海底 Dr.フライ秘密研究所
Dr.フライ「全く不甲斐ない! あの小型端末を金庫内においてこいと命じたのは捜査の攪乱による時間稼ぎを狙ってのこと。 なのにプリキュアどもに察知されては意味がないではないか!!」
そう怒鳴り散らすDr.フライに、ゴーロは吐き捨てるように言った。
ゴーロ「けっ! こういうチマチマした作戦は嫌いなんだよ。大体目標額に達するまで何回くり返しゃいいんだよ!? え?」
ファル「俺も同感だ。そもそも何度も繰り返せば察知されるのは当たり前だろう。もっと効率のいい方法を考えてみろ、天才様」
そう見下したように言ったファルに対して、Dr.フライは歯ぎしりをしながら言った。
Dr.フライ「ようし、いいじゃろう。あと一度の出撃で済むようにしてやる。狙うべきはここじゃ!!」
そう言ってDr.フライはモニターの地図のある一点を示した。
警視庁
無精髭を生やし、ボサボサの頭にヨレヨレの背広を着て、河内警部が上司に詰め寄っていた。
河内「部長、お願いします。今進言したことを直ちに実行してください!!」
上司「しかしねぇ、その話には根拠があるのかね。 次に襲われる場所がそこだという根拠が」
困ったようにそう尋ねた上司に、河内警部はきっぱりと言い放った。
河内「自分の勘であります!! 昨夜犯人は銀行の襲撃に失敗したと聞きます。しかしおそらく連中は諦めていません。各地の銀行は厳戒態勢をとっています。とすれば、犯人は効率を考え国立印刷局を襲うと思われます。大至急警備の強化を行ってください!!」
しかし、さすがにそれで頷くほど上司もバカではなかった。
上司「勘だぁ!? バカも休み休み言いたまえ!! 君はまたそんなあやふやなことで行動して、警察の威厳を貶めるつもりかね!! そもそも今君は休暇中だろう」
そんな上司に河内警部は拳をテーブルに叩きつけて叫んだ。
河内「わかりました!! 全責任は自分が負います!!」
そう言い捨てると、河内警部は部屋を飛び出していった。
河内(起きた事件の対処などできて当たり前。起きる事件を未然に防いでこそ、初めて人々を守ったと言えるんじゃないか!!)
そう呟きながら決意の表情と共に河内警部は車に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。
河内(俺は、たとえ一人ででも戦うぞ!!)
ダイーダ「はぁ〜… 仕方ないわね」
警視庁の外から耳の集音器の機能を最大にして先ほどの会話を聞いていたダイーダは呆れながらも、ビルの上をジャンプに次ぐジャンプで河内警部を追いかけていった。
ダイーダ「研究所聞こえる? 私よ。国立印刷局とかいうところに今向かってるわ。そこが次に襲われるって。 リーフ、あなたもすぐにこっちに来て」
そしてその合間に研究所に通信を入れた。
遠藤平和科学研究所
ラン「ダイーダさん、朝からどこ行ってたのよ? それにおじいちゃんの分析結果もまだなのにどうしてそんなことがわかったの?」
朝早くから飛び出していったダイーダを心配していたランだが、ダイーダからの突然の連絡にさらに困惑していた。
ダイーダ『河内警部の勘よ。 でも私はそれを信じるわ』
一瞬期待したランだったが、その言葉に脱力した。
ラン「そんなのがあてになるわけないじゃないの! もう」
しかしちょうどその時分析を終えた遠藤博士が告げた。
遠藤「いや、わしの分析結果でも国立印刷局が襲われる確率が一番高いと出た。あの刑事、あれでけっこう優秀なのかもしれんな」
リーフ「ようし、すぐに私も行くよ」
ダイーダ(人を守り正義を貫こうとする純粋なプラスエネルギー。私がそれを信じなくってどうするのよ)
ダイーダは河内警部を追いかけながら決意を新たにしていた。
国立印刷局
正面玄関前に乱暴に車を止め、駆け込んで行った河内警部だったが、当たり前のように警備員に制止されていた。
警備員「あなたはいったいなんなんですか? ここは一般の方は立ち入り禁止です!!」
そうやって押さえ込まれながらも、河内警部は必死の形相で叫んだ。
河内「放せ!! ここが次に狙われているんだ!! 警備を強化しないと紙幣の印刷機が奪われるぞ!!」
そんな押し問答をしていると、突然爆発音とともに印刷局が大きく揺れた。
