コズミックプリキュア   作:k-suke

24 / 53
第23話 「消える街 (前編)」

 

 

 

宮神市 深夜

 

 

 

ここは、甲子市の隣町である宮神市。

 

草木も眠る丑三つ時、突如として巨大なカエルのような怪物が出現した。

 

 

しかしそのカエル型メイジャーは派手に破壊活動をするでもなく、口から泥のようなものを吐き出して回っていた。

 

 

ゴーロ「これでいい。明日が楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

翌日 遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

遠藤「やれやれ、修理に予想外に手間がかかったわい。しかし、これでいつ何が起きても安心じゃな」

 

 

先の地震騒動で壊れたままだったマイナスエネルギー検知器の修理がようやくにして終わり、遠藤博士は一息をついていた。

 

リーフ「博士。それもいいですけど、私達の体の方のこともお願いします」

 

ダイーダ「パーフェクトたちの攻撃は激しさを増してきています。私達も戦力のアップを考えないと…」

 

 

リーフとダイーダの言葉に博士は難しい顔で唸った。

 

 

遠藤「う〜む。設計図を見直したりして考えとるんじゃがな。なんせ、おぬし達精霊が取り付いたおかげで構造が微妙に変化しとるからな。解析をもう少し進めてからでないとどう改造するかのプランも立てられん」

 

 

ダイーダ「わかりました、もう少し攻撃力が上がればいいんですけど…」

 

リーフ「私はもう少し早く機動力があればいいな。行動に幅ができるから」

 

 

そんな会話をしていると、テレビを見ていたランが叫んだ。

 

 

 

ラン「みんな大変よ、テレビ見て!!」

 

 

遠藤「な、なんじゃあれは?」

 

リーフ「こんなことってあるの?」

 

ダイーダ「驚いている場合じゃないわ。リーフ、調べに行くわよ」

 

 

 

 

 

 

宮神市

 

 

 

どこかスッキリしない曇り空が広がる中、市内はパニック状態に陥っていた。

 

 

節子「テレビの前の皆様。この光景をご覧になりどのような感想をお持ちでしょうか? この一帯は間違いなく昨夜まで住宅街だったのです。にもかかわらず、今ではただの赤茶けた砂漠が広がっています」

 

 

そのレポーター甲斐 節子の報道している通り、市街地はただの砂漠と化しており、一夜にして家を失った人たちが着の身着のまま呆然としていた。

 

 

この異変を聞きつけ、マスコミのみならず救急も駆けつけてきていた。

 

 

京香「怪我をされている方はこちらへ。手当をいたします」

 

 

その中の一人である京香先生をはじめ、駆けつけていた多くの救急隊員がそう呼びかけていたものの、さらに奇妙なことに誰もその声に答えなかった。

 

 

不審に思い、近くの人に京香先生は尋ねた。

 

京香「あの、どうされました? 怪我をされている方は…」

 

 

しかし首を傾げているのは市民達も同様だった。

 

 

市民「いや、誰も怪我はしてないみたいなんだ。昨夜普通に寝てただけなのに、朝起きたら家ごと無くなってたんだ。もう何が何だか、狐につままれたみたいだ」

 

 

その言葉通り、皆着の身着のままでいるものの誰もめだった怪我をしているものはおらず、せいぜい擦り傷ていどでしかなかった。

 

 

京香「そんな… こんなことになっているのにどうして?」

 

 

その光景を崩れ損ねたらしい近くのビルの上からゴーロは満足そうに見下ろしていた。

 

 

ゴーロ「フライの奴め、たまにはまともなものを作る。この調子なら砂漠がこの国を覆い尽くすのも時間の問題だ」

 

 

 

そんな中三冠号が飛来し、それを見たゴーロは嬉しそうに呟いた。

 

ゴーロ「こりゃいい。連中もこれで最後だ」

 

 

 

 

節子「あれは? コズミックプリキュアの飛行機のようです。彼女達もこの異変に駆けつけてくれたようです。ということは、もしやこれは次元皇帝パーフェクトと名乗る者達の仕業なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「博士、現場上空に到着しました。着陸して詳細を調査します」

 

遠藤『いや、待て。 あの砂漠は得体の知れないところがある。うかつに着陸するのは危険じゃ。三冠号は上空に待機させておけ』

 

リーフ「了解。豪くんはここにいて。私達で調査するよ」

 

豪「わかった。気をつけてね」

 

 

豪にそう言うと、リーフとダイーダはそれぞれ三冠号から飛び降り調査に当たった。

 

 

 

