板当城 地下
ゴーロを追ってやっと人が一人通れるかというような狭い地下通路をダイダーは進んでいた。
ダイダー「こらーっ、待ちなさい!!」
ゴーロ「誰が待つか!!」
ダイダー「くっそ、電波がまるで通じない。リーフと通信ができないけどあの子大丈夫かしら」
しばらくすると、ゴーロの先は行き止まりになっており足が止まっていた。
ダイダー「ふっ、もう逃げられないわよ」
ゴーロ「へっ」
しめたと思ったダイダーだったが、ゴーロは行き止まりの壁をどんでん返しのようにくぐって逃げてしまった。
ダイダー「あっ!! こら」
慌てて追いかけようとしたダイダーだったが、ロックされてしまったらしい突き当たりの壁は頑丈でパンチで殴ってもビクともしなかった。
ダイダー「えぇい、丈夫な壁ね」
舌打ちをしそうな顔でそう呟いていると、すぐ後ろにも壁が降りてきてダイダーは閉じ込められてしまった。
ダイダー「えっ?」
すると戸惑う間もなく、頭上から重さ十数トンはあるような巨大な鉄球がダイダーを押しつぶさんと落下してきた。
ダイダー「くっ!! チェンジハンド・タイプレッド!!」
その掛け声とともにダイダーの両腕は一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装され、落下してきた鉄球をあっさりと受け止めた。
本来、災害時における瓦礫等の撤去を迅速に行うためのものであるレッドハンドには大型トラックをも片手で持ち上げるほどのパワーが秘められているのだ。
ダイダー「ヌゥオオオオ!! ダァリャア!!」
そしてそのままダイダーはその鉄球を上に向かって落下した時の勢い以上の速度で投げ返した。
ダイダー「よし、ハァッ!!」
鉄球が飛んで行ったのを確認すると、すかさずレッドハンドの怪力で突き当たりの壁をぶち破り、その先へと飛び込んだ。
ダイダー「ゴーロ!! 出てきなさい!!」
ゴーロ「さすがだな、ダイーダ」
その先の部屋でゴーロを探していると、部屋の上のほうの窓からゴーロが話しかけてきた。
ダイダー「!! その人を離しなさい!!」
気絶したまま肩に担がれていた河内警部を解放するよう叫んだダイダーだったが、ゴーロは下劣に笑い始めた。
ゴーロ「そうだな、テメェの態度次第だな」
ダイダー「なんですって? どうしようってのよ!?」
ニヤリと笑うとゴーロは要求を告げた。
ゴーロ「テメェのその赤い腕。何度も見てるがすげぇパワーだな。惚れ惚れしちまうぜ。どうだ、その腕とこの男を交換ってのは?」
ダイダー「なぁ!?」
予想の斜め上をいくゴーロの要求に素っ頓狂な声をダイダーは上げ、レッドハンドを見つめて考え込んでしまった。
ゴーロ「さぁ、どうした?」
ダイダー(たとえあいつに渡したって、マルチハンドは私とリーフでさえ互換性がない。どうせ使えっこないか)
そう考えたダイダーはとりあえず取引に応じることにした。
ダイダー「オッケー。渡すから河内警部を返しなさい」
そう告げると、ダイダーはレッドハンドをゴーロに向けて射出した。
ゴーロ「ガッハッハッ、確かにもらったぜ!!」
しかし、レッドハンドを受け取ったゴーロはそのまま河内警部を連れて行ってしまった。
ダイダー「!! 待ちなさい卑怯者!!」
何を今更というような感じもするだろうが、河内警部を助けたいという思いでダイダーの思考も多少鈍ったと考えておきたい。
リリーフ「うわーっ!!」
ファルを追って枯れ井戸に飛び込んだリリーフだったが、想像以上に深く落ち続けていた。
リリーフ「アイタ!! たたた…」
落ち続けること数十秒、ようやく止まったリリーフだったが腰を打ち付けてしまい痛みに顔をしかめていたが、すぐに周りの異変に気がついた。
リリーフ「あれ? わっ真っ暗」
リリーフの周辺は一筋の光もない闇の中で、リリーフのアイカメラを持ってしてもほとんど何も見えなかった。
手探りで周りを探り壁らしきものに手を当てた時、ハイパーリンク機能が作動しあるものに気がついた。
リリーフ「あれ? これは電気回線… 照明装置はあるんだ。ようし、チェンジハンド・タイプブルー!!」
その掛け声とともに、リリーフの両腕は稲妻模様の走った青い腕に換装され、そのまま壁にタッチした。
すると電流が流れ、たちまちのうちに照明が点灯して辺りを照らし出した。
