己に勝つということ ただいま更新停滞中   作:雪宮春夏

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Happybirthdayかっちゃん!
と言うわけで、ギリキリ今日中に投稿しました!雪宮春夏です。
この話は基本、春夏の願望(笑)かたくさん入ってます。
それではどうぞご覧下さい。(苦笑)







戦闘訓練……その後

 人は生まれながらに平等じゃない。

 それは齢四つにして誰もが知る社会の現実。

 その中では俺は勝者の筈だった。

 それを否定されたのは、今から一年近く前。

『……ヒーローに、なりたいんだろう?』

 悪魔の囁きと共に、俺は……出口の見えない闇の中へ突き落とされた。

 

 

 

 

「……カリキュラム?」

 呼ばれた相手から告げられた内容を聞いて、無意識に爆豪の眉は顰められた。

「何でそんなもんお前らが欲しがるんだよ?」

 苦々しげに問いかける相手の表情は窺えない。目線を下に向けている訳でも日陰に入っている訳でも無く、相手の「個性」によるものだった。

 「ゲート」。仲間内ではそう呼ばれているらしい発動系の個性を持つその男は、顔面の全てが黒いゲートとなる靄に覆われており、視認できるのはそこに光る一対の瞳のみ。

 身元不明がほとんどな仲間内であっても一際異彩を放つ、謎の人物であった。

 名を「黒霧」と呼ばれている。

「理由の説明が必要ですか? 爆豪勝己」

 平淡な声音で問いかける黒霧の心情は窺えない。

 だが、下手に口答えすることが得策で無いことも、既に爆豪は知っていた。

「明日、昼休憩時に弔が騒ぎを起こします。おそらく職員のほとんどがその騒ぎに対応することとなるでしょう。その間に、ヒーロー科一年分のカリキュラムを頂きたい」

 一方的な通達とも呼べる報告に、逆らうことは出来ないと分かっていながらも、爆豪の顔は自然と不満の表情を色濃くする。

「全学年か? ……職員のは担当学年事に机の配置は別れてんだぞ? 下手に自分の学年以外の机に行ったりしたら目立つだろうが」

 以前所用で訪れた時にチラリと見た職員室の様子を軽く漏らせば、フムと黒霧は合いの手を入れる。

「なるほど。確かに今の段階で貴方が疑われることは得策ではありませんね」

 その言葉は爆豪の身を案じる言葉ではなく、あくまで己等の計画とやらを一計する声だ。それを分かりながらも爆豪はこの時間が早く終わる事を待つように視線を外した。

 僅かに流れる沈黙。

 身の置き場の無い爆豪はこの一年ですっかり癖となってしまった己の項に手を添える仕草を行っていた。

「……『種』の具合はいかがですか?」

 その動きに気づいたのか、尋ねる黒霧に爆豪の顔が歪む。

「てめぇには関係ねぇだろうが」

 その言葉が毒を吐くような苦々しげなものとなるのが、それが彼にとっては不本意な物に他ならないからだ。

 『種』……彼がそう称したのは、爆豪の体内に受け付けられた異物の名称だった。

