鵺を倒して有名になってしまったリクオ、慕う妖怪も増えていますが、当然その逆も・・・・
今回は、そんな刺客が三葉を襲います。
今日は、リクオくんの体で目覚めた。
屋敷の妖怪さん達にもようやく慣れ、普通に会話ができるようになった。
朝食を終え、学校へと向かう。
私がリクオくんなっている時は、側近の妖怪さん達が護衛に付いてくれる。氷麗ちゃんが横にいるのはいつもの事だが、私の時は青田坊さんが扮した“倉田くん”も一緒だ。他の側近さん達も、隠れて付いて来てくれている。
「あら?」
ふと気付くと、辺りが薄暗くなっている。空には暗雲が立ち込め、黒い霧が辺りを覆い始める。
「青、これは?」
「夥しい妖気を感じる・・・」
氷麗ちゃんと青田坊さんが、警戒心を強める。
すると、目の前の黒い霧の中に、人のシルエットが見えて来る。少しずつこちらに近づいて来て、霧の中からその姿を現す。
それは、綺麗な女の人だった。雪のように白く長い髪に、氷のような瞳、純白の着物を着ているが、何故か超ミニスカートの着物だ。
「奴良組三代目総大将、奴良リクオ様ですね?」
「は・・はい・・・」
その女性の問いに、私は、素直に答えてしまう。すると彼女は、右手をゆっくりと私に向けて上げる。
「・・・お命、頂戴します!」
『何?!』
「冷凍光線!」
彼女の右手から、凄まじい冷気が光線のように発せられる。
「危ない!」
氷麗ちゃんが、直ぐさま私を抱えて飛び避ける。青田坊さんは、私達の前に立ちはだかって攻撃を防ぐ。
「ぐわっ!」
その冷気を受けた青田坊さんの左手が、氷の塊と化してしまう。
「こいつ、雪女か?」
「青!」
「氷麗、若を連れて逃げろっ!」
「で・・・でも、」
「いいから、早く行け!」
「わ・・・分かった!」
氷麗さんは、私を連れて反対側に逃げる。しかし、その行く手に、突然水柱が立ち登る。
『きゃっ!』
思わず足を止めてしまう。
「ケケケケケケケケケケッ!」
その水の中から、河童とカエルのあいのこのような、緑色の妖怪が現れる。
その妖怪が、私達に襲い掛かろうとした時、
「ケエエエエエッ!」
凄まじい水圧の水鉄砲が、その妖怪を吹き飛ばす。
「ここは、おいらに任せて!」
河童さんが、助けに来てくれた。
「任せたわよ、河童!」
「おう!」
河童以外にも、リクオの側近が密かに護衛に付いていたが、皆それぞれ謎の妖怪集団に襲われていた。
「にゃああああああご!」
毛倡妓に、鋭い爪を立てた猫目の女が襲い掛かる。
「ね・・・猫女?」
「猫娘とお呼びっ!」
黒田坊は・・・・
「な・・・何だ、急に背中が重く・・・・」
「ひひひひひひひひひひっ!」
黒田坊の背中に、突然、赤ん坊の恰好をした爺さんが現れる。
「な・・・何だ?こいつは・・・・」
そいつは石のようになり、どんどん重くなっていく。
「ぐっ・・・・」
立っているのも辛くなり、とても前には進めない。
そして、首無のところには・・・・
「くくくくくくくくくく!」
「お・・・おのれっ・・・・」
白く平たく長い木綿状の妖怪が、体に巻き付いて動きを封じていた。自慢の紐を展開したくとも、思うようにいかない・・・・
氷麗とリクオは裏手の路地を進んで行くが、その先に、また別の人影が現れる。
黒いスーツを着て、黒いマントを羽織っている。顔立ちは普通の人間と変わらないが、獣のような鋭い八重歯を生やし、眉毛が、触角のように長く風に靡いている。
「待っていたぜ、奴良リクオ!・・・俺は、火炎の炎魔!」
「あ・・・あんた、何処の妖怪?誰に手を出しているか、分かってんの?」
氷麗が、リクオを庇って前に立つ。
