君の孫   作:JALBAS

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3年の時差と、糸守に起こる悲劇を知ったリクオ達。サヤちん達と糸守の妖怪を巻き込んで、住民大避難を計画します。
三葉(リクオ)の、入れ替わりの事実を知ったテッシー達は・・・・




《 第八話 》

 

「じゃあ俺は、3年前の三葉と入れ替ってたっていうのか?」

「そうじゃ!そして、それが入れ替わりの理由じゃ!」

「そ・・・そうか、3年後のリクオ様にこの事を気付かせ、それを三葉殿や糸守の住民に伝えて避難させる為に。」

「そ・・・そうすれば、三葉達も助かるのね?」

「じゃが、そう簡単な話しでも無い。」

黒田坊と氷麗の楽観的な言葉に、ぬらりひょんが水を差す。

「“3年後に行って見て来ました”等と言って、いったい誰が信じる?実際に、自分の目で見ない事には信用せん。それが人間じゃ。三葉には知らせる事ができても、その三葉の言葉を皆が信じなければどうにもならん。」

「別に、信じさせる必要なんてねえさ。」

リクオが口を挟む。

「何じゃと?」

「糸守の俺の百鬼で脅かして、この学校まで追い立てりゃいい。」

『ええええっ?!』

「リクオ様、あなたは糸守で、毎夜妖怪達を従えていたんですか?」

「毎夜って訳でもねえがな、清司って危ねえ奴がやたらと妖怪探索に行くんで、それを見張ってたら成り行きでそうなっただけだ。」

「リクオ様っ!」

氷麗が、顔を真っ赤にしてリクオに詰め寄る。

「ん?何だよ氷麗?」

「ま・・・まさか、女の妖怪は居ませんよね?」

「女の妖怪?・・・・ん?ああ、ひとり居る事になんのかな?」

「い・・居るんですか?だ・・誰ですか?それはっ?」

雪女の癖に、熱を帯びたように真っ赤になって、氷麗は更に詰め寄る。

「何言ってんだよ、三葉に決まってんだろ!」

「え?」

周りの側近達は、必死で笑いを堪えていた。

「・・・・」

そんな中、ぬらりひょんだけはひとり浮かない顔をして、何事かを考え込んでいた。

 

浮世絵町に帰る宝船の甲板で、依然として険しい表情のぬらりひょんに、リクオが尋ねる。「さっきから、何浮かない顔してやがんだじじい?」

「リクオ、浮世絵町に戻ったら、わしはちょっと遠野へ行って来る。」

「はあ?」

「お前が言った、“両面宿儺”と“繭五郎”について調べてくる。」

「あ・・・ああ、分かった。」

 

次に三葉さんの体で目覚めた時、僕は、まずサヤちんにこの話をした。

「ええっ?彗星の破片が落下?」

流石に、最初は信じられないという感じだった。しかし、僕の真剣な表情を見て、直ぐに冗談では無い事を悟ってくれた。同時にショックも受けていたが、糸守高校に避難すれば助かるという事を聞いて安心していた。

「それで、どうやって皆を避難させるかだけど・・・・」

僕は、夜の僕が考えた案を彼女に話した。

「ええっ?妖怪達で脅かして、高校まで追い立てるやて?」

この案にも、ひどく衝撃を受けていたけど、予測不可能な突発災害を信じさせるより確実ということで、何とか納得してもらった。

「ただ、妖怪だけでは頭数が足りない。うまく皆を誘導するには、人間の中にも協力者が必要になる。」

「う・・うん。私は、できるだけの協力はするけど。」

「できれば、テッシー達にも手伝ってもらいたい。」

「え?じゃあ・・・・」

「うん。だから今夜、テッシー達に僕の正体を明かす。」

 

昼休み、例によって清司くんが妖怪探索の話を切り出すが、

「今夜は、私が情報を仕入れて来たから。」

と言って、こちらで集合場所を決める。

「何や、三葉、いつもは嫌がって来ないやないか?」

「うん。でも、今夜は別。怖くない妖怪だから。」

「早耶香も来るんか?」

「う・・うん。」

どうもテッシーは、納得がいかないという表情だ。

「ところで宮水くん、それは何と言う妖怪なんだい?」

「え?・・・う、うん“主”とでも言っておこうか?」

『主?』

清司くんとテッシーは、怪訝そうな顔で首を捻る。

 

