コズミックプリキュア   作:k-suke

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第38話 「親子ゲンカにご用心 (前編)」

 

 

 

 

警視庁

 

 

 

河内「私は断固として反対です!!  部長、再検討を行ってください!!!」

 

河内警部が必死の形相で、上司に何かを食ってかかっていた。

 

 

上司「これは決定事項なのだよ。今更君一人の反対で覆るようなことではない。それに君だって事情は理解しているだろう」

 

 

河内「そ、それは確かに… あの次元皇帝パーフェクトの一派どもとは幾度となく関わり、煮え湯を飲まされ無力さに悔し涙を流してきました。ですから…」

 

上司「警察としても市民の安全を守るという義務がある以上、戦力の増強を考えねばならん。あのDr.フライが本当は何者なのかは知らんが、少なくとも連中は国際的なテロ集団であることだけは確かだ。事態は国内だけの問題ではない、海外の頭脳や力を借りて協力して対抗する必要がある。それぐらいはわかるだろう」

 

 

そこまでは河内警部も理解しているし納得もしていた。

 

問題はその先なのである。

 

 

河内「自分とて馬鹿ではありません。そこまでは理解もしておりますし、賛成であります。ですがその先です。なぜコズミックプリキュア、彼女達までもが確保及び迎撃の対象にならねばならんのですか!? 彼女達は我々のために戦ってくれている味方ですぞ!! 何度も助けられた私が言うのだから間違いありません!!」

 

 

河内警部は机を力任せに何度も叩きながら叫んだ。

 

 

上司「そう一方的に決めつけるのは短絡的すぎる。私だって彼女達の言動を見ていれば信じるに足る存在であることはわかっている」

 

河内「ならばなぜ!?」

 

上司「だが、ならばなぜ彼女達は堂々と正体を明かして行動しようとしないのかね?  そして彼女達は本当に正義感だけで戦ってくれているのかね? 正体も目的も正確にわからん存在を無条件に信じることはできない、万が一の事態に備える必要がある。そういうことだよ。 私だってプリキュアが敵にならないことを祈っているのだよ」

 

 

その言葉に、河内警部は押し黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

上司「すでにこの件に対しての専門家とでもいうべき存在が、日本に向かってきているそうだ。君は至急迎えに行くと共に警視庁までの護衛を行うように」

 

 

そう言って上司は一枚の写真を出した。

 

 

その写真の少女は中学生ぐらいの年齢で、日本人によく似た顔立ちをしていたが、髪はプラチナブロンドのロングヘア、右目が赤で左目が青のオッドアイであった。

 

 

 

河内「誰ですか? この中学生は?」

 

写真を受け取った河内警部はそれに写っていた日本人離れした外見の少女を見て、怪訝そうな顔をして尋ねた。

 

 

上司「君の護衛対象だ。名前は四季(し き) ゆう。詳しいプロフィールはトップシークレットだが、この件に関しての専門的な知識や技術を学習した存在ということだそうだ」

 

河内「こ、こんな子供がでありますか!? 納得できません!!」

 

 

上司「例のコズミックプリキュアの二人も同じぐらいの年だろう。とにかくあと数時間で到着するらしいから至急港に行くように。新年早々申し訳ないが、いいね」

 

 

 

 

 

命令には逆らえず、憮然としつつも河内警部は部下を率いてその少女の乗った船 ダイヤモンド号が到着するという予定の港へと向かった。

 

 

河内「全くなんで今時飛行機で来んのだ? 天才少女なのかもしれんが理解できん」

 

 

 

 

 

 

 

甲子市

 

 

ある男性がスマホのマップアプリを起動しながら街中を歩いていたが、目的地になかなかたどり着けないようで、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

 

「やれやれ、ほんの5年ほどで街並みも変わるもんだなぁ。子供の頃から住んでた街なのに、道に迷うとは思わなかったな。 年明けで人通りも少ないし、さて…」

 

 

 

そんなことをぼやいていると、ようやく両手いっぱいに買い物をぶら下げたメガネをかけた少女を見つけた。

 

「あっ、おぉい君」

 

 

 

 

リーフ「はい?」

 

彼が話しかけたのは、ランから買い物を頼まれていたリーフであった。

 

 

 

「ちょっと聞きたいんだけど、この家はどこにあるのかな? 道に迷ってしまってね」

 

 

差し出されたスマホに表示されていた住所を見て、リーフはにっこりと微笑んだ。

 

リーフ「ああここなら知ってます。ご案内しますよ」

 

 

 

「いやぁ助かったよ。しばらくぶりに日本に帰ってきたら街並みがかなり変わってたもので、道に迷ってしまってね」

 

 

リーフ「そうですか、パーフェクトの関係で街を離れていく人もいるようなので…」

 

 

どこか暗い表情でうつむきながらリーフはぼそぼそと告げた。

 

 

リーフ(私達がパーフェクトをもっと早く倒していれば、ここの世界の人達をこんなに苦しめることはなかった。情けないな…)

 

 

