コズミックプリキュア   作:k-suke

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第1話 「ピンチ一発、大逆転! (前編)」 

日本 某県 甲子市 童夢小学校

 

 

ごく普通の一日が今日も終わりを告げ、多くの生徒達が下校し始めていた。

 

 

そんな中、息急き切って走る一人の少年がいた。

 

この少年の名は速田(そくだ) (ごう)

 

この童夢小学校の四年生である。

 

 

豪は、前を歩いている少女を呼びながら駆け寄った。

 

 

豪「あっ、いたいた。ラン、おいラン!!」

 

ラン「あら豪。何の用よ」

 

この少女は遠藤(えんどう) ラン。

 

この二人は同学年のいとこ同士なのである。

 

 

豪「決まってんだろ。あれだよ、どうなってるんだ!?」

 

ラン「あれって?」

 

豪「じいちゃんが作ってるやつだよ、どうなんだ?」

 

ラン「ああ…あれだったら今日中に完成するとか言ってたけど……」

 

豪「ホントか、やった!!」

 

ラン「何喜んでるのよ。豪のおもちゃじゃないのよ!? それにあんなものが本当にできると思ってるの?」

 

大興奮の豪に対して、ランはどこか冷めたような口調で呆れたようにそう言った。

 

 

 

豪「できるさ、俺達のじいちゃんが作ってんだぜ!! すぐ行くってじいちゃんに言っといて!!」

 

そう言い残し、豪は走って行ってしまった。

 

 

 

そんな豪の後ろ姿を見送ると、ランはため息とともにつぶやいた。

 

ラン「分かってるでしょうに…。おじいちゃんが作ってるから、あてにならないのよ…」

 

 

 

 

 

同市内にある海に面した崖の上。どこかおかしなデザインをした、少し大きめの一軒家が建っていた。

 

ここは、遠藤平和科学研究所。

 

…と、いう名前を自称している建物である。

 

 

 

 

「だからして……この配線がこうなるから……ここのところをこうプログラムし直して…」

 

 

タブレットを操作しながらそう呟き、食事をしているのはこの自称研究所の唯一の所員にして所長、遠藤(えんどう) (ひろし) 博士。

 

豪とランの祖父でもある。

 

 

遠藤「何としてでも、こいつらを一刻も早く完成させねばならん。さもなくば恐ろしい悪魔が…」

 

 

 

決意の表情をしながら、おかずに箸をのばすと一匹の猫がそのおかずを咥えて行ってしまった。

 

 

遠藤「悪魔ー!! こら、ワシのおかず!!」

 

 

その猫は窓から外に出ると、帰宅してきたランに駆け寄った。

 

ランは微笑みながらその猫を抱き上げると挨拶した。

 

ラン「ただいま、ヒット」

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所内 台所

 

 

 

遠藤「まったく!! 飼い主のおかずを盗むとはなんちゅうやつじゃ」

 

ラン「おじいちゃんが、ヒットの餌を用意し忘れたからでしょ」

 

憤っている遠藤博士を諌めるようにランがそう言った。

 

 

遠藤「ん? 何を言うか。餌ならちゃんと用意してやっておるじゃろうが。あのワシの作った全自動餌やり機があるじゃろう」

 

ラン「あれは一度も使ってません。最初に試した時、餌と水がバケツひっくり返したみたいにいっぱい出てきてヒットが埋もれちゃったじゃない。あれ以来ヒットはあの機械に近づきもしないわ」

 

遠藤「あっ、そうじゃったな…」

 

 

 

ラン「んもう…。あっそれより食器洗い機直してくれた? 昨日から調子が悪いって言ってたやつ」

 

 

ランがそう尋ねると、遠藤博士は自信満々に答えた。

 

遠藤「もちろんじゃ。あんなものお茶の子さいさいじゃ。ついでに大幅に性能をアップさせておいた。お前の両親が外国に行ってしまって、ここの家事一切は任せっきりじゃからな。これで少しは楽ができるぞ」

 

ラン「ふ〜ん。じゃあとりあえず使ってみるけど…」

 

疑いの目を向けながら、ランは遠藤博士が食べた後の食器を機械に入れ、スイッチを押した。

 

 

