君の孫   作:JALBAS

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いよいよ、彗星が最接近する日がやってきました。
住民避難計画はうまくいくのか?繭五郎は、どう動くのか?
一方、奴良組総本家には、ようやくぬらりひょんが帰って来ます。
両面宿儺と繭五郎について、何か記録は見つかったのでしょうか?




《 第十一話 》

 

今日は、いよいよ彗星が地球に最接近する日。

あのイタクさんの地獄の特訓があった日以降、リクオくんとの入れ替わりは無かった。

でも、もう準備は整っている。あとは、それを卒なく実行するだけ!

 

その日は学校を午前中で抜け出し、神社の境内の裏に皆で集まった。もちろん、妖怪さん達も一緒だ。今夜の避難計画の、最終確認を行う。

「テッシーは、避難誘導の責任者やから、皆をうまく糸守高校に誘導して。」

「おう、任せとけ!」

「清司くんも頼むに。」

「任せたまえ、宮水くん。」

「妖怪さん達は、それぞれ地区に分かれて、皆を脅かしてうまく糸守高校の方へ逃げさせて。」

『へい!あねさん!』

「あ、あんまり酷い事せんといてね。けが人とか出たら大変やから。」

『分かってます!あねさん!』

「あんたらも、うまくやってね。」

私は、妖怪さん達の中で縮こまっている、松本達3人に声を掛ける。それぞれ、個性のある妖怪のコスプレをしている。

「・・・・ああ・・・」

松本は、力無く答える。

「どうしたん?元気あらへんね?」

「こ・・・こんなに妖怪に囲まれて、いつも通り振る舞える、お前の方が異常やないんか?」

「え?・・・そう?」

 

このひと月の間、殆ど妖怪に囲まれて生活していたため、三葉にはもう、妖怪に対する恐怖心や警戒心は全く無かった。

 

「サヤちんは、防災無線を使って避難誘導をお願い。糸守高校の放送室から、防災無線をジャックできるから。」

「う・・うん。」

何だかサヤちんは、まだ妖怪さん達が少し怖いようだ。

避難計画は、これで大丈夫。あとは、繭五郎がどう動くかだけど、いくら何でもたったひとりで、糸守の全住民と妖怪達をどうにかできるとは思えない。繭五郎だって、彗星の破片落下で死ぬのは嫌だろうし・・・・大丈夫、きっとうまくいくわ!

 

 

 

――― 3年後、東京浮世絵町 ―――

奴良組総本家では、リクオの部屋でリクオと氷麗が話していた。

 

「いよいよ、今日ですね。」

「うん・・・・」

「三葉は、大丈夫でしょうか?」

心配だけど、もう僕にはどうしようも無い。うまく行くことを、祈るだけだ。

「リクオ。」

すると、お爺ちゃんが部屋に入って来た。

「お爺ちゃん、戻ってたんだ?」

「うむ、今戻ったところじゃ・・・・直ぐに、側近の者を集めよ。」

「え?」

「両面宿儺と繭五郎について、分かった事を伝える。」

 

僕は、急いで青田坊や黒田坊達を部屋に集めた。

お爺ちゃんの前に、僕達は並んで座っている。

「遠野にある、膨大な口伝の資料を探し回っておったので、ここまで時間が掛かった。」

「それでお爺ちゃん、その両面宿儺って?」

「遙か昔、1200年以上前に、飛騨地方におった妖怪じゃ。」

「せ・・・1200年以上前?」

「身の丈は十八丈(約60m)、二面の顔を持ち、八本の手足を持つ最強の妖怪であり、都の大軍勢にも屈せず、並み居る妖怪達も歯が立たなかったと記されておった。」

「何故飛騨に?それ程の力があるのなら、全国を支配できたでしょう?」

黒が問う。

「両面宿儺には、そのような野心は無かった。妖怪のみならず、人も、生きとし生けるもの全てを愛しておった。それを踏みにじろうとするものには、敢然と立ち向かった。そういう妖怪じゃったとそうじゃ。」

