呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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黄巾党編スタートです。


2ー1

 

 

 

 

2-1

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごーすと……す、い~ぱ?」

 

「そ、ゴーストスイーパー」

 

「それがアンタの天の国での職なの?」

 

「いんや、俺は助手をやってただけ。まぁそれなりに除霊現場には立ち会ってるけどな」

 

雲ひとつない快晴の空の下、屋敷の中庭にある木の一つに横島と小喬はいた。

 

「だからお祓いの方法も知ってるってこと?

お姉ちゃんを祓うとか言ってたし……出来るんでしょ?」

 

「ああ、強力な悪霊は無理でも力の弱い奴らなら俺でも祓える。大喬ちゃんはそもそも完全な悪霊じゃなくて成りかけだったしな」

 

話の話題は横島の霊能力。というか幽霊が見えることや横島がいた世界でのこと。

 

ちなみに横島が天の国から来たことは雪蓮に許可を貰い、小喬には話してある。

 

「でもアンタみたいな間抜け顔の男が天の御使いとはね~」

 

「うるへー!間抜けなんは元からじゃー!それに天の御使いっていうけど、こっちでそう呼ばれてるだけで、天でも何でもないからな~」

 

「でも、この国よりずっと平和なんでしょ?」

 

「いや、そうでもないぞ」

 

その言葉に小喬は目を丸くする。彼女の想像する天の国とは、何不自由ない平和な暮らしを送れる世界であるからだ。

 

「まぁ俺のいた国は表向きは平和だったけど、やっぱり事件はいっぱいあった。人も一年のうちに何万って死んでる。他の国では今でも戦争が起きてるし、何より此処より悪霊がさかんにいるからな」

 

「天の国も大変なのね……」

 

「ま、それでも楽しい場所だけどな」

 

 そう言って横島は向こうでの仲間を思い出す。上司である美神たち。雪乃丞やピートに愛子といった友達。妙神山の小竜姫たち。

 色々とクセの多い人物たちだが、その日々は騒がしく何だかんだいって楽しい日々であった。

 

 ちなみに、横島がその中で一番クセがあったのは言うまでもない。

 

「……私も行ってみたいな、天の国」

 

「じゃあいつか案内したるぞ?」

 

「ほんと!?」

 

「おう!俺には女の子の好きな店とかよく分からんけどな」

 

「別にアンタにそんなこと期待してないわよ。

でも楽しみが増えたな~。ありがとね、横島」

 

 小喬の言葉に照れくさそうに頬をかく。と、その時だ。

 

「こんな所にいたのか二人共」

 

「冥琳さん!」

 

「冥琳様っ!何か御用ですか?」

 

 冥琳が二人の下へやってくる。小喬は表情を明るくさせ、冥琳へと駆け寄る。

 

「すまんな、邪魔をしてしまって」

 

「いいえいいえ!あんな変態の相手より冥琳様との会話の方が何億倍も大事ですからっ」

 

「……いつみても思うけど、凄い変わりようやな」

 

 小喬は雪蓮と冥琳に助けられて以来、二人に感謝の念と尊敬や憧れを抱いており、二人に対しては普段の態度とは違った態度になるのだ。

 

「それでどうしたんすか?冥琳さんがわざわざ来るってことは何かあったんすか?」

 

「いや、手の空いてる者が私しかいなくてな。

といっても私もこの後また別の用があるんだが」

 

「最近、黄巾党の動きも派手になってますもんね」

 

「ああ、袁術にいいように使われて困ったものだ」

 

 そう言いながらも冥琳の顔は困った顔などしていなかった。あるのは孫呉復活へ向けての野望の色である。

 

「それに……少し変なこともあってな」

 

「変なことっすか?」

 

「ああ、敵の兵たちなんだが戦った者たちの話によるとどうも様子がおかしいらしい。どこか虚ろで生きている気がしないと言う。雪蓮も何か嫌な気配を感じると言っていてな……」

 

「生きている気が……しない?」

 

 その言葉に横島がかすかに反応する。が、幸いにも冥琳は横島の反応に気づきはしたが普通に怪訝に思っただけだろうと流した。

 

「それ以外は問題はないんだが……と、お前達にこんな話をしても仕方ないか。スマン、忘れてくれ」

 

「いや、全然構わないっすよ。愚痴を聞くぐらいしか出来ることなんてないですしね」

 

「堂々と言うことじゃないじゃない……」

 

