君の孫   作:JALBAS

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突然、奴良組三代目奴良リクオと入れ替ってしまった三葉。元々苦手な魑魅魍魎に囲まれ、何度も失神してしまう羽目に・・・・
一方、その三葉と入れ替って糸守に来てしまったリクオ。転校生の清十字清司に振り回され、妖怪の住処に入り込む事に。
その妖怪に襲われ絶体絶命の時に、人間である筈の三葉の体に変化が・・・・




《 第二話 》

 

「まずは、お前から喰ろうてやるうううううううっ!」

釣瓶落としは、壁にもたれて項垂れている三葉に向かって来る。だが、その三葉の体が徐々に変化していく。髪の色が、見る見る内に銀色に染まっていく・・・・

「・・・い・・いい加減にしやがれ・・・」

「ぐわああああああっ!」

釣瓶落としは三葉の首筋に噛み付く・・・・が・・・三葉の体は、幻のように消え去ってしまう。

「な・・・何?ど・・・何処に行った?」

「ここだ!」

釣瓶落としの背後に、煙のように黒い闇が立ち昇り、その中から三葉が現れる。しかし、その姿は今迄の三葉のものでは無かった。

髪は銀色に染まり、元の倍の長さになって、風に棚引くように伸びている。身の丈は170cmを越え、成人男性のような体格になっている。そして、その顔にある細く鋭い目が、釣瓶落としを厳しく睨み付けている。

「人に仇なす妖怪は、この俺が許さねえ!」

「き・・・貴様、妖怪だったのか・・・しかし・・・・」

釣瓶落としは、尻尾のような長い髪を再び振り回す。

「わしは今迄に、何匹もの妖怪をもこの髪の餌食にして来たんじゃ!」

髪を鞭のように撓らせて、変化した三葉に襲い掛かる。

「鏡花水月!」

しかし、三葉の体は幻のように霞むだけで、全く捕えられない。

「な・・・何故だ?どうして何の手応えも無いんじゃ?」

幻のような三葉の姿は、ゆっくりと釣瓶落としに近づいて来る。

「おのれええええええええっ!」

釣瓶落としは、もう一度鋭い牙で三葉に嚙付く。しかし、またしても三葉は幻のように消えてしまう。

「喰らえっ!」

突然、釣瓶落としの脳天を凄まじい衝撃が襲う。

「ぎいええええええええええっ!」

釣瓶落としは、思い切り地面に叩きつけられてしまう。

その頭は、木片で地面にめり込まんばかりに押さえつけられている。木片の先には、再び三葉の姿が現れる。

「どうだ・・・ちったあ、手前にやられたもんの痛みが分かったか?」

「ぐうおおおおおおっ!な・・・何者じゃ?き・・・貴様?」

「関東任侠妖怪・・・奴良組三代目、奴良リクオだ!」

「ぬ・・・奴良組?!」

三葉は、木片を離す。顔を上げた釣瓶落としは、変化した三葉の姿を見上げて、再び地面に頭を付ける。

「も・・・申し訳ございやせん!ぬ・・奴良組の三代目とは気付きませんで・・・し・・失礼の数々、お・・お許しを・・・ど・・どうか、命ばかりは・・・・」

相手が奴良組三代目と知ってからは、釣瓶落としは、急に大人しくなり縮こまってしまう。それもその筈、京都で関東の奴良組が鵺を倒した事は、全国の妖怪に知れ渡っている。その奴良組の総大将ともなれば、そんじょそこらの妖怪が太刀打ちできる相手では無い。

「お前、天下布武組の者か?」

「え?・・・い・・・いえ、違いやす。ここらは、はぐれ里なんで、天下布武組のナワバリや無いんです・・・・わ・・わしは、何処にも属してやせん・・・」

「そうか・・・・じゃあ、今夜から糸守は俺が仕切る!俺のシマで、人に仇なす事は許さねえ!」

「へ・・・へへえええええっ!」

「分かったら、とっとと失せろ!」

「へ・・へい!」

釣瓶落としは、すたこらと逃げ去って行った。

その姿が完全に消え去った後、三葉(リクオ)は改めて自分の体を見渡す。

 

・・・俺の体じゃねえのに、何で変化できるんだ?今も、妖怪の血がたぎっているのを感じる・・・・まさか?・・・・

 

「ん・・んんっ・・・・」

その時、気絶していたテッシーが声を上げた。三葉は、直ぐに変化を解いて元に戻り、サヤちんのところまで寄って彼女を抱き起す。彼女の方は、まだ気を失ったままだ。

「ん?ど・・・どうなったんや?俺?」

テッシーは、ゆっくりと体を起こす。

 

「だ・・・大丈夫?テッシー?」

「み・・・三葉?・・・俺、どうしてたんや?・・・あれ?化けもんは?」

ここは、幻でも見たと思わせた方がいいな?