低いモーター音とともに機械が動き始めると、大きく全体が振動を始め、入れた食器や皿が飛び出してきた。

 

 

ラン「きゃあああ!!」

 

ランが大慌てでスイッチを止めるも、皿や食器はあたり一面に飛び散って粉々に割れてしまい、台所は惨憺たる有様になっていた。

 

 

 

ラン「おじいちゃん、どういう修理の仕方したの!?」

 

博士「いや…ちょっと強力すぎたかな。あははは…。 う、ごめんなさい…」

 

憤るランに誤魔化したように遠藤博士は笑ったが、ギロリと睨まれてしまい、小さくなって謝った。

 

 

 

 

 

そんな時、豪が挨拶もなしに研究所に入ってきた。

 

豪「爺ちゃん、あれは!? って、うわっ、どうしたんだ、これ!?」

 

 

割れた食器やコップで足の踏み場もないほど散乱した台所を見て、豪は驚きの声を上げた。

 

博士「あれ…ああ、そうじゃった。わしには重要な研究が残っとるんじゃった!!」

 

ラン「またそうやってごまかす…」

 

 

そんな遠藤博士に、ランは呆れたような声を漏らした。

 

博士「ラン、今日はついにわしの研究が完成する日じゃ。晩飯はすこし豪華にな」

 

博士は本棚の本を一冊取り出すと、その裏にあったボタンを押した。

 

 

するとその本棚は横にスライドし、隠し階段が現れた。

 

 

そしてその階段を下りながら遠藤博士は話し始めた。

 

遠藤「豪、ラン、いいか!? 今、世の中にはマイナスエネルギーが満ち満ちておる。マイナスエネルギーとはいわば負の感情から生まれる闇のエネルギーのことじゃ。このままなんの対応もせず放っておくと世界は階段を転げ落ちるように暗黒の世になってしまう。…じゃからこそ」

 

豪・ラン「「世界平和のために、研究に励んでおるのじゃ!」」

 

 

博士「その通り、二人ともよく知っとるなぁ…」

 

豪「まあ、毎日聞いてるからね」

 

ラン「もう、耳にタコができるぐらい。でもそのマイナスエネルギーっていうのが本当にあのガラクタでわかるの?」

 

 

遠藤「ガラクタとはなんじゃ。あれはわしが開発したマイナスエネルギー検知器じゃぞ。大きなマイナスエネルギーを感知すればこの地球のどこだろうとも即座に反応するのじゃ」

 

 

ラン「そうは言うけどねぇ…」

 

ランは一階の居間に置いてあるマイナスエネルギー検知器を思い出してため息をついた。

 

 

マイナスエネルギー検知器。

 

 

名前だけはかっこいいが、外見はどう見てもガラクタのつぎはぎに、裸電球がつないであるだけのものでしかなく、ランはイマイチ信用していないのである。

 

 

 

 

 

地下の研究室に着くと遠藤博士はスイッチを入れ、研究所のコンピューターを起動させた。

 

遠藤「特に、あのDr.フライがこの世に存在する以上、放っては置けんのじゃ!! あいつは科学者の皮を被った極悪人じゃ!!」

 

豪「だけどあんまり有名じゃないね…」

 

ラン「…っていうより誰も知らないんじゃない」

 

 

 

遠藤「みんな、気づいとらんだけじゃ。奴は邪悪な研究をして地球を滅ぼそうと考えておる! そのために、わしもこうして地下へ潜伏してじゃな……」

 

豪「どうでもいいけど、ここのこといつまで秘密にしとくの!? 俺、みんなに自慢してやりたいんだけどなぁ…うちのじいちゃんはあんな戦闘機が作れるぐらいスゲェって」

 

豪の指差した先の窓からは、1機のコンコルドのようなシルエットのジェット機が見えた。

 

 

遠藤「それだけはいかん! ここをみんなに知られたらえらいことになる。そう、特にくだらん奴らに知られたら、マスコミは来るわ、野次馬は来るわ、そうなったらあいつらにも…」

 

そこまで話すと、遠藤博士は慌てて口を押さえた。

 

 

ラン「あいつら?」

 

 

