呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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ま、まさかの日刊ランキング入りにテンションがおかしくなってしまいました。ありがとうございます❗

では、本日の更新です。



1―5

 

 

1-5

 

 

 

 

 

 

「どうしたの忠夫……その頬っぺた?」

 

「いやぁ……色々あったんすよ」

 

 

 今日は雪蓮たちが再び黄巾党を討伐に出かける日。横島たち屋敷に残る者は雪蓮たちを見送りに来ていた。

 そして雪蓮が言う通り、横島の右頬が赤くはれていた。

 

「ふふ、なんてね。知ってるわよ~。忠夫、あの子怒らしちゃったんだって?」

 

「うっ、知ってたんすか」

 

「屋敷の者ならほとんどの者が知っているだろう。侍女の連絡網を甘くみてはいけないぞ」

 

 雪蓮が横島をからかっていると横から冥琳がやってくる。

 

「戦の間、私たちがいないからといって、あの子に何かしたりしなようにな」

 

 冗談半分、本気半分の言葉にたじろぎながらも横島は曖昧にごまかし頬をかく。

 こればっかりは頷くわけにはいかないのだ。

 

「じゃ、私たちは言ってくるから留守番お願いね」

 

「うすっ!雪蓮さんたちも気をつけて」

 

「獣には負けないわよ」

 

「では行ってくるぞ」

 

 そう言って出陣していく雪蓮たちを見送った後、横島は屋敷の者が普段見たことのない真剣な表情で雑用へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 許せない……!

 

 屋敷の掃除をしながら、小喬は憤怒していた。

 理由は昨日のこと、もちろん横島が小喬に言った言葉が原因だ。

 

 姉が自分を殺す。

 

 それは侮辱以外の何でもなかった。

 

 大好きな姉、少しドジで小喬が助けていたが、根本的なところではいつも助けていてくれた大事な大事な宝物。

 

 その姉が自分を殺す?

 そんなことはありえない。

 横島の言葉は小喬にも姉である大喬にも侮辱の言葉だと小喬は怒りを募らせる。

 

 そして何より姉である大喬は……死んでいるのだから。

 

「お姉ちゃん……」

 

 小喬の声は悲しみで満ちていた。

 

「いたっ」

 

 手に痛みを感じ、声と共に手に持つ箒を放す。

離した手の指先からは血がでていた。

 

 一体何がと思い箒を見ると、丁度持つ部分の所からトゲが出ていて、どうやらこれに刺さったらしい。

 

「まったく、何なのよ」

 

 悪態をつきながらも小喬は考える。

 

 最近、こういう小さな不幸が多いと。

 

 最初は確か庭を歩いている時に大きな木の枝が降ってきたのだ。次は地面に穴があいていたり、蔵書では本が倒れてきたりした。

 

 それからも色々小さな不幸は続き、この間なんて包丁が振って来た。

 それは横島に助けられたのだが……と、横島を思い出し顔を歪める。

 

 そんなことを考えてると……

 

「げっ」

 

 視線の先に他の侍女に声をかけている横島を見つけた。どうやら懲りずに口説いているらしい。

 

 昨日、横島に言われた言葉を小喬は他の誰にも言っていなかった。

 横島の言った言葉を信じるわけはないが、自分が言った言葉でなくても自分の口から姉が自分を殺すなんて言葉、小喬は言いたくはなかった。

 何より、今までに見たことのない真剣な横島の表情が頭にこびりついていて、何故だか誰かに言うのが躊躇われたのだ。

 

 だからといって横島が言った言葉は許せるはずもなく、小喬は横島に気づかれる前にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あかん、避けられてんな~」

 

 そう呟きながら横島は屋敷を歩く。

 

 今日一日、隙を見ては小喬に近づこうとしたのだが、性格というか性というか本能というか……まぁそれらが働いて屋敷の女性たちにどうしてもナンパをしてしまうのだ。

 

 そしてナンパが失敗に終わり、いざ声をかけようとすると小喬はもうどこかへ行っていた。

 