「え?何?化け物って?」

「何って・・・さっき出たやろ!どでかい首の化けもんが!」

「何処に?」

「何処って・・・・ん?・・・何処や?」

「木の葉か何かを、見間違えたんじゃないの?化け物なんて、出てないよ。」

「え~っ?そんな、俺は確かに・・・・」

テッシーは怪訝そうな顔をするが、当の釣瓶落としが居ないんじゃ証明のしようが無い。奴もあれだけ脅しておけば、当分僕達の前には現れないだろう。清司くんはいきなり気を失ったから妖怪を見てないし、サヤちんもこのまま家に連れ帰れば、夢でも見たと思うだろう。

こうして、清十字怪奇探偵団糸守支部の第一回妖怪探索は、うやむやの内に終了した。

 

 

 

「・・・ん?・・・」

顔に当たる陽の光で、目が覚める・・・・見慣れた天井、聞き慣れた鳥の囀り・・・・ゆっくりと体を起こして、辺りを見回す・・・・いつもの、私の部屋だ・・・・

何だろう?凄く、怖いものでも見たような・・・・徐々に、記憶が蘇って来て・・・・

「きゃああああああああああっ!」

悲鳴に反応して、階段を駆け上がる音が聞こえて来る。

「ど・・どないしたん?お姉ちゃん?」

勢い良く襖が開き、血相を変えた四葉が顔を出す。

「え?」

そこで、我に帰る。ここには、妖怪は居ない。いつもの私の部屋、いつもの朝、いつもの四葉の顔・・・ほっと、一息付く。

「ご・・・ごめん、ちょっと、怖い夢見ちゃって・・・・」

「夢?・・・なんね、人騒がせな・・・・もうごはんやよ!早よ、顔洗ってきいな!」

その後もぶつぶつと小言を言いながら、四葉は下に降りて行った。

夢?夢だったんだよね?あれは・・・・妖怪なんて、実際に居る訳無いし。でも、何か生々しく記憶に残ってる・・・・思い出したく無いけど、鮮明に思い出せてしまう。こんな夢ってあるの?

とりあえず、立ち上がろうとすると・・・

「痛っ!」

腰の辺りに激痛が走った。な・・・何なの、この痛み?

何とか立ち上がって、姿見の前まで行き、パジャマを脱ぐと・・・・

「ええっ?」

腰の辺りに、大きな痣がある・・・何で?昨日、転んだりしたっけ?昨日は、妖怪に驚いてただけで・・・いや、あれは夢だから・・・昨日・・・何してたんだっけ?

 

朝食を終え、学校に向かって歩いていると、

「三葉~!」

テッシーの声が聞こえて来たので、振り返る。自転車がこちらに近づいて来るけど・・・

あれ?テッシーひとり?サヤちんは?

「おす!」

「おはよう、テッシー・・・サヤちんは?」

「あ、ああ・・・昨日の件が、ショックだったみたいや。今日は休むて・・・」

「昨日?何かあったっけ?」

「例の、妖怪騒ぎや。」

「えっ?」

 

その後、学校に行って更に驚いた。いきなり私の隣の席に、知らない男子が居て、その人は馴れ馴れしく“宮水くん”と話し掛けて来る。昨日転校して来たという話だが、そんなの知らない。仮にそれが事実だとしても、何でこんなに馴れ馴れしいの?まるで、何年も友達だったような口ぶりなんですけど・・・・

「いやあ、しかし昨夜は残念だったな。絶対妖怪が出ると思ったんだが・・・」

「でも、早耶香は確かに見た言うとるが。」

「え?何の話?」

「昨晩の、妖怪探索の話に決まってるじゃないか?」

「だから、何やのそれ?さっぱり分からんのやけど。」

「お前も行ったやろ?」

「何で私が?私がそういうの苦手なの、テッシーも知っとるやろ。」

「何言っとんのや?お前が行く言うから、早耶香も付いて来たんやろ!」

「ええ~っ?」

全く話が噛み合わない。今日は、一日中そんな感じだった。ただ、散々口論したおかげで、清司くんという転校生とは、気兼ね無く話せるようになった。

 

夜は、家の奥の作業部屋で組紐作りを行った。

私とお婆ちゃんが、専用の器具で紐を組み合わせる。四葉は、糸を縒り合わせる作業をしている。

「あ~ん、私もそっちがいい。」

「四葉にはまだ早いわ。」

四葉が不平を言うが、お婆ちゃんに言いくるめられてしまう。

「わし達の組紐にはなあ、糸守の歴史が刻まれとる・・・・・」

作業をしながら、お婆ちゃんの得意の口上が始まる。小さい頃から、何度聞かされたことか・・・

「・・・・今を遡ること200年前、草履屋の繭五郎の風呂場から火が出て、ここら一帯は丸焼けとなってまった。お宮も古文書も皆焼け、これが俗に言う ――― 」

そこでお婆ちゃんが私を見るので、

「繭五郎の大火!」

私はすらりと答える。お婆ちゃんは満足そうな顔をする。

「ええっ?火事に名前ついとるの?繭五郎さん可哀想・・・・」

四葉が驚く。

「おかげで、わし達の組紐の文様が意味するところも、舞の意味も解らんくなってまって、残ったのは形だけ。せやけど、意味は消えても、形は決して消しちゃあいかん。形に刻まれた意味は、いつか必ずまた蘇る。」

お婆ちゃんは、そう言って作業を続ける。

でも、ずっと離れた家の風呂場から出だボヤでお宮まで燃えるなんて、本当にただの火事だったのかな?

