コズミックプリキュア   作:k-suke

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第18話 「僕はスーパーマン (後編)」

 

 

 

 

ケンターはチームメイトの必死の説得もあって、なんとか両親にも自分のことを理解してもらい、家で普段通りの生活をしていた。

 

 

だが、怪獣になったこともあってか、食欲も以前の比ではなく、夕飯でその家の一週間分の食料をあっさり食べつくしてしまった。

 

 

 

ようやく満腹になり、満足していたケンターに両親は心配そうに話しかけた。

 

健太母「健太、お前やっぱり明日病院に行きましょう。元に戻る方法がきっとあるから」

 

しかしケンターは、それを断った。

 

 

ケンター「えーっ? やだよ。僕このままでいいや♪ 勉強だってサッカーだって前よりずーっとできるようになったんだもん。元に戻ったらまた何にもできなくなっちゃうよ」

 

 

健太父「なんてことを言うんだお前は!! お母さんを悲しませていいのか!? あんまりわがままを言うと明日から家に入れないぞ!!」

 

そう怒鳴りつけた父親にもケンターはどこ吹く風というようだった。

 

 

ケンター「どうして悲しむの? 僕すごくなったんだよ。なんでもできるスーパーマンなんだよ。あっ、そうだ。 みんなの宿題やらなきゃ、おやつがもらえなくなっちゃう」

 

 

そのセリフを残して、ケンターは部屋へと戻っていった。

 

 

 

残された両親は、あまりのことに情けないやら悲しいやらで頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 

 

健太父「お前のせいだぞ、いつもいつも成績のことでガミガミ言うから健太はあんな怪獣の姿がいいなんて言うようになったんだ!!」

 

健太母「何を言うんですか!! いつも仕事だ仕事だって、家のことなんて殆ど私に任せっきりで!!」

 

 

その不毛な夫婦喧嘩は深夜まで続いたが、それをよそに当のケンターは、あっさり頼まれた宿題を終わらせ、ベッドで高いびきをかいていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の午後

 

 

 

 

ケンターは一人堤防で友達がおやつを持ってきてくれるのを待っていた。

 

 

幾ら何でも学校に行くわけにはいかないため、昨夜30分ほどで終わらせた宿題をチームメイト達に渡して、ここで時間をつぶしていたのだ。

 

 

 

ケンター「あーあ、退屈だなぁ。学校にいかなくて済むと思ったけど、暇なのはどうしようもないや… でもみんな遅いな〜」

 

 

ケンターが、いかにも暇そうな感じで欠伸混じりにそう言った時、チームメイト達の声が聞こえた。

 

 

チームメイトA「おい! 健太!!」

 

 

ケンター「あっ、やっと来た。もう待ちくたびれたよ、早く約束のお菓子ちょうだい。それから他の友達にも紹介してくれた?」

 

 

待ちに待ってたといわんばかりにそう尋ねたケンターだったが、チームメイト達の目は険しかった。

 

 

チームメイトB「うるせー!! お前のせいで散々だ!!」

 

チームメイトC「誰がお菓子なんかやるかよ!!」

 

 

チームメイトの予想だにしない態度にケンターは戸惑った。

 

ケンター「ど、どうしたの? 僕の宿題間違ってたの?」

 

 

チームメイトA「そうじゃねぇよ!! 字が俺のと違うもんだから誰にやってもらったんだってことになって、先生から散々怒られたんだよ!! おまけに罰として宿題倍増だ!!」

 

 

ケンター「そんな… わ、わかった今度は字も変えるよ。だからその宿題やるからさ」

 

 

チームメイトB「もういいよ、お前にやってもらったって、俺達ができるようになるわけじゃないしな。成績が落ちたら怒られちまう。宿題は自分でやるよ」

 

 

 

ケンター「う… じゃあさ、サッカーしようよ。もう万年補欠なんて言わせないから。次の試合で大活躍してみせる!!」

 

 

チームメイトに対して、そう宣言したケンターだったが、仲間の目は冷ややかだった。

 

 

チームメイトC「お前を試合に出せるわけないだろ。漫画じゃないんだから」

 

チームメイトD「だいたい、そんなチートくさいやつと一緒に練習なんかできるかよ!!」

 

 

みなはそう言い捨てると、ケンターを置いて立ち去っていってしまった。

 

 

呆然としているケンターに、ついてきていた豪は言い含めるように話しかけた。

 

豪「なぁ健太、これじゃしょうがないだろ。元に戻る方法を探そうぜ」

 

