君の孫   作:JALBAS

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変化する三葉を、その目で見たサヤちん。糸守ではいち早く、入れ替わりの事実を知る事になります。
そうして、リクオも三葉も、お互いの妖怪の能力を知っていく中、もうひとつの真実が明らかになります。
それは・・・・




《 第七話 》

 

三葉は、森の手前にある切り株の上に腰を降ろしている。その脇で、サヤちんが三葉の右腕に包帯を巻いている。彼女は万一の事も想定して、救急セットを持参して来ていた。

「ありがとう・・・」

「じゃあ、あなたは三葉や無いんね?」

「うん・・・僕は、奴良リクオ。さっきのを見たのなら分かると思うけど、人間と妖怪のハーフ、半妖なんだ。」

三葉の腕の治療が終わり、サヤちんは救急セットを片付ける。

「僕が、怖い?」

三葉の問いに、サヤちんはゆっくりと首を振る。

「だって、あなたは克彦達や、松本達を助けてくれた・・・・あの夜、私らが最初に妖怪に遭遇した夜も、あなたが助けてくれたんやろ?」

三葉は、無言で頷く。

「妖怪は怖いけど、あなたは、何か違う・・・うまく、言えへんけど・・・・」

「あ・・・ありがとう。」

三葉は、またお礼を言う。

「明日は、三葉さんに戻ると思う。こんな怪我をしちゃって、三葉さん怒ると思うけど、サヤちんから話してもらえないかな?手紙じゃ、うまく説明出来ないから。」

「う・・・うん。」

「あ・・・そうだ、ひとつ聞きたい事があるんだけど。」

「え?何?」

「あの祠、何だか分かる?」

三葉は、左手で、先程繭五郎が拝んでいた祠を指差す。

「あら?あんなところに、祠があったん?」

「知らないの?」

「知らへんよ。この道は滅多に人は通らへんし、あんな脇の草むらの中じゃ、誰も気付かへんと思うに。」

「そう・・・・」

 

皆に、忘れ去られた祠・・・・さっきの妖怪が言った“両面宿儺”と何か関係があるんだろうか?

 

 

 

朝、目が覚めても、布団の中で少し考え込んでいた。

私にも、妖怪の血が流れていた。その血を使って、リクオくんは私の体で妖怪に変化していた・・・・それで、テッシー達を守っていたのね?でも、妖怪に変化した私って、どんなんだろう?あ・・・だけど、リクオくんの体で私は妖力使ったけど、変化なんかしなかったわよね?

そして、ゆっくりと起き上がろうとすると・・・・

「痛っ!」

右腕に、激痛が走った。何かと思って右腕を見ると・・・・

「え?」

右腕には、厳重に包帯が巻かれて、動かそうとするとかなり痛い。

「な・・・何やの?これ?いったい、何をしたん?リクオくん!」

「どうしたん?お姉ちゃん?」

気が付くと、右手の襖が開いていて、四葉がじっとこちらを見詰めていた。

「え?・・・い・・・いや、な・・何でも無いんよ。」

「・・・リクオくんって、誰?」

「え?・・・あ・・・ああ、この間転校して来た・・・」

「それは、清司くんやろ?」

「い・・いや、隣のクラスにも転校生が来とって・・・その子。」

「ほんま?」

「ほ・・・ほんまやよ。」

四葉はずっと怪訝そうにしていたが、その場は強引にそれで押し通した。

 

「いたた・・・」

折れてる訳では無いので、動かす事に支障は無いのだが、動かせばかなり痛い。だから右手では物は持てず、鞄も左手に持って登校する。朝、ごはんを食べるもの辛かった。

昨日私が浮世絵町で体験したように、昨夜、糸守でも激しい闘いがあったの?もしかして、テッシー達にも被害が?・・・・だけど、それならリクオくん、手紙か何か残す筈・・・・

「三葉~っ!」

その時、後ろから声がして、サヤちんとテッシーが、いつものように自転車に2人乗りしてやって来た。

良かった、2人とも無事だったんだ。

「あれ?どないしたんや三葉、その腕?」

テッシーが、包帯を巻かれた私の右腕を見て言う。

「え?い・・・いや、ちょっと・・・」

ど・・どうしよう?何て言い訳すれば・・・・

「昨日、私を庇って、ちょっと酷く転んだんよ。」

てんぱっている私を制して、サヤちんが答える。

「え?!」

きょとんとする私に、サヤちんが耳打ちする。

「今は私に合わせて、後で説明するに。」

「う・・・うん。」

何だか訳が分からないけど、その場はサヤちんの言う事に従った。

 

