君の孫   作:JALBAS

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また入れ替わり、妖怪屋敷の中で逃げ回るリクオ(三葉)。
そんなリクオの異常に、いち早く気付く者が・・・・
三葉に入ったリクオの方も、何とか無難に振舞おうとしますが、次第にボロが・・・・




《 第三話 》

 

「きゃああああああああああっ!」

「待って下さい!どうなさったんですか?わかあっ!」

奴良組総本家の廊下を、一心不乱に逃げ回るリクオ(中身は三葉)。その後ろを、氷麗と、奴良組の妖怪達が追い掛けている。

「た・・・たすけてえええええええっ!」

長い廊下の角を曲がったところで、三葉は右手の襖を開けてその部屋に飛び込む。襖を閉め、身を低くして、じっと息を潜める。

「わかあああああああああっ!」

氷麗を先頭にした妖怪集団が、襖の向こうの廊下を駆け抜けて行く。一団が過ぎ去ったところで、リクオはほっと一息つく。

「何の騒ぎじゃ?」

「?!」

背後から、突然声がするので振り向くと、部屋の中央にひとりの老人が座っている。老人は、静かにお茶を飲んで居る。

 

え?このお爺ちゃん、さっきから居た?部屋に入る時に、全然気が付かなかったけど・・・・

 

改めてその老人を見て、三葉は少し震えた。そもそもここは妖怪屋敷、もしかして、目の前の老人も妖怪なのか?その奇妙な頭の形が、尚更人間らしからぬ雰囲気を醸し出している。

「ん?どうしたんじゃ?リクオ?」

「え?い・・・いえ・・・その・・・・」

恐怖と警戒心で、リクオは言葉が出ない。

「んんっ?」

老人は、リクオの様子がおかしいのに気付いて、じっと彼の目を見つめる。と、その時、

『総大将、ちょっと宜しいでしょうか?』

襖の向こうから、男の声がする。

「おう、入れ。」

『失礼します。』

襖が開き、ひとりの男が部屋に入って来る。だが、その男の姿を見て、三葉は凍り付いた。

入って来たのは、青い羽織を着て、黒い首巻を巻いた、イケメンの男性であった。

「首無、いつまでわしを総大将と呼ぶんじゃ?今の総大将は、リクオじゃぞ。」

「あ・・・も・・・申し訳ありません・・・・ん?り・・リクオ様?」

リクオは、“首無”と呼ばれた男を、がたがたと震えながら見つめていた。

「ど・・どうかなされましたか?リクオ様?」

「あ・・・あなた・・・ど・・どうして生きとるの?く・・・首が捥げたんじゃ?」

「捥げた?・・・捥げるも何も、私の首は・・・・」

そう言って、首無は、自分の頭部だけをはるか上方に浮かせて見せる。

「ひっ!」

その瞬間、三葉は白目を向いて、意識を失って倒れてしまう。

「り・・リクオ様っ?!」

慌てて、リクオに駆け寄る首無。

老人・・・ぬらりひょんは、腕を組んで、じっとその様子を見つめていた。

 

 

 

糸守の田舎道を、僕は学校に向かって歩いていた。

大丈夫かな?三葉さん・・・まさか、また入れ替るなんて・・・・

「三葉~っ!」

後ろから名を呼ばれて振り返ると、テッシーとサヤちんが、自転車に2人乗りしてこちらに向かって来る。

良かった、2人とも元気そうだ。釣瓶落としの件は、夢か幻と思ってくれたんだな。

 

と、思ったら、サヤちんはその件がショックで、昨日1日寝込んでいたそうだ。テッシーの方も、未だに夢とは思えないといった感じだ。

「三葉は、覚えとらんの?」

「覚えてるも何も、妖怪なんて見て無いし・・・」

「ん?昨日は、“妖怪探索なんか行っとらん”て言っとったやろ?」

「え?」

そ・・・そうか、昨日は三葉さん本人だったから、当然そう言うよな・・・・

「あれ、三葉、また髪結っとらんね?」

「ほんまや、また侍やな?」

「う・・うん、ちょっと寝坊して、時間が無くて・・・・」

「何か三葉、雰囲気違わない?」

「え?」

「妙に落ち着いとるしな・・・・」

「そ・・・そんな事無いよ!」

「言葉使いも、変やない?」

「そ・・・そんな事・・・」

「全然、訛っとらんしな?」

ま・・・まずい、どうしよう・・・・

「おはよう!諸君!」

そこへ、清司くんが割って入って来た。

「あ・・お・・おはよう清司くん。」

『お・・・おはよう・・・』

サヤちんとテッシーは、ちょっと力無く挨拶を返した。先日は、散々彼に振り回されたのだから、分からなくも無い。

「名取くん、もう体は大丈夫かい?」

「え?・・・ええ・・・」

「そうか、じゃあ今夜は、第2回妖怪探索に出掛けても大丈夫だね?」

『ええ~っ?!』

3人揃って、不平の声を上げた。

 