 

ケンター「うるさい!! みんな僕のこと昨日はあんなにちやほやしてたくせに!!」

 

そう叫ぶとケンターは走り去ってしまった。

 

 

 

 

日の沈む頃、一人トボトボと歩いていたケンターは仲間達に対して一人愚痴っていた。

 

ケンター「なんだいなんだい。みんな僕のことひがんじゃって。勉強もサッカーも僕よりできないくせに…」

 

 

そうしていると、ケンターのお腹が盛大に鳴った。

 

ケンター「そっか、朝から何にも食べてなかったっけ… 今日の晩御飯なんだろう」

 

 

 

家に帰ったケンターだったが、家の鍵は開いておらず、何度呼び鈴を押してもドアを叩いても開けてもらえなかった。

 

ケンター「お母さん、お父さん!! ただいま!! ねぇ開けてよ!!」

 

 

そんなケンターの耳に昨夜の言葉が蘇った。

 

健太父(あんまりわがままを言うと明日から家に入れないぞ!!)

 

ケンター「ふん、なんだよ。お母さん達まで…」

 

 

 

 

ケンター「いいよ、僕はスーパーマンだもん。なんでもできるんだもん!!」

 

そう言い聞かせるように呟くと、ケンターは商店街の方へと目にも止まらぬスピードで走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 商店街

 

 

 

 

商店街についたケンターは、美味しそうな匂いにつられて入り口の近くにあったパン屋に入っていった。

 

 

パン屋「か、怪物!!」

 

仰天して腰を抜かしつつも110番をしているパン屋をよそに、空腹に耐えかねたケンターは店の商品を片っ端から食い散らかしていった。

 

 

そして警察が駆けつけた頃には、店の商品は全てなくなってしまいケンターも立ち去った後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケンター「ふう、お腹いっぱい」

 

日もとうに暮れた中、堤防に腰掛けながら満腹になり膨れ上がったお腹をさすり、ケンターはようやく一息ついていた。

 

ケンター「そうさ、僕はスーパーマンなんだ。なんだってできる。何にも怖くないや」

 

 

どこか自分に言い聞かせるようにそう呟いたケンターに話しかけるものがいた。

 

 

 

ダイーダ「健太」

 

ケンター「あっ、ダイーダさん」

 

 

ダイーダ「豪から聞いたわ。あなたそうなって満足してるって、本当に?」

 

 

そのダイーダの質問に、ケンターは必死になって答えた。

 

ケンター「当たり前だよ! 大満足さ。前の僕はサッカーじゃ万年補欠って言われてたし、勉強だってできなかった。一生懸命努力してるのに何にもできなかっただもん。だからこっちのほうがいい!!」

 

黙ってケンターの話を聞いていたダイーダはおもむろに口を開いた。

 

 

ダイーダ「…そう。みんなは一生懸命練習したり勉強してるのに、あなたは突然なんでもできるようになったんだものね。気持ちはわからなくはないわ。でも、それだけでいいのかしら?」

 

 

ケンター「えっ?」

 

 

ダイーダ「私の知ってる人もね、失敗してばっかりだけど、目標に向かって自分の力で一生懸命頑張ってるし、とっても楽しそう。だから、できる限りのお手伝いをしてあげたいと思う。あなただって、サッカーの練習を一生懸命やってるときの方が今より楽しそうに見えるけど」

 

 

その言葉に、ケンターは何も言えなくなった。

 

 

黙りこくったケンターにダイーダは微笑みながら続けた。

 

ダイーダ「ふふっ。それと、あなたお店のパンを黙って食べちゃったんでしょう」

 

ケンター「えっ、そんなことまで知ってるの? どうして?」

 

 

ダイーダ「教えてあげる。ついてきなさい」

 

 

そう言ってダイーダはさっきのパン屋にケンターを連れて行った。

 

 

 

するとそこでは、健太の両親が必死に謝っていた。

 

 

健太母「すみませんでした、すみませんでした」

 

健太父「店の商品は弁償します。ですからどうか健太を許してやってください」

 

 

 

ケンター「お父さん… お母さん…」

 

それを見たケンターは涙が溢れてきた。

 

 

 

ダイーダ「夕方からあっちこっちに電話して、あなたを探し回ってたのよ。すごく心配そうだったって豪が言ってたわ」

 

 

その言葉に、ついにケンターの涙腺は決壊した。

 

 

 

ケンター「うわーん!! 僕、僕… 元に戻りたいよー!!」

 

