コズミックプリキュア   作:k-suke

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第34話 「激闘!! 驚異の火の車 (後編)」

 

 

 

黄金の龍を象った空飛ぶ火の車は全身から四方八方にミサイルを発射し、ダイダーの操るライナージェットを撃ち墜とさんとしていた。

 

ダイダー「な、なんの!! 回避することにさえ専念してれば、なんとか…」

 

 

 

 

Dr.フライ「ええい、ちょろちょろと!! 早くあんなカトンボなど撃ち落せ!!」

 

一斉に斉射を行っているにもかかわらず、ことごとくそれを回避するライナージェットにイライラしたようにDr.フライは怒鳴りつけた。

 

 

ゴーロ「だからうるせえってんだ!! いい加減にしろ!!」

 

Dr.フライの命令口調に対して、我慢の限界というようにゴーロはそう吐き捨て、操縦を放棄し、Dr.フライの胸ぐらをつかんで持ち上げた。

 

Dr.フライ「な、何をするか!?」

 

ゴーロ「そこまで言うならテメェでやりやがれ!!」

 

 

戸惑っているDr.フライを操縦席にたたきつけるように座らせると、ゴーロはうんざりだと言わんばかりに火の車から飛び降りた。

 

 

 

Dr.フライ「チィッ、あのポンコツが!!  まぁいい、あんなのにやらせるより大天才のわしがやればプリキュアなんぞ…」

 

 

冷静に考えればゴーロをポンコツと批判するのは、そのボディを作った自分自身を批判することになるのだが、Dr.フライはそれに気がついていなかった。

 

 

 

 

Dr.フライ「プリキュアめ、消し飛ぶがいい!!」

 

一人残されたDr.フライは、火の車の最大の武器である火炎の玉を発射させんと、龍を象ったその口を開かせた。

 

 

 

しかし次の瞬間、地上から放たれた電撃に一瞬火の車がショートしてしまい、放たれた火の玉はかなり威力とスピードが落ち、ライナージェットを操るダイダーにあっさりとかわされた。

 

 

 

Dr.フライ「ぬうっ!! 無駄な抵抗をしおって!!」

 

Dr.フライは地上でブルーハンドに換装したリリーフを見て、いまいましげに呟いた。

 

 

リリーフ「とんでもない性能だよ。この電撃で一瞬感電するぐらいなんて…」

 

リリーフのブルーハンドは、最大で五万ボルトにもなる電撃を放てる。

 

それにリーフ自身のプラスエネルギーによる浄化作用が加わっているため、耐性のないものならば一撃で分解できる。

 

 

にもかかわらず、マイナスエネルギーで強化されている火の車にはダメージらしいダメージになっていないことに、リリーフは改めて脅威を感じていた。

 

 

ゴーロ「リーフ!!」

 

リリーフ「!! ゴーロ!!」

 

 

ゴーロ「へっ、こりゃちょうどいいぜ。 むしゃくしゃしてたんだ、テメェで憂さ晴らしだ」

 

リリーフ「くっ…」

 

 

嬉々として飛びかかってきたゴーロに、リリーフは上空のダイーダのことを気にかけながらもやむなく応戦せざるをえなかった。

 

 

 

ダイダー(まずい… リーフがゴーロの相手をしてたんじゃこの火の車と一対一で戦うことになる。いつまで持ちこたえられるか…)

 

地上で戦っているリリーフの様子を見ながら、ダイダーは迫り来る目の前の現実に焦りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「ひぃひぃ… あとどのぐらいで着くんじゃ…」

 

日頃研究室にこもりっぱなしでろくな運動もしていない上、この中では初老というべき年齢に差し掛かっている遠藤博士は、道なき山道を歩き続けたため死にそうな顔で息を切らしていた。

 

 

 

ラン「んもう、だらしないんだから。しっかりしてよおじいちゃん」

 

遠藤「バカモン、年寄りをいたわらんか」

 

 

京香「で、でもランちゃんも相当タフね。あの二人に負けてないんじゃない?」

 

 

さすが地元とでもいうように、息一つ乱さず進んで行く左京と右京の兄弟を見やり、京香先生は肩で息をしながらそう漏らした。

 

 

ラン「あ〜っと、なんやかんやで家事とかやってますから体力がつくんです。先生はそんなことないんですか?」

 

京香「えっ? そ、それは… その…」

 

 

仕事柄夜勤も多いからというのもあるが、食事はほとんどが外食かインスタントに冷凍食品。部屋の掃除は月に一度するかしないかに加えて、洗濯物は山積み。

 

