呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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二章の始まりです。三部構成ですが、一章より話数は少ない予定です。
ではよかったら見て下さい。


二章・魏に転がり込んだ道化
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「殺しましょう」

 

「落ち着きなさい、桂花」

 

 ここは陳留、曹操が治める都市である。その中心にある城の中にある軍議等を行う部屋で、曹操を始めとした主だった面子が集まっていた。

 

 議題の中心は、最近拾ってきた男。横島忠夫である。

 

「ですが華琳様!あの男が来てこれで何件目ですか!?民から苦情がくるのは!」

 

 声をあらげるのは猫耳フードを被った、見た目は美少女である荀彧こと真名は桂花という。

 

「この報告を見るに既に五十件は越えているみたいだが」

 

「逆に私は感心してしまうぞ、なぁ秋蘭?」

 

「ふっ、そうだな姉者」

 

 秋蘭と呼ばれた水色の髪の女は、曹操の左腕である夏候淵、真名は秋蘭。そして呑気な事を言った腰まで伸びた黒い髪をオールバックにしているのはその姉、曹操の右腕である夏候惇、真名は春蘭である。

 

「何を呑気なこと言ってるのよ!あんな穢わらしい男、さっさと処刑するべきなの!!華琳様の治める街にあの男はいらないわ!」

 

「そこまでにしなさい桂花」

 

「華琳様っ!?ですがっ」

 

「黙りなさいと言ってるのよ?」

 

「っ!……申し訳ありません」

 

 そして、睨むだけで桂花を黙らせたのが彼女たちの王、曹操こと華琳である。

 その華琳は少し視線をきつくして桂花に続ける。

 

「それから桂花。貴女の報告だけれども、私が聞いていたのと違うわね」

 

「っ」

 

「確かにあの男……横島は街中の女……特に綺麗所ね、に声をかけまくっているそうだけれど、苦情は一件だけしかきてないそうね。しかもその一件は貴女からだとか、桂花?」

 

「そ、それは……」

 

「しかも苦情どころか絶妙な間で三姉妹の誰かが横島を止め折檻することで、そのやり取りが見てて飽きないという声が上がっているくらいよ」

 

 華琳の言った通り、まだ横島たちが陳留に来て一月も経っていないというのに、ハリセンを使ったドツキ漫才は今では名物のようになっている。

 それにこの間開催された三姉妹のコンサートは小規模ながらも大成功し、そこに無料で招かれた曹操の兵士たちの士気高揚にも繋がっていた。

 

「桂花、貴女が男嫌いなのは知っているけれど、最近は酷いわよ?私の可愛い家臣には男ももちろんいる。私情で動かれるのは困るの。分かったわね?」

 

「……はい、分かりました」

 

 全く納得していない様子の桂花に一度だけため息を吐き、華琳は集まっている家臣たちに向きなおる。

 

「では話を戻すわ。秋蘭」

 

「はっ。その横島ですが特に変わったところは見当たりません。桂花が言う通りかなりの女好きではあるようですが、男には珍しいことでもないでしょう」

 

「あの男が行き過ぎなのは認めるけどね」

 

「そうですね。ですが『役満姉妹』の公演の成功、その発案そのものが横島からであり、悪い方向でなく良い方向に予想は外れていると言えます」

 

「そうね……、春蘭。貴女からみて横島はどう見えた?」

 

「わ、私ですか!?え、えと、その華琳様が横島の何が気になっているかは分かりませんが、悪人には見えません。何かを隠しているようにも……見ての通りあの男は馬鹿です」

 

「ふふ、そうね」

 

 春蘭に笑みを返しながら華琳は考える。横島忠夫という男を。

 華琳はもちろん天和たちの正体を知っている。保護をする際、三人からは密かに狙っていた太平妖術の書は燃やしたと聞かされたが、それ以上に三人に価値を見出だした為保護したのだ。

 そして、その三人に懇願されたのが横島を助けることであった。

 

 詳しい事は結局三人からは聴けてはいない。だが、横島が三姉妹を救った事だけは聴いていた。

 だからこそ華琳は横島を怪しむ。

 見た目は普通、武に長けているような体つきでもなく、話したかぎりかなりアホっぽい。

 特に変わった特技があるようにも見えないそんな平凡そうな男が、黄巾党の首領であった天和たちを救ったことが理解できないのだ。

 

 どうやって、そもそもどうして?疑問は尽きない。何より華琳の勘が言っているのだ。横島には何かあると。

 

