ドールブレイクゾーン 機械仕掛けの彼女   作:甘原彩瀬

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第13話 ぶったな。母親にもぶたれた事がないのに

2055年  10時40分 遠藤拓哉 

 リペアツールからチェコ車を取り出しヘリオンのシャーシにワイヤーを結ぶ。

ワイヤーをチェコ車に噛ませ鉄棒を差し込み、歯車を回す。

少しずつだが、車体が持ちあがってくる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

ヘリオンが起き上がってくるにつれ、鉄棒が重くなってくる。

「はぁ、はぁ、はぁ、ヘリオン、変わってくれ」

半分起き上がったところで、ヘリオンに代わり木陰に座る。

あの様子だと、機関砲は死んだか、ジャンヌが無事ならシャレを分けて再生は出来そうだがどうするか。

作戦を立て直そうと考えていたその時、後ろの茂みから影が飛び出す。

「ジャンヌ、敵襲にて合流遅れました、シャレを52%損失」

所々葉をつけた金髪の騎士、ジャンヌが地面を転がりながら報告を上げる。

「無事だったか、しかし、中破ってどうした?」

言われてみたら、二回り小さくなったジャンヌは立ち上がり少し悔しそうな表情をする。

「敵戦闘侍女人形と遭遇、容姿はローブを纏った少女でしたが、突如、死神のような姿に変形、その後一方的に…。武装は大鎌と酸性の霧です」

変形するタイプの戦闘侍女人形だと、となると変形が出来るトランスタイプ…まさか。

「おい、そいつ、変形前と変形後、なんか様子に変化はなかったか?」

「…確かに、戦闘を楽しむ少女から急に私の身体を調べようとしましたし、何より大鎌を振る時、摩擦音を発する癖がなくなっていました」

俺の頭の中にドラックタイプの文字が浮かぶ。

戦闘侍女人形とオーナーの意識をリンクし、プログラムとは違う別次元の動きを可能とした戦闘侍女人形、しかし、使用者の身体には負荷がかかるため、使用する選手があまりいなくて都市伝説と言われていたが、、、まさか、クラスメートにいたなんて。

俺は彩雲の戦闘侍女人形の恐ろしさを感じたその時、地面が揺れた。

「マスター、作業終わりました」

ヘリオンがリペアキットを渡し来る、彼女の後ろにはヘリオンが起き上がっており走れる状態になっていた。

「どうやら、マスターの方もてこずったようね」

ジャンヌは、溜息をはくように肩をすくめ、俺を起こした。

 

2055年 11時05分 彩雲辰人

――――

 「卯月、合流だ。一機逃がした、奴も遠藤に合流するつもりだ」

『了解、私の方も、一機、止めを刺しそこなったわ。ミサイルの爆風で、斜面を転げて落ちていった』

「そうか、でも次は逃がさせわしない」

卯月は俺の言葉を聞き無言で通信を切る。

「マスター。次の作戦はどうするの?」

大鎌を持った戦闘侍女人形、スカイライナー如月参式が少し不安そうな顔で見上げてきた。

「大丈夫だ、今度は真正面から全力でねじ伏せてやろうぜ」

そっと如月の頭を撫でながら卯月を待つことにした。

 12分後

卯月が戻てくる。

「お待たせ、二人とも乗って」

俺と如月はマハに跨ったりもしくはしがみついて発進する。

「卯月と敵機…βが戦った場所の近くに小さな洞窟があるらしいな、もしかしたらそこでダメコンをしたり、αと合流したりするはずだ」

サツキシステムの解析によって出来た地図を見ながら遠藤の居場所を探る。

「よし、その洞窟の手前に向かおう、奇襲作戦を思いついた」

「了解した、マスター」

卯月はアクセルを開け最高速度で一気に駆け上がった。

 

 洞窟から400mから離れた森の中、俺達はマハから降りた。

「よし、これから指示をよく聞いておけよ。

卯月、今すぐパレットスコール改に消音器をつけろ、つけ終わり次第に、このあたりの照明を破壊しろ。如月は、洞窟前に待機しろ」

「「了解」」

如月は透明になりながら洞窟に向かい、卯月はマハからパレットスコール改を抜き消音器を銃口につけ、天井の照明を撃ち抜いた。

2055年 11時18分 黒塚拓哉

―――――――

 近くに洞窟を見つけたのでそこで、ダメージコントロールをしていた。

ヘリオンの損傷状態は酷く修理が出来ない箇所が何か所かあり、内側から鉄板で蓋をして特殊接着剤で固定の作業を繰り返していた。

装甲の穴や傷は埋まっていくが、埋めていくにしたがって勝算が見えなくてないっていく。

「やはり、機関砲はパージするしかありません、兵装が火炎放射器とシュバルツ・クーゲルのみになりますが」

ヘリオンが銃座周りの修理を終え梯子を下りながら聞きたくない事を言ってくる。

「ヘリオン黙れ、今の俺達に、あいつに勝てない。機関砲を失った、ジャンヌは中破したこんな状態でどうやって勝てばいい」

それだけではない、彩雲の戦闘侍女人形も今のジャンヌやヘリオンには刃がたたない、俺の指揮だってろくにできてないのに、彩雲は自分の手足のようにうごかせるんだ、勝てるわけがない。

俺は、やり場のない絶望感を拳に乗せ壁をぶん殴る。皮膚がさけ、少し血が滲みでる。

「マスター」

ジャンヌが俺の名を呼びながら近づいてくる。

次の瞬間、右頬に衝撃が走った。

「武装がひとつ死んでも、まだ、私達が生きているなら、勝てる確率は0%ではありません。ヘリオンも私もまだ、諦めていません。これから先、もっと強い敵だっているのです、それが同級生に勝てないって諦めたらこの世界では生きていけません」