とても褒められる私生活を送っていない京香先生にはランがまぶしく思え、バツが悪そうに目を逸らした。

 

 

左京「もう少しです。みなさん頑張ってください」

 

右京「あっ、姉さんあれ!!」

 

 

そう声を張り上げた右京の指差した先には、龍が彫り込んである3メートルぐらいのサイズの石板が茂みの中に佇んでいた。

 

 

豪「あれがそうなのか!?」

 

右京「うん、そうだよ。ありがとう豪くん。君のおかげでここまでこれた」

 

 

右京はそう言って、心からの感謝の言葉を豪に伝えた。

 

 

豪「いや、それほどでもないって」

 

得意そうにそう言った豪をランはピシャリとたしなめた。

 

 

ラン「調子に乗らない。あんた自身はほとんど何もしてないでしょうが!! それより早く行きましょう、リーフさん達だって長くは持たないわ」

 

 

遠藤「う、うむ。休んどる暇はないな」

 

 

 

そうして決意も新たに石板に向かい走り出そうとした瞬間、辺りの茂みからマイナーが大量に出現し、取り囲まれてしまった。

 

 

豪「げげっ!!」

 

左京「ここまで来て…」

 

 

 

ファル「ふふっ、あと少しだったのに残念だったな。貴様らを殺しあの石板も破壊させてもらう!! やれ!!」

 

 

その言葉とともにファルが指を鳴らすと、取り囲んだマイナーは一斉に襲いかかってきた。

 

 

右京「ウワァァアア!!」

 

 

 

 

 

 

ダイダー「くっ、まずい。かわし続けるのも限界になってきた…」

 

 

かなり小回りの効く飛行ができるとはいえ、ライナージェットはどうしても直線的な動きが主体になる。

 

必死にかわし続けていたものの、行動パターンを読まれ始めたのかかなりギリギリになり始めていた。

 

Dr.フライ「どうじゃ!! この大天才のわしが操縦すればプリキュアを追い詰めるなんぞお茶の子さいさいじゃ」

 

必死に砲撃をかわし続けるダイダーを見て、Dr.フライはそう得意そうに嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「くたばれリーフ!!」

 

ゴーロはその怪力で辺りにあった木を引っこ抜いて、力任せに振り回していた。

 

 

リーフ「わっわっわっ!!」

 

その振り回される木によって、辺りの岩はかたっぱしから砕け、木々はなぎ倒されていた。

 

 

喰らう訳にはいかないと必死に避け続けた結果、リリーフは接近することもままならず、絶え間なく続く攻撃にマルチハンドを換装する隙もなかった。

 

 

リリーフ「くっ!!」

 

やむなく大ジャンプして距離をとったリリーフだったが、それを見計らったかのように、ゴーロは振り回していた大木を投げつけてきた。

 

 

リリーフ「うわっ!!」

 

突然のことに驚いたリリーフだったが、飛んできた大木をなんとか叩き落としホッと一息をついた。

 

 

しかし次の瞬間、大木の陰に隠れて飛んできた岩石の直撃を食らってしまった。

 

 

リリーフ「キャアアア!!」

 

その一撃に地面に叩き落とされてしまったリリーフは、ダメージで立ち上がれなかった。

 

 

ゴーロ「くたばれ!!」

 

そんなリリーフにゴーロは飛びかかりマウントポジョンで殴りつけてきた。

 

 

リリーフ「がふっ…!!」

 

完全に抑え込まれてしまったリリーフは、なすすべなく一方的に殴りつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファル「馬鹿な… 一体何をした?」

 

 

遠藤博士たちを襲ったマイナーとファルだったが、マイナーは全てがただのアリに戻っており、ファルに至っては何が起きたのかも理解できず、全身が痺れて動くこともままならないまま仰向けになって倒れていた。

 

 

 

豪「すげぇ威力…」

 

ラン「こんなにうまくいくとは思わなかったわ…」

 

 

その光景に目を疑っていたのは豪やランも同じであり、手に持ったおもちゃのような銃を手に、半ば呆然としていた。

 

 

京香「博士、この銃は一体…」

 

 

遠藤「わしがいつまでもこやつらに対して有効な手立てを考えんとでも思っておったか。こないだのアメリカ占領騒ぎの時に作ったマイナー殲滅衛星の技術を応用して作ったアンチマイナービームガンじゃ。これがあればわしらでもマイナー程度なら倒すことができるぞ」