遠藤「あ、いや、ゴホン。そうなったらわしは研究する暇もなくなるに決まっておる。とにかく、このことは秘密にしといたほうがいいんじゃ…」

 

 

 

豪「ふーん、それより早く見たいな!! あれが動くところを…」

 

遠藤「おう、あれじゃろ」

 

 

そう言って遠藤博士が奥のドアを開けると、そこには2体の無機質なロボットがあった。

 

豪「うわぁー!! スッゲェじゃん、本当に作っちゃったんだ、アンドロイドを」

 

 

その豪の言葉に、博士は得意そうに言った。

 

遠藤「当たり前じゃ、わしの発明に不可能はない…。ただまだ一つだけ問題があってな」

 

豪「問題?」

 

遠藤「うむ。こやつらにはレスキューに必要な様々な装備を搭載し、必要な知識は完璧にプログラムした。そしてそれを駆使して世界中の災害や事故における危機を救うことになるのじゃ。ただ…自立して動くためのAI、つまり人工知能のプログラムがなかなか難しくてな…」

 

豪「えっ…じゃあ動かないの?」

 

不安そうな豪に対して、遠藤は自信満々に答えた。

 

遠藤「なーに、すこし手こずっただけじゃ。あとは人工皮膚をコーティングして、データをデバックしてロードすればいいだけじゃ」

 

 

そう言って遠藤博士はパソコンの画面に、二人の女の子の顔を出した。

 

一人はどこかほんわかした感じのするショートヘアの女の子、もう一人はどこかきつそうな目つきをしたポニーテールの女の子だが、どちらも優しい印象を与える顔であった。

 

豪「じいちゃん、誰この二人?」

 

ラン「このアンドロイドにつける顔よ」

 

豪は驚いて尋ねた。

 

豪「えっ、女の顔なのかよ!?」

 

 

遠藤「うむ、わしも男と女どちらがいいか悩んだんじゃがな。レスキューには優しさの象徴でもある女性の方がいいという結論に達したのじゃ」

 

 

そんな会話をしている間にもプログラムは進んでいき、ついに遠藤博士の手が止まった。

 

 

遠藤「よーし、できたぞ。あとはデータをロードするだけじゃ、ランそっちの準備はいいか」

 

 

ラン「OKよ」

 

遠藤「そうかそうか…ってお前は何の準備をやっとる?」

 

ランはヘルメットを被り、防御用のメガネをした挙句に消火器を抱えていた。

 

 

ラン「何よりもこっちの準備が大事よ」

 

遠藤「わしを信用しとらんな!?」

 

ラン「されてると思ってたの!?」

 

 

 

博士「くぅ〜なんちゅう情けない孫じゃ。いいか見とれ、いよいよこの二人に命が吹き込まれるのじゃ!! 行くぞ……」

 

その言葉とともに、遠藤博士はレバーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、謎の黒いエネルギーの球体が突如現れ、どこかの海中に落下していった。

 

その薄暗い海中には、何かの研究室のような物があった。

 

実は、ここが先ほど遠藤博士の話にもあったDr.フライの秘密研究所であり、

Dr.フライが遠藤博士と同じように、筋骨隆々とした大男と、細身の男のアンドロイドを作成していたところであった。

 

Dr.フライ「ん? おおーっ!!」

 

その2体のアンドロイドがどこか禍々しい光に輝き始め、動き始めた。

 

 

Dr.フライ「や、やった。き、兆しじゃ。暗黒世界招来の兆しじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

一方、それと同時に、遠藤平和研究所の一階に置かれたマイナスエネルギー検知器がものすごい反応を示し始め、ついには爆発し燃え上がった。

 

 

しかし、地下室にいた博士達は、光り始めた目の前のアンドロイドに気を取られており、それに気がつかなかった。

 

豪「うぉーっ!!」

 

遠藤「さあ、目覚めよ!!」

 

テンションが上がっていた遠藤博士だったが、その時非常ベルが鳴り響いた。

 

 

ラン「やっぱり!!」

 

博士「待て!! まだ正常じゃ」

 

しかし光り輝く2体のアンドロイドは、素人目にもわかるほど危ない雰囲気を醸し出し始めていた。

 

豪「じいちゃん、やばいよ! もうやめたほうがいいって」

 