 それを爆豪の中へ入れたのは、彼らのボス。……『先生』と恐れられている男の持つ、『植種(しょくしゅ)』と呼ばれる個性だ。

 ()()と形容するのが、真実その個性は、男の持ち物に過ぎないからだ。

 男の個性の事は誰も口外しい。

 囁かれる程度も昇らないが、嘗て直に男と対峙した爆豪に言わせれば、こそ泥と評せるものだった。

 その個性の名は『オール・フォー・ワン』

 他者から個性を奪い、己の物とし、他者へ個性を与える個性。

 さながら個性取り引きの仲介所と言った所であろうか。

「確かに私個人には関係はないかもしれませんが、我々敵連合にしてみれば、貴方も大事なメンバーですので」

 白々しさを隠しもしない様子に、爆豪は聞こえよがしの悪態をつく。

「雁字搦めに縛り上げて逃げ道まで塞いどいて……よく言う……!」

 ギロリと睨むその目には幼なじみである少年や、同級の人間に向けるような荒々しいものではない。

 だが、そこに込められている気力は寧ろ増大で一点に込めているが故にビリビリと肌を伝う感覚は寧ろ巨大と言っても良いだろう。

「何のことだか、分かりませんね」

 おそらく現在の爆豪が出せる寸前の殺気を当てられた黒霧はしかし先刻までとまるで変わらない様子で微笑みの気配さえ残している。

 あからさまに見せつけられる相手の余裕に、睨み殺さんばかりの眼差しを向ける爆豪だが、それを気にすることもなく、黒霧は言葉をかけてくる。

「ヒーロー科一学年」

「あぁ!?」

 前置きも無い黒霧の言葉に、怪訝そうな顔をした爆豪だったが、続けられた言葉に唇を噛んだ。

「……それならば、怪しまれる事も無いでしょう?」

 最初に告げられていたカリキュラムの事だと嫌でも分かっただろう。

「くれぐれも、気づかれる事の無いように。……受け渡し場所はいつもの通りです」

 耳元で囁かれる言葉が毒を飲み込まされるかのように体を重たくする。

 「いつもの通り」。それで頷ける程には、爆豪は彼らと頻繁に関わってしまっていた。

 彼らの用件はそれで済んだのか、ここから去るために個性を発動させようとした黒霧を、無意識に爆豪は呼び止めていた。

「……何か?」

 視線を向けられる気配を感じて、瞬間視線が交錯する。

 ……しかし、次の言葉を爆豪は話せなかった。

(「雄英の中に、俺以外のテメェらの仲間はいないのか?」か……。いたとしても、答える訳はねぇな……)

 問おうとした結果を、予測できてしまったのである。

 爆豪は彼らにとっては使い勝手の良い手駒だ。だからこそ、利用価値のある現状は丁重に扱われているが、その一方、その価値さえ無くなれば、おそらく躊躇う事無く始末されるだろう。

 だからこそ、必要以上の情報は与えられていない。

(それ以上に俺は……「あいつ」が俺と同じように、奴に絡め取られているなんて思いたくねぇんだ……)

 僅かに残っているのは、希望と言うにもか細い微かな糸だ。独りよがりの願望でさえある。

 それでも、己の現状があるからこそ、否定したい物でもあった。

 

 