昼休み、いつものように、校庭の隅で昼食を取り、食後にまたその話になる。

「私はもう嫌やっ!絶対に行かへんからっ!」

サヤちんは、目に涙を溜めて訴える。

「そ・・・そんな?妖怪をこの目で見る、絶好の機会なんだよ?」

「もう二度と、あんな怖いもの見とう無い!」

「え~っ?」

同意が得られず、清司くんはがっくりと肩を落とす。

「諦めや、清司。俺が、一緒に行ってやるで。」

そう言って、テッシーは清司くんの肩に手を置く。自分も怖い思いをしている筈なのに、優しいんだな、テッシーって。

「三葉はどうするんや?」

「え?」

急に、テッシーが僕に振って来る。

「い・・・行く訳無いでしょ!私、そういうの苦手なんだから・・・・」

ここは、こう言っておかないと怪しまれる。それに、2人を見守るなら、別行動の方が都合がいい。

「そんなあ・・・・」

清司くんは、更に肩を落とす。それを、テッシーが懸命に宥めている。

 

夜も更けた頃、僕は、こっそりと家を抜け出そうとする。しかし・・・・

「お姉ちゃん?こんな時間に、何処行くん?」

妹の四葉ちゃんに見つかってしまった。

「あ・・・い・・いや、ちょ・・・ちょっと、テッシー達と約束があって・・・」

「こんな夜中に?」

「う・・うん・・・」

「その包みは、何やの?」

脇に抱えた包みを見て、四葉ちゃんは聞いて来る。

実は、妖怪相手に毎度丸腰では心もとないので、神社から御神刀をこっそり拝借して来ていた。

「こ・・・これは、て・・テッシーに頼まれた物で・・・・」

「背中にしょっとるリュックは?」

「こ・・・これも、テッシーに頼まれて・・・・」

リュックの中には、着替えが入っている。三葉さんの服では、変化した時に窮屈なので、神社にあった羽織袴を借りて来た。

「ふうん・・・・」

四葉ちゃんは、相変わらず不審そうに見つめている。

「じゃ・・・じゃあ、行って来るね。」

そう言って、僕は逃げるように家を出て行った。

 

三葉が出て行った後、四葉が部屋に帰ろうとすると、突然電話のベルが鳴った。

部屋に行きかけたところで戻って、四葉は電話に出る。

「はい、宮水です。」

『あ・・・四葉ちゃん?早耶香やけど・・・』

「ああ、サヤちん。お姉ちゃんなら、今出たとこやよ。」

『え?ど・・・何処に?』

「テッシーと約束や言っとったけど、サヤちんも一緒やないの?」

『ええっ?!』

 

その頃、テッシーと清司は、山のふもとの小川に居た。

「何で、こんな時間に川に網を張るんや?」

「この時間に、この川に網を張ると、“川男”という妖怪が出てくるんだ。」

「ほお?・・・・」

テッシーは、半信半疑で作業を手伝っている。

 

その2人を、木の陰からじっと見つめる妖しい影がひとつ。身の丈は2m近くあるだろうか、細身で全身どす黒い怪物が、獲物を狙うような目を2人に向けている。

「ひひひひひ・・・俺様の狩場に入り込むとは、運の無い奴らだ。」

「待ちな。」

その黒い影を、背後から呼び止める者が・・・・妖怪の姿に変化した、三葉だ。今夜は白と赤の羽織袴に身を包み、御神刀を肩に掛けている。

「何だ?手前は?この辺は、この川男様のナワバリやぞ!」

「今度、この辺をシメる事になった“奴良リクオ”だ。」

「ふざけんじゃねえっ!」

川男は、三葉に向かって水を吐く。鉄砲のような水が、三葉を襲う。しかし、三葉の体は幻のように揺らいで、水鉄砲はすり抜けていくだけだ。

「な・・・どうなってやがる?これならどうだっ!」

川男は、マシンガンの如く水鉄砲を連射する。その連射で、三葉の姿は跡形も無く消える。

「へっ、粉微塵に吹っ飛んだか?」

「こっちだ。」

背後からの声に振り向くと、三葉が、御神刀を振り上げて待っていた。

「喰らいな。」

三葉は、刀を振り降ろし、川男を一刀両断する。

「ぎやああああああああああっ!」

激しい血しぶきが上がり、川男は真っ二つに・・・・なってはいなかった。

「え?・・・あれ?」

自分が切られていない事に気付き、茫然とする川男。

「今のは、俺の畏が見せた幻覚だ。まだ闘るってんなら、今度は本当に叩っ切る!」

「ひいええええええええっ!」

川男は、三葉の前に土下座をする。

「ま・・・参りました。さ・・・流石、噂に聞く奴良組の三代目。」

「今後、俺のシマで勝手な悪行は許さねえ!いいな?」

「へへええええええええっ!」

こうして、また、糸守でのリクオの百鬼が増えていく。

 