その不安そうな豪の叫びに答えるかのように、天井のスプリンクラーが作動し一面が水びだしになった。

 

ラン「きゃあ冷たい!!」

 

 

遠藤「ありゃあ…大事なデータの入ったパソコンが水浸しになってしまう!」

 

遠藤博士は大慌てでアンドロイドにエネルギーを注いでいたレバーを戻し、スプリンクラーを止めた。

 

ランもアンドロイドに消火器をかけ、なんとか軽いボヤで済んだ。

 

遠藤「はあ〜っ…」

 

遠藤博士はがっくりと肩を落とし、ため息をついていた。

 

 

ラン「ほんとにもう! 私の言った通りじゃない」

 

豪「じいちゃん、大丈夫だよ。じいちゃんならきっと動かせるよ……だからそんなに気を落とさないで」

 

そんな遠藤博士に対して、ランと豪は各々の感想を漏らしていた。

 

 

 

すると再び非常ベルが鳴り響いた。

 

 

ラン「あれ? また!?」

 

遠藤「ん? 火事は消したはずじゃが…」

 

近くのモニターをつけると、そこには一階が炎上している光景が映っていた。

 

 

ラン「大変!!」

 

豪「早く消さないと!! 119番」

 

遠藤「待て! そんなことをしたら秘密の研究が…」

 

ラン「家が燃えちゃったらそれどころじゃないわよ!! 豪、早く電話して」

 

制止する遠藤博士を振り切って、豪は持っていた携帯で119番をした。

 

 

遠藤「ええい、消防車が来る前に火を消すんじゃ!! 急げ」

 

 

その後悪戦苦闘の末、どうにか居間の一部が真っ黒になったレベルで鎮火することに成功した。

 

 

 

 

しかし時すでに遅く、救急車に消防車、おまけにパトカーまでもが研究所に到着していた。

 

 

遠藤「ようし、もう大丈夫じゃ! この感じからすると出火元はこいつか… アチッ!!」

 

一階の惨状から、出火元を分析した遠藤博士が検知器に触れるが、検知器はかなりの高温になっており、慌てて手を引っ込めた。

 

遠藤「ということは…いかん!! 猛烈なマイナスエネルギーを検知したのじゃ!! ついに悪魔が復活したか…世界の危機じゃ!!」

 

 

その時チャイムが鳴り、扉をドンドンと叩く音が響いた。

 

「消防署のものです。通報があってきました。大丈夫ですか!?」

 

 

 

それを聞いた遠藤博士は、大慌てで指示した。

 

遠藤「まずい!! 豪、秘密の扉を閉めるんじゃ」

 

 

豪「うん!!」

 

豪とランは奥へと行き、本棚のスイッチを入れたが、扉はまるで動く気配を見せなかった。

 

 

豪「あれ? おい、どうしたんだよ!?」

 

ラン「どうしたのよ!? 早く閉めて!!」

 

豪「閉まんないんだよ!!」

 

ラン「えーっ!!」

 

 

二人が慌てている頃、遠藤博士は消防隊員と応対していた。

 

 

遠藤「やあ、ご苦労さん! どうかしましたかね」

 

消防隊員「火事はどこです!?」

 

遠藤「火事? 火事なんか知らんぞ?」

 

隊員達「え? ですが、確かにここが火事だから来てくれと子供の声で連絡が…」

 

遠藤「いたずらではないのか? (なんとかごまかさんと…)」

 

 

なんとかすっとぼけようとする遠藤博士にパトカーから降りてきた中年の刑事が話しかけた。

 

 

「遠藤博士、またおとぼけですか!?」

 

遠藤「ん? 河内(こうち)警部。またやな奴が…」

 

 

 

 

研究所内では豪とランが懸命に本棚を戻そうとしていたが、子供の力では動くはずもなかった。

 

ラン「そうだ、豪、中のボタンを押してみて!」

 

豪「うん!」

 

豪が中のボタンを押すと本棚が動き、扉が閉まった。

 

ラン「何だ、簡単じゃない。 ああよかった」

 

しかし当然のことながら、豪は閉じ込められてしまった。

 

豪「ちょっと! 俺はどうすりゃいいんだよ!?」

 