俺はジャンヌの瞳をみた、人工の瞳には「まだ行ける」そう訴えているように見えた。

それと同時に、胸の内側から何かがこみ上げてきた。

「ジャンヌ、俺が悪かった。お前のおかげで勇気が湧いてきたよ、修理完了まであとどのくらいだ?」

ジャンヌは、少し微笑んだ。

「マスターの心の修理で最後です」

ジャンヌが珍しく冗談混じりの報告を言った瞬間、洞窟の外が暗くなった。

2055年 11時32分彩雲辰人

―――――――

 卯月のおかげで周りが薄暗くなっていく。

「よし、次の段階に移る、如月、卯月、ドラックモードになるぞ」

折り畳み式の携帯型ドールコントローラを取り出し片手で開けメニューを開く。

ドラックモードのメニューを開く。

「ダブルリンク」

『select №』

2と3、4と3のキーを素早く叩く。

『skyliner kisaragi type3 skyliner uzuki type3 ready』

音声と呼吸音みたいな待機音が鳴りだす。

俺は頭の中を空っぽにしならが、右腕の義手にドールコントローラを嵌める。

心臓の鼓動がつよくなり、血が早く身体を駆け巡る。

そして、俺の意識が彼女達の世界に引き込まれていった。

 うんざりするほど晴天な空とだけの世界に俺は立っていた。

これが如月と卯月の…俺とスカイライナーシリーズの世界だ。

この世界、俺の脳と戦闘侍女人形のAIの境界だと言われている、これより先にすすむと俺の脳は彼女のAIと一体化するからだ。

「如月行くぞ。その次に卯月だ。俺も相手もド素人だ、加減なんていらないし防御だって気にしないで行こうぜ」

頭の中で如月の姿を思い浮かべ子供の頃遊んだ変形ロボットを変形させるようイメージする。

まず、如月の上半身と下半身を分割する。

下半身を先に変形させよう、まず股を開き、太ももをスライドする。死神の霧の噴出口が出てくる。

脚を曲げ内腿(うちもも)脹脛(ふくらはぎ)をつなげバックパックの変形が完成する。

次に上半身、まずは腕の装甲をパージする装甲の下から白い骨のようなフレームが露出する。パージした装甲のジョイントをつなげて盾に

胸部装甲が開き、肋骨の形をした内部装甲が展開する。

顔の人工皮膚が溶け出し髑髏が浮かび上がる。最期にバックパックと背中を接続し如月参式ドラックモードの完成だ。

 次に卯月の変形だ。

まず、両膝を曲げ、肩付近から後ろに曲げる、肩があった場所に空洞が出来る。

マハの後部に搭載されている対戦闘侍女人形ミサイルポッドを分離、コ字のパーツが一の字に展開し空洞に入りミサイルポッドから腕が出てくる。

マハからパレットスコール改を抜き背中の腕に持たせる。

ボンネットを引っこ抜き胸の近くに寄せると、ボンネットからサイドアームが伸び卯月の身体にドッキングする。

最後に失ったボンネットの代わりに馬の首が生え、タイヤホークが足に変形し機械の馬に変形する。

「よし、ドラックモードに無事なれたか、あ、ゲイボルク転送、安全装置はそのままだ」

卯月の手に8mの長さの銀槍、ゲイボルグが転送される。

ゲイボルクを一振りし、状態を確かめ如月に通信を入れる。

「よし、如月、戦闘演算を任せる。先に仕掛けろ」

『クシシ、先に行って奴らの首を狩っておきます』

如月はそう言い残し通信を切った。

一人人間が居るんだが、まぁいいか。

俺はマハを走られた。

2055年 11時32分遠藤拓哉

―――――

洞窟の外が暗くなってから外から金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。

足音か?いや、まさか、ドラックモードに変形した音か。

弾薬棚から砲弾を取り出し装填装置に入れる。

「ジャンヌ、予備のシャレとの接続は完了したか?」

ジャンヌをチラっと見る。

予備のシャレを身体の一部に同化して、その具合を確かめていた。

「修復完了。気休め程度だけど、いけます」

「よし、ヘリオン。出してくれ」

「分かりました」

ヘリオンにエンジンが掛かり、車体が微動しだす。

ゆっくりアクセルを開け洞窟の外へと出る。

俺は索敵用窓から顔を出し、外を見る。

洞窟の外は薄暗くやや霧が出ていた。ん、霧だと?

いくら部屋が広くても、霧が発生するのか?

「マスター、この霧は例の戦闘侍女人形の…」

ジャンヌが声を上げると共に俺の視界隅に黒い影が飛び込む。

そう、黒いローブを纏い、大鎌を肩で担ぎ、鳥のような翼は持った死神を。

「会敵。9時の方向、死神みたいなやつが一体ジャンヌ行ってくれ」

ジャンヌがバックハッッチから飛び出す。

コントロールパネルを叩き、アクティブソナーを発射する。

緑色の画面に赤い点が表示される。

窓から顔出し、多機能付きスコープで赤い点の方角を見る。

「うそ…だろ?」

そこには、巨大な槍をもった騎士が迫ってきていた。

「ヘリオン、速度を上げながら左に旋回しろ、回避、速度をお前に任せる」

シュバルツ・クーゲルの充電を開始し、液晶パレルを睨みつけた。

 

 


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