遠藤平和科学研究所
平日の昼下がり、リーフとダイーダが居間のテレビを食い入るように見ていた。
リーフ「ふんふん。なるほど、この世界にはいろんな文化があるんだね〜」
ダイーダ「学ぶことが多いから大変だわ。リーフ、感心するだけじゃなくて、しっかり覚えときなさいよ」
リーフが感心したように頷きながらそう言うと、たしなめるようにダイーダが忠告した。
リーフ「ぶーっ! ダイーダちゃんだって、まだよくこの世界のこと知らないでしょう」
ダイーダ「私は朝からずっとこれを見続けて、大体のことはもうわかったからいいのよ。あなたの方が心配なの」
リーフ「じゃあ見ててよ。もうすぐランちゃんが帰ってくるから、それでちゃんとできるって見せてあげる」
ふくれっ面をしたリーフは、見ていろと言わんばかりに玄関に移動していった。
ラン「ただいま〜」
少しして帰宅したランを、リーフはにっこりと微笑んで出迎えた。
リーフ「いらっしゃいませ♪ ご注文をどうぞ♪」
ラン「はぁ?」
そのセリフにランは思わず変な声をあげてしまった。
そんなリーフに、ダイーダは叱りつけるように言った。
ダイーダ「ほら、言わんこっちゃない。変なこと言うからランが戸惑ってるじゃない。もっとちゃんと勉強しなさい!!」
リーフ「あっれ〜、違ったっけ?」
ラン「一体どうしたの、これ?」
リーフ「いやね、この世界のこといろいろ勉強しようと思って、あのテレビっていうの見てたんだけど、出迎えの挨拶ってこうじゃないの?」
ラン「…いやまぁ、それも出迎えの挨拶なんだけど…」
ランは頭に手をやりながら、困ったようにつぶやいた。
ダイーダ「いろいろ種類があるから、状況で使い分けなきゃいけないのよ。 まったく、こういう家族を迎える時には…」
一呼吸おいてダイーダが続けた。
ダイーダ「何しに来たの!! もうここにあなたの居場所はないのよ!!」
リーフ「あぁ、そうだったそうだった。やっぱりダイーダちゃんは物覚えがいいなぁ」
感心したように頷くリーフに、ランが怒鳴った。
ラン「どっちも違うわよ!! 「おかえり」って一言言えばいいの!! 一体二人とも何見てたの!?」
豪「やっほー!! リーフ姉ちゃん、ダイーダ姉ちゃん、いる?」
しばらくして豪が遊びに来たが、どこからも返事がなかった。
豪「あれ? みんないないのかな?」
豪にとって、ここは勝手知ったる他人…ではなく祖父の家。
遠慮なく堂々と上がりこんで行くと、居間ではランがリーフとダイーダに向かっていろいろと教えていた。
ラン「いい二人とも。これはドラマって言って本当のことじゃない、架空のお話なの。だから、これをあんまり本気にしちゃダメ。 この世界のことを学ぶなら他のことで学んで」
そのセリフにリーフは首を傾げながら尋ねた。
リーフ「? ねぇ、嘘とわかってるのにさ、なんでそれに対して誰も何も言わないの? この世界じゃ嘘をついてもいいってことなの?」
ラン「えっ? それは…その…これは、みんなが嘘とわかってて…楽しめるから…かな…」
その質問にランが詰まると、続けざまにダイーダの質問が飛んてきた。
ダイーダ「? 嘘をつき合って、騙して騙されるのが楽しいの? なんだか変わった価値観ね」
ラン「いや…そういうわけじゃなくて…だから…その…え〜っと…」
完全にしどろもどろになっているランを見かねたように、豪が飛び込んできた。
豪「あーもう!! 止め止め!! とにかくさ、この世界のことを学びたいんだったら、ニュースを見た方が早いよ。それだけは全部本当のことだからさ」
そう言ってテレビのチャンネルを切り替えると、そこでは国会中継をやっていた。
リーフ「これなーに? なんか年取った人がいっぱい集まってるけど…」
豪「これは、国会って言ってね。この国をどうすれば良くなるのかをみんなで相談してるところなんだ」
豪が得意げにそう話すと、リーフの質問が飛んできた。
リーフ「へぇー、なんで博士はここに行かないの? どうすれば世界が平和になるかを考えてる人なんでしょ?」
豪「えっ? いや…じいちゃんはさ、ほら国会議員じゃないから…」
リーフ「コッカイギイン?」
豪「そう、国のみんなが選んだ人達がここで相談するんだ」
リーフ「ふーん。例えばどんなことを?」
豪「えっ? そ、それは…」
ダイーダ「それにさ、ずいぶん人が多い割に喋ってる人なんてほんの少しみたいだけど、一体なんのためにこんなにいるの? 相談するだけならもっと少なくてもいいんじゃない?」
豪「あ〜え〜う〜、そ、そんな難しいこと俺に聞かないでよ!!」