休み時間に、サヤちんに呼ばれて、この間話をした校舎裏に行った。

「え?じゃあサヤちん、私が変化するところ見たん?」

「うん。」

そうしてサヤちんは、リクオくんから入れ替わりや妖怪の事等を聞いた事、昨日の夜に起こった事を話してくれた。

「リクオくん、三葉の体を傷付けてまったこと、酷く悔いとった。でも、元は克彦達を守ろうとしたためやった。だから、リクオくんを怒らんといて。」

「うん、それは分かっとる。驚いただけで、怒っとらんよ。それより・・・・」

「それより?」

「変化した私、見たんやろ?どんなんやった?」

朝から気になっていた事だ。サヤちんが見たのなら、様子を是非知りたい。

「ん~っ、髪は今の倍くらいに長くなって、しろ・・・いや、銀色やな。そんな色に染まって・・・・」

「うんうん。」

「体が、ひと回り大きくなっとった。テッシーほどや無いけど、男の子くらいの背丈になって・・・・」

「うんうん。」

「言葉遣いが、“俺様調”やったな。」

「俺様調?」

「うん。リクオくんって、どっちかというと“おしとやか系”やろ?変化すると、正反対になっとった。」

ふうん・・・・やっぱり、一度見てみたい。何で、入れ替ってる本人の私が見れなくて、サヤちんが見てるの?何か理不尽!

「あ、そうや三葉、包帯変えんと!昨夜、私が巻いたままやろ?傷口も消毒して、薬塗っとかんと!」

 

サヤちんに連れられ、今度は保健室に行く。

「あれ?」

包帯を外して、傷口を見てサヤちんが驚く。

「どうしたん?」

「な・・・何か、傷口が小さくなっとるんやけど?何で、たった一晩で?」

そんな事言われても、私には分からない。昨夜の傷口を見て無いし・・・・も、もしかして、これもリクオくんの妖力?

 

 

 

「おはようございます!若!」

「お・・・おはよう・・・」

何か、今朝は氷麗の機嫌がいい。三葉さんと入れ替った翌日は、いつも不機嫌なのに。

 

朝食の後、お爺ちゃんに呼ばれてまた部屋に行った。そこで、昨日起こった事、三葉さんの妖力が発動した事を聞いた。

「じゃあ、三葉さんも自分が半妖である事を知ったんだね?」

「ああ。」

そうか、ならサヤちんから昨夜の話を聞いても、それほど混乱する事は無いかな?

「じゃが、入れ替わりの理由は相変わらず分からん。」

「その事で、少し気になる事があるんだけど。」

「何?」

僕は、お爺ちゃんに昨夜の事を話した。

「両面宿儺?繭五郎?」

「知ってる?」

「知らんな?聞いた事が無い。」

お爺ちゃんでも知らないなんて、いったい、どういう妖怪なんだ?

「じゃが、もしかしたら・・・・」

「え?何?」

「遠野なら、何か記録が残っているやもしれん。」

 

お爺ちゃんとの話が終わり、廊下に出たところで、

「リクオ様。」

黒田坊に呼び止められた。

「何、黒?」

「実は、昨日リクオ様を・・・中身は三葉殿でしたが、襲って来た妖怪達の処罰について・・・」

「ああ、それなら、傷が癒えるまでは家に置いてあげて、直ったら帰ってもらっていいよ。」

「え?・・・し・・しかし、あなた様を殺そうとしたんですよ。」

「三葉さんは、許したんでしょ?」

「は・・はい、そうですが・・・」

「じゃあ、僕がとやかく言う話じゃ無い。」

「ですが、このまま返せば、またいつ襲って来るか?」

「その時は、僕が相手をする。」

そう答えて、僕は部屋に戻った。

 

黒田坊は、立ち去るリクオをしばらく見詰めていたが、ふっと笑みを浮かべて言う。

「全く、お父上そっくりだ・・・だからこそ、私もこの命を預けられるのだが・・・・」

 

「やあ、奴良くん!久しぶりだね!」

学校に行くと、清継くんがようやく登校して来ていた。

「お・・おはよう清継くん。やっと、風邪が治ったんだね。」

「うん、心配掛けたね。これで、また今夜から妖怪探索に繰り出せるよ!」

「げ~っ、まだやる気なの?」

「全然懲りてねーじゃん!」

鳥居さんと巻さんが、突っ込みを入れる。

「そう言えば清継くん。」

「ん?何だい、奴良くん?」

「清継くんの従兄弟に、清司くんって居るよね?」

「え?奴良くん、何で清司兄さんを知ってるんだい?」

兄さん?同い年なのに、何で兄さん?

「い・・いや、この間、ひょんな事で知り合って・・・・」

「こ・・・この間?!」

突然、清継くんの顔色が真っ青になる。どうしたんだ?

