アメリカ ニューヨーク
世界一の大国アメリカの中でも、最大の都市ニューヨーク。
超高層ビルが立ち並ぶこの都市も、Dr.フライ率いるメイジャーや文字通り蟻のように大地を埋め尽くすマイナー達によって蹂躙し尽くされていた。
都市の一部は無残に破壊され荒野と化しており、そこではアメリカ全土から連行されてきた人々が、奴隷のように働かされていた。
倒壊したビルの一部である巨大なコンクリートや土砂を、まるで古代エジプトで行われていたように運ばされていた。
ろくな休みもないまま働かされていたため力尽きる人も続出していたが、そんな人達に対する慈悲などまるでなかった。
「はぁはぁ… もうだめ…」
そして今また一人の女性が力尽き倒れ伏すと、見張りをしていたマイナーが容赦なくマシンガンで撃ってきた。
その倒れた女性は一瞬で蜂の巣になり、それを見て悲鳴をあげた者達にも黙れというように弾丸がお見舞いされた。
その光景を見た人々は、恐怖に怯えながらも言いなりになるしかなかった。
節子「わたくし、突撃レポーターの甲斐節子です。なぜこんな目に会わねばならないのでしょう? それに連中は私達を働かせて一体何を作らせているのでしょうか?」
同じように連れてこられ働かされていたレポーターの甲斐節子は、もはや職業病とでも言うようにブツブツとそう呟いていた。
そんな彼女の視線の先には、一棟だけ無傷で残された超高層ビルがあり、連れ去られた人々はそのビルの改造を行なわされているようだった。
人々が奴隷として働かされている光景をその超高層ビルの屋上から見下ろしながら、Dr.フライは満足そうにいやらしく笑った。
Dr.フライ「ひゃっひゃっひゃっ!! 実に気分がいい!! 愚かな人間どもがわしの足元で惨めに蠢いておるわ!!」
ダイーダ「借り物の力に溺れて他人を見下す… どこまでも見下げ果てたやつね。パーフェクトに好かれる理由がわかるわ」
十字架に磔にされて身動きの取れなくなっていたダイーダが、そんなDr.フライを心底軽蔑したようにそう吐き捨てた。
するとDr.フライは敏感にその言葉に反応した。
Dr.フライ「黙れ!! 負け犬の分際で史上最高の天才であるわしを非難するとはなんたる無礼!! 口の利き方をしつけてやるわ!!」
そう子供のように当たり散らすと、磔にされているダイーダに対して電撃の鞭を打ちつけた。
ダイーダ「ギャアアア!!!」
その激痛に悲鳴をあげたダイーダを見て、Dr.フライは口元を歪めた。
Dr.フライ「どうじゃ? 以前は効かなかったらしいが、こうして貴様にダメージを与えるぐらいのことはできるのじゃ。 言っておくが少しでも逃げるそぶりを見せてみろ。 ここから見える人間どもを一瞬で死体の山に変えてやるからな。 もっともその十字架は特別製でな、ロボットの運動機能を麻痺させる仕組みだから逃げられまいがな」
その言葉通り全身にまるで力が入らず、苦々しい表情をしたダイーダを見てゴーロもまた満足そうに嗤った。
ゴーロ「いいざまだなダイーダ。だがな、お前の言う通りこのジジイは無能でな。お前を痛めつけるレベルのものしか作れなかったんだ。だから安心しろ、どんなに痛めつけられても死ぬことだけはねぇ、よ!!」
そう言うとゴーロはDr.フライの手から電撃ムチを取り上げ、ダイーダに打ちつけた。
ダイーダ「キャアアア!!!」
ゴーロ「へっへっへっ。いい声だ。日頃の恨みだ、もっと聞かせろ」
そうしてゴーロは幾度となく磔にされたダイーダにムチを打ちつけた。
ダイーダ「キャア!! キャア!… グアッ…! イッ… あうぅ…」
だんだんとあげる悲鳴も小さくなっていき、ぐったりとしてしまったダイーダを見てゴーロはようやく満足したように手を止めた。
ゴーロ「けっ、もう終わりか。まあいい、こいつには最大限の屈辱を味あわせてやるんだからな」
遠藤平和科学研究所
帰還した三冠号の整備を自動装置に任せ、遠藤博士は制圧されたアメリカを奪還するべく方法を必死に模索していた。
遠藤「連中はおそらく何らかの理由で、大量の人間が必要なんじゃろう。だからこそ人々を奴隷にして働かせておるんじゃ」
ラン「その何かって?」
遠藤「残念じゃがそこまではわからん。しかしあの大量のマイナーどもがいる限りアメリカ国民全員が人質のようなもんじゃ。今のままではどうにもできんぞ」
豪「そんな!! いっぺんにパァーッとやっつけるなんて無理だよ。それに…」