「魑魅魍魎の主、という訳では無かったのですね?」

「うむ、わしらのように、百鬼を率いておったのでは無い。ただ、側近ともいえる2匹の妖怪を従えておった。」

「側近?まさかそれが?」

僕は、とっさにそう聞いた。

「そうじゃ、“マユゴロウ”と“ミヤズミ”じゃ。」

『ミヤズミ?』

全員が、声を上げる。

「な・・・何なのお爺ちゃん、そのミヤズミって?」

「ミヤズミ・・・・この名を聞いて、何か思い当たらんか?リクオ?」

「え?・・・ミヤズミ・・・みや・・・・あ?そ・・・それって?」

「そうじゃ!宮水じゃ!」

『ええっ?!』

また、全員が声を上げる。

「じゃあ、三葉さんは、両面宿儺の側近の妖怪の子孫だったんだ?だから、繭五郎は宮水家を良く知っていた・・・・」

「理由は知らんが、ミヤズミは人と交わり、その世代を繋いでいった・・・・それに対しマユゴロウは、転生を繰り返して現代まで残った。」

「転生?」

「そうじゃ、マユゴロウは、羽衣狐と同じ転生妖怪じゃ。」

「そ・・・それで初代?両面宿儺は、どうなったのですか?」

首無が、口を挟む。

「そ・・・そうです。それほどの妖怪が、何で歴史に語られていないのですか?」

黒も続く。

「それがな、1200年前を境に、一切の記録が無い。全く姿を消してしまったんじゃ。」

『ええっ?!』

またもや、全員が驚く。

「・・・1200年前・・・そ・・それって?」

僕は、ある事に気付いた。

「お爺ちゃん、1200年前って、ティアマト彗星が前回地球に最接近した時じゃ?」

「そうじゃ!」

「それと、両面宿儺が姿を消したのと、何か関係があるの?」

「それは分からんが、わしもその事が何か関係しているのではないかと思っとる。」

「もしかして、1200年前にも糸守に彗星の破片が墜ちた・・・・」

「ええっ?」

「リクオ様、いくら何でもそれは?」

氷麗と青田坊が、僕の意見に疑問を投げかけて来る。

「でも、この間見てきた御神体のある山、火山でも無いのに頂上にカルデラがあった。あんなの、隕石でも落ちないとできないんじゃ無いかな?」

「では、そこに1200年前に?」

「ううん、あれはもっと古そうだ。そんな感じで、彗星接近の度に破片が墜ちてるとしたら・・・・」

「では、1200年前の破片の落下で、両面宿儺は命を落とした?」

「待って、それじゃ、繭五郎は何で生きてるの?」

「ミヤズミも、子孫を残してるしな?」

「たまたま逃げ延びたとか?」

「側近が、主を見捨てて逃げ出したのか?俺には信じられん!」

皆の意見が交錯するが、答えは出ない。

「それでお爺ちゃん、繭五郎が何を企んでいるのかは、分からないの?」

「分からん。マユゴロウという妖怪についての記録は、殆ど無いでな。分かっているのは、両面宿儺の側近であった事、転生妖怪である事、一度転生をするのに3年の月日が掛かる事だけじゃ。」

「退魔の剣についての記録は無いんだ?」

「それなんじゃがな、お前の言った繭五郎が使った“退魔の剣”、三葉が使った“光魔の鏡”、これらは、どちらも両面宿儺の妖力として記録されておる。」

「えっ?ど・・・どういう事?」

「この2つの妖力が、両面宿儺を無敵たらしめた要因のひとつじゃ。」

「ひとつ?他にも何かあるのですか?」

と、黒。

「記録を見る限りでは、まだ何かありそうじゃが分からん。何しろ、千年分を越える膨大な資料の中から探しておる。まだ全てを検索し終わっとらん。遠野では、引き続き調べてもらっている。分かり次第、連絡をくれるそうじゃ。」

僕は、また考え込む。

繭五郎や三葉さんが、両面宿儺の妖力を使っているという事は・・・・やはり、両面宿儺は彗星の破片の落下で命を落とし、その力を側近の2人に受継がせた?

