君の孫   作:JALBAS

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今回は、糸守のリクオ側はお休みで、浮世絵町での三葉のお話。
鵺を倒して有名になってしまったリクオ、慕う妖怪も増えていますが、当然その逆も・・・・
今回は、そんな刺客が三葉を襲います。




《 第五話 》

 

今日は、リクオくんの体で目覚めた。

屋敷の妖怪さん達にもようやく慣れ、普通に会話ができるようになった。

朝食を終え、学校へと向かう。

私がリクオくんなっている時は、側近の妖怪さん達が護衛に付いてくれる。氷麗ちゃんが横にいるのはいつもの事だが、私の時は青田坊さんが扮した“倉田くん”も一緒だ。他の側近さん達も、隠れて付いて来てくれている。

「あら?」

ふと気付くと、辺りが薄暗くなっている。空には暗雲が立ち込め、黒い霧が辺りを覆い始める。

「青、これは?」

「夥しい妖気を感じる・・・」

氷麗ちゃんと青田坊さんが、警戒心を強める。

すると、目の前の黒い霧の中に、人のシルエットが見えて来る。少しずつこちらに近づいて来て、霧の中からその姿を現す。

それは、綺麗な女の人だった。雪のように白く長い髪に、氷のような瞳、純白の着物を着ているが、何故か超ミニスカートの着物だ。

「奴良組三代目総大将、奴良リクオ様ですね?」

「は・・はい・・・」

その女性の問いに、私は、素直に答えてしまう。すると彼女は、右手をゆっくりと私に向けて上げる。

「・・・お命、頂戴します!」

『何?!』

「冷凍光線!」

彼女の右手から、凄まじい冷気が光線のように発せられる。

「危ない!」

氷麗ちゃんが、直ぐさま私を抱えて飛び避ける。青田坊さんは、私達の前に立ちはだかって攻撃を防ぐ。

「ぐわっ!」

その冷気を受けた青田坊さんの左手が、氷の塊と化してしまう。

「こいつ、雪女か?」

「青!」

「氷麗、若を連れて逃げろっ!」

「で・・・でも、」

「いいから、早く行け!」

「わ・・・分かった!」

氷麗さんは、私を連れて反対側に逃げる。しかし、その行く手に、突然水柱が立ち登る。

『きゃっ!』

思わず足を止めてしまう。

「ケケケケケケケケケケッ!」

その水の中から、河童とカエルのあいのこのような、緑色の妖怪が現れる。

その妖怪が、私達に襲い掛かろうとした時、

「ケエエエエエッ!」

凄まじい水圧の水鉄砲が、その妖怪を吹き飛ばす。

「ここは、おいらに任せて!」

河童さんが、助けに来てくれた。

「任せたわよ、河童!」

「おう!」

 

河童以外にも、リクオの側近が密かに護衛に付いていたが、皆それぞれ謎の妖怪集団に襲われていた。

「にゃああああああご!」

毛倡妓に、鋭い爪を立てた猫目の女が襲い掛かる。

「ね・・・猫女?」

「猫娘とお呼びっ!」

 

黒田坊は・・・・

「な・・・何だ、急に背中が重く・・・・」

「ひひひひひひひひひひっ!」

黒田坊の背中に、突然、赤ん坊の恰好をした爺さんが現れる。

「な・・・何だ?こいつは・・・・」

そいつは石のようになり、どんどん重くなっていく。

「ぐっ・・・・」

立っているのも辛くなり、とても前には進めない。

 

そして、首無のところには・・・・

「くくくくくくくくくく!」

「お・・・おのれっ・・・・」

白く平たく長い木綿状の妖怪が、体に巻き付いて動きを封じていた。自慢の紐を展開したくとも、思うようにいかない・・・・

 