『人から()()()()“個性“なんだ』

 今日の午後、ヒーロー基礎学の授業で敵対した幼馴染み。

 彼にいわれた言葉が蘇った。

 その時勝己の頭に真っ先に浮かんだのは『先生』で。だからこそ、次の言葉を言えなかった。

 それを良いことに、彼は言い訳のように言葉を零していく。

 曰く、()()借り物だと。だから使わないことを、己の力として、それだけで勝とうとしたと。それでも勝てずに使ってしまったと。

 その言葉は爆豪からすれば己の事をも馬鹿にしているようにしか感じなかった。

 借り物である物が己の力とならないと言う話は、今の爆豪の個性、爆破の否定でもあったからだ。

 『爆破』と言う個性があるから、己は凄いと言われたのに。それを己の力ではないと断じられたら、己は嘗ての彼と同じ『無個性』となってしまうのに。

 不意に怒りのまま、冷静さを失い、己のうちにあるドロリとした感情を吐き出そうとした爆豪に気づかず、幼馴染みの声は空をきった。

『いつかちゃんと自分のモノにして“僕の力“で君を超えるよ』

 一切の迷いのないそれは、清々しい程の宣誓だった。

 それが敵わない未来など、まるで考えもしないまっすぐな言葉に、爆豪の思考は一度、完全に止まっていた。

『借り物?……何言ってんだ?テメェ……!』

 最初のその言葉を、どんな顔で言ったのか、今でも爆豪には分からなかった。

『だからなんだ!? 俺はただ……てめぇに負けた!! ……それだけだろうが……!! それ……! だけ……っ!』

 戦いで感じた無力感が、堪えきれない奔流となって襲いかかる。

 十年以上を共にしてきた己の個性だったから分かる。

 昨日より今日。今日より明日と。だんだん己の個性が使いづらくなっていく感覚が。己の中からもぎ取られ、手の届くことのない遠くへ引き離されるような虚無感が。

 一年が過ぎた。だからこそ、痛いほど感じる己と敵の間に聳える分厚い実力の壁も。

『氷の奴を見て……敵わないんじゃねぇかって、思っちまった……!』

 建物を丸ごと氷結させる大規模攻撃。

 敵わないと認めるつもりはないのに、無意識に臆してしまっていた。

『ポニーテールの奴の言うことに、納得しちまった!!』

 冷静に考えれば気付ける筈の物にさえ気付けなくなった視野の狭さ。

 その理由は己の無力故の苛立ちか、力を隠していた幼馴染みへの怒りか。

『クソッ! クソがっ!! クッソ……!!』

 思い起こせば思い起こすほど、広がるのは自己嫌悪でしかない。それでも、爆豪は思考を止めなかった。そうすることしか、もう出来ないからこそ、余計に。

『良いか!? デクっ!! こっからだ!! 俺はっ……!!!』

 己を鼓舞するような、新たなる宣誓。

 一年かけて蓄積していた膿のような何かを、その瞬間だけ忘れられた。

 

 

「珍しいですね? 今日はよく……表情が変わる」

 突然、冷水をかけられるかのようなその声音に、現実に戻った爆豪は微かに息を吞み、喘いだ。

 二人しかいないこの空間に、その音はうるさいほどに聞こえる。

「別に……気にする事はありません。貴方が何を考えようと、計画に支障が無い限りは……先生も、弔も。寛容です」

 耳元で囁かれる言葉に、自然と眉を寄せる。

 その所作を、面白がるように眺めて、黒霧は今度こそ、己の個性を発動する。

「では明日。楽しみに待ってますよ……爆豪」

 

 

 

 

 完全に黒い靄が消えたのを確認して、俺は部屋の明かりを灯した。

 時刻は夜。もう家の住人は俺以外は全員寝入っている。

 おそらく明日も、同じくらいの時刻に……。黒霧はこの部屋に……俺の私室へ来るのだろう。

 これが彼らの言う「いつもの通り」だった。

「カリキュラム、か」

 小さな明かりだけを灯したベットの上で、俺は言葉にすることで明日の己の行動に覚悟を決める。

 指紋にさえ気をつければ、カリキュラムを抜き取ることは難しく無いだろう。

 職員室に生徒が入るのは不自然な事では無いし、担任の机ならば尚良い。

 己の学年のカリキュラムならば、間違いなく彼の机にはあるはずだ。

 何に使われるのかは己に知らされる事は無いだろうが、碌な事にはならないだろうと言うことは予測がついた。

(それでも……俺はやらなきゃいけない……)

 無意識に摩ったのは首回り。そこによく目をこらさなければ気が付かない程度の薄い痣が広がっている。

 触ればざらりと感触を伝えるその姿は、まるでペットの首輪か奴隷の首枷だ。

 首回りに走る痣は首の項に仕込まれている『種』。それが体に食い込ませている根の痕でもある。

 仕込まれた最初は個性を使う度に体に激痛が走ったが、今はほんの僅かに四肢がしびれる程度に治まっている。

 だが、それと反するように不快感は増した。

 首筋の圧迫が原因か、汗腺は収縮し、昔よりも威力は落ちたように見える。

(いや……それだけじゃない)

 夢心地になりかけている思考の中で、考え込んでいた俺は『種』を仕込まれたもう一つの彼らの目的を思い浮かベてしまい、慌てて思考を打ち消した。

(関係ない……今は、カリキュラムだ……!)

 己の中の様々な感情を放り投げたまま目を瞑っても、そこに出て来るのは、あってまだ数日しか経たないはずのクラスメイト達の姿だった。

 無論、爆豪が名前まで覚えている人間は極僅かしか無い。顔もうろ覚えの奴がほとんどだ。

 それでも、夢の中では彼らは満面の笑みだった。 

(何も……起きなければ良いな)

 それが叶うはずのない願いだと知りながら、俺はただ眠気の訪れない闇を拒むように瞳を閉じ続けた。

 




オメガバース要素がまるで無い。タグつけているのに!……と、思いながら、それでもタグは外しません!
また、春夏は十八以上モノは、苦手なのでほとんど書かないと想います。

そんな物語でも大丈夫と言う心の広い方は、これからもどうかよろしくお願いします。

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