 

 

自慢げに銃を構えてそう語った遠藤博士だったが、即座に顔つきを変えた。

 

 

遠藤「さあ今のうちじゃ。石板に宝玉をはめ込め!! マイナーはともかくこのファルとかいうやつには一時的に痺れさせるレベルの効果しかない!!」

 

ラン「それ早く言ってよ」

 

その言葉に、一同は慌てて石板のところに向かっていった。

 

ファル「ま、待て… くそ動けん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右京「父さん、見ててよ」

 

石板のところにたどり着いた右京は、虹色の宝玉を取り出すと、万感の思いを込めて石板に彫り込まれた龍の目の部分にはめ込んだ。

 

 

左京「右京…」

 

遠藤「うむ」

 

皆が見守る中、はめ込まれた宝玉は一層輝きを増し始め石板そのものを虹色の光で包み込んだ。

 

 

ラン「きれい…」

 

京香「何て暖かな光…」

 

 

 

 

ようやく動けるようになったファルだったが、その光景を見て全てが終わったことを悟った。

 

 

ファル「チッ、もうダメだな。撤退だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「リーフ、バラバラにしてやるぜ!!」

 

 

ゴーロはリリーフをマウントポジションに捉えたまま、頭部を砕かんと両手でリリーフの頭を握りつぶしにかかってきた。

 

 

リリーフ「ぐ…ああ…あ…」

 

ゴーロにパワー負けした挙句、ダメージを負っていたリリーフはなすすべがなく、頭を潰される激痛に顔を歪めていた。

 

 

 

ダイダー「くっ、リーフ」

 

ダイダーは、ライナージェットで火の車の攻撃をギリギリでかわし続けながら、悔しそうな顔をしていた。

 

リリーフの危機はダイダーも十分認識していたが、自分自身に救援が欲しいこの状況ではとてもではないが助けに行けなかった。

 

 

そしてそこにリーフの悲鳴が聞こえてきたことで、ダイダーの気がそれてしまい、回避が一瞬遅れてしまった。

 

 

 

それを狙った火の車の砲撃がライナージェットをかすめ、姿勢が大きく崩れてしまった。

 

 

ダイダー「キャアアア!!」

 

 

Dr.フライ「手こずらせおって、止めじゃ!!」

 

失速しかけたライナージェットにとどめの一撃を食らわさんと、Dr.フライは火の車の龍の口を大きく開かせた。

 

 

ダイダー「!!!」

 

目の前に大きく開いた龍の口に、ダイダーも覚悟を決めたその瞬間、黄金に輝いていた火の車は突如として全体が赤茶けた黄土色に変わり、動きが止まってしまった。

 

 

Dr.フライ「な、なんじゃ!? どうしたというのじゃ!? ええい、動け動かんか!!」

 

突如として操縦不能に陥った火の車に、Dr.フライは半ばパニック状態に陥り、でたらめに操縦桿を動かし始めた。

 

しかし、そんなことで復調するはずもなく火の車は失速しはじめた。

 

 

ダイダー「えっ!?」

 

突然のことに戸惑っていたダイダーだったが、すぐに事情を理解した。

 

 

ダイダー「そっか、みんなが宝玉で火の車の機能を停止させることに成功したんだ!!」

 

 

それを理解するや否や、ダイダーはライナージェットの姿勢を立て直し地上のリリーフのところへと急行した。

 

 

 

 

ゴーロ「もう少しだ。くだけ散れ!!」

 

リリーフ「ぐ…あああ…」

 

メリメリという音がするほどにゴーロに頭を締め付けられていたリリーフは、なんとかしてゴーロの手を引き剥がそうとしていたが、どうにもできずもはやこれまでかと感じていた。

 

 

しかし次の瞬間、馬乗りになっていたゴーロに何かが突撃して跳ね飛ばした。

 

 

ゴーロ「ぐおぉ、なんだ!?」

 

それはライナージェットをサーフボードのように操ったダイダーであり、ゴーロを吹き飛ばすと同時に、リリーフも救出していた。

 

ゴーロ「チィッ、あいつら!!」

 

その光景を見て憎々しげに呟いたゴーロだったが、そこにファルから通信が入った。

 

 

ファル『おい、もういい。 今回の作戦は失敗だ、引き上げろ』

 

ゴーロ「けっ、まあそこそこ楽しめたしよしとするか」

 

 