 

ダイーダは砂漠に着地するとシャーレで砂をすくい取り、内蔵されているセンサーで砂の成分を解析し始めた。

 

ダイーダ「放射能反応及び毒性はなし。おかしいわね、生命体には無害に等しいわ。じゃあこの惨状は…」

 

リーフ「もしかすると、この砂はこの辺にあった建物だったんじゃないかな。もっと中心部の砂を調べてくるよ」

 

ダイーダ「わかった、お願いね。 私はもう少しこの辺を調べてみるわ」

 

 

リーフはそう言い置くと砂漠の中央部へと足を運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「うーん。ここのあたりが中心だけど、特に変わった様子もないな。この砂が原因みたいだけど、どうすればこんなことができるんだろう」

 

調査をすればするほどこの状況が理解できず、リーフは頭を抱えていた。

 

すると

 

京香「遠藤リーフさん…よね?」

 

そんなリーフの姿を認めた京香先生が話しかけてきた。

 

 

リーフ「わぁ、お医者さん。こないだはどうもありがとうございました… で、いいんですよね」

 

京香「え、ええ。こちらこそどうも。 あなたここで何をしているの?」

 

リーフ「はい、調査でやってきました」

 

無邪気な笑顔でそう答えたリーフに、京香先生の疑問は拡大した。

 

 

京香「調査? なぜあなたがそんなことを?」

 

リーフ「それは、秘密です。 博士にそうしろと言われてるんです」

 

京香「博士? 一体あなたは誰に言われてきてるの?」

 

リーフ「それも秘密なんです」

 

 

ニコニコと笑ってそう告げるリーフに、京香先生はますます疑問が湧き始めた。

 

 

京香「ちょっと詳しい話を聞いていいかしら? 小雨もパラつきだしたしどこか屋根のあるところで…」

 

そう告げた次の瞬間だった。

 

 

リーフ「うぐっ!! 何これ…」

 

突如リーフは胸元を押さえて苦しみ始めた。

 

 

京香「ど、どうしたの? しっかりして!!」

 

リーフ「く、苦しい… 体が…」

 

 

京香「この砂漠、やっぱり何かあるみたいね。肩につかまって。救護班のテントまで行きましょう」

 

 

そうしてリーフは京香先生に連れられて行ってしまった。

 

 

 

 

一方

 

 

 

ダイーダ「さて、もう少し掘り返して探ってみるか」

 

ダイーダもまた、小雨の降り始める中一人調査を続行していた。

 

 

 

するとそこに、節子がカメラマンを引き連れマイク片手に走ってきた。

 

 

節子「すみませーん。コズミックプリキュアの方ですか? ちょっとお話を…」

 

 

しかし、ダイーダのもとに駆け寄っている最中に突如マイクが砂になってしまった。

 

節子「あれ? な、なんで?」

 

 

カメラマン「俺もだ。どうなってんだこれ?」

 

節子の後ろをついてきていたカメラマンも構えていたカメラが砂になってしまい目を丸くしていた。

 

 

その光景を見て、ダイーダも目を光らせた。

 

ダイーダ「やっぱり、この砂に何か問題があるんだわ… ここでの調査だけじゃ限界があるか…」

 

そう呟いた途端、ダイーダの胸に激痛が走った。

 

ダイーダ「があっ!! な、何!?」

 

 

その痛みはとても立っていられるレベルではなく、ダイーダはうずくまってしまった。

 

 

ダイーダ「こ、これ、このままだとまずいわ。豪引き上げるわよ」

 

ダイーダは上空にいた豪にそう呼びかけた。

 

 

豪「わ、わかったリーフ姉ちゃんも早く!!」

 

ダイーダからの通信を受け、豪は三冠号からリーフに慌ててそう呼びかけた。

 

 

 

リーフ「わ、私は大丈夫。ダイーダちゃん達は先に戻ってて」

 

豪「えっ? でも」

 

リーフ「大丈夫だよ。どうにかなる前に砂漠から離れたから。それより急いで、三冠号に何かあったら大変だよ。 私はこの近辺で怪我をした人の救護をしてるから」

 

 

リーフのその言葉に、豪は止むを得ずダイーダのみを回収して研究所へと帰還した。

 

 

 

 

救護班のテントでは、ベッドに寝かされたリーフが必死に苦痛をこらえつつ今の通信を行っていた。

 

 

京香「あなた、今誰と話してたの?」

 

その問いかけにリーフは無理やりにっこりと笑って答えた。

 

 

