コズミックプリキュア   作:k-suke

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第40話 「こんにちは、プリキュアおばさん (前編)」

 

 

 

 

日本 某県 甲子市 童夢小学校

 

 

 

 

三学期が始まり、さしあたっての一日が終わった中、生徒達が下校し始めていた。

 

 

そんな中、豪は先を歩いていたランを呼びながら駆け寄った。

 

 

 

豪「あっ、おい待てよ。ラン、おいラン!!」

 

ラン「あら豪。何の用よ」

 

豪「何の用じゃねぇよ。お前本当におじさん達についてかなくってよかったのか?」

 

 

ラン「いいのよ、なんやかんやで日本での生活が気に入ってるし。それにおじいちゃん一人でほっとけないでしょう」

 

 

あの後、久しぶりに両親と過ごしたランだが、カナダに行こうという父親 央介の誘いを断り、日本で暮らすことを伝えた。

 

 

さすがに央介はがっかりしていたが、母 珠子はランの好きなようにしなさいということで納得してくれた。

 

 

豪「まぁ、お前がいいならいいけどさ… 寂しくないか?」

 

ラン「平気よ、リーフさんやダイーダさんもいるしね」

 

 

豪「そっか… でも考えてみれば姉ちゃん達にも家族がいるってことは、パーフェクト達を倒したらさ…」

 

ラン「…そうよね」

 

 

先日のことで改めて分かったことだが、リーフとダイーダが遠藤平和科学研究所にいるのは、パーフェクト達を倒すという目的のための手段である。

 

戦いが終われば彼女達とは別れてしまうことになる。

 

彼女達が元の世界に家族がいるということは、自分達とは文字通り住む世界の違う存在なのである。

 

 

そのことをランと豪は今更ながらに実感していた。

 

 

どこか暗い面持ちで通学路を歩いていると、二人の顔を一層曇らせる人物が待ち構えていた。

 

 

河内「お前ら、ちょっと聞きたいことがある」

 

 

豪「げっ!! 河内警部」

 

ラン「無視するのよ。行きましょう」

 

 

河内警部の姿を認めた豪は露骨に嫌そうな顔をし、ランもまたそんな豪に対して無視するように言って通り過ぎようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前を素通りしていく豪とランを見て、河内警部は後を追いながらイラついたように話しかけ続けた。

 

河内「俺の質問に答えろ」

 

ラン「答えませーん」

 

 

 

河内「コラお前ら!! 俺の話を聞け!!」

 

ラン「聞こえませーん」

 

 

 

河内「お前らなら知ってるはずだ」

 

ラン「知りませーん」

 

 

 

 

 

 

河内「遠藤央介。あのジジイの息子で、お前の父親だろう」

 

 

その途端、ランの足は止まり、ものすごい形相で河内警部を睨みつけた。

 

ラン「何よあんた、今度はお父さんにまでいちゃもんつけようっての!?」

 

 

 

河内「そうじゃない。あの人が奥さん つまりお前の母親と一緒に作ってたというロボットのことについてだ。何か知ってることがあれば何でもいいから教えろ!!」

 

豪「ロボット?」

 

 

怪訝そうな顔をした豪に、河内警部は続けた。

 

河内「そうだ。カナダの警察からの援助を受けて対犯罪者用のロボットを作っていたらしいということまでは、何とかこっちもつかんでるんだ。だが、それがどんなので、今どういう状態でどこにあるのかがさっぱりなんだ。お前らなら何か知ってるんじゃないか?」

 

 

 

いつものようにどこか高圧的に問いかけてくる河内警部に、あまり気分の良くなかったランはかなり刺々しく返事をした。

 

 

ラン「知らないわよ!! お父さん達とはずっと手紙でしかやり取りなんかしてないし、仕事の内容なんかこれっぽっちも聞いてないわ!! 豪帰りましょ!!」

 

そうやって河内警部を振り切って歩き出したランに駆け寄ると、豪は小声で話しかけた。

 

豪(おい、ひょっとして河内警部が話してることってこないだのやつじゃないか? ほら、おばさんの妊娠騒ぎの)

 

ラン(そうでしょうけど、あんなのに話す義理なんてないわよ)

 

 

先日、ランの母 珠子が妊娠したのではという話が出ていたが、あれは央介の言い回しに問題があった。

 

なんでも夫婦二人で共同開発したロボットができたので、それが新しい家族ということだったのだ。

 

 

それを聞いた研究所の一同は呆れるやら拍子抜けするやらだったのだが、ランはそんなことをあえて話す気にはならなかった。

 

 

目の前でこそこそと何かを話し出した二人に、河内警部は必死になって質問を繰り返した。

 