氷麗とリクオは裏手の路地を進んで行くが、その先に、また別の人影が現れる。

黒いスーツを着て、黒いマントを羽織っている。顔立ちは普通の人間と変わらないが、獣のような鋭い八重歯を生やし、眉毛が、触角のように長く風に靡いている。

「待っていたぜ、奴良リクオ!・・・俺は、火炎の炎魔!」

「あ・・・あんた、何処の妖怪?誰に手を出しているか、分かってんの?」

氷麗が、リクオを庇って前に立つ。

「もちろん分かっているさ・・・・あの鵺を倒した男、現時点で、最強の妖怪・・・・それを倒せば、俺の株も上がるってもんだ。」

「な・・・何を?」

「貴様を倒して、この俺が、魑魅魍魎の主になるのさ!」

「ふざけないで!」

氷麗がふーっと息を吐く、それは吹雪のように炎魔を襲い、彼を氷付けにしてしまう・・・しかし・・・・

「はははははは、お前の冷気はこの程度か?雪子の足元にも及ばねえな!」

「な・・・何ですって?」

「はあっ!」

炎魔は、凄まじい妖気を放つ。その妖気で、彼を包む氷は一瞬で蒸発してしまう。

「そ・・・そんな?」

「喰らえっ!」

炎魔は、右手を氷麗に突き出す。その右手から、凄まじい炎が発せられ、氷麗を襲う。

「な・・・何のっ!」

氷麗は、もう一度冷気の息を吐く。しかし、火炎はその冷気ごと、氷麗を吹き飛ばしてしまう。

「きゃあああああっ!」

吹き飛ばされて、倒れる氷麗。

「氷麗ちゃん!」

リクオは、氷麗に駆け寄る。

「だ・・・大丈夫?」

「ば・・・ばか、何やってのよ!は・・・早く逃げなさい!」

「そ・・・そんな、あなたひとり置いて逃げられへん!」

炎魔は、ゆっくりと2人に近づいて来る。

「どうした?奴良リクオ、変化しねえのか?」

「く・・・」

氷麗は、直ぐには起き上がれそうにない。リクオ(三葉)も、足が竦んで動けなかった。

 

ど・・・どうすればいいの?こ・・・このままじゃやられちゃう・・・でも、私はリクオくんじゃ無いから、闘う事なんてできない・・・・

 

「俺をナメてんのか?まあいい、だったらそのまま死ね!」

炎魔は、また右手を突き出す。そして、先程よりも数倍強い火炎を放つ。

『?!』

リクオは、氷麗の体を抱きしめて目を閉じる。

 

助けたい!何とか、この娘だけでも・・・・

 

