2-5
「うわ~凄い人数!」
「黄巾党ってこんなに人が多かったんだねぇ」
「いやいや、二人共黄巾党だろ?何で驚いてんだ?」
「だって途中からは軟禁状態で、どれくらい増えたなんて知らなかったんだもん」
黄巾党の本体が見渡せる小高い丘、そこに横島たちは居た。傍にはここまで三人を運んでくれた大きな体の馬一頭と荷物がある。
「にしても壮観っちゅうか良くこんだけ集まったもんだ」
横島の言葉通り、三人の眼下には黄巾党以外に彼等を討伐しにきた軍の群れがあった。
色々な旗の字が並ぶ中、『曹』の旗を見つける。
(あれって曹操の旗か?孫策である雪蓮さんが女だったんだ。ってことは曹操も女である確立が高い……しかもとびっきりの美女である確立が!!)
鼻息を荒くする横島を二人は、あ、コイツまたスケベなこと考えてやがる。と呆れた目で見ていた。
「お、あれは雪蓮さんたちの部隊か」
そんな視線には気づかずに、横島は雪蓮たちの部隊を見つけた。見送る時に軍を見たことはあったが、こうやって改めてみると凄いもんだと、改めて思う。
「あの大軍の中に突っ込んでいかにゃあかんのか~……うっ、急に腹がいたく「なるわけあるかー!!」ぎゃばっ!?」
「今更逃げるなんてちーが許さないんだからね!!」
「いつつ……冗談だってば」
場を和まそうとした横島の笑えないジョークは見事に滑り、二人の冷たい目にさらされる。
そ、そんな目でワイを見んといてー!!
と叫ぶ横島を無視しながらゆっくりと時間は流れる。
「……しっかし想像以上だな」
いい加減寂しくなったのか横島が呟く。それに二人も今度は無視せず答える。
「うん、あれのことだよね」
「うわ~気持ちわるい……」
三人の視線の先、黄巾党本隊。そこでは無数の悪霊たちが蠢いていた。
横島に助けられてから天和も地和も霊の姿が見れるようになっていた。と言っても、全ての霊が見えるというわけではないが。
「一匹一匹は弱っちそうだ、あんだけの数は洒落にならん……」
「……大丈夫なの?」
「ん?ああ心配すんなって」
(こんな量の悪霊を見たらそりゃ不安になるか)
と、落ち着かせるように笑みを作る。
「ちょ、ちょっと!子供を見るような目でみないでよね!」
そう言いつつも地和の顔は若干の赤みを帯びていたが。その事には天和だけが気づき、一人微笑んだ。
「さて……と、そろそろ始まるみたいだな」
言葉通りそろそろ戦いの火蓋が切られようとしていた。
ちなみに人和を無事に救出した後は、ここに来ている小喬と落ち合い、用意してもらった馬で三人を逃がす手筈となっている。
「二人とも準備は出来たか?」
「私は大丈夫だよ」
「ちーだって!」
「じゃあお姫様を助けにいくか!」
これからイタズラを仕掛けるような顔で横島は笑った。
「うううううばああばっばばばばばぁ!!!!」
どう聞いても正気とは思えない叫びが引き金となり、この戦は始まった。
雪蓮たちが口上を述べるのを待たず、黄巾党の兵士達が襲いかかってきたのだ。
それに少し慌てたものの、雪蓮たちは落ち着いて敵を迎え打つべく槍を構え突撃した。
「敵は戦の礼儀すら分からない獣だ!慌てる事はない、落ち着いて当たれば我らが必ず勝つ!!」
ありのままのことを言おう。雪蓮の……孫呉の兵は強い。
彼等にはお互いに絆がある。孫呉という一つの家族としての絆だ。
同じ家族として戦う。それは友として、仲間として戦うより一層強い団結をもたらしていた。
だから雪蓮の言葉に耳を傾け、パニックにならず敵を迎え撃てたのだ。
落ち着き敵を切り伏せていく。孫呉の絆による強さに敵兵は成す術もなく地に沈んでいった。
勝てる。
そう思っただろう。事実、普通の戦なら勝っていただろう流れだ。
だが敵は普通ではなかった。
「おらぁ!!」
「よし、ここらは粗方片付いたな」
「ああ、このまま黄巾党の奴らを根絶やしにしてやろうぜ!」
「おお!」
自然と士気の上がる兵たち、しかし―
「………?なんだ胸が熱い……?」
兵の一人が胸元に異変を感じ取る。不思議に思い自分の胸を確認すると……刃が胸から生えていた。
「……え?なんで俺の胸から?」
後ろを振り返る。そこには、殺した筈の黄巾党の兵が自分の胸に槍を突き立てていた。
そのことに驚き、目を見開いた所で男の命は尽きた。
その光景を目にした呉の兵たちは動きを止める。そして現状を理解した後……混乱に陥った。
「うわあああああ!!何だ!?何が起こった!?」
「どうして殺した奴が生きてるんだ!?」
「ぎゃあっ!?こっちも……生きてやがる!