河内「な、なんだぁ?」
突然のことに戸惑っていると壁を崩して巨大なカマキリの怪物が姿を現した。
河内「あれはパーフェクトの怪物!? ということは一連の事件の犯人は!!」
カマキリ怪物は両手の大鎌を器用に使って印刷局の壁を崩していき、当然印刷局の中は大パニックに陥っていた。
河内「みなさん落ち着いて!! 慌てずに避難してください!!」
建物が大きく揺れ、瓦礫が崩れてくる中、河内警部は局員の避難誘導を行っていた。
そんな中、書類棚が倒れ一人の局員が下敷きになってしまった。
「うわぁーっ!!」
河内「あっ、いかん!!」
その悲鳴を聞いた河内警部は慌てて駆け寄り、その局員を助け出すと肩を貸して歩き始めた。
河内「大丈夫か? さぁ捕まって」
一方、カマキリ怪物は建物を崩し続け、ついに印刷機を発見していた。
ゴーロ「へぇ、こんなもんでカネが作れるのか」
ファル「しかし分からんものだ。あんな紙などわざわざこんなもので作らずともいくらでも作れるだろうに」
ゴーロ「まぁいいさ。頂いていこうぜ」
カマキリ怪物の頭上でそんな会話をしながら、ゴーロとファルはカマキリ怪物に印刷機を持って行かせるように命じた。
ダイーダ「ダァアアアア!!」
その時、掛け声とともにダイーダがカマキリ怪物の側面から飛び蹴りを浴びせた。
突然の攻撃にカマキリ怪物はもんどりうって倒され、ゴーロとファルも放り出されてしまった。
ダイーダ「ゴーロ、ファル!! これ以上はさせないわよ!!」
ゴーロ「ダイーダ!?」
ファル「チッ! もう来たか! メイジャー、印刷機を早く持っていけ!!」
突然のダイーダの出現にとまどったゴーロとは逆にファルは冷静にそう指示した。
ダイーダ「させないわ!!」
カマキリ怪物に飛びかかろうとしたダイーダだったが、
ゴーロ「そりゃ、こっちのセリフだ
ファル「さて、こないだの続きと行こうか」
この二人に阻まれてしまった。
ゴーロ「オラァ!!」
ファル「いくぞ!!」
ダイーダ「くっ!!」
なんとか奮戦していたダイーダだったが、二体一という立場がいつもとは逆になってしまい苦戦を強いられていた。
ダイーダ「ヤァアアア!!」
その叫びとともに繰り出した渾身のパンチはゴーロに受け止められてしまい、
ゴーロ「へっ、ふっ飛べ!!」
逆に大きく投げ飛ばされてしまった。
ダイーダ「キャアアア!!」
ゴーロ「喰らえ!!」
さらにそれを狙ってゴーロは足元の地面を大きくえぐりとると、その塊を投げつけてきた。
ダイーダ「!!」
空中でなんとか体勢を立て直しそれをかわしたものの、その塊は建物の壁に直撃してしまい、脆くなっていた壁が大きく崩れ落ちてきた。
しかも、その下にはちょうど怪我をした局員に肩を貸していた河内警部がいた。
河内「ん? うわぁーっ!!」
それを見たダイーダは着地と同時にマルチハンドを換装して飛び込んだ。
ダイーダ「いけない!! チェンジハンド・タイプレッド!!」
怪我人をかばうように身を屈めていた河内警部だったが、衝撃が来ないことに疑問を感じ、顔を上げると目を見開いた。
そこには一人の少女が巨大な瓦礫を受け止めて、自分たちを守っている光景があった。
ダイーダ「早く…行ってください!!」
巨大な瓦礫を単身受け止めたダイーダは河内警部に背を向けながらそう叫んだ。
河内「君は… コズミックプリキュアか。ありがとう」
そう礼を言うと、河内警部は怪我人に肩を貸して避難していった。
ゴーロ「へっ、身動きとれないようだな」
ファル「このまま止めと行くか」
顔を歪ませながら巨大な瓦礫を支えていたダイーダに対して、ファルとゴーロはゆっくりと近づいていった。
しかし、二人が近づいてくるとダイーダの目つきが変わった。
ダイーダ「もらった!!」
その叫ぶとともに、ダイーダは瓦礫をゴーロとファルに向けて投げつけた。
ダイーダのレッドハンドの超パワーは大型トラックをも片手で持ち上げられる。
この瓦礫も巨大とはいえレッドハンドのパワーの前ではそこまで手こずる重さではなかったのだ。
ゴーロ・ファル「「何!?」」
完全に油断していた二人はなすすべなく、瓦礫の下敷きになってしまった。
ダイーダ「これでよし、と。 印刷機の方は!?」
