩さない節子に、ランはプロ根性の凄まじさを感じていた。
Dr.フライ「ほう。お前さんはわしのことを報道しおったレポーターか。なら今度はここのことも報道してもらおうかの」
その言葉に振り返るとそこにはDr.フライがマイナーを引き連れ、薄笑いを浮かべて立っていた。
Dr.フライ「ようこそ我がアジトへ。歓迎するぞ」
遠藤「フライ、この悪党が!!」
激昂してフライに飛びかかろうとした遠藤博士だったが、フライは引き連れたマイナーの陰に隠れてしまい歯嚙みをするしかなかった。
Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ、遠藤。こうして直に顔を合わせるのは何年ブリになるかのう」
遠藤「黙らんか!! 貴様死してなおなんの恨みがこの世界にあるんじゃ!!」
Dr.フライ「恨みじゃと? これは正当な報復じゃ。わしのことを認めもせず、迫害したこの愚かな世界へのな」
京香「そのためにパーフェクトのいいなりになって、自分が情けないと思わないの? いいように使われてるだけじゃない!!」
Dr.フライ「黙れ愚民ども!! わしこそが不老不死にして永遠の大天才Dr.フライじゃぞ」
Dr.フライの子供のような叫びに、引き連れていたマイナーが一斉に飛びかかり、遠藤博士たちは押さえつけられてしまった。
Dr.フライ「傷つけるなよ。大事な人質じゃからな」
節子「ひ、人質?」
ゴーロ「何度も言っただろう。テメェらを捕まえておけば、あの忌々しいコズミックプリキュアが必ず助けにここに来る」
ファル「その間に、こっちの作戦を遂行させてもらう」
遠藤「作戦? フライ、貴様何をやらかす気じゃ!?」
フライ「クックックッ、今教えずともすぐにわかる。そしてわかった時にはもう遅い。この世界はマイナスエネルギーに包まれた暗黒の世界となるのじゃからな」
仰々しく告げて立ち去ろうとしたフライをランが呼び止めた。
ラン「待ちなさいよ!!」
Dr.フライ「ん?」
ラン「あの子は… ゆうさんはどこにいるのよ!!」
Dr.フライ「ふん、あやつならばプリキュアを探してどこぞへと行きおったわ。まったくあいつの電子頭脳に貴様らの住所でもプログラムしてあれば手間も省けたものを」
吐き捨てるようなDr.フライの言葉にランは噛み付いた。
ラン「何よ言い草!! お父さんたちがどんな思いでゆうさんを作ったと思ってるの!?」
Dr.フライ「ガキンチョが。機械など役に立つか立たんかでしかない。思い入れをするなどナンセンスじゃ」
Dr.フライのどこ吹く風といったようなセリフに、ランは怒り狂ったがマイナーに押さえつけられていてはどうすることもできず悔し涙を流していた。
その頃、リーフ達を乗せた三冠号は潜水艦モードで深海を航行中だった。
ダイーダ「深度2千メートルか。豪、減圧はしてるけど呼吸は大丈夫?」
豪「平気さ。それよりじいちゃん達のところまでどのぐらいでつけそう?」
リーフ「博士の信号はまだ出続けてるから場所もわかるし、もう直ぐだよ。ん、あれって!?」
リーフの示した先には、明らかに人工物と思える巨大なものが海底に鎮座していた。
豪「あれって、やっぱり…」
ダイーダ「あれが…連中のアジト。あそこにパーフェクトがいる… リーフ、ステルス機能をオンにして。 気を抜かないように」
真剣な顔で目の前の巨大な人工物を真剣な目で見つめたダイーダは、リーフにも気を引き締めるように促した。
リーフ「わかってる。行くよ」
その言葉にリーフも真剣な表情で簡潔に返し、三冠号のステルス機能をオンにしてゆっくりと近づいていった。
そしてある程度まで近づいたところで周囲をセンサーで探知すると、妙なことに気がついた。
ダイーダ「変ね。ここの周辺に迎撃装置や監視カメラらしきものが見当たらないわ」
豪「こんなところだからじゃないの? そんなの無くても見つからないと思ってさ」
ダイーダ「…そうかもしれないけど、やっぱり気になるわね」
リーフ「確かに罠かもしれないけど、行かなきゃしょうがないよ。 このまま突撃するよ」
疑惑の表情を浮かべていたダイーダに、リーフが作戦を提案した。
ダイーダ「ふっ、それもそうか。豪、アンチマイナーガンの準備は?」
豪「バッチリ!! 徹底的にメンテしといたよ」
リーフ「よーし、突撃!!」
その叫びとともにリーフは三冠号を目の前の建物に突撃させ、壁をぶち破った。
第46話 終