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「戦・・・・・・ですか」
いつものようにナンパを合間に雑用、雑務をせっせとこなす横島の元に雪蓮がおとずれそんな話をしだした。
「そう、最近出てきた黄色い布を巻いた盗賊の話を知ってるかしら?」
「黄色い布……確か黄巾党ってやつでしたっけ?」
「やっぱり知ってるんだ。それも天の知識?」
「まぁ、そんなもんす」
まぁ横島の場合うろ覚えなのだが。
ちなみに横島は自分が未来(平行世界とは考えていない)から来たことは雪蓮、冥琳、祭の三人には言ってあったりする。
もともと隠すつもりもさほど横島には無かったし、その事を話したお陰である程度信用も得られ、結果的に三人(特に冥琳)に簡単に横島を手放し出来なくさせたのだ。
「まぁそれで一応今は世話になっている袁術から黄巾党の討伐を命令されちゃってね。
あと数日中に出ることになったのよ」
袁術の名前を言う時、雪蓮の顔が少し歪んだの見て横島は身震いをさせた。
雪蓮は袁術のことを嫌っているのは知っているが、なんだか似ているので困るのだ。
横島の上司であった美神に。
この人だけは本気で怒らせたらアカン!オーラが二人共桁じゃない程高いのだ。
「だからちょっとの間留守になるからってこと一応言っておこうと思ってね」
「そ、それは離れている間寂しいから今日は一日中抱いて。
ということですね!任せてください、この横島忠夫っ。
誠心誠意お相手させてもらいます!しぇっれ~~んさ~~ん!!」
さっきの怯みは何処へ行ったのか、横島は興奮した顔で服を一瞬で脱ぎ去り雪蓮へと飛び掛った。
雪蓮はそれを、あんな一瞬で服を脱げるなんて相変わらず凄いわね~。
なんて思った後、横島の顔面を蹴り飛ばした。
「今日の下着はピン……げぶらぁっ!!」
雪蓮、折檻する時はきちんとする女であった。
ポヨンッ。ポヨンッ。
「あ~いたいた、忠夫さ~ん」
「っ!?この音は・・・・・・穏ちゃん!!」
廊下、声ではなくその零れんばかりの豊満な胸の揺れる音で、横島はその人物へと振り返った。
おっとりした雰囲気、薄緑の髪に小さなメガネ、もうお決まりとなっている露出度の高い服装。
彼女の名は陸遜。真名は穏という名の軍師の一人だ。
ちなみに冥琳の愛弟子でもある。
「相変わらずですね~忠夫さんは」
「いやぁ、それほどでもないっすよ」
何か褒められたのかと勘違いしてそう言った横島だが、ただ単に穏は横島が自分と話をする時はいつも胸だけを見て会話をするので呆れと感心が混ざっての言葉なだけであった。
「それよりどうしたんすか?今日ですよね、出るの。
も、もしかして寂しくて俺の顔を見に来てくれたとか?」
鼻息が上がる横島を気にした風もなく、穏は言う。
「いえ~、お渡ししたいものがあったので」
はい。と一冊の本を手渡す。
「これを呼んで勉強すればある程度字が分かるようになると思うので、
私たちが帰ってくるまでに読んでおいて下さいね~」
横島が表紙を見る。
そこには『赤子でも分かる字の学び方』と書いてあった。
横島には読めなかったが、なんだか子供向けであることは理解できた。
「ちなみに冥琳様がもし今と進歩がなければ
罰があるから覚えておくように。と言っていたのでお気をつけてくださいね~」
そう告げてから、一度だけ手を振り穏は離れていった。
「…………ど、どうせこんなこったろーと思ったよっ!!」
横島はその晩一人で枕を濡らせた。
「お、終わった……」
体を真っ白に燃え尽かせながら横島が呟く。
ここは横島が宛がわれている部屋。
その部屋の机の上に横島はつっぷしていた。
手にはあの日、穏に渡された教本。
想像できていたかも知れないがこの男、本を渡されたのにも関わらずまったく勉強していなかった。
よくある駄目な人間の思考で「明日やりゃあいいや」と先延ばし続けていたのだ。
だがつい先日、雪蓮たちが勝ちを上げ数日中に帰ってくることが分かり横島は大慌て。
とりあえず雪蓮たちが無事なのに安心したが、帰ってきた時なにもしてなかったのがバレると冥琳が怖い。
ので、大急ぎで勉強することにした横島だったが今までサボっていたため今からじゃ普通に間に合わない。
なのでこの数日、仕事の合間、寝る合間を削り必死こいて勉強をしていた。
人間必死になると覚えも良くなるもので、よれなりに字を覚えることができたのだが、その分睡眠時間はほとんどなく、疲弊しきりナンパもする暇もなかった。
「でもこれで冥琳さんの罰は免れた……しんどかった~」
やっと眠れる。とこのまま机の上で寝てしまおうと目を閉じる……が。
「孫策様たちが帰ってきたぞー!!」
部屋の外からなのにはっきりと聞こえる声に横島は目を開けた。
……どうやらまだ少し眠れそうにないようだ。
「あの乳と尻とフトモモたちが無事かどうかちゃんと確認せななー……」
そう言って横島はフラフラと外へと出る。
なんだかんだ言って横島は雪蓮たちのことをかなり心配していたのだ。
だからといって戦場に行く気にはやはりなれなかったが……。
横島が城門へ着く頃には、館にいるたくさんの者たちが今ちょうど帰ってきた雪蓮たちを迎えていた。
その表情は心から雪蓮のことを慕い嬉しそうな色を宿しており、横島は戦は嫌いだがこの光景を見るのは嫌いではなかった。
横島も声をかけようと近づき、そこで雪蓮たちの様子が変なことに気がついた。
戦に勝ったというのに嬉しそうな顔をしていないのだ。
原因はすぐに分かった。
それは雪蓮が大事そうに腕に抱く大きな布に包まれた、おそらく少女。
横島はそれをみて固まった。
続く。
本日はこれで最後です。
明日からは一章終わりまで二話ずつ更新の予定です。
それではまた見てくれると嬉しいです。
ついでに感想・指摘などがあればくれると嬉しいです。