河内「おい! 何か心当たりがあるのか? 教えろ!! さもないととんでもないことになると俺の勘が告げているんだ!!」

 

 

 

ラン「何が勘よ、毎度毎度適当なこと言ってるだけでしょうが」

 

河内「この!! 大人を馬鹿にするのもいい加減に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 

 

 

 

するとその時、どこからか弦楽器のメロディーが流れてきた。

 

 

豪「これギターかな? きれいだけど何か冷たい感じがする」

 

河内「いや、ギターの音じゃないな。いったい誰がどこで?」

 

 

キョロキョロと辺りを見回していると、ランが上を指差した。

 

 

ラン「えっ? あ、あそこよ!!」

 

 

その先には黒光りのする女性用スーツに身を包み、電柱のてっぺんに腰掛け小さなハープを弾いている、透けるような白い肌をした少女がいた。

 

 

しばらくハープを引いていたその少女は、弾いていたハープを背中に背負うと突然電柱から飛び降り、あっけにとられていた三人の前にゆっくりと歩み寄ってきた。

 

 

 

豪「うわっ、真っ白できれいな人。だけど白髪って…」

 

ラン「馬鹿! プラチナブロンドっていうのよ。でもこの人…」

 

 

どこか得体の知れない目の前の少女に戸惑っていると、河内警部が何かに気づいたように叫んだ。

 

 

河内「あーっ!! お前は、確かダイヤモンド号で日本に来る予定だった…」

 

その声を上げた瞬間、その少女は一瞬で河内警部の懐に飛び込み、右手で胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

「警告する。この子らに対して手を出すな。記録しておけ」

 

 

その直後、少女は掴み上げていた河内警部をそのまま後ろにあるゴミ捨て場に向けて、軽々と半月を描いて投げ飛ばした。

 

 

ゴミ捨て場に頭から突っ込み気絶してしまった河内警部をよそに、その少女はランと豪の方に振り返ると無表情に問いかけた。

 

 

 

「確認する。顔認証により、99.99%の確率で遠藤ラン、速田豪と判断する。 ボディに破損はないか?」

 

 

 

しかし、いきなり河内警部を数メートル投げ飛ばした目の前の少女に、豪とランは真っ青になって後ずさりをすると、一目散に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

豪「なんなんだよあの人? 人間離れしてるぜ、あの力」

 

ラン「知らないわよ!! とにかく逃げるの、変なことに巻き込まれたら大変だわ」

 

 

そんなランと豪の後ろ姿を黙って見送ったその少女は淡々と何かを呟き始めた。

 

 

「検索する。道路状態及び周辺の建造物等を把握。追跡を開始する」

 

 

するとその少女は大ジャンプし、近くの家の屋根の上に飛び乗ると豪とランの後を、そのまま屋根の上を走って追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走り、息を切らしながら公園にたどり着いた豪とランは先の少女のことについて話し合っていた。

 

 

豪「ホントなんなんだよ。俺達のこと知ってたみたいだけど」

 

ラン「それにあのヘボ警部があの人のこと知ってたみたいな感じだったわ。 でもなんか不気味ね、生気が感じられないというか」

 

 

どこか奇妙な印象のした少女に不気味さを感じていると、二人の目の前に突然何かが降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

豪「いっ!?」

 

ラン「なんで?」

 

 

全力で走ったにも関わらず、件の少女があっさり追いついてきたこと。その少女が息ひとつ切らしていないこと。何より、近くのビルの上から降りてきたことに豪とランは驚愕していた。

 

 

「質問する。なぜ逃走した? 理解ができない」

 

淡々としたその問いかけに、ランは戸惑いながらも何とか返した。

 

 

ラン「な、何でって。いきなり人を投げ飛ばしたりしたら怖いわよ。私達にも襲いかかってくるかもしれないじゃない」

 

「否定する。私はお前達に対しての攻撃行動はとらない。あの男は遠藤ランに対して敵対行動を取っていたため排除しただけだ」

 

 

豪「え? ランを守ったってことかよ?」

 

「肯定する」

 

 

その極めて淡々とした機械的な会話に薄ら寒さを感じながらも、ランは思い切って尋ねた。

 

 

ラン「…あなた、いったい誰? 私を守るって何のために?」

 

 

 

 

 

 

 

「通達する。私の認証IDコードは四季ゆう。遠藤ランの姉妹として登録されているためだ」

 

 

 

 

豪「ランの姉ちゃん? どういうことだよ?」

 

意味がわからず首を傾げた豪に、ゆうは淡々と答えた。

 

 

ゆう「否定する。私は遠藤ランの妹という認識をしている」

 

ラン「はぁ? わけわかんないこと言わないでよ? それとやめてくれないかしら、その話し方。まるで機械みたいで…」

 

 

