君の孫   作:JALBAS

4 / 14
今回は、奴良組の側近達が入れ替わりの事実を知る話です。
ただ、一番衝撃を受けるのは氷麗です。
その氷麗の、暴走が始まります・・・・




《 第四話 》

 

奴良組総本家の一室、奥にぬらりひょんとリクオが並んで座っていて、その前に、リクオの側近である氷麗、青田坊、黒田坊、首無、毛倡妓、河童が並んで座っている。

 

「回りくどい説明は抜きじゃ。単刀直入に言うが、ここに居るリクオは、リクオであってリクオじゃ無い。」

『はあ?』

全員、怪訝そうな顔をする。

「姿はリクオじゃが、中身は、岐阜の糸守に住む女子高生じゃ!」

『ええ~っ?!』

全員、一斉に驚きの声を上げる・・・・それはそうよね・・・・

「あ・・・あの、総大将・・」

首無さんが、口を出す。

「何度言わせるんじゃ、首無、今の総大将はリクオじゃぞ。」

「あ・・・も・・申し訳ありません・・・ですが、今日は4月1日では無いんで・・・」

「冗談を言っている訳では無い。では聞くが、お前達、今のリクオから奴の畏を感じるか?」

そう言われて、全員がはっとする。

「た・・・確かに、リクオ様の畏を感じません・・・」

と、長い黒髪に笠を被ったお坊さんが答える。

「リクオが、皆の事を忘れたり、怖がって逃げ回ったりすると思うか?」

「はあ・・・そう言われてみれば・・・・」

と、首無さん。

「そして、何より確かな証拠は・・・・」

『・・・・』

皆、ぐっと息を呑み込み、次の言葉を待つ。

「わしの女子高生センサーに、しっかり反応しとる事じゃ!」

『どわああああああああっ!』

全員、思いっきりズッコケた・・・・こ・・この“エロじじい!”と、誰もが思ったが、口には出せなかった。

「三葉さん、あんたから、自己紹介してくれんか?」

「は・・はい!」

姿勢を正して、皆の方を向いて、私は喋り出す。

「は・・・始めまして、“宮水三葉”と申します。岐阜の糸守という町に住む・・・えっと・・・に・・人間です。色々、お騒がせしてしまって、申し訳ありません・・・・な・・何しろ、私、今迄妖怪とかすごく苦手で・・・・」

そこまで話して、異様な殺気に気付く。良く見ると、先程まですごく心配そうな顔をしていた右端の女の子が、鬼のような形相でこちらを睨んでいた。

「え?・・・あ・・・あの?」

周りの側近の方達も、その異様な雰囲気を察したようで、徐々に彼女から離れて行く。

そして彼女は、正座したままで徐々に近付いて来て、私の目の前まで来る。

「・・・あなた、」

「は・・はい?」

「リクオ様とは、どういう関係なの?」

「え?」

「いつ、リクオ様と知り合ったの?」

「な・・何を?」

「何であんたが、リクオ様の中に入ってんのよっ!」

「そ・・・そんな事言われても、私にも分からない・・・」

「出て行きなさいよ!今直ぐ!勝手にリクオ様の中に入らないで!」

「お・・・おい、止めろ氷麗!」

周りの皆が止めに入るが、“氷麗”と呼ばれるこの娘は止まらない。

「返して!私のリクオ様を返してよ!」

最初は圧倒されっ放しだったが、あまりの態度に、こっちも段々腹が立って来た。

「うるさいわねっ!入りたくて入ったんや無いわっ!」

「な・・・何ですって?」

「こっちだって迷惑しとるんよ!私が悪者みたいに言わんといてっ!」

「何開き直ってんのよ!盗っ人猛々しいとはこの事だわ!」

「誰が盗っ人やの?このリクオくんが、いつあんたの物になったん?あんた家来やろ!立場をわきまえなさいよ!」

「何ですって~っ!私は、リクオ様の第一の側近なのよ!」

「側近のくせに、主を私物化すんじゃないわよ!」

「こ・・・この~っ!」

もう、誰も止めなかった。この罵り合いは、十分以上続いた・・・・

 

言いたい事を言いまくって、もう言葉が出なかった。落ち着いたところで、再びお爺ちゃんが切り出す。

「では、話を戻すが、リクオにこの娘が入っているのと同様に、今リクオは、糸守でこの娘の中に入っとる。」

「えっ?」

「で・・では、リクオ様は、今たったおひとりで?」

「そこは、心配する必要は無かろう。この娘も、今迄妖怪を見た事が無いというくらい平穏な町じゃ。誰も、この娘の体に、奴良組三代目が入っているとは思うまい。」

「はあ・・・」

「この入れ替わりは今日が2回目、前回の時は、朝起きてから次の朝目覚めるまで入れ替わったままだったそうじゃ。前回、この娘は何度も気を失ったが、元に戻る事は無かった。1日経たないと元に戻らないのか、2人同時に寝ていないと駄目なのか、今はまだ分からん。」