一息つく暇もなく、カマキリ怪物の方を見ると今まさに印刷機を持ち上げようとしているところであった。
しかし次の瞬間、上空から三冠号が急降下し体当たりをカマキリ怪物に食らわせた。
その奇襲にカマキリ怪物はたまらず吹き飛び、せっかくの印刷機も取り落としてしまった。
リーフ「ダイーダちゃん。大丈夫?」
ダイーダ「なんとかね、それより行くわよ!!」
三冠号から飛び降りてきたリーフに対してダイーダは合図を送り、リーフもまた頷いた。
リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」
その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切った。
その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。
ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。
ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。
そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。
そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。
リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」
ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」
リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」
ダメージを負ったカマキリ怪物は、大ジャンプして大鎌をコズミックプリキュアに対して振り下ろしてきた。
が
ダイダー「なんの!!」
リリーフ「これぐらい!!」
その単調な大振りはあっさり軌道を見切られ、避けられてしまった。
そんなコズミックプリキュアを追いかけんとしたカマキリ怪物だったが
リリーフ「? 今ので鎌が地面につき刺さってるよ」
ダイダー「おまけに抜けなくなったみたいね。今のうちに決めてやるわ!!」
間抜けにも自分から身動き取れなくなってしまったカマキリ怪物に対して、ダイダーは光のスティックのようなものを取り出した。
ダイダー「これで決めてやるわ。プリキュア・シャイニングスイング!!」
そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。
すると光の斬撃が飛んでいき、カマキリ怪物を真っ二つに切り裂いた。
その切り裂かれたところから、大量の黒い靄のようなものが溢れ出していき
リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」
二人がそう叫ぶと同時に大爆発が発生し、その後には一匹のカマキリが這っていた。
それと同時に瓦礫の下から這い出したゴーロとファルは気付かれぬように逃げ帰っていった。
河内「あなたたちのおかげで、大切な印刷機を守ることができました。本当に見事な活躍でした」
コズミックプリキュアに対して、河内警部が心から感謝の意を伝えていた。
ダイダー「いえ、あなたが避難指示を完璧に行ってくれたおかげで、私達も思い切り戦うことができました。ありがとうございました、河内警部」
ダイダーが敬礼とともにそう告げると、避難していた局員の中からどよめきの声が上がった。
「警部? あの人刑事さんだったのか」
「それで避難の指示が完璧だったわけだ」
「やっぱりこういう時には警察の人が頼りになるなぁ」
口々に自分を褒め称える声に少し照れ臭そうにすると、顔を引き締めてダイダーに向かった。
河内「自分は職務を全うしただけです。そちらこそご苦労様でした」
河内警部はそう告げるとダイダーに対して、敬礼を返した。
そして誰からともなく始まった感謝の拍手の中、三冠号は飛び立っていった。
河内(コズミックプリキュア。実に頼もしい少女達だ。俺も負けずに頑張るぞ!! 世界平和のために!!)
第26話 終