 完全に自業自得である。だが、時間がないのは変わりない。

 横島は一度溜息をついた後、あることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 日も暮れ夜になり、仕事を終えた小喬は自分の部屋へと戻っていた。

 侍女である小喬が住むには少しばかり豪華な造りの部屋は雪蓮の計らいである。

 

 小喬は寝台に腰を下ろした後、仰向けに体を倒す。

 

 本当にろくなことがない……。

 あの後何度も何度も横島の姿を見つけては逃げるのを繰り返し、精神的に少し疲れていた。

 

 只でさえ大喬のことがあり参っているというのに……。

 

「お姉ちゃん」

 

 いつも一人になると姉を呼んでしまう。

 そうすると困ったような嬉しそうな顔でいつもの言葉を聞かせてくれる気がするのだ。

 

『もう、仕方ないなぁ小喬ちゃんは』

 

 小喬は身を丸めてその小さな体を震わす。

 その瞳からは涙が見えた。

 

「一人は寂しいよ……お姉ちゃんっ」

 

 そう、呟いた時だった。

 

 バンッ!!!!

 

「きゃっ!?」

 

 急な大きな音に小喬は飛び起き、音のした方へと顔を向ける。そこは部屋の入り口で、ドアが開いていた。

 

 おそらく勢い良くドアが開いた音だろうと思い小喬はドアへと近づく。

 

「誰よ、こんな夜中に……」

 

 そんなことを思いながら部屋の中から外を覗く、が外には誰もいない。

 この部屋は一本道の廊下の途中にあり、一瞬で見えない位置まで移動するのは難しいし、何より足音なんてしなかった。

 

 じゃあ風が?とも思ったが、ここは廊下の中央部分、そもそも風なんて吹いていない。

 

 その時初めて小喬に寒気が走る。

 なんだか不気味な気分になり、若干顔は青くなる。

 

「っ!?足音!」

 

 と、今度は小喬にもちゃんと聞こえる足音が響く。

 しかもこちらへ向かっていて、走っているのか音の感覚が速い。

 

 小喬は怖くなりドアを閉めようとした――が、それは出来なかった。

 

「小喬ちゃん……」

 

「………え?」

 

 その声は後ろから……つまりは部屋の中からした。

 ありえない、部屋には自分一人だったのだ。中に誰かいるなんてあるはずがない。

 

 だが、小喬はそのことに恐怖は感じなかった。

 だって、その声は小喬が聞きたくて聞きたくて仕方の無かった声だったから。

 もう二度と聞けるはずのない声だったから。

 

 小喬はドアを閉めることも忘れ振り返る。

 そこには自分が望む人がいると信じて。

 

 そして目に映ったのは―――

 

「小喬ちゃんっ危ねぇ!!」

 

 ――小喬に襲い来る無数のガラスの破片だった。

 

 

 

 

 

「っ~~~いたい……って私……無事?」

 

「あてて……ふぅなんとか間に合った~」

 

「げっ!横島っなんであんたが此処に……ひっ」

 

 ガラスの破片が飛んできたと思ったら今度は横島に抱かれている状態に小喬はパニックになる。

 何より男に触れている状態はあの時にことを思い出させて、小喬の恐怖を煽る。

 

 だが、小喬は叫び声を上げなかった。

 いや、上げることを忘れてしまったのだ。

 それほど目の前の光景が信じられなかったのだ。

 

 いつの間にか閉じられたドア。

 さっきまで自分がいただろう場所に刺さっている無数のガラス。

 何より部屋の中央に浮いている少女。

 

 そう、一人の少女が浮いていたのだ。

 そして小喬をさらに驚かせたのがその少女の容姿。

 

「ここまでくりゃ、流石に小喬ちゃんにも見えるか……」

 

 どことなく沈んだ横島の声も小喬には聞こえなかった。

 だっているのだ。求めていた存在がいるのだ。

 

「お姉……ちゃん?」

 

 大好きな姉が目の前にいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

続く。

 

 

 




悪霊・大喬、襲来です。

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