そこまで話してランと豪はハッと気がついた。

 

 

豪「ま、まさか… あんた…」

 

ラン「お父さん達が作ったっていうロボット…」

 

 

ゆう「肯定する。私の製造責任者は遠藤央介と記録されている」

 

 

あっさりと自分達の疑問に答えた目の前の四季ゆうという少女に、豪とランは口をあんぐりと開けて感嘆のため息をついていた。

 

 

豪「ひえ〜っ、スッゲー!! 人間そっくり!!」

 

ラン「こ、これお父さん達が作ったの? すごいわ!!」

 

 

 

ゆう「質問する。それがそれほどのことか? ラン、お前も遠藤央介の作ったものだろう」

 

 

その質問にランは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

ラン「い、い、いきなり何言い出すのよ!! 変なこと言わないで!!」

 

豪「? どうしたんだよラン、変な顔して」

 

ラン「うるさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ゆうは公園のベンチに腰掛けるとハープを弾き始めた。

 

優雅にハープを演奏する彼女の肩にはまるで敵意を感じないように自然に小鳥がとまり、豪とランもその音に聞き惚れていた。

 

 

豪「きれいな音だね。なんでこんなの持ってるの?」

 

ゆう「説明する。特に行動をする必要がない場合に、機能を停止していては再起動に時間を要する。そのために簡易的な動作を行うためのものだ」

 

ラン「…スクリーンセーバーみたいなものかしら」

 

ゆう「肯定する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆうの弾くハープを聞きながら、ランと豪はホッとしていた。

 

豪「いやぁ、初めはどうなるかと思ったけど、よかったよかった」

 

ラン「本当。後でお父さんにも電話してあげなきゃ。きっと喜ぶわよ。ゆうさんのことこないだパーフェクトに襲われたせいで海に沈んだと思ってるだろうし」

 

 

豪「いや、それよりさ。河内警部が言ってたじゃん。ゆう姉ちゃんは犯罪者鎮圧用ロボットだって。ってことはさ…」

 

ラン「あっ!! リーフさんやダイーダさんと一緒に!!」

 

豪「そう、パーフェクト達と戦ってくれるかもしれないんだ!!」

 

 

世界を救う新しい戦士が今目の前にいる。

 

ランと豪はそんな未来を夢想し心躍らせていた。

 

 

ゆう「…リーフ、ダイーダ」

 

 

ゆうは小さく呟くと、ハープを弾くのをやめゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然演奏をやめたゆうに小首を傾げていると、何かが空を切り裂いて飛んでくる音が響き、ゆうの肩にとまっていた小鳥たちも怯えたように飛び立っていった。

 

 

ラン「この音…」

 

豪「ライナージェット?」

 

 

 

 

それに気がついた時、リーフとダイーダが上空のライナージェットから飛び降りてきた。

 

 

リーフ「豪くん、ランちゃん。大丈夫!?」

 

ラン「え、ええ。大丈夫って何が?」

 

 

地面に降り立つや否や必死の形相で自分達の無事を確認してきたリーフに、ランは戸惑っていた。

 

 

ダイーダ「強烈なマイナスエネルギーを検知したのよ。検知器が一発で壊れちゃうぐらいの。てっきりとんでもないのがいると思ったんだけど」

 

豪「いや、別に何にもないけど…」

 

 

そんな会話をしている中、ゆうがゆっくりと歩みを進め、リーフとダイーダの前にやってきた。

 

すると

 

リーフ「…ねぇ、この人誰?」

 

ゆうを見たリーフが警戒するようにそう尋ねてきた。

 

 

ラン「あ、ああ。紹介するわ。この人は…」

 

 

ランがゆうのことを説明しようとした時、それを遮るようにゆうが返事をした。

 

 

ゆう「通達する。私の認証IDコードは四季ゆう。リーフ、ダイーダ。遠藤 博の作ったお前達の姪となる」

 

 

 

豪「ま、まぁ、姉ちゃん達はじいちゃんが作ったんだから、ある意味でゆう姉ちゃんの叔母さんってことになるだろうけどさ。それにしたって…」

 

ゆうの言葉にひくついていた豪が、ふと視線を動かすと、険しい顔をしたランがいた。

 

 

豪「ん? どうしたんだよラン」

 

ラン「…どうしてリーフさんとダイーダさんがおじいちゃんが作ったロボットの体だって知ってるの? お父さん達が知ってるわけないのに」

 

そのランの言葉に、豪はハッと気がついた。

 

 

強大なマイナスエネルギー。そして先日のパーフェクトの船への襲撃。それらが全て繋がった瞬間、ゆうは淡々と告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆう「遂行する。私の使命はコズミックプリキュアの破壊。ただ、それだけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

第40話 終


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