 

その泣き叫ぶ声に、健太の両親が慌てて駆け寄ってきた。

 

 

健太父「健太、無事でよかった。探したぞ、お父さんが悪かった」

 

健太母「すぐに病院に行きましょう。きっと元に戻れるから」

 

 

ケンター「ごめんなさーい!! お父さん、お母さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を見ていたダイーダのところに、リーフも顔を出した。

 

リーフ「ダイーダちゃん…」

 

ダイーダ「ええ、元に戻してあげましょう」

 

 

 

二人は人目につかない路地裏に行くと、小さい声で叫びトンボを切った。

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健太父「もうすぐ救急車がくる、だからもう泣くな」

 

両親は必死に慰めていたが、ケンターは一向に泣き止む気配がなかった。

 

 

 

そんな空気の中、暖かい光とともに二人の少女 コズミックプリキュアが舞い降りてきた。

 

 

健太母「あ、あなたたちは!! ま、待ってください!! この子はこんなになっても私たちの子供なんです!!」

 

 

健太父「もし、どうこうしようというなら、私が相手になる!!」

 

 

 

そんな両親の姿を見て、コズミックプリキュアは微笑んだ。

 

 

リリーフ「ふふっ、どうもしませんよ」

 

ダイダー「少しだけじっとしてて。元に戻してあげるから」

 

 

ケンター「ほ、ほんと!? 本当に元に戻れるの?」

 

 

ダイダー「ええ、少しだけ我慢してね」

 

 

必死にそう尋ねてきたケンターにそう告げると、ダイダーは光のスティックを取り出した。

 

それを見たリリーフもまた、虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「いくよ、それ」

 

 

そしていつもとは違い、リリーフは優しく玉をダイダーに向けてトスした。

 

 

ダイダー「よっ、と」

 

ダイダーもまた、それを軽くノックして、虹色の玉を高く打ち上げた。

 

 

 

打ち上げられた玉は放物線を描いて、ケンターの頭にポコンとぶつかった。

 

 

ケンター「あ痛」

 

 

小さく悲鳴をあげると、ケンターの体から風船の空気が抜けるように黒い靄が吹き出していき、それが収まるとケンターは元の健太の姿に戻っていた。

 

 

 

健太「あ、あ、戻った。戻れたよー!!」

 

自分の体を何度も確かめるように撫で、健太は嬉しそうにそう叫んだ。

 

 

健太母「健太!!」

 

健太父「よかった、よかったな!!」

 

両親もまた嬉し涙とともに健太を力一杯抱きしめた。

 

 

 

それを見届けたコズミックプリキュアは、満足そうに頷くとジャンプして跳び去っていった。

 

 

健太「ありがとー、コズミックプリキュア!!」

 

 

健太と両親の感謝の声に見送られながら。

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

健太はチームメイトともにサッカーの練習をしていた。

 

 

しかし一朝一夕でそうそう上手くなるはずもなく、練習についていくだけでやっとであり、健太は肩で息をしつつ全身汗だくだった。

 

 

 

チームメイトA「おい、健太。大丈夫か、あんまり無理すんな」

 

健太「大丈夫。まだやれるよ、絶対今度の試合じゃこないだの汚名返上してやる」

 

チームメイトB「バーカ、倒れでもしたら大変じゃねぇか。少し休めよ」

 

 

口は悪いものの、チームメイトはみんな健太を心配しつつ仲間として付き合っていた。

 

健太もまた、前と同じようになかなか上手くいかないながらも楽しそうに練習していた。

 

 

 

豪もそんな様子を見ながらやれやれといった感じで呟いた。

 

豪「健太のやつ、練習しすぎで今日も授業中居眠りしてたくせに」

 

 

そんな光景を見ていたダイーダ達もまた、満足げに呟いた。

 

 

ダイーダ「やっぱり一生懸命な子は見てて気持ちいいわね」

 

リーフ「うん、私もそう思う」

 

ラン「んもう、だったら早く元に戻してあげればよかったのに」

 

 

そう不満げに言ったランに対して、ダイーダは持論を語った。

 

ダイーダ「本人がそう言わなかったからよ。もし、本当にあのままでいいと思ってるなら元に戻してあげなかったわよ」

 

 

 

ラン「えっ?」

 

 

 

驚くランをよそに、ダイーダは健太に声援を送った。

 

 

ダイーダ「その調子よ、諦めずに頑張り続けなさい!!」

 

 

 

 

第18話 終

 

 


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