一人だけじゃない!!全員生きてやがる!!!」
それは殺し合いと異常な環境に身をおく兵たちにとっても異常と感じさせた光景だった。
死んだ筈の敵兵が襲ってくる。イコール殺しても死なない。その考えがどれほどの兵を震え上がらせたか…。
実際、敵は本当に死んでいた。ただ、その死体を憑いていた悪霊たちが動かしているだけなのだから。
だがそんなことを知らない兵たちにとって、目の前の光景は恐怖の対象でしかない。
恐怖に足がすくみ、その隙をつかれ命を散らせていく……。
残酷な光景がそこにはあった。
「何だ!?何があった!」
前線の混乱に気づいた雪蓮が声を荒げる。流れは完全にこっちが掴んだと思っていたのだ。
それが急に向こうにもっていかれた。疑問に思うのも当然のことだ。
そこに一人の兵が駆け込んでくる。
「そ、孫策様!」
「どうした?一体何があったのだ!?」
雪蓮の傍にいた冥琳が問いただす。兵は戸惑いを隠せないまま伝えられたことを伝えた。
「そ、それが敵兵が殺しても死なず。襲ってきたとのことで」
「何だと?そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
「で、ですが引いてきた兵は皆怯えて、死人が動いたとしか言わず……」
「……冥琳」
「なんだ雪蓮……っ!だ、ダメだ!何が起こっているかも分からずにお前を戦闘になど出せない!!」
素早く雪蓮の思考を読み取り反対するが、雪蓮は笑顔で顔を横に振る。
「でもこの混乱を早く直すには直接私が言って指揮を上げたほうがいいでしょ?それに、どうも嫌な予感がするのよ。ジッとしてなんかいられないわ」
「雪蓮!貴方は王なのよ!?」
「王だからよ。こんな時にこそ頼りにならないとね。……多分蓮華の所も混乱しているわ、冥琳はそこをお願い。あの子を失うわけにはいかないわ」
そう言って雪蓮は馬を走らせ、前線へとかけていった。それを複雑な表情で見送った後、冥琳は回りに指示をだす。
「三番隊は雪蓮の後に続け!四番隊と五番隊は私と一緒に蓮華様のところへ行くぞ!!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」
「……一体、何が起こっているんだ?」
「はぁああああああああああ!!!」
綺麗な一閃が黄巾党の体を走る。斬られた兵は血を撒き散らしながら膝をつくが、
「コロスコロスコロスぅぅぅ――――――!!!!」
「くっ、これだけ斬ってもまだ死なないの!?」
「蓮華様!」
再び襲ってきた兵の頭を斬り飛ばし、蓮華の前に立ったのは思春だった。チリン、と鈴の音が戦場に響く。
「思春!こいつらどうなっているのかしら?」
「分かりません。ですが蓮華様、頭です。頭を飛ばせばおそらく大丈夫かと。ここまで頭を飛ばされてまで動く者は一人もいません」
「そう、頭ね!」
会話を交わしながらも言われた通り、また別の黄巾党の兵の頭を斬り飛ばす。と、次は再び動くことなく、兵は地面に崩れた。
「よし……。皆聞け!頭だ!頭を跳ねろ!