そう言って部屋の隅に目を向けると、帰還して以来ずっと塞ぎ込み座り込んでいるリーフがいた。
豪「姉ちゃんだってあんな調子だし。オレ達だけであの大群を倒すなんて…」
うつむきながら気弱にそう呟いた豪の方に手を置くと、励ますように京香先生が言った。
京香「元気を出しましょう。確かに私達の力は小さいかもしれないけど諦めるわけにはいかないわ」
ラン「そうよ豪! みんなで考えましょう、あのマイナーを倒す方法を」
豪「方法ったって、俺見たんだぜ。アリみたいにうじゃうじゃあいつらがいるのを。もともとがアリだっていうけど本当にそうなんだってつくづく思ったよ」
その言葉に遠藤博士は何か閃くものがあった。
遠藤「ん? そうか! あいつらはアリにマイナスエネルギーを取り付かせたものじゃったな。おまけに変身前のリーフ達の攻撃で簡単に浄化されていた… ようし!!」
すると遠藤博士は即座にパソコンに向かい、スカイプで通話を始めた。
遠藤「宝六、わしじゃ。聞こえたら返事をしてくれ!!」
宝六『おお、遠藤か。 アメリカのことでこっちも大騒ぎになっとるよ。 一体どうしたんだ?』
かなり深刻な顔をしながら通信に出てくれた宝六博士に、遠藤博士もまた真剣な顔で頼み込んだ。
遠藤「宝六、お前の作った大気元素浄化装置(第19話、20話参照)のデータを貸してもらえんか」
宝六『何? 大気元素浄化装置? それをどうする気だ?』
突然の頼みに当然と言えば当然の反応を返した宝六博士に、遠藤博士は必死に頼み込んだ。
遠藤「お前の作った大気元素浄化装置のシステムを応用して、マイナスエネルギーの浄化作用のある光線を作りたい。アメリカ上空の静止衛星軌道から太陽光線を利用しそれを照射する。そうすれば、今アメリカを占領しているあの兵隊どもを一掃できる。そうすれば人質も自然解放されるというわけじゃ。 頼む、アメリカのいや世界の平和のためにも!!」
その言葉に少し考え込んだ宝六博士だったが、ゆっくりと頷いた。
宝六『わかった。 協力しよう、世界のためにも』
遠藤「おお!! ありがとう!!」
宝六『なぁに、君の頼みでもあるし、世界のためでもある。データはすぐに送る。頼んだぞ遠藤、世界を救ってくれ』
そうして話を終えた後、遠藤博士は死んだ目をしているリーフのところに行って話しかけた。
遠藤「リーフ、しっかりせんか」
リーフ「でも、ダイーダちゃんは…」
遠藤「ダイーダはまだ無事じゃ。かろうじてじゃがな」
その言葉に僅かながら、リーフの目に光が灯った。
リーフ「本当ですか!?」
遠藤「うむ、ダイーダのボディからの信号は途絶えとらんからな」
パァッと明るくなったリーフだったが、すぐにまた暗くなってしまった。
リーフ「でも、どうやって助けに行けば… それにダイーダちゃんは私のことなんか…」
遠藤「本当にそう思うか? ならついて来い」
そう言って遠藤博士はリーフを地下研究室の奥へと連れて行った。
地下研究室
遠藤博士に連れられて地下の奥に来たリーフは、そこにあったものを見て目を見開いた。
リーフ「これは!!」
遠藤「ダイーダが夜な夜なこっそり作っとったものじゃ。まぁ小型ジェット機のようなもんじゃな」
リーフ「でもダイーダちゃん、もっとパワーアップする必要があるって…」
遠藤「まぁそれも本心じゃろう。しかしそれ以上に仲直りがしたかったのじゃろうて。お主と同じでな」
悪戯っぽく笑いながら告げた遠藤博士にリーフは驚いた。
リーフ「えっ!? 知ってたんですか?」
遠藤「わからいでか。リーフ、友人というものは結局どこかで似てくるものということじゃよ。いっその事これをお前さんのとくっつけてみたらどうじゃ」
そう言い残すと、遠藤博士は出て行った。
しばらく思いつめていたリーフは、別の部屋に向かいそこに置いてあったものの覆いを取り払った。
リーフ「…私は仲直りしたかった。でも変な意地張っちゃったから、ダイーダちゃんとうまく話せなくて… これが話すきっかけになればと思ったんだ。ダイーダちゃん、絶対助けるからね!!」
リーフはその覆いの下にあったもの、未完成の巨大なバズーカ砲のようなものを見つめてそう決意を固めた。
宝六博士から大気元素浄化装置のデータをもらった遠藤博士は、そのシステムを応用した小型人工衛星の制作を不眠不休で行なっていた。
遠藤「えーっと、ここの配線をこうつないで… プログラムをこう変更して」