リーフ「秘密です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

研究所に帰還したダイーダだったが、普通に動くこともままならず研究室のソファーに横たわっていた。

 

ラン「ダイーダさん苦しそう… 大丈夫?」

 

そう心配そうに声をかけるランに、ダイーダは力なく笑いかけた。

 

 

ダイーダ「ええ、大丈夫よ。 それより博士、何かわかりましたか?」

 

ダイーダから採取した砂を受け取った遠藤博士は、しばらく顕微鏡で観察していたが、ようやく砂の正体を突き止めた。

 

 

遠藤「わかったぞ!! こいつはカビの一種じゃ!! どおりで小雨がぱらつくと活性化したはずじゃ」

 

 

ラン「えっ? カビって… あのカビのこと?」

 

豪「でも、それとあの砂漠と何の関係があるの? それに俺や街の人は無事だなんて…」

 

 

戸惑いながら疑問を口にしたランと豪に、遠藤博士は所見を述べた。

 

 

遠藤「うむ。普通のカビは食べ物や服などの有機物に取り付いて繁殖するんじゃが、このカビは鉄やコンクリートなどに取り付いて繁殖するようじゃな。 しかもそういったものをなんでも食い散らかす非常にタチの悪いもんじゃ」

 

 

それを聞いてランは顔色が変わった。

 

ラン「じゃあ、ダイーダさんも砂になっちゃうの!?」

 

 

遠藤「ああ、それは大丈夫じゃ。リーフもダイーダも精霊が取り付いた影響で金属構造が微妙に変化しとるからな、当面の問題はない」

 

 

その言葉にランと豪は胸をなでおろした。

 

豪「そっか。でも、このカビなんとかしないと砂漠が広がる一方だよ」

 

 

遠藤「それもわかっとる。まぁこのカビは有機物には反応せんようじゃから、さしあたってそれを元にしたコーティング剤を作ってじゃな…」

 

 

そんなことを解説した途端、カビを調べていた顕微鏡が机ごと砂になって崩れ落ちた。

 

 

豪「い!!」

 

ラン「嘘!!」

 

遠藤「しまった!! このカビはなんでもボロボロにして砂にしちまうんじゃ!!」

 

 

 

ダイーダ「博士!! この部屋の隔離を!!」

 

豪「家が砂になっちゃうよ!!」

 

ラン「冗談じゃないわ!! 早くなんとかして!!」

 

 

皆は大慌てで貴重品を運び出し研究室の隔離を行い、遠藤博士は大至急対応策を取り始めた。

 

 

 

 

そして数十分後

 

 

遠藤「よしでけた。対砂カビ用コーティング液じゃ。 豪、お前は三冠号にこれを満遍なく吹きかけてこい」

 

農家の人が使う除草剤のような物にその液を入れた遠藤博士が、同じ物を抱えた豪にそう指示した。

 

豪「わかった」

 

 

 

格納庫にいった豪を見送ると遠藤博士は、研究室に液を吹きかけ始めた。

 

 

遠藤「まったく、フライの奴め。ロクでもないもんを作りおる。研究室が台無しじゃ」

 

ラン「でも、これでもう安心よ。よかったわねダイーダさん」

 

 

ほっと一息ついたランだったが、遠藤博士は首を横に振った。

 

 

遠藤「いやいや、安心するのはまだ早い。これはあくまで被害が広がらんようにするための処置じゃ。根本的な解決にはなっとらん」

 

ラン「えっ? どういうこと?」

 

 

遠藤「つまりじゃ。これはカビた物をラップで包むような物であって、元に戻しとるわけではないんじゃ。 このカビの除去手段はこれから考えねば…」

 

 

 

そう言った瞬間、マイナスエネルギー検知器がけたたましい音を立てた。

 

 

遠藤「げっ!! まずい!!」

 

 

 

 

 

宮神市

 

 

 

突然砂漠と化したこの街で、朝からの混乱がようやく一段落しようかというところに、巨大なカエル型メイジャーが出現し再びパニック状態になっていた。

 

 

 

ゴーロ「人間ども、貴様らの文明がどれだけくだらねぇもんか思い知れ!!」

 

そのカエル型メイジャーの頭上からゴーロがそう見下したように叫んでいた。

 

そしてそれに従い、カエル型メイジャーは口から泥のような物を吐き出し、それを浴びたビルや車は一瞬のうちに砂になっていった。

 

 

人的な被害こそ出てはいないものの、人々が混乱するのも当然であった。

 

 

 

「くそぅ、撃て撃てーっ!!」

 

 