「おい、全然妖怪なんて出えへんやないか!もう帰ろうや。」

「何を言うんだ、勅使河原くん!これからだよ、これから!」

その後、何時間待っても、2人の前に川男が現れる事は無かった・・・・

 

 

 

「んっ・・んんっ・・・」

目が覚めると、朝起きた時と同じ布団の中だった。また、気を失っていたようだ。

体を起こすと、横に、先程のお爺ちゃんが座っていた。

「・・・あんた、リクオじゃ無いな?」

私は、無言で、ゆっくりと頷いた。

「あんたは、何者だ?何故、リクオの中に居る?」

そんな事言われても、私も何が何だか分からない・・・・答えられず、戸惑っていると、

「ああ、済まない。どうやら、あんたにも分からんようだな・・・・すまんが、あんたの事でいいから、話してくれんか?」

「は・・・はい・・・・」

私は、自分の名前が“宮水三葉”という事、岐阜県の糸守町に住む高校2年生の女子である事、お婆ちゃんと妹との3人家族で暮らしている事、リクオくんと入れ替ったのは今日が2回目である事等を説明した。

「あんた、人間か?」

「は・・はい、もちろん・・・」

お爺ちゃんは、その答えに対してだけは、何故か怪訝そうな顔をして私を見つめていた。

「うむ・・・あんたの事は、良く分かった。今度は、こっちの説明をする。もう分かっていると思うが、ここは関東任侠妖怪一家“奴良組”の総本家だ。あんたが入れ替っとるのはわしの孫、奴良組三代目総大将“奴良リクオ”だ。」

「は・・はい・・・」

この人、このリクオくんのお爺ちゃんだったのね。

「ただ、リクオは完全な妖怪では無い。半妖じゃ!」

「半妖?」

「簡単に言えば、妖怪と人間のハーフじゃ。リクオの母親は、人間じゃ。」

そ・・・そうなんだ!・・・あ、先日会った髪の短い女性、あの人がリクオくんのお母さん?どう見ても妖怪に見えなかったけど、人間だったんだ・・・・

「カラス天狗、おるか?」

「はい、総大将、ここに。」

突然、目の前に服を着た、喋るカラスが現れた。しかし流石に、もうこの程度では驚かなくなった。

「お前まで・・・もうわしは、総大将では無いと言ったろ。」

「いえ、私ももう隠居の身です。リクオ様の百鬼は、息子達に引き継ぎました。ですから、私にとっての総大将は、生涯あなたです。」

「やれやれ・・・・すまんが、リクオの側近だけをここに呼んでくれんか?」

「はっ!」

そう言って、カラスさんは飛び立って行った。

 

少しして、部屋にカラスさんに呼ばれた、リクオくんの側近の妖怪達が集まって来た。

私は、お爺ちゃんの横に座り、その側近妖怪達と対峙している。

まず、朝起こしに来る長い髪の、手が異様に冷たい女の子。未だに、心配そうに私の顔を見詰めている。

次は、体が大きく、肌は黒く、髪が角のように尖っているお坊様。

その隣もお坊様だが、こちらは細身で、長い黒髪に笠を被っていて、あまり妖怪っぽく無い。

そして、先程も会った“首無”さん。首巻で遠めには分かり難いが、良く見ると、胴体と頭部の間にはっきりと隙間が・・・これは、未だに馴染めない・・・怖い・・・・

その隣に、もうひとり女の人。ウェーブのかかった長い髪で、非常に色っぽく、胸も大きい。大人びた女性だ。

最後は、名前を聞かなくても姿で分かる。絵本等でも良く見た姿、河童。

まず、お爺ちゃんが話を切り出す。

「回りくどい説明は抜きじゃ。単刀直入に言うが、ここに居るリクオは、リクオであってリクオじゃ無い。」

『はあ?』

全員、怪訝そうな顔をする。

「姿はリクオじゃが、中身は、岐阜の糸守に住む女子高生じゃ!」

『ええ~っ?!』

全員、一斉に驚きの声を上げる・・・・それはそうよね・・・・

 






さり気無くテッシー達を助けたつもりのリクオですが、出掛けた事がサヤちんにばれてしまいます。これが、この後どう影響してくるのか?
この話に出て来る“川男”は、本来人を襲う妖怪では無く、やたらと話し掛けて延々話し続ける傍迷惑な妖怪なんですが、それでは百鬼にならないので、勝手にアレンジしてしまいました。

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