矢継ぎ早に放たれる素朴な質問に答えきれず、困ったように大声を張り上げた豪に、リーフとダイーダは顔を見合わせて首をかしげた。
豪「大体じいちゃんはどうしたんだよ? どっか出かけてるの?」
ダイーダ「博士なら、地下室よ。二日前に私とリーフのボディのメンテナンスをした後、ずっとこもりっぱなし」
豪「えっ? それからずっと!? ラン、何で止めないんだよ?」
ラン「いや、何度も言ったけど、全然こっちの話聞かないんだもん」
そんな会話をしていると、ゾンビのような顔をした遠藤博士がぬーっと現れた。
豪「じ、じいちゃん!?」
ラン「す、すごい目の下のクマ!」
そしてフラフラと歩いたかと思うとそのまま倒れてしまった。
豪「じいちゃんしっかり!!」
慌てて豪達が駆け寄ると遠藤博士はうわごとのようにつぶやいていた。
遠藤「…わからん、リーフ達のボディのデータは穴が開くほどチェックした。計算も何千回も繰り返した。しかしどうしてもわからん。一体全体なんでアンドロイドのボディが変身するんじゃ!? それにあのマイナスエネルギーを簡単に浄化した力も解析できん。一体何がどうなってあんな力が出る!?」
ラン「…まさか、それをずっと?」
呆れたような声を漏らしたランをよそに、リーフとダイーダはAIにプログラムされた医療関係データから、遠藤博士の体調の分析を行っていた。
ダイーダ「ふむ、栄養不足と睡眠不足による過労というところね。おまけに脱水症状を起こしかけてるわ」
リーフ「えーっと、じゃあまずは体液に近い濃度の水分を取ってもらおう。それから栄養分のあるものを摂取した上で十分な睡眠をとれば、すぐよくなるわ。えーっと必要な栄養素は…」
テキパキと手際よく遠藤博士の診察と看病を行う二人を見て、豪とランはポツリと漏らした。
豪「こういう知識は完璧なんだよなぁ…」
ラン「すっごいアンバランス…」
薄暗い海中、ここにあるDr.フライの秘密研究所にて、筋骨隆々とした大男と、細身の男が跪き、黒い靄のようなものに報告をしていた。
「申し訳ありません、パーフェクト様」
「まさか、あいつらがこんなところまで来るとは思わなかったもんで」
「まあいい。追っ手の存在がわかっただけでも価値がある」
そんな二人に低くそしてドスの聞いた声で、パーフェクトと名乗る存在はそう答えた。
「追っ手だと? なんたることじゃ! 我が野望を邪魔する輩、それは何者じゃ?」
そうしわがれた声で尋ねたのは、杖をついた小柄な老人。
この男がDr.フライである。
「コズミックプリキュア、光の国の特別警備隊員だ」
Dr.フライ「何? 特別警備隊員?」
パーフェクト「心配など無用だ、Dr.フライ」
驚きの声を上げたDr.フライに、パーフェクトは言い聞かせるように、余裕たっぷりにそう言った。
「無論ですとも」
「パーフェクト様はその名の通り完璧な存在でございます」
その態度にDr.フライも安心したか、高笑いとともに提案を述べた。
Dr.フライ「ならば、早速次の作戦に取り掛かろう。成功すれば、日本を即座に我々のものにできる。失敗しても日本の機能は麻痺してしまうじゃろう。 我々の共通の目的を達成しやすくなる。 ガッハッハッハッ!!」
パーフェクト「全ての世界を暗黒の世に」
「「全ての世界を暗黒の世に!!」」
一時間ほど一眠りした遠藤博士はようやく落ち着いたらしく、苦笑いをしながら醜態を詫びていた。
遠藤「いやぁすまんすまん。つい年甲斐もなく夢中になりすぎた。 しっかし調べれば調べるほど不思議なもんじゃ。 お前さん達のエネルギーを補充する必要がほとんどないとはな。一定時間スリープ状態になっただけで、エネルギーの完全回復に加え簡易的なメンテナンスまでしとる。 原理が気になって気になってのう」
リーフ「博士、世界平和のために懸命になられるのは構いませんが、自分の体のことも考えてください」
ダイーダ「何かあった時には、私達も困ります。まだ知らないことも多いんですから」
遠藤「うむ、そうじゃったな。世界平和のためにもわしは倒れるわけにいかん!! いつあのDr.フライが行動を起こすかわからんのだからして…」
そんな会話をしている最中、突如居間のマイナスエネルギー検知器がけたたましい警戒音を発した。
遠藤「この音は…いかん!! 強烈なマイナスエネルギーを検知したな!!」
その警戒音を聞くや否や、博士はベッドから飛び起きた。
ラン「ちょっとおじいちゃん、起きて大丈夫なの?」
心配したようにランがそう言うも