「フフ、では今度雪蓮に対する愚痴に付き合ってもらうとしよう」

 

 それから三人は顔を合わせて笑い合う。

 

 冥琳は笑みを浮かべながら二人を見る。

 つい最近まで男に恐怖していた小喬、だが彼女は男と話す時まだ緊張が見えるものの普通に接することが出来るようになった。

 そしてそのきっかけを作ったのが赤い布を額に巻いた男……横島だ。

 

 二人の間に何があったのかは詳しくは知らない。だが雪蓮と二人で小喬に話を聞いた時、

 

「アイツは教えてくれたんです。私は一人じゃないって…。気づかせてくれたんです。私がどれだけ雪蓮様や冥琳様、此処に住む人たちがどれだけ好きかってことに」

 

 その言葉で横島が小喬を救ったのだと分かったのだ。

 

「と、話が脱線してしまったな。少し二人におつかいを頼みたいのだ」

 

「おつかいですか?」

 

「冥琳さまの頼みなら何でもお聞きしますよっ!」

 

「ありがとう小喬。実は外の林に行って薬草をとってきて欲しいのだ。もう切れかかっていてな、だが誰も手の空いているものがいないのだ」

 

「そんなことぐらいだったらお安い御用っすよ!」

 

 二人は快く頷き、林へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、あったあった。これだよな?」

 

「うん、それであってるわ。それじゃ早いとこ採って戻るわよ」

 

「おう!」

 

 林に入りしばらくして俺と小喬ちゃんの二人は無事、目的の薬草をみつけることが出来た。

 

 といってもここら辺は比較的安全な場所だし、わざわざ雪蓮さんの所に攻めてくるような輩も今のところはいない。ま、小喬ちゃんの言った通りさっさと終わらせて館に戻るか。

 お礼と称して冥琳さんのチチを揉みくだしてやら~!

 

「ねぇ横島、さっきの冥琳さまの話覚えてる?」

 

「ん?話?」

 

「ほらっ、生きている気がしないって話よ!あれってもしかして……」

 

「あ~多分憑かれてると思うぞ。そりゃ戦がこんだけ起こってりゃ霊もわんさかいるわな」

 

 ただ……少し引っかかんだよなぁ~。

 

「一人二人が憑かれてるならともかく冥琳さんが言ってたのは敵の兵たち……だったろ?そんなに大勢の人間が憑かれるのはちょっと普通じゃない気がするんだ」

 

「普通じゃないって……そんな相手と戦って雪蓮さまたち大丈夫なの!?」

 

「今まで何もおこってないし多分大丈夫だとは思うけど……」

 

 あと一つ気になることがある……。憑かれたのが敵側だけってことに。

 

 でも何だか嫌な予感がするんだよな~。またトラブルに巻き込まれそうな…。

 

「多分てそんないい加減な――「きゃあああああああ!!?」っ!?」

 

 悲鳴っ!?しかもこの声は……!?

 

「俺の美女センサーが反応している!?声の主は間違いなく美女!待ってて下さいまだ見ぬ美女!この横島忠夫が今助けにいっきま~す!!」

 

「え?て、ちょっ……横島ぁ!?」

 

 俺は小喬ちゃんの声を後ろに、声の元へと駆け出した。

 うお~!待ってろよチチ、シリ、フトモモー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横島たちがいる同じ林の中、そこを走る二人の者がいた。

 

 桃色で長髪の少女と、水色の髪をサイドテールに纏めた少女の二人だ。その少女二人は何かから逃げるように走っていた。

 

「はぁっ…もうちょっとで街につくのに……こんなところで掴まるもんですか!」

 

「はぁ…はぁ……ちーちゃ~ん、お姉ちゃんもう疲れた~」

 

「もうちょっとだからがんばってよ天和姉さん!何のために、あそこからちー達が逃げてきたと思ってるの!?」

 

「だってぇ」

 

「シャアアアアア!!」

 

 と、突如奇声と共に、黄色の布を巻いた数人の男が二人の少女の後ろに現れる。どうやらこの二人を追っているらしい。

 

「っ!もう追いついてきた!?」

 

「やぁん、もうお姉ちゃん走れないよ~!」

 

 弱音を吐きながらも二人は足を動かし続ける。しかしここで捕まる訳にはいかないのだ。

 彼女たちの大切な者のために。

 

「きゃあっ!」

 

 だが後ろを気にしすぎたためか、桃色の少女の方が足を引っ掛けその場にこけてしまう。

 

