呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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 朝、いつもは侍女の一人についでに起こされるのだがその日は違い、横島は与えられたベッドの上で胡坐をかき考え込んでいた。

 

「時間がないんは確かやけど、どないしたもんかな~」

 

 うーん、うーんと悩むが名案が思い浮かぶことはなく考えは続く。

 

「無理やりは流石に……でも、どうこう言ってる暇もないし……」

 

「無理やりって誰かを襲うんですか?」

 

「うんまぁそれも考えちゅ……う……」

 

 横島はギギギ……とロボットのように首を動かしドアを見る。

 そこには青い顔した侍女が、とうとう(犯罪を)やっちまうのか。といった顔で横島を見ていた。

 

「ち、ちがっ誤解――」

 

「冥琳さまーーーーーーー!横島さんがとうとう性欲を持て余して誰かを襲うそうですーーーーーーーーーーーー!!」

 

「わーーーーーーーー何言ってんじゃぁぁあぁぁ!!」

 

「きゃぁっ犯されるーーーーーーーー!!」

 

 誤解した侍女を止めるべく飛び掛る横島。余計に騒ぐ侍女。声を聞きつけた冥琳登場。

 なぜか笑顔。とびっきりの笑顔。横島引きつる。冥琳は笑顔。侍女ニヤリ。横島「謀ったな!?」。侍女「ああ、謀ったよ!」。

 冥琳そのやり取りに気がつきながらも横島を連行。横島、朝から素敵な叫び声を上げる。その声を聞いた館の人たち「またか」と大笑い。

そんなこんなで始まる一日。今日も此処は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忠夫~無理やりは駄目よ」

 

「しませんよっ!大体俺は無理やりとか嫌いっすから。

やっぱりそういうのは愛がないと、愛が」

 

「「あ、愛?」」

 

 冥琳の折檻も終わり、それを見に来ていた雪蓮と一緒に廊下を歩く。

 そして横島の言葉を聞き二人は一斉に笑い出した。

 

「あはっ、あははは」

 

「くっ、ククク……」

 

「ちょっ、何で笑うんすか二人共!?」

 

「だ、だって……普段女の子に声ばかりかけてる忠夫が愛?」

 

「クク、さ、流石の私も笑いが堪えられなかったぞ」

 

 そう言ってさらに笑う二人に横島は顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「うるへー!いいやんけ夢見たって!

ワイかってな、ちょっとはロマンチックな思いぐらいあるんやーーー!!

どちくしょーーー!!」

 

「あはは、悪かったわよ、あはは」

 

「クク、すまない。っぷ」

 

 暫くの間そこには腹を押さえて笑う二人と号泣する男がいたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

「あ~やっぱり忠夫を拾って良かったなぁ」

 

「まだ笑ってんすか」

 

「睨まないでよ。ね」

 

 そう言って雪連が横島の腕に腕を絡ませる。

 そして柔らかな感触が横島の腕に伝わった。

 

「そこまで言われると。し、仕方ないっすね~」

 

なんとも単純な男である。と……

 

「む、横島。お前は引き返せ」

 

「え、なんで――」

 

 冥琳の言葉にそう疑問に思い前を向くと、横島は目を見開いた。

 前方の離れた所にこちらに歩いてくる数人の侍女たち。

 その中にはあの少女がいた。

 

「あちゃ、そうね忠夫あんたは――え?」

 

「な……!」

 

 その行動に、二人は動きを止めた。

 なぜなら、横島が駆け出していたからだ。少女がいない方向へではなく、少女の方へと。

 

「忠夫!?」

 

 雪蓮が叫ぶ!その声に気づき前方の侍女たちも気づく。横島がこっちに走ってきていることに。

 

「え?」

 

 少女の声。

 目の前にはすでにかなり接近した横島。

 

 少女の恐れる男。あの日、あの場所で少女を……少女の一番の大切を壊した……男。

 