ラン「しばらく我慢しなさいな、男でしょ」

 

豪「ちぇっ。 しゃあねぇ、さっきのアンドロイドでも見てよっと」

 

豪は舌打ちをすると地下へと階段を降りて行った。

 

 

 

その頃研究所の玄関では、遠藤博士が河内警部を中に入れないように頑張っていた。

 

遠藤「いかん! うちの中を調べるのは許さん!!」

 

河内「出火元を調べるのを邪魔する気か!!」

 

遠藤「出火はしとらん!!」

 

 

そんな会話にランが割って入った。

 

ラン「ちょっと礼状は? 礼状がなきゃ不法侵入よ!?」

 

河内「お嬢ちゃん、警察をなめたらアカンよ。近所からも苦情が来とるんだよ、ここで妙な発明をしとるとな…」

 

ラン「フン! その近所の人って誰よ? ここに連れてきなさいな!!」

 

ランは気丈にそう言い放った。

 

 

河内「ええぃ、とにかく調べさせてもらうぞ!」

 

そう言い捨て、河内警部は強引に所内に入っていった。

 

 

遠藤「こら、勝手に!!」

 

 

 

その騒ぎの中、空から二つの光の玉が舞い降り研究所内へと入っていったが、そのことに誰も気がつかなかった。

 

 

 

 

 

研究所内

 

 

河内「やっぱり焼けとるじゃないか!」

 

遠藤「いいや、消えとるんじゃ」

 

河内「屁理屈を…。しかし、かなり立派な一軒家に加え、見た所内装にも高価なものが揃ってますなぁ。随分金かかったでしょう!?」

 

遠藤「そ、それはじゃな……」

 

その言葉に、遠藤博士の目は泳ぎ始めた。

 

 

河内「聞くところによると、博士は無職だそうですが、一体どうやってこんなものを…」

 

そんなことを話しているうちに、河内警部はマイナスエネルギー検知器に手を置いてしまい

 

 

河内「アッチャー!!」

 

その熱さに悲鳴をあげてしまった。

 

 

 

 

 

研究所 地下室

 

 

豪「あーあ、いつになったら出られるんだか…」

 

 

そんなことをぼやいていると、先ほどの光の玉が地下室に入ってきて、アンドロイドに吸い込まれるように消えていった。

 

豪「ん? なんだ今の」

 

 

するとアンドロイドが突如光輝き始めた。

 

豪「うわっ!!」

 

 

豪はその眩しさに思わず目を閉じてしまい、光が収まったのを感じゆっくりと目を開いていくと、目の前の光景に目を見開いた。

 

 

そこにいたのは、無機質なアンドロイドではなく、15歳前後の少女達であった。

 

 

「dsp o I dz lvp z:ww」

 

「.seiv pdo ps fdee」

 

そして、その少女達はなにやら訳のわからない言葉を話し出した。

 

 

 

豪「ど、どうなっちゃったの!?」

 

目の前の現実に混乱していた豪は、必死に絞り出すようにそう言った。

 

 

「dslofo;: ど、どうなっちゃったの!?」

 

その少女の一人が豪と同じことをたどたどしく繰り返した。

 

 

豪「しゃ、しゃべった……」

 

「dospoe しゃ、しゃべった……」

 

今一人の少女もまた同じようにたどたどしく繰り返した。

 

 

 

豪「あ、あれ? この二人の顔どこかで… あ、ああ!!」

 

 

 

 

 

外では河内警部が必死に抵抗しつつも、救急隊員に無理やり連れて行かれていた。

 

 

河内「放せ!! 俺はまだあのじいさんに聞きたいことがあるんだ!!」

 

救急隊員「いいえ、かなり重度の火傷です。病院に行かなきゃダメです!」

 

河内「あのじいさんは5年前の事件の…」

 

 

抵抗虚しく、河内警部は救急車に押し込められてしまい、救急車は発車した。

 

ラン「さようなら〜!!」

 

遠藤「もう来なくていいぞ〜」

 

 

 

 

笑顔で見送った遠藤博士とランは、ほっと一息をつくと研究所内へと走っていった。

 

 

 

ラン「豪、お待たせ。 もういいわよ」

 