「私だってあの男が悪人だとは思ってない。だけどそういうことではないのよ。私は知りたいだけ、あの男が何を隠しているのか、何を持っているのか」

 

「そんなに気になるのでしたら、私が無理矢理にでも聞き出しますが」

 

「分かってないわね春蘭。無理矢理なんて面白くないじゃない」

 

 いつか横島自身から言わせる。その事に意味があるのだと、華琳は笑う。

 

「横島のことはこのまま継続して監視してちょうだい。さ、次の議題にうつりましょ」

 

 そうして今日も華琳たちの一日は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃横島はというと。

 

「はい、お待たせ」

 

「おっちゃんサンキュー」

 

「さ、さんきゅう?」

 

「あ、えーと、ありがとうって意味だよおっちゃん」

 

「なんだそうかい。また来てくれよ」

 

 売り子の男性に手を上げて別れを告げる。それから横島は手にシュウマイが入った袋を持ちながら三姉妹がまつ事務所へと歩きだす。

 お腹がすいた天和に胸を軽くあてお願いされたため、単純な横島はお使い……もといパシりへと出かけていたのだ。

 

 ここ最近、天和は横島の扱いを分かってきたのか色仕掛けを使い、よくパシりに使っている。

 いいように使われている自覚は横島にもあるのだが、地和や人和にはない胸の大きさに負け、結局はお願いを聞いてあげているのだ。

 

「くそー天和ちゃんめ、いつかあの胸思う存分揉みまくってやるからな!」

 

 恐らく叶うことのない野望を抱く横島は、ふと空を見上げた。

 

「しっかし、此処にきてもう一月か~。雪蓮さんや小喬ちゃんは元気にやってっかな~」

 

 その小喬が横島が帰って来なかったことにより落ち込んで悲しんでいることなど知るよしもない横島には、ここ陳留に来たきっかけの出来事を思い出していた。

 

 それは太平妖術を倒してすぐのことだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?横島!」

 

「おう、何とかな。身体中いてーけど」

 

 軽口を言うものの、横島の怪我は決して軽くはない。心配させない強がりだということは地和にも分かった。

 

「あの……」

 

「よ、張梁ちゃん。こうしてちゃんと話のは初めてだな」

 

「はい、あの……助けて頂いてありがとうございました」

 

「やめてくれって、張梁ちゃんを助けてのは天和ちゃんと地和ちゃんだよ」

 

 そう言って横島は体にいくつも穴があき血が流れているが、それを全部我慢して立ち上がる。足が震えているが男の子のやせ我慢だ。

 

「さ、それより早くずらかろうぜ。軍隊がきちまう」

 

「……そうね、でも」

 

「肩くらいは貸すよ、横島さん」

 

 スッと横島の隣に陣取り、天和が横島の腕をとり体を支える。地和は体力を消耗している人和を支え、横島はダバーっと涙を流した。

 

「うっ……うぐ、うぅ!!」

 

「って何で泣いてるのよ横島!」

 

「お、女の子にこんなに優しくされるなんて……生きててよかったー!!!」

 

「……今までどんな人生歩んきたのよ」

 

「それに天和ちゃんの胸があたって「地和ちゃん、やっぱりお姉ちゃんが人和ちゃん支えるね~」たぶっ!?」

 

「あ、横島さん大丈「アホかー!?急に放すから顔から倒れてもたやろがー!?この怪我なんや!いくらワイでも死んでまうわ!!!」あ、意外と元気そう」

 

 お詫びに乳を揉ませろ!と、涙目で天和に詰め寄る横島。それをひらりとかわす天和。

 二人のやり取りに人和は自然と笑っていた。

 

「ふふ」

 

「人和?」

 

「いえ、姉さん。ただ、こんな風に自然に笑えたのは久しぶり」

 

「……そうね。でも、またこれからそんな日々が続くのよ」

 

 痩せた人和を支えながら、助けることの出来た妹の暖かさを感じながら、地和が優しく語りかける。人和もちゃんと頷き、生きる力を瞳に宿した。

 

 それから来る時に乗ってきた大きな馬が逃げだしていたとういハプニングはあったものの、四人は本陣を出来るだけ早く抜け出し、戦場を離脱する。

 

 このまま気付かれず済むと思われたが、そうは問屋が卸さない。

 

「そこの四人、止まれ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「どうしてこんな所に女性が?それにそこの男、怪我をしているな」

 

「凪ちゃん、この人たちすっごく怪しいと思うの!」

 

「そうだな。沙和、秋蘭様へ伝えに行ってくれ」

 

 横島たちの前に現れたのは身体中を傷だらけの銀髪の少女とサイドテールの髪にメガネをかけた少女だった。

 沙和と呼ばれた少女は凪と呼ばれた少女の言う通り、誰かを呼びに走り去る。

 横島は流石にまずいと、冷や汗を流した。

 

「……天和ちゃん、何とか時間を稼ぐからその隙に逃げるんだ」

 

「よ、横島さん!?」

 

「あんた何言ってるのよ!」

 

「流石にこれは逃げ切れん。だから俺が囮にな-」

 

 ビュン!ズゴォン!!