通信を受けたゴーロは多少不本意だったようだが、まぁいいかとばかりに引き上げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ゲホゲホ、助かったよダイーダちゃん」

 

ダイダー「間に合ってよかったわ。それより行くわよ、今こそ火の車と決着をつけるの!!」

 

リリーフ「うん!!」

 

 

 

リリーフの力強い頷きに、ダイダーはライナージェットを失速し始めた火の車に向けて突撃させた。

 

リリーフ「Dr.フライ、あなたのような人をこれ以上放っておくわけにはいかない!!」

 

ダイダー「リーフの言う通りよ。多くの人を傷つけたあんただけは許さない!! チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

 

 

 

Dr.フライ「ええい、この骨董品が!! ちゃんと動けというのに!!」

 

 

失速し墜落を始めた空飛ぶ火の車の中で悪態をついていたDr.フライだったが、モニターに映った光景に、顔色を変えた。

 

Dr.フライ「何!? あやつら体当たりする気か!? 避けろ、避けんかー!!」

 

 

Dr.フライは必死になって操縦桿をガチャガチャと動かしたが、火の車は完全に操縦不能に陥っていた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「うおおおお!!!」」

 

 

そしてそんな火の車に対してライナージェットの勢いを利用して、ダイダーはレッドハンドの超パワーでパンチを打ち込んだ。

 

 

その威力は激烈で、二人の乗ったライナージェットは火の車のボディをぶち抜き、翼にコーティングされた空気の刃でさらにボディを大きく切り裂いた。

 

 

 

ボディが大破し、もはや爆発も時間の問題となった火の車だったが、リリーフはこれではまずいと慌てた。

 

 

リリーフ「まずいよ!! あのまま山の中に墜落したら一体が火事になっちゃう。それにあれを動かしてたマイナスエネルギーが一面に撒き散らされたら…」

 

 

ダイダー「落ち着きなさい。だったら墜落軌道を変えて、マイナスエネルギーも浄化するのよ」

 

たしなめるような冷静なダイダーの言葉に、リリーフも冷静さを取り戻した。

 

リリーフ「あっ、そうか。じゃあ頼むよ」

 

 

そう言い残すと、リリーフはライナージェットから飛び降りると空中で虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックを一振りして火の車に向けて打ち返した。

 

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、火の車に直撃すると全体を包み込み、それと同時に光の玉をぶつけられたことで墜落コースが山の中腹から谷底へと変わっていった。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、火の車を包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

Dr.フライ「ヌアーッ!! だ、脱出、脱出じゃ!!」

 

もはやこれまでと脱出しようとしたDr.フライだったが、その瞬間自分の置かれている状況に気がついた。

 

Dr.フライ「ぬ? ハッチが開かん!? まさか!? 脱出装置まで機能停止しとるのか!? 誰か、わしを脱出させろー!! 脱出させてくれー!!」

 

 

その叫びも虚しく、火の車は谷底に墜落し大爆発を起こした。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

 

 

 

その光景は石板のところにもいた遠藤博士達の目にも届いており、右京は万感の思いで見つめていた。

 

 

右京「やったよ父さん… 仇を討ったよ!!」

 

涙を流しながら歓喜の叫びをあげていた。

 

豪「やったな、右京」

 

左京「右京…」

 

 

豪達もまた達成感に満ち溢れた清々しさを感じていた中、リーフとダイーダを乗せたライナージェットが飛来した。

 

リーフ「ヤッホー!!」

 

ダイーダ「みんな、大丈夫そうね」

 

 

リーフもダイーダもかなりボロボロになっており、それが激戦を物語っていたが、無事な姿を見て一同は一安心していた。

 

 

ラン「リーフさん、ダイーダさん!!」

 

京香「あなた達もお疲れ様」

 

 

遠藤「うむ、二人ともよくやってくれた」

 

 

 

 

左京「本当に何から何までありがとうございました」

 

右京「父さんの仇を討てたのも、全部みなさんのおかげです」

 

心からの感謝の意を込めて、深々とお礼をする右京と左京にリーフとダイーダは申し訳なさそうに返した。

 

 

ダイーダ「いえ、そんな。頭を下げるのはこっちです」

 

リーフ「うん。空飛ぶ火の車、壊しちゃったもんね。あなた達の大切なものだったんでしょう」

 

 

しかし、左京はゆっくりと首を左右に振った。

 

 

左京「いえ、確かに大切なものでしたが、あれは私たちを縛り付けていた呪いのようなものだったかもしれません」

 