 

 

 

目が覚めると、自分の部屋だった。入れ替り・・・かどうかはまだ分からないが、三葉さんになっていたのは、昨日だけのようだ。

「若っ!」

突然、勢い良く襖が開いて、氷麗が飛び込んで来る。

「だ・・大丈夫ですか?若?」

「ああ、おはよう氷麗。」

「わ・・・私が分かるんですね?」

「え?・・・う・・うん。」

「良かったあっ!」

そう言って、氷麗は抱き付いてくる。

「お・・おい・・・」

「し・・心配したんですよ、あのまま元に戻らなかったら、どうしようって・・・・」

はは・・・やっぱり、昨日は僕の中に三葉さんが居たようだ・・・・

 

その後は、皆に会う度に同じような反応をされて大変だった。でも、まさか見ず知らずの女の子と入れ替っていたと言っても信じないと思って、適当に誤魔化した。

しかし、昨日は何故あんな事が起こったんだろうか?あれも、妖怪の妖力か何かかな?だとすると、僕の力とは思えない。じゃあ、三葉さんの?

三葉さん、人間だと思っていたけど・・・・昨日感じた、あの血の騒ぎは・・・・でも、どう見ても妖怪には見えない。友達の話を聞いても、お化けや妖怪の類が苦手って言ってた。昨日は、家の組の小妖怪にさえ怯えてたみたいだし・・・・もしや、半妖?

「若、何か悩んでおられるんですか?」

「え?あ・・ああ、な・・何でも無いよ。」

学校へ向かう途中、考え込んでいたので氷麗が心配して聞いてくる。

考えても答えは出ないな。そもそも、あれは昨日で終わりだったのか?もしかして、また同じ事が起こるのかな?

 

「リクオくん、昨日はどうしたの?まさか、出入りとか?」

「え?ち・・違うよ、ちょ・・ちょっと、体調が悪くて・・・・」

学校に着いたら、今度はカナちゃん達が心配して尋ねて来た。

「まさか、清継にうつされたんじゃ無いよね?あいつも、昨日から休んでるけど。」

と、巻さん。

「え?清継くん、休んでるの?」

「風邪でも引いたんじゃねえ?熱が下がらないって、島が慌ててた。大方、また夜中まで妖怪探索してたんじゃねえの?もう、夜は冷えて来たってのに・・・・」

「わざわざ探索しなくても、リクオくんの家に行けば見れるのにね。」

「ちょ・・・ちょっとカナちゃん、が・・・学校では・・・・」

「あ・・・ご・・・ごめんなさい!」

高校生になって、クラスメイトも変わったので、僕が妖怪の総大将である事を知っているのは、中学から一緒の清十字怪奇探偵団の皆だけだ。余計な混乱を起こさないよう、学校では僕の正体は秘密にしている。

そうか、清継くんは休みか。清司くんの事を、聞きたかったんだけどな。

 

家に帰って、廊下を歩いていると、縁側でお爺ちゃんがお茶を飲んでいた。

「おお、お帰り、リクオ。」

「ただいま。」

お爺ちゃんの顔を見て、ふと昨日の事が気になったので聞いてみた。

「ねえ、お爺ちゃん?」

「ん?」

「他の妖怪と入れ替る能力を持った妖怪、って知ってる?」

「はあ?・・・・何じゃそりゃ?入れ替り?・・・・」

お爺ちゃんは、少し考え込んでいたが・・・・

「聞いた事が無いのぉ・・・それが、どうかしたのか?」

「う・・・ううん、な・・何でも無いよ。」

お爺ちゃんでも知らない。やっぱり、三葉さんの妖力じゃ無いのかな?

 

翌朝、目が覚めると・・・・

「え?・・・」

ま・・また、三葉さんの部屋だ。また、入れ替ってる!

 

 

 

「きゃああああああああああっ!」

「待って下さい!どうなさったんですか?わかあっ!」

奴良組総本家の廊下を、一心不乱に逃げ回るリクオ(中身は三葉)。その後ろを、氷麗と、奴良組の妖怪達が追い掛けている。

「た・・・たすけてえええええええっ!」

 






という訳で、このお話では三葉もただの人間では無く、半妖です。但し、1/4どころでは無く、妖怪の血は相当薄いです。本人も、家族も、妖怪の血が混ざっている事は知りません。まずは、三葉に妖怪に慣れてもらわないと、話が進まないのですが・・・・
リクオの方は、糸守を勝手に自分のシマにしてしまいました。こんな事をして、糸守の妖怪達が黙っているのでしょうか?・・・・

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