そうすればコイツらも殺せる!!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
蓮華の声に応え、呉の兵たちも敵の首を跳ねていく。ひとまずこれで大丈夫か……と、安堵したものの直ぐに蓮華は顔を歪めた。
「思春……」
「はっ」
「何人死んだ?」
「……半数は持っていかれました」
「そう……」
唇をかみ締める。蓮華の兵も敵の異常さに混乱を起こしていた。
そして何も出来ないまま半数の命を持っていかれてしまった。放心から一番早く戻った思春が何とか兵を纏め、今に至るがこの犠牲は大きかった。
「蓮華様が悔やむことではありません。あの敵の異常性……こうなって仕方がないことです。それに蓮華様はこれが初陣。こんなこと私も経験したことありません」
「それは言い訳にしかならないわ思春。こんなんじゃ姉さまに笑われてしまうわね」
「蓮華様……」
内心、思う。
そう自分はこれが初陣なのだ。
緊張していた。母に、姉に……呉に恥じぬようにと思っていたのだ。それがこの様ではないか……。
運がないのかもしれないな。と、苦い笑みを浮かべ蓮華は顔を上げた。
「でも悔やむのは後よ。これ以上向こうに好き勝手させてなどやるものか。だから力を貸して……思春!」
「もちろんです!」
お互いに笑みを浮かべ、それから敵兵に向かって駆け出した。
「フッ!!」
まずは目の前の一人。肩を斬りつけて体勢を崩したところを狙い首をはねる。
休まず二人目、三人目。
息がどんどん速くなっていく。それでも止まっていられない。敵は休むことなくこちらを襲ってくるのだから。
だが、蓮華にとってこの戦は初陣なのだ。つまり戦場にたつのはこれが初めて。
人を殺すという行為は例え覚悟を決めていたとしても、少なからず精神をすり減らす。
それに加え今回は首をはねないと何度でも襲ってくるなんてとんでもない敵だ。それは今日初めて戦場に立つ蓮華にはとても大きな負荷となって襲い掛かってくる。
何より蓮華の武は決して高いわけではない。一般兵よりは上だが、名だたる武将の前では赤子どうぜんだろう。
そんな蓮華が戦い続けて、ボロを出さない方がおかしいのだ。
「っ!?しまった!」
何人斬り殺したか分からなくなった頃、蓮華は疲れが溜まり腕を少しかすらせる程度で、敵の首をはねることが出来なかった。そしてそれは立派な隙になる。
ゆらり、と敵は槍を構える。そして蓮華に向かって突き出した!
「蓮華様!?」
思春がそれをみて声を荒げるが、いかんせん思春と蓮華の距離は離れている。とてもじゃないが間に入るなど間に合いそうになかった。
槍が蓮華にどんどん迫ってくる。それを蓮華は呆然と見つめていた。
(私……死ぬ?嘘……イヤだ。でも、避けられない)
どんなに否定しようと死という未来が蓮華の頭を過ぎる。そして―
(……ゴメンなさい。お姉様、お母様、シャオ)
「超絶美女に何しようとしとんじゃボケーーーーーーーーーーー!!!!!!」
そんな声と共に、目の前の敵兵は吹き飛んだ。
「……え?」
呆けていると自分のすぐ横を何かが通りすぎていく。見れば一頭の馬だった。そこに誰かが乗っていた。
「超絶美女って顔見えなかったじゃない!」
「フッ、俺ともなれば尻をみただけでそれが美女か美女でないか分かる。あの尻は絶対超絶美女の尻。間違いない!!」
「え~と、自慢することじゃないとお姉ちゃん思うなぁ」
そして何とも気の抜ける会話をしながら敵本拠地へと向かって消えていった。
「……何だあれは?」
思春の戸惑った声を聞きながら呉の兵は思った。蓮華の尻を見つめながら。
(((((確かにいい尻だ……!)))))
蓮華も蓮華で兵たちの視線に気づき、顔を赤らめながらお尻を手で隠していた。
一気にシリアスな空気が壊れた瞬間であった。
続く!!
蓮華はなんであんなにエロいんだ……!!