ブルーハンドは、緊急時の非常用電源として開発されたレスキュー用装備のため、リリーフはいかな状況でも即座に電源を回復させることができるのである。
リリーフ「よし、これでよく見える。ファルを追いかけないと…」
ほっと一息をついたリリーフだったが、その瞬間助けを求める声が響いた。
節子「助けてー!!」
上から聞こえてきたその声に慌てて見上げると、節子が足を縛られて逆さ吊りにされていた。
リリーフ「ああっ!! じっとしててください、すぐ助けますから」
ジャンプして助けに行こうとしたリリーフだったが、ファルが物陰から現れそれを制止した。
ファル「待ちなリーフ。下手に動くとあの女の命はない」
その言葉によく上を見ると、壁から無数の銃口が突き出しているのが見えた。
リリーフ「ファル、あなた…」
ファル「あの女を助けたいなら条件は一つだ」
リリーフ「何よ!?」
ファル「あの能無しのジジイの作ったこのボディは不便でしょうがねぇ。その便利そうな青い腕と交換で返してやる」
ファルはリリーフのブルーハンドを指差してそう要求した。
リリーフは自分の腕を見つめると、ファルに念を押すように尋ねた。
リリーフ「本当にこの腕と引き換えにあの人を解放してくれるんだね?」
ファル「ああ、約束してやる」
その返事にリリーフは覚悟を決めた。
リリーフ「わかった。じゃあ1,2の3で交換だよ」
ファル「よし、1,2の…」
リリーフ「3」
3の声とともにリリーフはブルーハンドをファルに向けて射出し、ファルは銃口を構えていたマイナーに命じて節子を吊り下げていたロープを撃ち切らせた。
節子「ぎゃああああ!!!!」
頭から真っ逆さまに落下した節子だったが、それはリリーフにがっしりと受け止められた。
リリーフ「大丈夫ですか?」
節子「え、ええありがとう…」
節子の無事を確認すると、リリーフは睨みつけるように顔を上げながら怒鳴った。
リリーフ「ファル!! あなたなんてことするのよ!!」
しかし、そこにはファルの姿はすでになかった。
ゴーロを追ってさらに通路を進んでいたダイダーは、やがて一つの部屋にたどり着いた。
ダイダー「ここまで一本道だったけど、ゴーロのやつはどこに… 河内警部も無事ならいいけど…」
そんな心配をしていると、突如として左右の壁に穴が開いて何かが飛び出してきた。
それは子供の頭ほどの大きさの二匹の蜂であり、一匹は鋭く尖った針を連射してきた。
ダイダー「くっ、この針下手に刺さったら私の体も貫通しかねない」
必死に針をかわしていると、それを狙ってもう一匹の蜂が火の玉になってダイダーに突撃を仕掛けてきた。
その波状攻撃をなんとか避けると、ダイダーは両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。
ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」
右手から噴射したプラズマ火炎で針を連射してきた蜂を焼き尽くし、火の玉になっていた蜂は左手からの冷凍ガスで凍りつかせた。
ダイーダのグリーンハンドは、災害時の前線においての消火活動や金属製の扉などを焼き切ったりする作業に用いるものであり、単独でそれが行えるようにするための高性能である。
二匹の蜂の動きが止まったことを確認すると、ダイダーはあたりに呼びかけた。
ダイダー「ゴーロ!! 小細工はやめて出てきなさい!!」
すると一方の壁がせり上がり、河内警部を捕らえたゴーロが姿を現した。
ダイダー「河内警部!!」
河内「すまん… プリキュア」
捕まってしまったことを心底申し訳なさそうに詫びる河内警部を無視して、ゴーロはダイダーに要求を叩きつけた。
ゴーロ「こいつの命が惜しけりゃ、その緑の腕を俺によこせ!!」
ダイダー「ふざけんじゃないわよ!! 誰があなたの言うことを信じると思っんてのよ!!」
先ほどのことを忘れていないダイダーはそう怒鳴りつけたが、ゴーロは河内警部の首をつかんで持ち上げながら再度要求を繰り返した。
ゴーロ「聞こえねぇのか? こいつの命が惜しけりゃよこせ!! さもないと…」
河内「ぐあっ…」
首を絞められた上、全体重が首にかかった河内警部は苦しそうに呻き声を出した。