むしろ実際には、彼女達のおかげで被害がこの程度で済んでいるのだが、救えなかった命があったことも確かであるためリーフは心を痛め続けていたのだ。

 

 

「ああ、あのテロ集団か。しかし心配しなくていいよ、もうすぐあいつらはいなくなる。連中への対策が完成したからね」

 

暗い表情を浮かべていたリーフに、男の人は励ますように言った。

 

 

リーフ「えっ? 本当ですか?」

 

「ああ、本当さ」

 

 

自信満々に語るその態度を見て、リーフは嬉しく思っていた。

 

リーフ(この世界の人が自分達でパーフェクトと戦う手段を手にしようとしてる。すごいことだなぁ)

 

 

 

そしてしばらくのち、二人は目的地の家にたどり着いた。

 

 

「全く父さんってば、こんな崖の上に家なんか建てて。ごめんねこんなところまでつき合わせちゃって。荷物重かったでしょ」

 

両手いっぱいに荷物を抱えたリーフに申し訳なさそうに謝ったが、当のリーフは全く気にしていなかった。

 

リーフ「いえ、これぐらいなんてことありませんから。じゃ私はこれで」

 

そうして頭を下げると、リーフは目の前の家のドアを開けた。

 

 

リーフ「ただいま〜。ランちゃん、買い物行ってきたよ〜」

 

 

 

 

その言葉にリーフに案内されてきた男の人は目を白黒させていた。

 

「…ここで間違ってないよな、こんな無駄な看板も出てることだし…」

 

 

そのドアのところにかけられた看板にはデカデカとこう書いてあった。

 

 

「遠藤平和科学研究所」と

 

 

 

 

 

 

 

ラン「ああ、リーフさんありがとう。ちゃんと買ってきてくれた」

 

リーフ「うん、何度も確認したから大丈夫。あっ、それとお客さんだよ」

 

その言葉に入口の方を見たランは驚きの声をあげた。

 

 

 

ラン「お父さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「なんじゃ央介、帰ってくるなら連絡ぐらいよこせばいいのに。まぁせっかく年明けに帰ってきたんじゃ、ゆっくりしていけ。ラン、おせちの残りはまだあったか?」

 

ラン「まだあるわよ。ちょっと待っててね」

 

 

台所でおせちの残りを準備しているランに、リーフと京香先生は何気なく話しかけていた。

 

京香「あれがあなたのお父さん? カナダに行ってるっていう」

 

ラン「はい、そうです。リーフさん案内してくれてありがとう」

 

リーフ「どうしまして。しばらくぶりでお父さんに会えて嬉しいんじゃない?」

 

ラン「まぁね。手紙や電話は時々してたけど、やっぱり会えるのは嬉しいわ」

 

その言葉に、リーフはウンウンと頷いていた。

 

 

リーフ「そうだよね。お父さん…か」

 

 

どこか遠い目をしているリーフに、京香先生はふと尋ねた。

 

京香「そっか、あなたも元の世界にお父さんがいるのよね」

 

リーフ「うん。私が特別警備隊員になってからは、あちこちの世界を飛び回ることになっちゃって、もうずっと会ってないけど」

 

ラン「そうなんだ… リーフさんも会いたい? お父さんに」

 

リーフ「会いたくないって言ったら、嘘になるかな。やっぱり…」

 

どこか寂しそうなリーフを見て、ラン達はそれ以上何も聞けなかった。

 

 

 

遠藤「いやぁしかし久しぶりじゃな。元気そうでなによりじゃ、ランのお母さん、珠子さんも一緒に帰って来ればよかったのに」

 

遠藤博士は久しぶりに帰ってきた息子を歓迎していたが、当のランの父親 央介は渋い顔をしていた。

 

 

 

央介「前置きは終わりにしましょう。お父さん、あの二人はなんですか?」

 

遠藤「あの二人とは?」

 

央介「あのメガネをかけた女の子と女性の方です! まさか妙な弱みでも!!」

 

人聞きの悪いことを言い放った央介に、遠藤博士も反論した。

 

 

遠藤「変なことを言うな!! あの二人は世界平和というわしの考えに共感して協力してくれとるんじゃ!!」

 

央介「またそんな妄想を!! 母さんが事故で死んでからそういう研究に熱を入れたのはわかりますけど、一人でできることになんか限度があるでしょう!!」

 

遠藤「お前は父親の才能をバカにしおって!!」

 

央介「バカにもします!! 失敗作のガラクタばかり作って!! 何かまともなものを作ったことがあるんですか!?」

 

遠藤「ぐっ!! それは…」

 

 

遠藤博士の作ったものは現実に素晴らしいものがあり、世界の危機を幾度となく救っているのだが、それを堂々主張できず押し黙ってしまった。

 

 

央介「ほらごらんなさい。僕と妻でさえあれを作るのにどれだけの援助が必要だったか」

 

 

親子ゲンカを聞きながら、京香先生はランにこそこそと尋ねた。

 

京香(博士の奥さんって事故で亡くなられてたの?)