「姉さん!?」

 

「私のことはいいから、ちーちゃんは逃げてっ」

 

「っ……分かった!ごめん…天和姉さん!!」

 

「わー!ウソウソ、ウソだよぉ!お姉ちゃんを見捨てないで!」

 

「こっちも冗談よ!ほら天和姉さん早く立って――っ!?」

 

「つ、つつつつつかまっまエたたったたたタ」

 

 姉を助け起こした瞬間、少女の腕を追ってきていた男の一人が捕まえた。だが、その男の表情は正常なものとはいえなかった。

 口からは涎が垂れ流しになっており、目は焦点があっておらず、それどころか片目は白目になっており、言葉遣いも変に歪んでいる。

 

 だが、少女はそんな男に驚くことはなかった。なぜなら男達がこういう状態なのは知っていたからだ。

 そして男たちが決して自分達に危害を加えることのないことも。

 

 だが、それでも捕まる訳にはいかなかった。やっと目を盗んで抜け出してきたのに、また戻される訳にはいかなかったのだ。

 

「離して……このっ汚い手でちぃに触らないでよ!」

 

「ムダだだだだダ、かええええル、おおおっとなししシくくくくく」

 

 叫び、必死でどうにか振り払おうとするが元々男と女、どうすることも出来ない。そうしている間に残った男たちが姉に近づいてくる。

 

 もうダメかも……!

 

 そんな考えが頭を過ぎった時だ、

 

「だらっしゃーーーーーーーーーー!!その汚ぇ手を離しやがれぇぇぇ!!」

 

 一人の男が少女の後ろから腕を掴んでいた男にとび蹴りを食らわせたのだ。

 

 その蹴りにより少女から男は腕を離し、数メートル吹っ飛ぶ。少女は自然と自分を助けてくれた男へと視線を移す。

 

 今までみたこともない青い服に額には赤い布を巻いた男、顔はそれほどかっこよくないが、不細工でもないだろう……この男が自分を助けてくれた。

 

 と、此処で男と目が合う。

 

「えと、ありが――」

 

 だが一瞬で男は……

 

「大丈夫ですかお嬢さん?」

 

「え?あ、ありがとう~」

 

 自分の姉の手を握りしめていた。

 

 だが、少女ははっきりと気づいていた。

 

「いえ、お礼なんて……」

 

 男の視線が少女の胸から姉の胸へと移っていたのを……!

 

「あなたの体で払って貰えればぼかぁーもう!!」

 

「きゃああああああ!!?」

 

「姉さんに何するのよ!この変態っ!!」

「アンタが襲おうとしてどうするのよ!この馬鹿ぁ!!」

 

「ぶぎゅらばぁ!!?」

 

 姉に飛びかかろうとした男は、少女ともう一人小柄な少女により殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

「横島ぁ!!」

 

「ひぃぃ!堪忍や小喬ちゃん!!」

 

「どうして人を助けようとして逆に人を襲ってるのよアンタはー!!」

 

「仕方ないんやー!この胸が!男の夢がいっぱいつまったこの胸がワイを狂わせたんやーー!!」

 

「胸ぇ!?そんなに胸が大きいのがいいの!?

それは私へのあてつけか?胸の小さな私へのあてつけかぁ!?」

 

「ひぃぃぃぃぃーーー!!」

 

 先程までの緊迫した空気はなく、そこにはカオスな空間が出来上がっていた。

 いきなり少女たちの前に現れた男…横島が、これまた別に現れた少女…小喬に良いように殴り蹴られているのだ。

 

 二人の少女の内、姉の方は横島の言葉に自然と胸を隠し、妹の方は胸の話題に怒りを覚え、何気なく横島への折檻に参加していた。

 

 まぁだが、こんな空気も長くは続くはずもなく……

 

「っ、小喬ちゃん!将来有望な美少女!」

 

「ちーは今でも十分有望よ……きゃっ!」

 

「わわっ!」

 

 横島の叫び声と共に二人は横島に引き寄せられる。少女は純粋に驚き、小喬は横島に抱き寄せられた形になったことに頬を赤く染めた。

 

 だが、二人とも直ぐに状況を理解する。

 

「じゃじじじじじゃマ、するぅぅぅるナ!!」

 

 そう、例の男たちが再び襲い掛かってきていたのだ。

 

「小喬ちゃんは二人を頼む!」

 

「ちょっと一人で大丈夫なの!?」

 

「喧嘩なら問題ありだけど今回は……俺の得意分野だ!」

 

 そう言って横島は男達に向き合った。

 

(こいつら弱い霊に取り憑かれてやがる……なら!)