「もちろん分かっているさ・・・・あの鵺を倒した男、現時点で、最強の妖怪・・・・それを倒せば、俺の株も上がるってもんだ。」
「な・・・何を?」
「貴様を倒して、この俺が、魑魅魍魎の主になるのさ!」
「ふざけないで!」
氷麗がふーっと息を吐く、それは吹雪のように炎魔を襲い、彼を氷付けにしてしまう・・・しかし・・・・
「はははははは、お前の冷気はこの程度か?雪子の足元にも及ばねえな!」
「な・・・何ですって?」
「はあっ!」
炎魔は、凄まじい妖気を放つ。その妖気で、彼を包む氷は一瞬で蒸発してしまう。
「そ・・・そんな?」
「喰らえっ!」
炎魔は、右手を氷麗に突き出す。その右手から、凄まじい炎が発せられ、氷麗を襲う。
「な・・・何のっ!」
氷麗は、もう一度冷気の息を吐く。しかし、火炎はその冷気ごと、氷麗を吹き飛ばしてしまう。
「きゃあああああっ!」
吹き飛ばされて、倒れる氷麗。
「氷麗ちゃん!」
リクオは、氷麗に駆け寄る。
「だ・・・大丈夫?」
「ば・・・ばか、何やってのよ!は・・・早く逃げなさい!」
「そ・・・そんな、あなたひとり置いて逃げられへん!」
炎魔は、ゆっくりと2人に近づいて来る。
「どうした?奴良リクオ、変化しねえのか?」
「く・・・」
氷麗は、直ぐには起き上がれそうにない。リクオ(三葉)も、足が竦んで動けなかった。
ど・・・どうすればいいの?こ・・・このままじゃやられちゃう・・・でも、私はリクオくんじゃ無いから、闘う事なんてできない・・・・
「俺をナメてんのか?まあいい、だったらそのまま死ね!」
炎魔は、また右手を突き出す。そして、先程よりも数倍強い火炎を放つ。
『?!』
リクオは、氷麗の体を抱きしめて目を閉じる。
助けたい!何とか、この娘だけでも・・・・
その時、三葉の体が激しく光り出す。光は、瞬く間に三葉と氷麗を完全に包み込む。そこに炎魔の火炎が直撃するが、火炎は、吸い込まれるように光の中に消えていく。
「な・・・何?」
そして次の瞬間、光の中心から矢のように炎が発せられ、炎魔を直撃する。
「ぐわああああああああっ!」
その勢いは、炎魔が放ったものよりも更に何倍も勢いを増していた。炎は、一瞬で炎魔の体を覆い尽くす。
「え?な・・・何?」
何が起こったのか良く分からず、氷麗は目を丸くする。
「な・・・何だ?今のは?」
遅れてその場に駆けつけた側近達が、今、目の前で起こった事態に戸惑っている。
「・・・・」
リクオは虚ろな目で、炎に包まれた炎魔を見詰めている。
「ぎゃあああああああっ!」
自ら放った炎に焼かれ、苦しむ炎魔。その姿を見て、リクオは目を大きく開く。
「た・・・大変!ね・・・ねえ!」
リクオは、ようやく起き上がった氷麗の袖を掴んで叫ぶ。
「あ・・・あなたの冷気で、あの炎を消せるやろ!お願い、助けてあげてっ!」
「はあ?」
「は・・・早くっ!」
「な・・・何言ってんの?あいつは、あなたを殺そうとしたのよ!」
「で・・・でも、あのままじゃ、あの人死んじゃう!」
泣きそうな目で、訴えるリクオ。氷麗は、やれやれといった顔で溜息をつく。
「あんたって、リクオ様と同じで、相当なお人よしね。」
氷麗はすっくと立ち、燃え盛る炎魔に向かって思い切り冷気を吐く。冷気により炎は消えたが、炎魔は全身大火傷で既に意識は失っていて、その場に倒れ込んだ。
「きゃああああっ!炎魔くんっ!」
そこに、敗れて連行されて来た雪女が駆け寄る。既にぼろぼろの恰好で、更にぼろぼろで黒焦げの炎魔に抱き付く。
「炎魔くん、しっかりして、炎魔くん!」
他の敗れた妖怪達も、炎魔の周りに集めさせられる。