『・・・・』

皆、真剣に聞き入っている。

「問題はここからじゃ。今日のように三葉がリクオと入れ替わっている時は、お前達がリクオを護れ!」

『え?』

「この娘は人間じゃ。妖力を使う事はできん。もし刺客に狙われても、自分で身を護る事はできん!」

「ああ・・・確かに・・・」

「ですが総大・・・初代、それならば、外には出さずにずっと屋敷の中で匿われては?」

「そうなると、組の者全員にこの事を告げねばならん。でないと、余計な混乱を招く。しかし、それも危険じゃ。この事は、ここに居る者だけの秘密にしてもらいたい。」

「分かりました。」

「この命に懸けて、お護り致します。」

「良いな、三葉。お前さんも、この側近達から離れるでないぞ。」

「は・・はいっ!」

み・・・皆、見ず知らずの人間の私を護ってくれるの?いくら、この体が自分達の主の体だからって・・・・妖怪って、怖くて、人を襲うものだとばかり思っていたけど・・・・ここの妖怪さん達って、あったかい。人と、同じだ。

私の中で、妖怪に対する認識が大きく変わっていった。

右端の、未だに私を睨み続ける“氷麗ちゃん”は別な意味で・・・・

 

翌朝、自分の体で目が覚める。

着替えようと立ち上がったところで、机の上に何かが置かれているのに気付く。

近づいてみると、それは封筒に入れられた手紙だった。開けて読んでみる・・・・

『宮水三葉様

僕は、奴良リクオ。もう気付いていると思うけど、妖怪と人間のハーフです・・・・』

リクオくんからの手紙だ。その後には、昨日聞かされた奴良組の事等が丁寧に書かれていた。更に、

『最初は驚くかもしれないけど、奴良組の妖怪達は、皆いい奴ばかりだから心配しないで。好きになって欲しいとは言わないけど、姿形だけで怖がったり、嫌ったりしないで欲しい・・・・』

これは、昨日良く分かった。まだ少し怖いけど、皆いい人・・・いや、いい妖怪だと思う。

その後は、昨日起こった事等が細かく書かれていた。最後の、リュック抱えて夜の散歩に行ったというのが、良く意味が分からないけど。私が今日困らないように、気を遣ってくれたんだ。優しいな、リクオくん。私が奴良組の皆を嫌いにならないように、皆のフォローまでして・・・・こんなリクオくんだから、側近の妖怪さん達に、あんなに慕われているんだね。

 

 

 

朝目覚めると、何故か、周りに皆が居た。

「お・・・おはよう・・・」

「おはようございます・・・リクオ様、ですよね?」

「う・・・うん、そうだけど。」

何か、氷麗だけ、凄く僕を睨んでる。

「リクオ様!」

氷麗は、ぐっと顔を僕に近づけてくる。

「ん、な・・・何?」

「あの女の体に入って、何をしてたんですか?」

「え?」

「実はリクオ様、初代がお気づきになって、ここに居る者はリクオ様と三葉殿が入れ替っていた事を知っているんです。」

黒田坊が説明してくれた。そうなんだ、お爺ちゃんも、皆も入れ替わりの事を知ってるんだ。

「それで若、何をなさってたんですか?」

氷麗は、更に顔を近づける。

「え?な・・・何をって?」

「裸を見たりとか、胸を揉んだりとかしてません?」

「え?む・・・胸?あ・・・そう言えば、あの時・・・・」

「揉んだんですかあ?!」

「い・・いや、ちょっとだけだよ・・・」

「ひ・・・酷い!私の胸は、一度も触ってくれないのに!」

「ええっ?何?それ?」

「若のばかあああああああっ!」

泣き叫んで、冷気を全開で発する氷麗。部屋の中も、皆も、一瞬で氷付けになってしまった。

 

大騒ぎの後、お爺ちゃんに呼ばれて部屋に行った。

「お爺ちゃん。」

「おお、リクオ戻ったか。」

僕は、お爺ちゃんの前に座る。

「お前、この間“入れ替わりの能力を持った妖怪を知らないか”と言っていたな?」

「うん。」

「ということは、三葉という女の子は半妖なのか?」

「うん。僕は、糸守で変化した。妖怪の血が騒ぐのも感じた。」

「そうか・・・・だが、あの娘は何も知らんぞ。」

「家族も皆、そうだと思うよ。多分ずっと昔で、もう記録も残っていないんだと思う。」

「なるほどな・・・・」

「でも、入れ替わりが三葉さんの能力だとして、何で突然僕と入れ替ったんだろう?」

「分からんな・・・・少し、様子を見るしかなかろう。彼女がお前に入っている時は、側近共を護衛に付かせる。」

「うん。」

 

学校に向かいながら、また糸守での事を考えていた。

手紙で昨日の事を伝えたけど、変化の事だけは伝えていない。それを言うと、三葉さんに妖怪の血が流れている事が分かってしまう。それは、流石にショックだろう。それに、三葉さんの体で変化して妖怪と闘ったなんて・・・・知られたら、やっぱり怒るよな?