「ま・・・まさか・・・・奴良くん!清司兄さんが、妖怪になって現れたのかい?」

「ええっ?な・・・何で?」

「だってそうじゃないか!3年前に死んだ清司兄さんに会ったなんて!」

「えええええっ?!さ・・・3年前に死んだあ?!」

 

家に着くころにはもう陽が暮れ掛かり、リクオは夜のリクオに変化していた。

リクオは、真っ直ぐぬらりひょんの部屋に向かう。

「じじい!」

「ん?・・・どうした?リクオ。」

「今直ぐ、宝船を貸してくれ!」

「何?・・・・何じゃ、突然、何処へ行くつもりじゃ?」

「糸守だ!」

「何じゃと?」

 

リクオとその側近達は、宝船で糸守に向かった。ぬらりひょんも、それに同行した。

宝船の甲板に、リクオとぬらりひょんが並んで立っている。

「何でじじいまで付いて来るんだ?」

「ちょっと気になることがあっての・・・・糸守という名、どこかで聞いたことがあると思ったが、ようやく思い出した。」

「はあ?・・・どこで聞いたんだ?」

「それは、着いてから話す。」

「何だよ、勿体つけやがって。」

 

糸守に着き、リクオ達は愕然とした。

そこに、町は無かった。無残な、廃墟があるだけだった。

宮水神社や三葉の家があった辺り一帯は湖と化していて、元の湖と繋がって瓢箪型になっていた。その元の湖の周辺は、瓦礫の山となっている。糸守高校はそのまま残っているが、窓ガラス等は割れたままで、完全に廃校になっている。その糸守高校の校庭の隅、いつも昼食を取っていた辺りに立ち、リクオ達はこの惨状を見つめていた。

「な・・・何だよこれは?き・・・昨日は、何とも無かったんだぜ!俺は、ここでテッシー達とメシを食ってたんだ・・・・」

「しかしリクオ様、この校舎の廃れ具合・・・・もう、何年か経っていると思われます。」

リクオの言葉に、黒田坊が返す。

「も・・・もう、誰も住んでいないの?」

氷麗が呟く。

「・・・ティアマト彗星じゃ。」

『?!』

ぬらりひょんの言葉に、皆はっとする。しかし、リクオには何の事か分からない。

「な・・・何だそれは?じじい!」

「今から3年前、お前は、鵺との闘いの傷を癒すため、半妖の里に行っていたから知らんじゃろう。1200年周期で地球に近付くティアマト彗星が、この日本に最接近したんじゃ。」

「ティアマト彗星?・・・・あ?・・・そういえば・・・・」

リクオは、最初に三葉と入れ替った時の、テレビのニュースを思い出す。

「最接近時に、彗星の一部が分裂して、その破片が日本に墜ちた。その場所が、この糸守じゃ!」

「な・・・何だと?」

「確かに、そのような事件がありましたな。」

「ま・・・待って、じゃあ、三葉は?」

「住民の殆どが亡くなったって話だ、とても生きちゃいまい。」

「ま・・・待てよ!」

黒田坊、氷麗、青田坊の会話に、リクオが突っ込む。

「俺は昨日も、三葉と入れ替ってんだぜ!もう死んだ奴と、どうやって入れ替るんだよ?」

「元々、3年ずれていたんじゃ。」

『ええっ?!』

ぬらりひょんの言葉に、皆驚く。

「じゃあ俺は、3年前の三葉と入れ替ってたっていうのか?」

「そうじゃ!そして、それが入れ替わりの理由じゃ!」

「そ・・・そうか、3年後のリクオ様にこの事を気付かせ、それを三葉殿や糸守の住民に伝えて避難させる為に。」

「そ・・・そうすれば、三葉達も助かるのね?」

「じゃが、そう簡単な話しでも無い。」

黒田坊と氷麗の楽観的な言葉に、ぬらりひょんが水を差す。

「“3年後に行って見て来ました”等と言って、いったい誰が信じる?実際に、自分の目で見ない事には信用せん。それが人間じゃ。三葉には知らせる事ができても、その三葉の言葉を皆が信じなければどうにもならん。」

「別に、信じさせる必要なんてねえさ。」

リクオが口を挟む。

「何じゃと?」

「糸守の俺の百鬼で脅かして、この学校まで追い立てりゃいい。」

『ええええっ?!』

皆、また驚く。

 






遂に、3年の時差に気付いたリクオ達。
が、リクオが糸守で集めていた百鬼が、思わぬところで役立つ事に。
これで、三葉や糸守の住民も助かるのか?
しかし、リクオはひとつ忘れています。そう、あの男の存在を・・・・

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