「ぬ・・・奴良組の皆様、ぶ・・・無礼はお詫びします。ど・・・どんな償いでも致しますから、ご・・・ご慈悲を・・・・」
炎魔に抱き付き、泣きながら雪女は許しを請う。
その姿を見て、青田坊と黒田坊が話す。
「・・・どうする?」
「とりあえず奴良組に連れてって、リクオ様の指示を仰ぐか?」
更に、氷麗の横で座り込んでいるリクオを見て、
「何だったんだ、さっきの光は?」
「リクオ様の妖力では無いな・・・まさか、あの娘の?」
こんな事があったため、その日は学校に行くのを止め、一行は奴良組総本家に戻った。
日が暮れてから、ぬらりひょん、リクオ、側近達は、奥の座敷に集まっていた。
入れ替わりの説明をした時と同じように、ぬらりひょんとリクオが並んで奥に座り、その向かいに側近達が並んで座っている。
黒田坊が代表して、朝起こった事件の一部始終をぬらりひょんに説明する。
「受けた攻撃を、倍以上にして跳ね返す光じゃと?それを、リクオ・・・いや、三葉が?」
ぬらりひょんは、考え込む。
「初代、我々に、何か隠していらっしゃいませんか?」
その様子を見て、黒田坊が追求する。
ぬらりひょんは、ほっと一息ついて語り出す。
「実は、本人も知らん話じゃが、この三葉は、純粋な人間では無い。血はかなり薄いが、半妖じゃ。」
『ええっ?!』
リクオ(三葉)も含めた、全員が驚きの声を上げた。
「三葉、お前さんはリクオのその姿しか知らんだろうが、それは人間のリクオの姿。妖怪の血が覚醒した時は、奴は妖怪のリクオの姿に変わる。それが、変化じゃ。」
「へ・・・変化?あ・・・あの炎魔って妖怪が言っていた・・・・」
「その変化を、リクオは糸守で、あんたの体で体験しておる。」
『えええっ?!』
更に皆、驚愕する。
「妖怪の血が無ければ、変化はできん。だから、あんたの体にも、紛れも無く妖怪の血が流れとる。入れ替わりも、攻撃を跳ね返す光も、あんたの持つ妖怪の能力じゃ。」
衝撃の事実を告げられた後、リクオ(三葉)は氷麗と共に自分の部屋に向かっていた。
俯いて考え込んでいるリクオに、氷麗が声を掛ける。
「ショックだったの?自分が半妖だった事が・・・・」
「ううん、そうや無い・・・ここに来て、人間も妖怪も同じだって事が分かったから、ショックや無い。ただ、私小さい頃から、妖怪やお化けが怖くて怯えとった・・・・自分の中に、その妖怪の血が流れていた事も知らんで・・・・それが、恥ずかしいっていうか、情け無いっていうか・・・・」
少し黙り込んだ後、リクオは、顔を上げて氷麗に言う。
「あ・・・あの、今日は、助けてくれてありがとう・・・つ・・氷麗ちゃん。」
氷麗は、ちょっと照れくさそうな顔をして言葉を返す。
「お・・・お互い様、私だって助けられたし・・・それから、こう見えても、あんたよりずっと長く生きてんのよ。だ・・・だから“ちゃん”はやめて・・・・“つらら”でいいわ。」
「うん!ありがとう、つらら!」
2人は、にっこりと笑い合うのだった。
今回は、ちょっと遊んでしまいました。
分かる人には分かると思いますが、火炎の炎魔は、もちろん“どろろんえん魔くん”です。ゲストで、刺客として出させてもらいました。子供では無くなってるので、キャラ的にはデビルマンの不動明をイメージしています。雪子姫とカパエルの2人だけでは奴良組側近に対して人数が少ないので、足りない分は、鬼太郎の仲間、猫娘、子泣きじじい、一反もめんをお借りしました。
“どろろんえん魔くん”や“ゲゲゲの鬼太郎”等の昔からある妖怪物は、“ぬらりひょん”は悪の総大将なんですが、この話では立場逆転!こういうのも面白いかと。