本棚の扉を開けると、豪が飛び出してきた。

 

 

豪「やったよ!!」

 

遠藤「どうしたんじゃ!?」

 

豪「じいちゃん、ついにやったよ!」

 

ラン「やったって、火事でなにか漏らしたの!?」

 

豪「ちがわい! アンドロイドが完成したんだ!!」

 

 

ラン「えっ!?」

 

遠藤「ま、まさか……」

 

 

すると二人の少女が、豪の後ろから階段を登ってきた。

 

 

豪「さっき突然動き出したんだよ」

 

遠藤「お、おーっ。やはりわしに間違いはなかった。オホン! わしは、お前らを作った遠藤博士じゃ。よろしくな」

 

博士が歓喜の声とともに手を伸ばすと、どこかキツ目の顔をしたポニーテールの少女が軽く腕を回しながら答えた。

 

 

「作ったっていってもこの体をよね。まあ、リーフが見つけたにしては割と使い勝手は良さそうだけど…」

 

 

遠藤「なに?」

 

 

「ぶーっ、なによダイーダちゃんってば。私に何もかも押し付けたくせに」

 

どこかほんわかした感じのショートカットの少女が、ふくれっ面をしながらそう反論した。

 

 

「何言ってんの。普段からぼけ〜っとしてるんだから、たまには働きなさいな」

 

 

遠藤「な、何を言っとるんじゃこいつらは!?」

 

全く脈絡のない会話を始めた二人に、遠藤博士は戸惑っていた。

 

 

 

豪「ああ、なんかさっきからこんな感じでさ。 リーフとダイーダっていう名前なんだって」

 

遠藤「なんじゃそりゃ? わしは、そんな名前のプログラムをした覚えはないぞ」

 

豪「えっ?」

 

 

ラン「ちょっと、どうでもいいから服を持ってあげなさいよ。二人とも裸じゃない。用意はしてあるから!!」

 

首を傾げていた遠藤博士と豪を叱りつけるように、ランはそう怒鳴った。

 

 

 

リーフとダイーダも服を着て(着付けはランがやり、そこでまたひと騒動あったが、それについては省略する)、どうにか一息ついたところで、改めて自己紹介が行われることになった。

 

 

 

 

 

 

遠藤「えーっ、改めて聞くが、お前さん達は一体なんなんじゃ。わしの作ったアンドロイドがただ動いただけじゃなさそうじゃが…」

 

 

ダイーダ「私達は、光の園と呼ばれる世界に住んでいる精霊で、特別警備隊員の一員なんです。あらゆる次元世界を暗黒の世にしようとするものを追って来たんです」

 

リーフ「私達はこの世界じゃ、実体のないエネルギーみたいなものになっちゃうんです。何かと一体化して体を得ようと思っていたら、ちょうど強いプラスエネルギーをこの近辺で感じたから…」

 

 

遠藤「ふーむ、世の中には科学では解析できんこともあるもんじゃな」

 

 

現実離れした話に、目を丸くしつつも、遠藤博士はそう唸った。

 

 

 

豪「でもすげぇよ。あっ紹介するね。俺は速田 豪。それから、いとこの遠藤 ラン。ちっこいのはヒット」

 

 

ラン「よ、よろしく…」

 

ランがたどたどしく頭を下げると

 

 

リーフ「よろしくね」

 

リーフは微笑みながら、ランの頭を叩いた。

 

ラン「あ痛!!」

 

 

豪「ちょっとなにすんだよ!?」

 

リーフ「あれ? こうやって頭に手をぶつけるんじゃないの?」

 

豪の抗議にリーフはキョトンとした顔で尋ねてきた。

 

 

ダイーダ「まったく、そうじゃないでしょ。行く先の世界の文化をあらかじめきちんと勉強しなさいといつも言ってるでしょ。そういう時は、手を開くんじゃなくて、こう握りしめて…」

 

 

遠藤「どっちも違う!! …まぁ違う世界の存在なのじゃから、いろいろ知らんこともあるじゃろう。その辺はおいおい学んでいけば良い」

 

 

 

 

 

 

 

するとそこに、再び警報音が鳴り響いた。

 

 

豪「なんだ!? また火事かよ?」

 