 

ラン(うん。お医者さんだったんだけど、車に撥ねられそうだった子供を助けてその代わりに…)

 

リーフ(そうなんだ… だから私達みたいなのを作ったのかな、人助けで助けた方が死んだりしないように)

 

 

 

 

央介「とにかく!! ランは連れて行きます!! これ以上お父さんのようないい加減な人に任せられません!!」

 

突然の発言に一同は耳を疑った。

 

ラン「えっ!? 連れて行くって!?」

 

 

遠藤「突然何を言うか!! そもそもじゃ、夫婦揃って仕事で海外に行くことになった時に、ランには日本の学校に行かせてやりたいと言ってわしに預けたのはお前本人じゃろうが!!」

 

央介「それは私の間違いでした!! やはり親子は一緒に暮らすべきです!!」

 

 

そう怒鳴るとランの方に振り向き、笑顔で告げた。

 

央介「ラン、一緒にカナダへ行こう。実はお前にとびっきりの知らせがあるんだ。新しい家族が増えるんだぞ」

 

 

ラン「えっ!?」

 

京香「まぁおめでとうございます」

 

遠藤「ほうそれは確かにめでたい」

 

めでたい知らせに皆が喜びの声を上げる中、央介は続けた。

 

 

央介「今こっちに向かってきている。すぐに会えるぞ」

 

遠藤「ん? 待て。お前は珠子さんを一人でこちらに向かわせとるのか!?」

 

央介「それが?」

 

そのあっさりした返事に、遠藤博士は激昂した。

 

 

遠藤「お主は何を考えとる!? この物騒な時によりにもよってそんな危険なことを!!」

 

 

央介「パーフェクトとか名乗る連中のことですか。もうその心配はいりません。僕らが全てを解決してみせますから」

 

遠藤「何を偉そうに、この若造が! お前ごときに何ができる!!」

 

央介「お父さんよりはマシです!!」

 

 

 

 

 

 

再び親子ゲンカが再開される中、リーフが首を傾げていた。

 

リーフ「ランちゃんとお父さんは仲がいいし、ランちゃんと博士も仲がいいのにどうして博士とお父さんで喧嘩になるのかな?」

 

京香「その理由が簡単にわかれば、世界はあっという間に平和になるんでしょうけどね…」

 

 

リーフの質問にため息をついていた京香先生はふと気がついた。

 

 

京香「そういえばダイーダさんは? 私が来た時から姿が見えないけど」

 

リーフ「新年の挨拶だって言って、豪くんのところに行ってるよ

 

ラン「やめといたほうがいいって言ったんだけどね…」

 

 

ランもまた、速田家で騒ぎが目に浮かび大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

速田家

 

 

 

その頃、ランの反対を押し切り豪に新年の挨拶に行くと言ったダイーダは豪の母親に門前払いを食らっていた。

 

 

ダイーダ「どういうことなんでしょうか? この世界の暦で一周前の日にお世話になった人に挨拶に来ただけなんですが」

 

 

豪母「どうもこうもありません!! 全く変に回りくどい言い方して」

 

 

そこで一呼吸おいて続けた。

 

豪母「いいですか? あなた方と付き合いだしてから豪の成績が下がる一方。夜も遅くなることがあるし、変な遊びに付き合わせてるんじゃないでしょうね?」

 

 

その言葉にダイーダは毅然と反論した。

 

ダイーダ「まさか。遊びなどでは決してありません。この世界のため、ひいては豪自身のためにもなることです」

 

 

しかし、その反論は火に油を注ぐだけだった。

 

 

豪母「何が豪のためですか!? ここ最近テストでは半分もろくに取れない有様ですよ!! あなたもいい年してお父さんのところでフラフラと遊んでないで、学校にきちんと行ったらどうですか!?」

 

 

豪「いやあのね。ダイーダ姉ちゃんは決して遊んでいるわけじゃ…」

 

その会話をこっそり聞いていた豪はおずおずと話しかけたが、母親にひと睨みされてしまい小さくなってしまった。

 

 

ダイーダ「学校なら私はとっくに卒業しています。それにあそこではどんな学校に行くよりも多くのことを学べます」

 

 

その言葉に豪の母親は呆れたように漏らした。

 

 

豪母「どうだか。お父さんのガラクタ作りを手伝って何が学べるのかしら。一度あなたの親に会ってみたいですわ」

 

 

その言葉にダイーダはどこかカチンときたように返した。

 

ダイーダ「私も一度会ってみてもらいたいですね。あなたのような親にはきっといい影響を与えると思いますから」

 

 

豪母「何ですって!? 私が親としてなっていないみたいなものの言い方をしますね!?」

 

ダイーダ「そう言っています。わからないならあなたはその程度の親ということではないですか?」

 

 

豪母「な、な、な、何と失礼な!!! どういう意味ですかそれは!!!」

 

豪の母はダイーダの言葉に怒りで肩を震わせながら怒鳴りつけた。

 

 

豪「ぴ〜え〜…」

 

目の前での舌戦を間近で聴いていた豪は、生きた心地がしなかった。

 

 

 

 

第38話 終


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