「若・・・」

「ん?」

気が付くと、氷麗が、凄い形相でこっちを睨んでいる。

「また、あの女の事を考えていたでしょ!」

「え?そ・・・そうだけど、それは・・・・」

「若のばかあああああああああああっ!」

また、凄まじい冷気が放出され、辺り一面氷付けになってしまった・・・・

 

 

 

『へえっくしょん!』

昼食中に、テッシーと清司くんが揃ってくしゃみをする。2人は、朝から何度もくしゃみばかりしている。

「風邪でも引いたん?」

「昨晩は冷えたでな・・・おまけに、脚は川に浸かっとったし・・・・」

「もうこれに懲りて、妖怪探索なんて止めたら?」

「何を言うんだ、宮水君!妖怪の存在を世に知らしめるまでは、我々清十字怪奇探偵団の活動は終われない・・・いや、終わってはいけないんだ!」

「はい、はい・・・・」

妖怪の存在って・・・私はもう、嫌って程知らしめられちゃったんですけど・・・・

その時、サヤちんの視線に気付く。

「・・・・」

何か、朝から殆ど喋って無い。そのくせ、やたらと私ばかり見詰めている。な・・・何なの?

 

放課後、サヤちんに呼び出され、校舎裏に行った。テッシーと清司くんは、風邪気味ということで、既に先に帰っている。

「な・・・何やの、サヤちん?」

「三葉、あんたも昨日、川に行ったん?」

「え?い・・・行っとらんけど?」

「じゃあ、夜中に何処に行ったん?」

「え?な・・・何の事?」

「昨夜、三葉ん家に電話掛けたんよ。そしたら四葉ちゃんが、“テッシー達と約束がある”って言って出掛けたって。」

え~っ?よ・・・四葉ったら、何でそんな大事な事言わないのよ!

「夜中に何してたん?三葉、何か私らに隠してへん?」

ど・・・どう答えればいいの?リクオくんは、夜の散歩って言ってたけど・・・男の子ならともかく、女のあたしじゃ絶対怪しい・・・・

「じ・・・実は・・・」

「実は?」

「あ・・・あの・・・・て・・テッシー達が心配で、こっそり様子見に行ったんよ。」

「ひとりで?あんた、あんなにお化けとか苦手やのに?」

「う・・うん、そうやけど・・・・家、神社やろ・・・私も、巫女みたいなもんやから、い・・・いつまでもそれじゃあかんかなって・・・・」

 

何とかサヤちんを納得させて、少し遅れて家路に着く。

しかし、疲れた・・・・でも、サヤちんに嘘付いちゃって、申し訳ない・・・・

ん?よくよく考えると、リクオくん、本当に散歩だったの?

あれだけ皆に気を遣うリクオくんが、妖怪探索に2人だけで出掛けた、テッシーと清司くんを放っておくかしら?もしかして、さっき私が言ったのが本当で、リクオくん、テッシー達の様子を見に行ったんじゃ?

 

その夜、布団を引こうと思って押入れを開ける・・・と、朝は気付かなかったが、奥にリュックと細長い包みが置いてある。

「?・・・・こんな所に、こんな物入れたっけ?」

取り出して、中身を確認する。リュックの中には、祭りの舞の時に着る羽織袴が入っている。

何で、こんなところに?

そして、細長い包みを開けると ――――

「え?こ・・・これ、御神刀?」

待って、確か、朝のリクオくんの手紙に・・・

“リュック抱えて夜の散歩”

これを持ち出したのはリクオくん?でも、何で?・・・・あ!・・・・

私は、最初に入れ替った翌日の、自分の体に付いていた痣の事を思い出した。確かその前の晩、皆で妖怪探索に行っている。リクオくんは皆に“妖怪なんて出ていない”と言ったみたいだけど、サヤちんやテッシーは見たって・・・・

本当は、妖怪に襲われていたの?リクオくんが、皆を助けたの?・・・・で・・でも、その時は私の体だから、妖怪の力は使えない筈・・・・

 

この事が気になって、その夜は中々寝付けなかった。

 






“君の名は。”の二次創作を何作も書いてるわりには、糸守の訛りが未だに良く分かりません。なので、おかしな関西弁のようになってしまいます。
そのせいで、氷麗と三葉の罵り合いは、“ゆら”との罵り合いみたいになってしまいました。

三葉に自分の糸守での行動を伝えても、変化の事だけは伝えられ無いリクオ。しかし、三葉には徐々に怪しまれてしまいます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。