遠藤「いや違う、これは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 市街地

 

 

 

 

この甲子市は中堅規模の街であり、それなりに人口も多く、発展もしている。

 

その市街地のビルが突如として、何棟も倒壊してしまい、火災が起きる等甚大な被害が出ていた。

 

 

市民「何だこれ?」

 

市民「わかんねぇ…、 おいレスキュー隊はまだかよ」

 

 

倒壊したビルの中には何にも人がいることは明らかであるが、さらなる倒壊が起きるかもしれないという恐怖と、燃え盛る火のため、誰も近づけないでいた。

 

 

 

その光景は緊急のニュース速報で報道されていた。

 

レポーター「ご覧ください。突如として起きた謎の倒壊事故。倒壊したビルの中に閉じ込められた人々の安否が心配されます。 レポーターの甲斐 節子がお届けしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

研究所でもそのニュースを聞いた遠藤博士達は、突然のことに険しい顔をしていた。

 

 

ラン「いきなりビルが倒壊って、どういうこと!?」

 

豪「信じられねぇ、みんな大丈夫なのかな」

 

遠藤「うーむ、やはりあの火事は、悪魔の出現を予言しておったのじゃな」

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん…、これって…」

 

ダイーダ「ええ、あいつらね…こうしちゃいられないわ!!」

 

 

 

遠藤「リーフとダイーダといったな。二人とも、現場の人達の救助を頼めるか?」

 

 

遠藤博士がそう尋ねると、リーフとダイーダはにっこりと笑って答えた。

 

リーフ「もっちろん!!」

 

ダイーダ「あいつのために苦しむ人々を救うのが私達の使命よ」

 

 

その言葉に遠藤博士は力強く頷いた。

 

遠藤「よし、頼むぞ。初仕事じゃ。豪、二人を案内してやれ」

 

 

豪「オッケー!! 二人ともこっちだよ」

 

そう言って豪は二人をシートが置いてある奥の部屋に案内した。

 

 

豪「これだよ。二人ともこのヘルメットを着けてこのシートに座って」

 

リーフ「うん、わかった♪」

 

ダイーダ「で、これがなんなの?」

 

 

 

ダイーダの疑問に答えるかのように、二人の座ったシートが下に降りていった。

 

リーフ「わっわっわっ」

 

 

 

 

そして、奥にあったもう1つのシートに豪が同じようにヘルメットをかぶって座った。

 

豪「へへへ、このチャンスを待っていたんだ!」

 

 

 

そしてシートは先ほどの格納庫にあったジェット機のコックピットに移動、固定された。

 

 

リーフとダイーダが自分たちのAIにプログラムされてたデータをもとに、ジェット機を起動させながらつぶやいた。

 

 

ダイーダ「なるほど、これならあいつが暴れてるところにすぐに駆けつけられるわね」

 

 

リーフ「よーし、準備オッケー」

 

 

 

そうしているとコックピットのモニターに遠藤博士が映った。

 

遠藤博士は研究所の奥にある指令室のようなところにいるらしく、そこから指示を出していた。

 

 

遠藤「そうじゃ、そいつは世界中のあらゆる場所に駆けつけることのできる特殊ジェット機、その名も三冠号」

 

 

豪「三冠号か…、すっげぇ!! じいちゃん早く出してよ」

 

リーフとダイーダの後ろから、豪が顔を出しそう促した。

 

 

ラン「豪! そこで何してるの!? 豪は降りてらっしゃい!」

 

豪「やだよーだ!」

 

 

豪の姿を認めたランは驚いて怒鳴ったが、豪はアカンベーをしながらそう言った。

 

遠藤「ええい、今は時間がない。とにかく情報はこちらから指示する。冷静に行動するんじゃぞ!」

 

豪「了解!」

 

遠藤「お前には言っとらん、リーフとダイーダに言っとるんじゃ!」

 

ダイーダ「いい、リーフ冷静に行動よ」

 

リーフ「りょーかい」

 

 

 

三冠号が発進準備を整えるとともに、崖の一部の岩肌が開き、滑走路となった。

 

遠藤「いよいよじゃ… よし、発進!!」

 

その掛け声とともに、三冠号が発進していった。

 

 

第1話  終

 


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