 少女は混乱し、何も出来ないまま横島に押し倒された。

 

 

 

 

 雪蓮は信じられなかった。横島の行動はもちろんだが問題はその後。

 

 横島が少女を押し倒した後、少女が立っていた場所に包丁が刺さっていたのだ。

 

「がっ!?」

 

 横島の声。見れば肩にかすったのか血が出ていた。

 あまりの突然の出来事に誰もその場を動けなかった。

 

 その叫びを聞くまでは。

 

「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 少女の声。絶望に染まった声。恐怖に怯えた声。

 少女は横島を押しのけ肩を抱き震えながら叫ぶ。

 

「やだぁ……やだあっ!!助けて……誰か……いや、こないでぇ……!!」

 

 ここにはない何かを恐れるように叫ぶ少女。

 横島は、血が流れる肩を押さえながらそれを呆然と見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見直したぞ横島」

 

「はぁ」

 

 肩を切った横島は治療のため医務室に来ていた。

 そこで話を聞きつけた祭が来て、今にいたる。

 

「どうしたんですか~?元気ないですよ忠夫さん」

 

 と、丁度そこにいたので包帯を巻いてくれていた穏が聞く。

 

「いえ、なんつーか。あそこまでひどかったなんて思ってなかったから……」

 

 横島が思うのは少女のこと。

 まさかあそこまで取り乱すなんて思ってもいず、少女の傷の深さを改めて思い知らされていた。

 

「お主は男じゃからな。完全には分かるまいよ」

 

「そう……なんすかね」

 

「でもどうして包丁が降ってきたのでしょう?

調理場ならともかく通路の上からというのはあまりに変です……」

 

「それはそうじゃの。策殿の話では誰もあのような場所に包丁を置いた、または忘れたなどは言ってないみたいじゃし、館の者を狙うとしてもあんな場所、狙った者を成功する確率などまずない……」

 

 横島は二人の会話には参加せず黙り込み、祭と穏も声をかけることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一刻後。

 

 横島はトイレに行くために通路を歩いていた。歩きながら考えるのは今日起ったこと。

 

「早くしないと本当にまずいことになっちまうな……」

 

 だが考えたところで、やはりというかいい考えは浮かんではこない。

 

 その時だ……

 

「あの……」

 

「へ?」

 

 突然かけられた声に横島は止まり、声をかけてきた相手を見て固まった。

 その相手とは先程の少女だったのだ。

 

 しかもいつも侍女の誰かといるのに今は一人である。

 

「え、えと?」

 

 困惑する横島には訳がわからなかった。

 

 男が怖いんじゃないのか?

 でも体はすげぇ震えてる。

 それなのに一人で俺に声をかけてきた。何で?

 

「お礼……」

 

「え?」

 

「助けてくれたお礼……、ありがとう」

 

 震えながらもそう告げる少女に横島は目を見開く。

 

「(あんな目にあったってのに……強いな、この子)……いやぁ~、将来有望な美少女を助けるのは当たり前やからな~」

 

「……お礼、言いたかっただけだから。じゃあ……」

 

 横島の軽口を無視し、少女は踵を返す。そんな少女に横島は我慢できずに呼び止めた。

 

「待って!」

 

 もう待っていられない。

 このままじゃ、目の前の女の子が死んでしまう。

 

 横島はもう迷わなかった。

 女の子を見捨てるなんて横島には出来はしないのだから。

 だから言葉を紡ぐ。少女の――

 

「このままじゃ君は殺されてしまうぞ……君の姉さんに」

 

「っ!?」

 

「小喬ちゃん」

 

 小喬の怒りを買う言葉を――。

 

 

 

 

 

続く!

 

 

 

 

 




以前から読んでいてくれた方はもちろん初見の人も気づいていたと思いますが、少女の正体は小喬でした。
それから、これからは夜6時に更新していくつもりですので、また見てやって下さい。

感想、指摘、質問があれば言って貰えれば嬉しいです。

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