遠藤平和科学研究所
いつものように、遠藤博士およびリーフとダイーダが格納庫で三冠号のメンテナンスを行っていたが、今日は少し様子が違っていた。
リーフ「えーっと、いつも使ってるドライバーは…と、ここにしまったはずなのにな…」
そんなことを呟きながら探していると、リーフの目の前を猛スピードでドライバーが飛んできて、壁につき刺さった。
リーフが険しい顔で飛んできた方を見ると、レッドハンドに換装したダイーダがいた。
リーフ「…」
無言のままメンテナンス作業が進んでいく中、今度はダイーダの使っていたドリルが止まった。
ダイーダ「あら、バッテリーが… 昨日充電したと思ったのに…」
そう呟いた直後、電撃光線がダイーダの持っていたドリルに向かって放たれてきた。
それによりバッテリーは一瞬で回復したものの、ダイーダ自身も感電してしまった。
ダイーダは全身から黒い煙を上げながら、ギロリという効果音が聞こえそうな目つきでブルーハンドに換装したリーフを睨みつけていた。
そんな二人を見かねたように遠藤博士は口を開いた。
遠藤「あのなぁ、二人ともいい加減にせんか。あれに関してはもう少し検討するから早く仲直りをじゃな…」
そこまで口を開いたところで遠藤博士は二人に睨まれてしまい、小さくなって押し黙ってしまった。
そんな様子を見ながら、豪とランも大きくため息をついていた。
京香「一体どうしたの、あの二人? 喧嘩でもしてるの? それに博士も何かあったのかしら?」
研究所を訪ねてきていた京香先生がそう尋ねると、豪とランはため息をつきながら口を開いた。
豪「いやね。誰のせいってわけじゃないけど、確かに強いて言うならじいちゃんのせいっていうか…」
ラン「ただまぁ、だからって誰の味方もできないから余計にタチが悪いんですよね…」
京香「はぁ?」
ことの始まりは先日の銀行襲撃事件の夜に遡る。
あの夜、遠藤博士はヨーロッパに行っている宝六博士とスカイプで話していたのだが、その内容というのがリーフとダイーダのパワーアップに関してだったのである。
設計図を宝六博士の元に送り、改善案を考えていたのだが
遠藤「どうじゃ、お前さんの意見は? わしの方でも色々考えてみたんじゃがな。別の視点からも見てもらいたくてな」
宝六『遠藤、悪いが私も君と同意見だ』
その言葉に、遠藤博士は大きくため息をついた。
遠藤「うーむ。お前さんなら何か良い案があるかと思ったんじゃがな…」
宝六『ため息をつきたいのはこっちだ。遠藤よ、君はある意味で最も意地の悪い男だな。こんなものの改良案を考えさせるんだからな』
激化していくパーフェクトとの戦いに備えて、リーフとダイーダのパワーアップを検討していた遠藤博士だったが、どうにも良い案が浮かばず宝六博士にも相談していたのだ。
が
宝六『そもそも、このアンドロイドのボディだがエネルギーに限界がある点とAIの問題を除いて基本設計がほぼ完璧だ。そして、彼女達精霊が宿ったことでその問題もクリアされた。細かなパーツの駆動部分の無駄をなくすことぐらいは可能かもしれんが、性能そのものが大きく跳ね上がるような改良の余地などもはや全くないと言って良い。 遠藤、君はやっぱり天才だよ』
宝六博士の呆れたような褒め言葉に、リーフとダイーダは困惑の表情を浮かべていた。
リーフ「と、いうことは、私達はこれ以上パワーアップできないということですか?」
ダイーダ「何かこう、新しいマルチハンドを作るとかも無理なんですか?」
遠藤「それはわしらも考えたがな。そもそもアンドロイドを2体作ったのは、そのマルチハンドの問題もある。1体に内蔵・瞬間換装が可能なのが通常の腕に加えて2種類が限界だったんじゃ。それ以上は技術やプログラムがどうしても追っつかんかった」
遠藤博士のその答えに、宝六博士は何かがひらめいた。
宝六『いや待て。内蔵させることは不可能でも、新しい武器や装備を持つことは可能かも知れん』
リーフ「本当ですか?」
宝六『しかし、その場合でも現行の君達の力を上回るものを作ることは難しいだろう。 なんせ君達だけでレスキュー活動を行えるように設計されているだけに、世界最高峰の性能が付与されている。 現存の技術ではやはり無理が…』
その言葉に、ダイーダはある提案をした。
ダイーダ「だったら、エネルギー源を私達のプラスエネルギーで補ってみればどうでしょう。 その力はまだ解析できないと言ってましたよね」
遠藤「ん? おおその手があったか!! よし、ならばそのプラスエネルギーを応用したものを考えて見るか」