京香「博士、少しお休みにならないと体に毒ですよ。昨日から食事も睡眠もとってらっしゃらないじゃないですか」
ラン「そうよおじいちゃん。私達にできることは限られてるけどせめておにぎりぐらい食べて…」
疲れを知らぬが如く、まるで手を止めずに作業を続ける遠藤博士にランと京香先生は心配そうにそう話しかけた。
が
遠藤「そうはいかん。こんなことをしとる間にもアメリカの人達がどんどん犠牲になっとるんじゃ。休んでなどおれんわ!!」
そう一喝すると、喋る時間も惜しいというように遠藤博士の作業は進んでいった。
京香「…仕方ないわ。博士、簡単なお手伝いはします。できそうな作業を教えてください」
止めても無駄だと悟った京香先生は、腕まくりをして遠藤博士の手伝いを始めた。
ラン「仕方ないか。じゃあ私はリーフさんの方を…」
そう呟くと、ランは地下にこもりっぱなしで作業をしているリーフと豪を手伝うべく地下室へと向かった。
アメリカ ニューヨーク
人々が奴隷として働かされている中、小型UFOが飛来し着陸した。
そしてUFOからDr.フライに連れられたアメリカ大統領が出てきた。
Dr.フライ「さぁて大統領。あんたにも働いてもらおうか」
そう言い放つと、Dr.フライは大統領を突き飛ばした。
大統領「くっ…」
地面に這いつくばりながら、大統領は屈辱に表情をゆがませていた。
皆が絶望の表情を浮かべている中、ついに誰かが我慢の限界というように叫んだ。
「いい加減にしろ!! オレ達は奴隷なんかじゃない!!」
「いつまでも言いなりになんかなるか!!」
しかしそう叫んだグループは、あっという間にマイナーに取り囲まれてしまった。
ファル「そんなに死にたいか?」
マイナーの監督を行っていたファルが見下したようにそう尋ねるとそのグループは声を張り上げた。
「ふざけるな!! こんな形で死ぬなら殺された方がマシだ!!」
「プライドってもんがあるんだ!!」
それを聞きつけたDr.フライはいやらしく嗤いながらファルに命じた。
Dr.フライ「そうかそうか。ならばこやつらには最大の屈辱を与えるのじゃ。供物にはもってこいじゃ」
ファル「それもそうだ。よし連れて行け!!」
そうして人々が連れ去られていく中、Dr.フライの姿をたまたま認めた甲斐節子は、あらん限りの声で罵った。
節子「あんたふざけんじゃないわよ!! それでも人間なわけ!? こんな連中の仲間になって情けないとか思わないの!!」
Dr.フライ「フェッフェッフェッ。ご忠告感謝する。じゃがわしは自分の意思でこうしておる。この世界を暗黒の世に染め上げるためにな」
どこ吹く風というようにそう嗤ったDr.フライに節子はさらに噛み付いた。
節子「ぶぁっかじゃないの!? 世界がこんな奴らに征服されたら、あんたなんか用済みだってわかんないの? だいたいあんただってどんなに腐ってようとも人間なんだからこいつらの世界で生きてけるわけないじゃないの!!」
Dr.フライ「黙らんか!! わしを馬鹿にする奴は誰だろうとも許さん!! そいつも連れて行け!!」
節子の言葉に金切り声を上げると、Dr.フライはマイナーに節子を捉えるよう命じた。
Dr.フライ「わしを馬鹿にする奴は許さん。わしがそんなことになるはずはないのじゃ。15年前のあの事故でさえわしは無傷で乗り切ったのじゃからな。世間はわしが死んだなどとほざいておったが、それこそが無能の証じゃ」
そんなことを嘯くDr.フライをファルは冷めた目で見ていた。
ファル「ふっ、知らないとは幸せなものだ。せいぜい夢を見ていろ」
遠藤平和科学研究所
遠藤「よーし完成じゃ!! 名付けてマイナー殲滅衛星。あとはこいつを衛星軌道上まで運べば…」
京香「やりましたね。でもこれをどうやって打ち上げるんです?」
遠藤「それは三冠号、つまりリーフに任せる。あいつの方はどんな塩梅かな…」
そんなことをつぶやくと、豪とランが息急き切って駆け込んできた。
豪「じいちゃん!!」
ラン「リーフさんが完成したって言ってるわ!!」
遠藤「おお!! そりゃ本当か!?」
嬉しそうにそう尋ねると、ゆっくりとリーフが作業室に入ってきた。
その自信に満ち満ちた瞳を見て、京香先生と遠藤博士は満足そうに頷いた。
京香「もう心配はなさそうね」
リーフ「はい、ご心配をおかけしました」
遠藤「よし、こちらも準備ができたところじゃ。 いくぞアメリカ奪還作戦開始じゃ!!」
「「「了解!!」」」
第29話 終