無論、警察をはじめとした機動隊員もこのカエル型メイジャーに立ち向かったが拳銃はもちろんライフルすらこのカエル型メイジャーには通じず

 

 

ゴーロ「けっ、くだらん攻撃だな。やれ」

 

 

挙句、バカにしたようなゴーロの言葉とそれとともにカエル型メイジャーの吐き出した砂に、武装一式が砂になってしまい撤退をやむなくされていた。

 

 

 

 

 

この少し前、救護テントにて胸を押さえ苦しみもだえているリーフがいた。

 

リーフ「く、苦しい… 体が溶けそう…」

 

 

京香「しっかり! 救急車はまだなの?」

 

看護師「それが… ほとんどの救急車が機能停止してしまっているようで、隣町から呼ぶにしても時間が…」

 

京香先生の呼びかけに、電話をしていた看護師が悔しそうにそう告げた。

 

 

京香「なんですって!? 仕方がないわ、この場でできる限りのことをしましょう。聴診器を貸して。 それにしても、他の人はなんともないのにどうしてこの子だけ…?」

 

やむを得ないとばかりに、京香先生はとりあえずリーフの診断を行おうと、上半身をはだけさせ聴診器を当てたが、その途端怪訝な顔をした。

 

京香「? なにこの音? 心音や血流音じゃない、モーターみたいな… ペースメーカーでも入れてるのかしら? でもそれにしては、それらしい手術跡もないし…」

 

そんな疑問が頭の中に渦巻いていた時、突如周りが騒がしくなった。

 

 

 

京香「どうしたの?」

 

「怪物が襲ってきたんです。なにもかも砂に変えちまうやつです。きっと街をこんなにしたやつですよ!! 早く逃げないと!!」

 

 

そう叫びつつ逃げ惑う市民の声を聞いて、リーフは苦しみながらも立ち上がった。

 

リーフ「あいつらが… 行かないと…」

 

足元もおぼつかないような状態で、テントを出て行こうとするリーフを見て、京香先生は驚いてリーフを支えた。

 

 

京香「無理しちゃダメよ。さぁ、安全な場所に避難しましょう」

 

しかし、リーフは京香先生を振り払った。

 

 

リーフ「あなたは逃げてください。私はあいつらをなんとかしますから…」

 

京香「なにを言ってるの!! あなたが行ったからどうなるわけでもないし、第一医者としてそんな体調の人を放っては置けません!!」

 

 

そう言い放った京香先生に対して、リーフもまた真剣な顔で言った。

 

リーフ「じゃあ、あなたは自分の体調が悪いからといって、それを理由に人を助けることをしませんか?」

 

 

京香「え? いえそんなことは…」

 

戸惑いながらも問い掛けを否定した京香先生に、リーフはにっこりと笑った。

 

 

リーフ「私もです。どれだけ傷つこうとも自分の使命を投げ出すつもりはありません。それがこの体を作った人の願いでもあるんです」

 

 

京香「使命? 体を作った?」

 

リーフの言葉に混乱していた京香先生を置いて、リーフはふらつきながらも怪物が暴れているという方へ向かっていった。

 

 

 

 

街中は、カエル型メイジャーが吐き出した砂の影響で一面が赤茶けた砂漠と化しており、しかも小雨が降る中、砂漠そのものが意思を持ったように広がっていっていた。

 

その光景を見てゴーロは満足げに口元を歪めた。

 

ゴーロ「フライの作ったものにしちゃ、なかなかのものだ。今のうちに別の街に行っておくか」

 

 

 

我が物顔で砂漠を広げていたカエル型メイジャーだったが、そこに弱々しい声が聞こえてきた。

 

 

リーフ「…やめなさい。これ以上はやらせないよ…」

 

ゴーロ「ガッハッハッ!! そんなザマでよく吠える。ちょうどいい、この場でテメェをスクラップにしてやる」

 

 

すでにフラフラのリーフを見てゴーロがバカにしたように笑うと、カエル型メイジャーは舌を伸ばしてリーフを縛り上げてしまった。

 

 

リーフ「くっ、くそ。こんなもの…」

 

なんとかその舌を引きちぎろうと足掻くも、万全とは程遠い現状ではどうすることもできず、そのまま振り回されて叩きつけられた。

 

 

リーフ「グアッ… か、体が…」

 

 

ゴーロ「悪あがきはよせ。この砂漠の中で暴れれば暴れる程、テメェはボロボロになっていく。このままバラバラになるのが先か、砂にやられるのが先かどっちだろうな」

 

 

 

第23話 終


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。