その夜、清十字怪奇探偵団糸守支部の全員を、宮水神社の境内の裏に集めた。

神社から小さな木の椅子を持って来て、皆でそれに腰掛けている。

更に僕は、いつも変化する時のように、白と赤の羽織袴を着ている。

「何や三葉?何で、そんな恰好しとるんや?」

「ん?ああ、妖怪を呼ぶのには、この方が都合がいいから。」

「はあ?」

サヤちんは、少し浮かない顔をして黙り込んでいる。僕の事を、テッシー達がすんなり受け入れてくれるかどうかが不安のようだ。

「それで宮水くん、その“主”はいつ現れるんだい?」

「もう、現れてるよ。」

「え?ど・・・何処に居るんだい?」

「ここさ、僕がその妖怪だ。」

『はあ?』

2人揃って、“何を言ってるんだ”という顔をする。

「今迄隠していてごめん。実は、僕は三葉さんじゃ無い。もう2週間くらい前から、何度と無く三葉さんと入れ替っている。」

「僕?入れ替ってる?何言っとるんや、三葉。まさか、狐に憑かれてるんか?」

「狐じゃ無い!僕は、関東任侠妖怪奴良組三代目総大将、奴良リクオだ!」

「はあ?」

「ま・・・待ってくれ、ぬ・・・“奴良組”だって?」

「知っとるんか?清司。」

「よ・・・妖怪通の間では噂になっている。少し前に、京都で妖怪同士の大戦争があって、勝った妖怪集団の名前が、確か“奴良組”・・・・その総大将って、大妖怪じゃないか!」

「ふうん・・・せやけど、何で三葉がその“奴良組”の総大将なんや?」

「そ・・・そうだよ宮水くん、いくら何でも、そんな妖怪の名を語ったら大変な事に・・・」

「やれやれ・・・・」

やっぱり、口で言っただけじゃ駄目みたいだ。

「信じられねえんなら、その目でしっかりと見やがれ!」

 

三葉はすっくと立ち上がり、畏を解き放つ。髪は銀色に染まり、後方に棚引く。体はひと回り大きくなり、男性に近い体型に変わる。そして、周りの者全てを威圧するような、鋭い目付きに変わって行く。

「のわああああああああっ!」

「だああああああっ!へ・・・変身したあっ!」

驚いて、椅子から転げ落ちるテッシーと清司。

「どうだ?これでも信じられねえってんなら、おい、お前ら出て来い!」

『へい!』

裏の林の中から、糸守のリクオの百鬼達が姿を現す。釣瓶落とし、川男、ヤマガロ等々・・・

「うわああああっ!」

「ひいいいいいいっ!」

「きゃああああっ!」

テッシーと清司は、更に驚きの声を上げる。

これにはサヤちんも驚き、三葉の袴にしがみ付いてしまう。

「これで俺が、妖怪の総大将だって事が分かったろ?」

テッシーと清司は、無言で頷いた。

 

その後、三葉は入れ替わりに3年の時差がある事と、あと半月程で、彗星の破片の落下で糸守が壊滅的被害を受ける事を話した。ここまでくればもう何でも有りという感じで、テッシー達はすんなりその話を信じた。

「・・・という訳で、俺の百鬼達が住民を脅かして追い立てるから、お前らがうまく糸守高校へ誘導しろ!」

「は・・・はい。」

「あ・・ああ、分かったで。」

「で・・でもリクオくん、破片落下の当日に、もし入れ替わりが無かったら?この妖怪さん達、三葉の言う事聞いてくれるん?」

「ああ、心配ねえよ。こいつらには、俺と三葉の事も話してある。三葉の事も、総大将と認めてるぜ。」

サヤちん達には言って無いが、リクオは、糸守の妖怪達には三葉が半妖である事も告げていた。リクオの畏に惹かれていることもあるが、三葉が自分達よりももっと昔の妖怪の血を引いている事を知り、妖怪達は三葉にも従う事を決めていた。

「?!」

その時、脇の草むらの中から物音がした。

「誰だ?」

三葉の声に反応して、数匹の妖怪がその草むらに突っ込む。

『ひいええええええええっ!』

中から、慌てふためいて3人の男女が飛び出して来る。

「ま・・・松本?」

「な・・何やっとんのや?お前ら?」

「ご・・・ごめんなさい、け・・・決して盗み聞きなんか・・・し・・してません!」

妖怪達に脅えながら、あっさりと盗み聞きしてた事を白状する松本。

「丁度いい、お前ら、こいつらと一緒に住民を脅かす役目やれ!」

「へ?」

「生憎妖怪の頭数が足りなくてな、お前らこの間も、この2人脅かそうとしてただろ。どうせなら、もっと派手に住民全員を脅かしてやれ!」

「え?・・・い・・いえ、そ・・・それはちょっと・・・」

「まさか、嫌だってんじゃねえだろうな?」

三葉は、凄みの効いた目付きで松本達を睨む。

「は・・・はい、よ・・・喜んでやらせて頂きます!」

松本達は、その場に正座をして、妖怪役を了承するのであった。

 

 

 