右京「あれを守り続けることで、俺達は何もできなかった。でもこれからはこの世界で自由に生きていけるんだと思う」

 

 

その答えに遠藤博士は満足げに頷いた。

 

 

遠藤「うむうむ。世界は広いのじゃ、どこまでも空は広がり、未知のものや多くの人々がいる。それらを知っていくことが人生なのかもしれん。見よあの美しい夕焼けを! あれが世界なのじゃ!!」

 

 

ラン「おじいちゃんってば、カッコつけちゃって」

 

 

その言葉に一同の間には、笑い声が響き渡った。

 

 

遠藤「ったく、締めぐらい決めさせんか」

 

 

憮然としつつも、遠藤博士は火の車の墜落した方をどこか悲しそうに見つめていた。

 

 

遠藤(フライ。お主は自分の尺度でしか世界を見ることができなかったんじゃな。なぜ、周りの人々やわしらを見ようとせなんだんじゃ… 今更言っても遅いがな。せめて安らかに眠れ… )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火の車の墜落した谷底では、その残骸が一面に飛び散りまだ幾分か火もくすぶっていた。

 

そんな中、瓦礫をかき分けて何かが蠢いていた。

 

 

Dr.フライ「ぐ、ぐぬ… わしは死なんぞ…」

 

 

Dr.フライは力を振り絞って、瓦礫の下から這い出るとなんとか一心地ついた。

 

 

Dr.フライ「ひぃひぃ。ざまあみるがいい、わしがこの程度のことで死ぬわけはない。何しろわしは史上最高の…」

 

いつものセリフを口走ろうとした瞬間、Dr.フライは驚愕に目を見開いた。

 

 

彼の腹部には鉄の棒のようなものが深々と突き刺さり、よく触って調べると背中まで貫通していたからだ。

 

しかし驚くべきはそれではなかった。

 

 

 

Dr.フライ「な、なぜじゃ!? これほどのものが突き刺さっておるのに、痛みも感じなければ血すら出ておらん!?」

 

 

恐る恐るその鉄の棒をつかみ、体から引き抜いてみたもののまるで抵抗なく抜けた上に、出血もしなかった。

 

 

おまけに体に開いた穴からは、黒い靄のようなものが溢れ出たかと思うと、たちどころにその穴もふさがってしまった。

 

 

さしものDr.フライも、この状況には混乱していた。

 

Dr.フライ「ど、どうなっておる!? 傷が消えた!? わしの体に何が起きとるんじゃ!?」

 

 

 

 

 

数日後 夜、遠藤平和科学研究所

 

 

あの後、結局右京と左京は甲子市を出て、田舎へと再度引っ越すことにした。

 

やはり、ずっと山奥で暮らしていただけにどこか都会暮らしには馴染めなかったようであった。

 

 

豪「あーあ、せっかく仲良くなれたのになぁ」

 

 

右京とは気の合う友人になれたと思っていだけに、豪はどこか元気がなかった。

 

京香「まぁまぁ。引越し先の住所とかは聞いてるんだから、手紙を送ってあげるといいわ。年賀状なんかもね」

 

遠藤「それは良いことじゃ。人との絆は大切にな。 っとリーフ、そっちの配線をつないでくれ」

 

豪「それもそっか。よーし書くぞ!! って、じいちゃんはここんとこ何やってるの?」

 

 

何か作業をしながらの遠藤博士の言葉に、豪は元気を少し取り戻したが、続けて質問をした。

 

 

遠藤「うむ、右京くんが残していったあの宝玉の利用方法についてじゃ」

 

 

ラン「えっ? あれって、ただの火の車のストップ装置じゃないの!?」

 

豪「もしかして、結構高く売れるとか?」

 

 

ラン達の疑問に、遠藤博士が得意そうに解説をした。

 

遠藤「いや、成分としてはただの石英みたいなものじゃから、宝石としてはそんなに価値はない。じゃがその真価は別のところにあるのじゃ」

 

 

京香「どういうことですか?」

 

すると、作業を手伝っていたダイーダが解説をした。

 

ダイーダ「あの宝玉からは、火の車をストップさせるために何か特殊なエネルギーが常時、しかも半永久的に発生しているみたいなんです。あの石板はそれを増幅させるシステムだったようです」

 

 

遠藤「つまりじゃ、それをうまく利用すれば、電気代やガス代がかからずに済むかもしれんということじゃ。それだけではないぞ、こいつを解析して人工的に生成できれば世界のエネルギー問題まで解決できるかもしれん」