しかし、この状況でも目は死んでおらずゴーロを睨みつけていたが、そういつまでも持つものでないとダイダーもわかっていた。
ダイダー「えぇい、わかったからその人を放しなさい!!」
その叫びにゴーロは河内警部をつかんでいた手を離し、地面に落っことした。
河内「ゲホゲホ… プリキュア…」
咳き込んでいる河内警部のことなどもはや眼中にないように、ゴーロは同じことを繰り返した。
ゴーロ「おら、早くよこせ!!」
ダイダー「でぇい、持ってけ!!」
そう吐き捨てると、半ばヤケクソ気味にダイダーはグリーンハンドを射出した。
ゴーロ「ヘッヘッヘッ、ありがとよ」
グリーンハンドを受け取ったゴーロは、もう用はないとばかりに喜んで部屋を出て行った。
ダイダー「大丈夫ですか、河内警部?」
河内「すまん、俺なんかのために…」
ダイダー「気にしないでください。あなたのような立派な人を助けられれば惜しくありません。さっ、行きましょう」
自責の念に駆られていた河内警部を励ますと、ダイダーは脱出せんと先へ進んでいった。
ゴーロ「おい、こっちはもう終わったぜ。そっちはどうだ?」
ダイダーのマルチハンドを奪いきったゴーロは、中央監視室のようなところで機械の操作をしているファルに尋ねた。
ファル「ああ、リーフの電撃を出す青い腕は奪った。今連中を外に出すようそれ以外の通路を閉鎖しているところだ」
ゴーロ「ん? リーフのやつの腕がもう一つあるだろう。それはどうした?」
ファル「ふん、どうせただのレーダーだ。そんなものあってもなくても大差はない。それに何から何まであのくたばりぞこないの言うことを聞くのも癪だ」
そのファルの言葉にゴーロももっともだというように頷いた。
ゴーロ「それもそうだ。じゃあ連中をバラバラにしてやるとするか」
リリーフ「しっかりつかまっててくださいね。もうすぐ出口ですから」
節子を背負い通路を猛スピードで走っていたリリーフは、空気の流れなどから出口が近いことを感じ取っていた。
節子「あ、ありがとう。助かりました(この子やっぱりどっかで見た気がするのよね。 次はこの子達のことを追っかけてみるか、今度こそ正体突き止めてやる)」
そうして通路の突き当たりにあった扉を開くと、そこは城跡の裏の原っぱであり、河内警部とダイダーがそこにいた。
ダイダー「よかった、無事だったのね?」
リリーフ「あれ? どうしてここにいるの」
ダイダー「どうしてじゃないわよ、後先考えないで。心配したんだからね」
河内「あんたもプリキュアに助けられたんですか?」
節子「ええ。あっそうだ、あなたたちプリキュアにも伝えたいことがあるんです。Dr.フライのことについて」
その言葉に一同の目つきが変わった。
河内「そういや、あんたそれを記者会見で話すって言ってたな」
リリーフ「Dr.フライの秘密って言ってましたけど」
ダイダー「いったいなんなんです? あいつの過去はある程度聞いてますけど」
節子「聞いて驚かないでください。実はDr.フライは…」
そこまで話しかけた瞬間、周辺から大量のマイナーが襲いかかってきた。
ダイダー「くっ、河内警部。その人を避難させてください!!」
河内「よしわかった、任せとけ。 さあこっちへ」
節子の避難を河内警部に任せると、リリーフとダイダーはマイナーの群れと戦い始めた。
リリーフ「やあっ!!」
ダイダー「だあああっ!!」
いつものようにマイナーと戦っていたリリーフとダイダーだったが、二人ともだんだんと違和感を感じ始めていた。
ダイダー「くっ、マルチハンドを換装できないから手こずって仕方ない」
リリーフ「えっ? そっちもなの!?」
悔しそうにそう愚痴ったダイダーにリリーフもまた驚きの声をあげていた。
いつもと違いマルチハンドで大量のマイナーを一度に倒せないため、一体一体を徒手空拳で倒すしかなく、二人はかなり苦戦していた。
河内「くそっ、こっちに来るな!!」
そうしている間にも、避難した河内警部のところにもマイナーは襲いかかっており、必死に拳銃で応戦していたもののマイナーには効果が薄かった。
ダイダー「河内警部!! でぇい邪魔よ!」
河内警部の危機を前に、ダイダーは駆けつけたかったのだが近くのマイナーに阻まれてしまい、進むことができなかった。
そんな時、どこからか発射されたビームの直撃を受け、河内警部に襲いかかろうとしていたマイナーが一瞬でアリに戻ってしまった。