奴良組総本家では、リクオ(三葉)も氷麗から事の詳細を聞き、驚きの声を上げていた。

「えええっ?私達、3年ずれていたん?それに、糸守に彗星の破片が墜ちたあ?」

更に、リクオの提案した避難計画を聞いて、

「妖怪で脅かして、学校まで追い立てるう?」

二重の衝撃を受けていた。

「そりゃあ、3年後で見たなんて言っても誰も信じへんやろうけど、脅かして避難させるって・・・・ほんまにリクオくんが、そんな事言ったん?」

「ええ、そうよ。」

「あの温厚そうなリクオくんが・・・・ん?もしかして、それって妖怪のリクオくん?」

「ええ、そうよ。」

「あの、ちょっと聞きたいんやけど、妖怪のリクオくんって、人間の時と性格も違うん?」

「ああ、そうか。あんたは、妖怪のリクオ様は知らないんだったわね。まあ、確かに言葉使いはかなり荒々しくなるし、好戦的になるから正反対とも言えなくも無いけど・・・・」

「無いけど?」

「リクオ様はリクオ様よ、根っこのところでは本質は変わらない。」

 

そう語る氷麗を見て、この娘は、本当にリクオくんの事が好きなんだなって分かった。最初、私にあんなに冷たかったのも、私にリクオくんを取られるじゃないかと、気が気じゃ無かったのね。

「三葉殿?」

そこに、黒田坊さんが顔を出す。

「御友人の方がお見えになっていますが、こちらに通して宜しいでしょうか?」

「あ・・はい。」

今日は、こちら側は日曜日だったので学校は休みだった。

リクオくんの高校には一度行ったから、友人達にも一度会っている。彼らは、リクオくんが半妖である事も知っている。

「こんにちは、お邪魔します。」

まず、家永カナちゃんが入って来る。彼女はリクオくんと幼馴染でもあり、人間では一番の親友・・・いや、恋人に近いのかな?氷麗が、少し不機嫌そうだから・・・・

「ちゃーっす。」

「お邪魔します。」

続いて、いつも2人でつるんでいる巻さんと鳥居さんが、

「どうも、及川さん!」

そして、氷麗に気がある島くんが入って来るが・・・・あれ?もうひとり居る。この間学校に行った時は、居なかったのに・・・・

ただ、何度も見た事のある顔であったため、私は思わず声を上げてしまった。

「き・・清司くん?な・・何でここにおんの?」

「や・・・やっぱり!清司兄さんの妖怪はここに居るんだね?」

その人は、そう叫んで私に詰め寄って来る。

「ど・・・何処に居るんだ?お願いだ、会わせてくれ!」

「え?」

「お願いだ!奴良くん!」

訳が分からず、私は一旦氷麗を引っ張って部屋の隅に行き、ひそひそ声で話し掛ける。

「な・・・何やの?あの人。糸守の清司くんそっくりなんやけど。」

「リクオ様から聞いてないの?その清司って人の従兄弟の、清継くんよ。」

ああ、そう言えば、そんな話聞いてたかも?

「で・・・でも、“清司兄さんの妖怪”って何やの?清司くんは人間やけど。」

「だから、彗星の破片落下で糸守が壊滅したって言ったでしょ。清司って人も、それで死んじゃったの。」

「ああ・・・」

「それでリクオ様が、昨日清継くんに“この間、清司くんと知り合った”って言っちゃったから、妖怪になって出て来たと思い込んでんのよ。」

「ええっ!ど・・・どうすんの?それ?説明なんてできへんやないの。」

「私に言ったって、知らないわよ!」

「何をこそこそやってるんだい?早く、清司兄さんに会わせてくれ!」

そこに、清継って人が割り込んで来る。

「あ・・・私、お茶を入れて来ますね!」

そう言って、氷麗は部屋を出て行こうとする。

「あ・・・こら、逃げるな!」

「ほほほ・・・ごゆっくり・・・」

そう言い残して、氷麗はそそくさと部屋を出て行ってしまう。薄情者~っ!

「お願いだよ、奴良くん!きっと清司兄さんは、まだこの世に未練があるんだ!僕が、それを聞いてあげるんだ!だから会わせてくれっ!」

清継くんは、更に私に詰め寄って哀願する。目にいっぱい涙を溜めながら。

ど・・・どうすればいいのよ?だ・・・誰か?何とかしてっ!リクオくうううううんっ!

 






テッシー達のみならず、松本達も住民避難計画に加わる事に・・・・
この避難計画、果たしてうまくいくのか?
一方、清司が妖怪になって現れたと信じて、リクオ(三葉)に詰め寄る清継。
三葉は、どうやって彼を説得するのか?(ちなみに、この部分は続きはありません。うまい言い訳が思いつかないので・・・・)

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