遠藤博士もポンと手を叩いてそう頷いた。
リーフ「よーし、じゃあ早速始めよう!!」
その後銀行襲撃事件があったことで数日この話は止まり、事件解決後早速開発が始まったのだが…
ダイーダ「だーかーらー何度言わせるの!! あいつらを手早くそして確実に倒せるようにしないといざという時の被害が広まる一方でしょ!! それにプラスエネルギーを最大に活かすことでマイナスエネルギーを浄化できるじゃないの!! 火力を重点に置いたものを開発すべきよ!!」
リーフ「わかってないのはダイーダちゃんだよ!! まずあいつらの行動を即座に止めに行けるようにしないと、それこそ被害が出るじゃない。何か起きた後じゃ遅いんだよ!! 小回りがきくすぐに現場に駆けつけられるようなものを!!」
新しい装備を作るといったことで意見はまとまったのだが、何を作るべきかというところで、意見が真っ二つに分かれてしまったのである。
ダイーダ「いくら現場に素早く駆けつけられても、あいつらとの戦いで負けちゃったら何にもならないでしょう!! あんたこの前の砂カビの事件でボロボロにされたの忘れたの!? まずはパワーアップが大事よ!!」
リーフ「パワーアップったって、武器を持ってウロウロできるわけないじゃない!! こないだの事件の時みたいに、一人で行動するときにいちいち担いで行くつもりなの!?」
平行線を辿り続ける議論に、遠藤博士もまた耳をふさぎながら怒鳴った。
遠藤「えぇい、静かにせんか!! もう少し冷静になって話をしろ!! どちらのいうことにも一理あるわけじゃからして、うまくその折り合いをつけて…」
しかしリーフもダイーダもその言葉に耳を貸そうともせず、夜を徹した激論の末に喧嘩別れしてしまった。
ラン「幸い取っ組み合いの喧嘩にだけはならなかったけど、あれからずっとあんな調子よ。一週間近くお互いに口も聞いてないわ」
豪「おまけにせっかくの新兵器も何にもできてないみたい」
京香「そうなの… 早く仲直りしてくれるといいんだけど」
そんなことを話し合っていると、突如居間のマイナスエネルギー検知器がけたたましい警戒音を発し、その警戒音は格納庫にも鳴り響いた。
豪「げげっ!!」
ラン「よりによってこんな時に!!」
格納庫にも常備されているテレビをつけると、緊急ニュースが報道されていた。
キャスター『全国の皆様、非常事態です。約5時間前、未確認飛行物体が出たとの情報を最後に、アメリカの首都ワシントンと一切の連絡・通信が行えなくなってしまいました』
遠藤「な、なんじゃと!!」
ラン「そんな!!」
キャスター『事態を把握しようと現地入りした各国の政府機関や報道機関も、ワシントンに近づくと突然連絡が途絶えています。ただいま、当チャンネルの甲斐節子記者が決死の突撃レポートを敢行中です。えーっ、甲斐さん今どの辺りですか? 』
その頃、甲斐節子はワシントンの近くをヘリコプターで飛行中だった。
節子(フッフッフッ。危険な仕事かもしれないけど、これに成功すれば私の株は上がる。そうすればもっと売れっ子に…)
そんな野心を燃やしていると、日本への中継を行うことになり、息を整えて放送に入った。
節子「はい、こちら甲斐です。現在ワシントンまで約3キロの地点にいます。果たしてUFOは実在したのでしょうか? そしてワシントンでは何が起こっているのでしょうか!? この甲斐節子決死の突撃レポートを行い、必ずや世界の皆様に真実を報道させて…」
そこまで報道した途端、画像が乱れ始めついにはブラックアウトした。
キャスター『甲斐さん!? どうしました!! 返事をしてください!! 』
テレビの中で必死にそう呼びかけているキャスターを見て、遠藤博士は険しい表情をしていた。
遠藤「こりゃ、えらいことになっとるかもしれんぞ。早速調査を…」
そう呟いていると、キャスターが新たな紙を受け取り驚いたような表情と共に話し始めた。
レポーター『ただいま、ワシントンから緊急の中継が全世界に発信されている模様です。ご覧下さい』
すると画面が切り替わり、一人の初老の男性が映った。
京香「あの人はアメリカ大統領!?」
皆が驚いていると、アメリカ大統領が悲痛な面持ちで会見を始めた。
大統領『アメリカ合衆国の国民、および全世界の皆さん。重大な発表をいたします。我がアメリカ合衆国は…、ただいまをもって…』
どこか言いづらそうに途切れ途切れに話しをしていると、耳障りなダミ声が響き渡った。
『何を口ごもっておる。とっとと宣言せんか!!』
豪「!! この声、Dr.フライ!?」