遠藤「何を言うか! 世界の危機を前にのんびりと寝ておれるか!!」
そのまま居間を走り抜けて奥の司令室に行こうとすると、つけっぱなしだったテレビの国会中継では異変が起きていた。
筋骨隆々とした大男と、細身の男が、国会議事堂に乱入していた。
その二人はサングラスをかけてはいるものの、どう見ても悪人とわかる顔つきをしており、国会議員ではないことなど誰の目にも明らかであった。
そして、その二人は静止するSPを殴り飛ばし、演説を行っていた議員を投げ飛ばし堂々と演壇に登っていった。
遠藤「な、なんじゃあいつらは!?」
その異様な光景に驚いていると、細身の男が話し始めた。
「聞け、人間ども。我々は次元皇帝パーフェクト様の使いだ。パーフェクト様の要求を伝える。直ちにこの島国の支配権を譲渡せよ」
数十分前
雲ひとつない青空、ふと日が陰ったかと思うと、上空から突如として巨大な飛行物体が国家議事堂に向けて降下してきた。
その飛行物体は巨大なカラスのような姿をした怪物であり、甲高い声で一声鳴くと、議事堂にクチバシを突っ込み巨大な穴を開けてしまった。
そしてその穴から、怪物の背中から飛び降りたサングラスをかけた筋骨隆々とした大男と細身の男が、全身を黒いタイツで包んだような人間を引き連れて、議事堂の中へと侵攻していった。
SP「なんだお前たちは!?」
SP「今は議会の最中だ。ここからは立ち入り禁止だぞ」
そうやって制止するSP達を、ハエでも払うかのように手を振って跳ね飛ばし、二人の男達はどんどんと進んでいった。
SP「くっ!!」
殴り飛ばされた一人のSPが、殴打された後を押さえながら、苦悶の表情を浮かべ、防犯シャッターを下ろした。
SP「こ、これで…」
少しは時間が稼げると思ったSPだったが、その期待はあっさり裏切られた。
「ぐおぉおお」
筋骨隆々とした大男は常軌を逸した怪力を発揮し、そのシャッターをパンチ一発でぶち破ってしまった。
SP「おのれ!!」
駆けつけた一人のSPが止むを得ず発砲したが、直撃したにもかかわらず、二人の男は平然としていた。
SP「防弾チョッキか!?」
戸惑いつつも再度発砲するも、細身の男は手の平を前に突き出し、銃弾を防いだ。
SP「ば…化け物…」
事ここにいたり、目の前の存在がようやくまともな人間でない事を悟ったSPはガタガタと震えだした。
そんなSPを、ゴミを捨てるかのようにつかみ上げて投げ飛ばすと、二人の男達は議会場へと乱入した。
遠藤平和科学研究所
遠藤「いったいなんじゃあいつらは!? 訳のわからん事を」
豪「次元皇帝パーフェクト…って、こないだ姉ちゃん達が言ってた奴?」
リーフ「うん、そうだよ」
ダイーダ「連中、いきなり行動に移りだしたわね」
テレビを見ていたリーフとダイーダは、険しい表情で頷いた。
ラン「いったい、あの人達は何をしようとしてるの?」
ダイーダ「あいつらはこの世界を暗黒世界に… って、こうしちゃいられないわ」
リーフ「うん、行こう」
豪「あっ、待って俺も」
ラン「豪はダメよ」
出動しようとした二人についていこうとした豪を、ランは慌てて止めた。
豪「なんで止めるんだよ!?」
ラン「こっちのセリフよ。なんであんたが行かなきゃいけないの!」
豪「だって、二人ともこの世界の事何にも知らないんだぜ。誰かついててやらなきゃ」
その豪の言葉に、ダイーダとリーフも頷いた。
ダイーダ「…ふむ、この世界の事を知ってる人がいればやりやすいかもね」
リーフ「うん、いろいろお願いね。豪くん」
もはや反論しても無駄だと悟った遠藤博士は、三人に指示した。
遠藤「えぇい、仕方ない。大至急出動じゃ。 リーフ、ダイーダ、豪を頼んだぞ! 豪、お前も二人をサポートしてやるんじゃ!!」
そのまま、三人は奥の部屋へと移動していき、ヘルメットを着用ののち、シートに着席。
特殊ジェット機、三冠号へと乗り込んだのだった。
ラン「ちょっとおじいちゃん。本当にいいの、豪なんかをあの二人につけて」
遠藤「仕方なかろう。誰かサポートする奴は必要じゃろうが、わしら三人のうち、前線に行けるとしたらあいつしかおらん」
司令室にて準備をしながら、遠藤博士はやむを得ないというようにランにそう話した。
遠藤「いいか、下手に接近すれば国会議員を人質に取られかねん。ステルスモードで高空から接近するんじゃ」
リーフ・ダイーダ「「了解!!」」
その返事と共に崖の一部の岩肌が開き、三冠号は発進し、同時にステルスモードを起動させ姿を消した。
第3話 終