 

 横島は己の手に霊力を集める。だが、それを栄光の手へとは発展させない。

 

 相手は霊に憑かれただけの中身はただの人間なのだ。そんな相手に栄光の手や霊波刀は威力が強すぎるのだ。

 それに憑いているのも弱霊ばかり……そう判断して霊力を手に纏わすだけにしていた。

 

「はっ霊に憑かれてるとはいえ相手は男!遠慮なくいかせてもらうぜ!!」

 

 その言葉と共に横島は駆ける!

 

 だが男たちの行動も少女たちとは別の行動へと移る。男たちが傷つけるなと命令されているのは少女二人のみ。横島に遠慮する理由などない!

 男たちも駆け出した横島にすかさず腰の剣を抜き構える。

 

「お、おおおオオオオオオオオぉぉぉ!!!」

 

 まずは横島に一番近い男が剣を振るう。

 

「横島っ!!」

 

 小喬が悲鳴を上げる……が、横島はニヒルな笑みを崩さなかった。

 

 そう、こと横島はある一点においては人間の能力を遥かに超えているものがある。痛がりだったが故に身についた能力……動体視力!

 

「美神さんの鬼のような折檻を耐えてきたこの俺に、そんな攻撃があたるかボケぇ!!」

 

 言葉通りに横島は男の斬撃を見事かわし、なおかつ懐へと潜り込む。

 

「蝶のように舞い……蜂のように刺ぁす!!」

 

 それから渾身の右ストレートを叩き込んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

「嘘……」

 

「すごい……」

 

「ちょっとだけカッコいいかも……」

 

 小喬と少女二人の言葉が小さく漏れる。三人は目の前の光景に唖然としていた。

 

 付き合いのある小喬でさえ弱いと思っていた横島が数人の男たちを一瞬で伸してしまったのだ。

 そして小喬以上に二人の少女は驚いていた。少女たちは知っているのだ、あの男たちの異常性というものを。

 だからその異常な連中を楽々に片付けた横島に驚愕の眼差しを向けていた。

 

「ふっ……他愛もない(決まったー!これであのバインバインの姉ちゃんは俺に惚れたも同然やー!!)」

 

 が、当の横島の頭の中はこんなもんである。

 

 それに今回横島が楽に勝てたのは横島が物凄く強いからではない。相手が男というのと憑いていたのが弱い霊であるのが大きい要因である。

 これまで数えられない程の霊と戦ってきた横島が今更弱い霊に遅れをとるようなことはないのである。

 横島がしり込みしてしまうような強い霊ならともかく、この程度の修羅場はかつて嫌という程潜り抜けてきたのだ。

 

「さてと……出てきやがったな」

 

「え?……な、何あれ?」

 

「うげっ気持ち悪い~」

 

「お姉ちゃんちょっと怖いかも……」

 

 四人の視線が倒れた男たちに集中する。

 

 なぜなら男たちからモヤモヤとした黒い何かが出て来たかと思うと、その黒い何かは醜い人のような形態へと変わったのだ。

 それはもちろん男たちに取り付いていた霊なのだが、今まで霊を見たことのない三人には未知の物体以外の何にでもない。

 

「……なんだこいつらから感じる変な感じ?……もしかしてこいつらも操られてんのか?ま、考えるだけ無駄か……だったら」

 

 横島の手に今まで以上の霊力が込められる。その込められた霊力は力を増大させ一つの形へと姿を変える。

 

 光り輝く剣……霊波刀へと!

 

「光る剣!?」

 

「綺麗……」

 

 驚く少女たちを他所に横島は足を進める。

 

「このGS横島忠夫がテメーらを……」

 

 そして漂う霊たちを――

 

「極楽に逝かせてやるぜぇーー!!!」

 

 霊波刀でなぎ払った。

 

 その光景を目に二人の少女は思う。この人ならもしかして……と。

 

 確かめるように二人は視線を合わせお互いに頷くと、横島へと駆け寄る。

 

「あのっ」

 

「助けて下さいっ」

 

 少女たちの大切な者を助けるため、取り戻すため、横島に望みを託した。

 

「「妹を!!」」

 

 

 

 

 

 

続く!

 

 

 

 

 

 


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