 

 横島たちのすぐ隣を光る玉が通り過ぎたと思ったら、爆音と共に砂塵が舞う。ギギギ、と壊れたロボットのように横島たちが後ろを見ると、地面にクレーターが出来ており、爆音の原因だと理解する。

 それからまたギギギ、と前に視線を戻すと、凪と呼ばれた少女がサッカーのシュートした後の姿でこちらをきつく睨んでいた。

 

「無駄な事は止めて、大人しくしていて貰おうか」

 

 横島は思った。あかん、詰んだ、と。

 

「……じゃあ横島、後は頼んだわ」

 

「いやいやいや、無理に決まってんだろーが!?」

 

「横島さん、さっき俺が囮になる!とか、格好いいこと言ってたのに……」

 

「無理ー!あんなん無理ー!!こんな状態であんなめちゃくちゃ強そうな女なんて相手出来るかー!!!」

 

 横島の言いように実は少しショックを受ける凪の前に人和が立つ。

 

「ちょっと人和!?」

 

「姉さん、これはもう諦めるしかないわ。……あの」

 

「なんだ?」

 

「貴女たちに大人しく従います。だからこの人の手当てをお願いします。この人は私達を助けてくれた恩人なんです」

 

「ち、張梁ちゃん何言って!?」

 

「張梁だと?やはりお前たちは……」

 

「あ……お、俺のアホー!!?」

 

 黄巾党の首領の名前は軍に知られている。つまりその姉妹である張梁ももちろん知られているということだ。

 まさかの失態に横島は頭を抱えた。

 

「馬鹿ー!!何バラしてるのよー!!?」

 

「横島さんの馬鹿ー!!」

 

「ど、どないしたらー!?」

 

 慌てる三人を冷めた目で見たあと少女は続ける。

 

「お前たちが張角たちだというなら尚更大人しくしていろ。直ぐに殺すような真似はしない。それは華琳様が考える事だ」

 

「……それが貴女の?」

 

「ああ私たちが使える主、曹操様だ」

 

 それから横島たちは凪により曹操の元へ連行され、四人は出会うのだ。

 後に覇王と呼ばれることになる少女、華琳に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれから色々あってこっちに来て一月。なんとか上手くやれるもんだな」

 

 霊能の事は華琳にはバレてはいない。必死になって隠す必要もないとは思ったが、その華琳自身が深くは追及しなかった為、霊能の存在は露見することはなかった。

 だが、獲物を狙うような華琳の視線に背筋が寒くなる横島であった。

 

 そこでの話で三姉妹にアイドル活動を打診し、利点などを話、華琳を納得させ、自身もマネージャーとして三姉妹を支える事を決めさせたのだ。

 地味に凄い事を成し遂げた横島に、早い段階で秋蘭などは評価を上げていたことに横島は気づいていない。

 

「お?」

 

「……げ!?」

 

 と、向こうから先程の軍義が終わり、モヤモヤが溜まり気を紛らわせるために街を散歩していた桂花に出会う。

 

「よう荀……」

 

「気安く話かけないでよ変態っ!!」

 

「いきなり何……」

 

「言っとくけど私はあんたが華琳様の治めるこの街にいることなんて認めてないからね!近いうちにあんたなんか追い出してやるわ!!」

 

 言いたいことだけわめき散らし、桂花はそのまま横島から背をむけズンズンと足をならしながら去って行く。

 それから一度だけ振り返り。

 

「男なんて私が…………てやる!」

 

「っ!?」

 

 横島の目に桂花に重なるように一人の女性の姿が見える。その姿は一瞬で見えなくなり。桂花の姿は見えなくなっていた。

 

「全然気づかんだが、あれってまさか……」

 

 再びのトラブルの予感に横島は冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

 

続く!!

 

 

 

 

 

 




凪と沙和がちょっと登場。
そして桂花編の始まりです!

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