大統領『次元皇帝パーフェクトに…』
『様をつけねぇか!! 白豚が、記憶力がねぇのか?』
ダイーダ「ゴーロ!?」
合間に響き渡る声に、屈辱に顔を歪ませながら大統領は言い直した。
大統領『次元皇帝パーフェクト様に… 無条件降伏し… 今後はその意思に…』
『御意志だ。 もっと敬意を払え』
リーフ「ファルまで!!」
大統領『御意志に従うことを… ここに宣言いたします…』
遠藤「なっ、何い!!??」
京香「そんなことが!!??」
そう言って頭を下げた大統領を見て驚愕していると、画面が引いていきDr.フライがアップで映った。
Dr.フライ『聞いたか!? ただいまを持ってアメリカ国民はわしらの奴隷となるのじゃ。 もちろん逆らえばこれじゃ』
そう言いながらDr.フライは首に手刀をチョンチョンと当てる動作をした。
ラン「アメリカ国民を奴隷にって!?」
遠藤「馬鹿な!! あの広大な国家に住んどる何億人もの人間をどうやって奴隷にする気じゃ!! しかし、こうしてはおれん!! コズミックプリキュア、直ちに出動を…」
そう言って振り返ると、いつも並んで立っていることの多いリーフとダイーダが、顔も見たくないというようにお互いにそっぽを向いていた。
ダイーダ「ほら見なさい。連中がこんな大規模な作戦に出る前に、強力な武器を作っとくべきだったのよ!!」
リーフ「ぶーっ!! いざという時にすぐに助けに行けなきゃなんにもならないじゃない!! そういう時のために…」
遠藤「えぇい、いい加減にせんか!! 喧嘩しとる場合ではなーい!! アメリカが占領されれば冗談抜きで世界が滅ぼされかねん!! 大至急出撃して連中を叩きのめしてこんか!!」
変わらぬ口喧嘩を一括されたリーフとダイーダは渋々といった感じで三冠号に乗り込み、発進準備を行った。
リーフ「豪くん、そっちの準備ができたか聞いて」
準備を進める中、リーフが豪にそう尋ねた。
豪「…だってさ。どうなのダイーダ姉ちゃん」
ダイーダ「とっくに完了してるわよ。どっかのぼーっとしてるうすのろと一緒にしないで!! って伝えて」
その言葉に豪はため息をつきながら司令室に連絡を入れた。
豪「三冠号発進準備できたよ。じいちゃん格納庫開けて」
遠藤「よしわかった。豪、すまんが二人のことを頼んだぞ」
豪「う〜、わかった。 なんとか頑張ってみる」
明らかに嫌そうな顔をしながら豪がそう言うと、格納庫が開き三冠号が発進していった。
ラン「大丈夫かなぁ…」
京香「あの二人を信じましょう。今はそれしかないわ」
発進していった三冠号を見て、不安げに呟いたランの方に手を置きながら、京香先生はそう言った。
遠藤「全く、あいつらもあいつらじゃ。あれを見る限りお互いに仲直りしたかろうに…」
その頃アメリカでは大地を覆い尽くさんばかりの大量のマイナーが各地で暴れ回っており、各都市は次々と占領されていた。
キャスター『ただいまシカゴでは、巨大なクマのような怪物にビルが次々と破壊されており、人々は次々と捕らえられ連行されていっているようです。
残っていたアメリカ空軍も必死の抵抗をしているようですが、そちらも巨大なタカのような怪物につぎつぎと撃墜されているとの情報が入っています。
同様の被害がすでに、ニューヨーク・テキサスなど各都市や州で起こりそのすべてが現在音信不通となっています』
その報道とともに、アメリカの地図がアップになって映された。
キャスター『今までに入りました情報を統合いたしますと、すでにロッキー山脈を挟んで東側の地域は、ほぼ全域が制圧されていると思われます』
その報道を聞いた遠藤博士達は、険しい顔つきで考え込んでいた。
遠藤「まずいな。ここまで制圧されてしまっていては、いかにあいつらでも二人だけではアメリカを奪還するのは困難を極めるぞ」
京香「多くのアメリカの人達が捕えられているとなると、そのすべてが人質になっているようなものですから、下手に行動もできませんし…」
ラン「それより、どうして普通の人達を捕まえていくのかしら?」
ポツリと言ったランの疑問に遠藤博士は反応した。
遠藤「ん? どういうことじゃ?」
ラン「だって、労働力が必要ならあの兵隊 マイナーにやらせればいいんだし、戦闘機とか戦車や核ミサイルとかが欲しいなら軍の基地を制圧すればいいだけじゃない。どうしてわざわざ普通の人を奴隷にする必要があるのかしら?」
京香「言われてみれば…」
遠藤「うむ。ラン、お前今とんでもなくいいところに気がついたのかもしれんぞ!!」
第27話 終