 

 

その言葉にランの目は輝いた。

 

 

ラン「本当!? ああ、もしそうなればこの若さで所帯染みた悩みを抱えなくても済むのね!!」

 

京香「それだけじゃないわ、もしかしたら世界的な大発明になるかもしれないのね」

 

豪「スッゲェよじいちゃん!!」

 

リーフ「やっぱり、博士はすごい人だよね」

 

ダイーダ「ふふっ、そうね」

 

口々に誉めたたえる言葉を聞き、遠藤博士は実に気分が良かった。

 

遠藤「はっはっはっ!! わしに不可能はなーい!! っと、これで完成じゃ。まずは我が家の電気をこいつで賄わせてみるか。 リーフのブルーハンドでは一時的な非常電源にしかならんが、こいつは違うぞ」

 

 

 

準備を終えた遠藤博士を、ランは涙ぐみながら見つめていた。

 

ラン「ああ… ついに、ついに… おじいちゃんの発明が我が家の役に立つ時が来たのね…」

 

 

遠藤「あのな、わしをなんだと思っとったんじゃ。いくぞ、スイッチオン!!」

 

 

仰々しくスイッチを入れると低い音とともに装置が動き出し、それと同時に装置に組み込まれた宝玉が虹色に輝きだした。

 

 

豪「うわ〜っ…」

 

ラン「きれい…」

 

 

その宝玉の作りだした幻想的な光景に、一同は心を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

 

が、次の瞬間

 

 

 

豪「あれ? 真っ暗」

 

 

突如として室内の照明が落ちてしまい、一寸先もろくに見えなくなってしまった。

 

 

ラン「ど、どうなってるのこれ?」

 

遠藤「わしにもわからん。それになぜ非常灯に切り替わらんのじゃ? えぇい懐中電灯、懐中電灯はどこじゃ」

 

 

突然の停電に皆が慌てふためく中、リーフはマルチハンドを換装した。

 

 

リーフ「ちょっと待ってて、すぐ明るくするから。チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

 

リーフがブルーハンドで壁にタッチすると、そこから放たれた電流でなんとか電源が回復した。

 

 

京香「あっ、ついたわ。便利なものね。でもどうして急に停電なんか…」

 

 

今の停電には遠藤博士も首をかしげていた。

 

 

遠藤「おかしいのう。この宝玉のエネルギーなら家庭用電力など簡単に賄えるはずなんじゃが… エネルギーが多すぎてブレーカーでも落ちたのかのう」

 

 

 

そんな中、電力量を調べていたダイーダもまた首をかしげながら報告をした。

 

 

ダイーダ「博士、今調べましたがエネルギーが増えるどころか、ものすごい量の電気が消費されてますよ。おまけにそれでも足りずに予備の非常バッテリーまでゼロになってます。今はリーフのブルーハンドの電気で明かりがついてますけど…」

 

 

その言葉に、遠藤博士は納得したように手を叩いた。

 

 

遠藤「ああ、そういうことか。この宝玉のエネルギーは当然そのままでは使えないから、通常の電気に変換せにゃならんのじゃが、その際にかかる電力量が想像してた数値を超えとったんじゃな」

 

 

京香「えーっと、つまりこの宝玉のエネルギーを普通に使えるようにするには、これで賄える以上の電気が必要だということですか?」

 

 

遠藤「まぁ、簡単に言えばそういうことじゃな」

 

 

したり顔で解説した遠藤博士だったが、同時に肩を震わせたランの怒声が響いた。

 

 

ラン「それじゃ意味ないでしょう!!! この装置やらなんやらにまたどれだけお金使ったのよ!!!」

 

 

遠藤「ま、まぁ落ち着け。失敗は成功の母というじゃろ。こういったことも科学の発展、ひいては世界平和及び人類の未来にきっと役立つ…」

 

 

遠藤博士はなんとかなだめようとしたが、ランの怒りは完全に爆発していた。

 

 

ラン「なーにが人類の未来よ!! 世界平和よ!! 私の未来と我が家の平和はどうなるのよ!! うちの真っ赤っかな家計簿をいっぺん見てみなさいよ、こんなんでまともなお正月が迎えられると思ってんの!!! え!?」

 

豪「お、落ち着けラン。なっなっ」

 

 

ラン「うるさーい!!!! うちの家計の火の車もなんとかして!!!!」

 

あまりに切実なランの叫びが研究所を大きく揺るがせたのだった。

 

 

 

第34話 終


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