節子「えっ? 何?」
豪「姉ちゃん大丈夫!? 捕まってた人は安全な場所まで運んだよ」
驚いた節子がビームの飛んできた方を見ると、ヘルメットをかぶりアンチマイナーガンを構えた豪がいた。
節子「あの子、前に海底基地を助けたヘルメット少年!!」
河内「プリキュアの仲間か」
豪「姉ちゃん達、加勢するよ!!」
豪はアンチマイナーガンを連射し、リリーフとダイダーの戦っていたマイナーを片っ端からアリに戻していき、援護を受けた二人も勇気付けられていた。
リリーフ「ありがとう」
ダイダー「助かったわ」
豪「ヘヘッ」
二人からの感謝の言葉に得意そうにしていた豪だったが、河内警部に肩を掴まれた。
河内「おいお前、あの二人が誰か知ってるのか? 教えろ、あいつらは誰だ!?」
ヘルメットで顔が隠れているせいか、豪と気づかぬまま河内警部は真剣にそう尋ねた。
節子「そうよ、教えなさい。みんな知りたがってるのよ」
豪「え、えと… それは… あ、危ない!!」
返事をするわけにいかず戸惑っていた豪だが、突如として箸ほどのサイズの針が飛んでくるのが見えたため慌てて叫んだ。
なんとかその針を避けた豪達には、蜘蛛・蜂合体メイジャーが上空からその針をマシンガンのようにコズミックプリキュアに目掛けて発射している光景が映った。
ダイダー「くそっ!!」
リリーフ「あんな上じゃ、簡単に攻撃できないよ」
遠距離攻撃ができず、なんとか隙を見つけようと攻撃から逃げ回っていたリリーフとダイダーだったが、そんな彼女達目掛けて電撃の光線がどこからともなく飛んできた。
ダイダー「えっ!?」
リリーフ「これって!?」
なんとか直撃を避けたものの、発射されたものに驚愕していると、そこにファルの声が響いてきた。
ファル「へっ、リーフ。貴様のこの青い腕、思った以上に便利だなぁ」
その声に振り返ると、そこにはファルとゴーロを率いたDr.フライがいたが、
なんとファルはブルーハンドを装着していた。
リリーフ「な、なんで!? マルチハンドは私達でも交換できないのに!?」
リリーフとダイダーがありえないはずの光景に驚愕していると、Dr.フライが得意そうに笑った。
Dr.フライ「驚いたか!? 大天才であるわしの頭脳を持ってすれば、貴様らの武器の解析など簡単なことじゃ。それをこいつらに使えるようにしたのじゃ。やれ、プリキュアを破壊しろ!!」
ファル「ふっ、行くぞ! エレキ光線発射!!」
リリーフ「うわわっ!! わっ、わっ!!」
ダイダー「くっ!! やってくれる」
連続で次々と放たれる電撃光線をリリーフとダイダーは必死になってかわしていたが、やはり電撃より素早く動き続けることは不可能である上、合間を縫って仕掛けてくる蜘蛛・蜂合体メイジャーにも対応しなければならなかったため、ついに電撃の直撃を浴びてしまった。
リリーフ・ダイダー「「キャアアアア!!!」」
ゴーロ「今度は俺だ。いつもの礼をさせてもらうぜ!!」
ゴーロは両腕をレッドハンドに換装するとリリーフとダイダーに向けて突進していった。
ダイダー「な、なんの…」
リリーフ「負けるもんか…」
電撃のショックが抜けきらないものの、なんとか立ち上がった二人はゴーロに向かって大ジャンプし飛び蹴りを放った。
が
レッドハンドの超パワーは二人の飛び蹴りを物ともせず軽く受け止めてしまった。
ダイダー「なぁっ!?」
ゴーロ「どうした? ずいぶん攻撃が軽いぜ」
ゴーロは驚いたリリーフとダイダーの足を掴んだまま、勢いよく振り回し始めた。
リリーフ・ダイダー「「アアアアアア!!!」」
ゴーロ「へっ、飛んでいけ!!」
そのまま投げ飛ばされた二人は軽く百メートル以上飛んでいき、その先にあった崖に頭から突っ込んでしまった。
当然崖は崩れてしまい、瓦礫の中に二人は埋まってしまった。
豪「そんな!? あいつらがマルチハンドを使ってる!!」
節子「あれって、私達を助けるためにプリキュアが渡した腕よね…」
河内「くそ、俺達のせいで…」
驚きやら悔しさやらが入り混じった感情で、目を覆わんばかりの光景を見ていた一同とは裏腹に、Dr.フライは実に上機嫌であった。
Dr.フライ「ひゃっひゃっひゃっ。実に気分がいい、ズタボロになったプリキュアを見せれば遠藤のやつも悔しがるじゃろう」
第36話 終