その時、三葉の体が激しく光り出す。光は、瞬く間に三葉と氷麗を完全に包み込む。そこに炎魔の火炎が直撃するが、火炎は、吸い込まれるように光の中に消えていく。

「な・・・何?」

そして次の瞬間、光の中心から矢のように炎が発せられ、炎魔を直撃する。

「ぐわああああああああっ!」

その勢いは、炎魔が放ったものよりも更に何倍も勢いを増していた。炎は、一瞬で炎魔の体を覆い尽くす。

「え?な・・・何?」

何が起こったのか良く分からず、氷麗は目を丸くする。

「な・・・何だ?今のは?」

遅れてその場に駆けつけた側近達が、今、目の前で起こった事態に戸惑っている。

「・・・・」

リクオは虚ろな目で、炎に包まれた炎魔を見詰めている。

「ぎゃあああああああっ!」

自ら放った炎に焼かれ、苦しむ炎魔。その姿を見て、リクオは目を大きく開く。

「た・・・大変!ね・・・ねえ!」

リクオは、ようやく起き上がった氷麗の袖を掴んで叫ぶ。

「あ・・・あなたの冷気で、あの炎を消せるやろ!お願い、助けてあげてっ!」

「はあ?」

「は・・・早くっ!」

「な・・・何言ってんの?あいつは、あなたを殺そうとしたのよ!」

「で・・・でも、あのままじゃ、あの人死んじゃう!」

泣きそうな目で、訴えるリクオ。氷麗は、やれやれといった顔で溜息をつく。

「あんたって、リクオ様と同じで、相当なお人よしね。」

氷麗はすっくと立ち、燃え盛る炎魔に向かって思い切り冷気を吐く。冷気により炎は消えたが、炎魔は全身大火傷で既に意識は失っていて、その場に倒れ込んだ。

「きゃああああっ!炎魔くんっ!」

そこに、敗れて連行されて来た雪女が駆け寄る。既にぼろぼろの恰好で、更にぼろぼろで黒焦げの炎魔に抱き付く。

「炎魔くん、しっかりして、炎魔くん!」

他の敗れた妖怪達も、炎魔の周りに集めさせられる。

「ぬ・・・奴良組の皆様、ぶ・・・無礼はお詫びします。ど・・・どんな償いでも致しますから、ご・・・ご慈悲を・・・・」

炎魔に抱き付き、泣きながら雪女は許しを請う。

その姿を見て、青田坊と黒田坊が話す。

「・・・どうする?」

「とりあえず奴良組に連れてって、リクオ様の指示を仰ぐか?」

更に、氷麗の横で座り込んでいるリクオを見て、

「何だったんだ、さっきの光は?」

「リクオ様の妖力では無いな・・・まさか、あの娘の?」

 

こんな事があったため、その日は学校に行くのを止め、一行は奴良組総本家に戻った。

日が暮れてから、ぬらりひょん、リクオ、側近達は、奥の座敷に集まっていた。

入れ替わりの説明をした時と同じように、ぬらりひょんとリクオが並んで奥に座り、その向かいに側近達が並んで座っている。

黒田坊が代表して、朝起こった事件の一部始終をぬらりひょんに説明する。

「受けた攻撃を、倍以上にして跳ね返す光じゃと?それを、リクオ・・・いや、三葉が?」

ぬらりひょんは、考え込む。

「初代、我々に、何か隠していらっしゃいませんか?」

その様子を見て、黒田坊が追求する。

ぬらりひょんは、ほっと一息ついて語り出す。

「実は、本人も知らん話じゃが、この三葉は、純粋な人間では無い。血はかなり薄いが、半妖じゃ。」

『ええっ?!』

リクオ(三葉)も含めた、全員が驚きの声を上げた。

「三葉、お前さんはリクオのその姿しか知らんだろうが、それは人間のリクオの姿。妖怪の血が覚醒した時は、奴は妖怪のリクオの姿に変わる。それが、変化じゃ。」

「へ・・・変化?あ・・・あの炎魔って妖怪が言っていた・・・・」

「その変化を、リクオは糸守で、あんたの体で体験しておる。」

『えええっ?!』

更に皆、驚愕する。

「妖怪の血が無ければ、変化はできん。だから、あんたの体にも、紛れも無く妖怪の血が流れとる。入れ替わりも、攻撃を跳ね返す光も、あんたの持つ妖怪の能力じゃ。」

 

衝撃の事実を告げられた後、リクオ(三葉)は氷麗と共に自分の部屋に向かっていた。

俯いて考え込んでいるリクオに、氷麗が声を掛ける。

「ショックだったの?自分が半妖だった事が・・・・」

「ううん、そうや無い・・・ここに来て、人間も妖怪も同じだって事が分かったから、ショックや無い。ただ、私小さい頃から、妖怪やお化けが怖くて怯えとった・・・・自分の中に、その妖怪の血が流れていた事も知らんで・・・・それが、恥ずかしいっていうか、情け無いっていうか・・・・」

少し黙り込んだ後、リクオは、顔を上げて氷麗に言う。

「あ・・・あの、今日は、助けてくれてありがとう・・・つ・・氷麗ちゃん。」

氷麗は、ちょっと照れくさそうな顔をして言葉を返す。

「お・・・お互い様、私だって助けられたし・・・それから、こう見えても、あんたよりずっと長く生きてんのよ。だ・・・だから“ちゃん”はやめて・・・・“つらら”でいいわ。」

「うん!ありがとう、つらら!」

2人は、にっこりと笑い合うのだった。

 






今回は、ちょっと遊んでしまいました。
分かる人には分かると思いますが、火炎の炎魔は、もちろん“どろろんえん魔くん”です。ゲストで、刺客として出させてもらいました。子供では無くなってるので、キャラ的にはデビルマンの不動明をイメージしています。雪子姫とカパエルの2人だけでは奴良組側近に対して人数が少ないので、足りない分は、鬼太郎の仲間、猫娘、子泣きじじい、一反もめんをお借りしました。
“どろろんえん魔くん”や“ゲゲゲの鬼太郎”等の昔からある妖怪物は、“ぬらりひょん”は悪の総大将なんですが、この話では立場逆転!こういうのも面白いかと。

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