でも、マユゴロウとミヤズミは、何故自分達だけ生き延びたのか?両面宿儺の事を、後世に伝える為?

いや、それはおかしい。人と交わって記憶も無くなっていったミヤズミはともかく、マユゴロウは転生を続けていた。いくらでも、記録を残す事はできた筈だ。でも、そうしていない。逆に、大火事を起こして古文書を消失させたりしている・・・・

 

「リクオ様!大変です!」

そこに突然、黒羽丸が飛び込んで来る。

「どうしたの?黒羽丸?」

「たった今、天下布武組の使いの者が・・・飛騨で、大変な事が起こっていると!」

「飛騨?・・・大変な事?」

 

黒羽丸に付いて縁側に出ると、そこには傷だらけの、天下布武組の使いのカラス天狗が居た。

「ど・・・どうしたの?」

「と・・・突如、飛騨の山奥から・・・きょ・・巨大な妖怪が現れ・・・・て・・天下布武組のナワバリで暴れまわって・・・妖怪も・・・人も・・・町も目茶目茶に・・・・」

「何だって?て・・天下布武組の妖怪達は?」

「殆どやられました・・・・か・・カワエロ様も、深手を負って・・・でも、まだ闘っています・・・ど・・どうか・・・・力を貸して下さい・・・・」

「相手は、どのくらいの軍勢なの?」

氷麗が尋ねる。

「それが・・・・たったひとりで・・・・」

『た・・・たったひとりに、天下布武組が?』

そこに居た皆が、揃って声を上げる。

「そいつは、どのような妖怪じゃ?」

お爺ちゃんが尋ねる。

「は・・・はい・・・・身の丈は、十八丈程で・・・・か・・・顔を二つ持ち・・・手足は、八本あって・・・・」

「え?そ・・それって、両面宿儺?!」

 

 

 

――― 3年前、糸守 ―――

もう日が暮れ、空には彗星が見え始めている。

宮水神社より左手の湖の近く、テッシーと数名の妖怪達が、林の中から町の様子を伺っている。

「そろそろや、皆、準備ええか?」

『おう!』

テッシー達が林から出ようとした時、目の前に人影が現れる。

「な・・・何や?あんた?」

それは、唐草模様の着物を着た、白髪の老人だった。

「ホッホッホッホッホッ。」

『?!』

その老人の目を見た途端、テッシー達の動きが止まる。そして、彼らの目から、徐々に生気が失われていく。

「ホッホッホッホッホッ。」

老人・・・いや、繭五郎は、不気味に笑い続ける。

 

糸守高校の放送室、サヤちんが、マイクの前に座って盛んに時計を気にしている。

 

も・・・もう直ぐ、約束の時間・・・・き・・・緊張する・・・・

 

手の平に“人”という字を書いて飲み込み、ほっと一息つく。

「ホッホッホッホッホッ。」

「?!」

突然、背後から笑い声が聞こえたので、驚いて立ち上がり、振り向く。そこには、繭五郎の姿が・・・・

「あ・・・あなたは?!」

サヤちんは、一度繭五郎を見ている。恐怖で、がたがたと震え出してしまう。

「ホッホッホッ、そんなに怯えんでもええ。別に、取って喰ろうたりはせん。」

そう言って、繭五郎はサヤちんの目を見詰める。

「・・・・」

サヤちんの目が、テッシー達と同様に生気を失っていく。それと同時に、体の震えも止まる。繭五郎はサヤちんに近づき、1枚の紙を彼女に差し出す。

「放送は、これに書いた通りに喋るんじゃ。」

「はい・・・・」

感情の無い、機械のような声で返事をして、サヤちんは、その紙を受け取る。

 

私は、神社の境内の裏、いつもの集会場に待機していた。釣瓶落としさん、川男さん、ヤマガロさんも一緒だ。この妖怪さん達は、お祭りで神社に集まった人達の担当。彼らが住民を脅かして、私が妖怪さん達の足止めに入って、皆を糸守高校に避難するように仕向ける巫女さんになる。現実味を出すために、白と赤の羽織袴を着て来た。あと、繭五郎が出た時の備えに、リクオくんがお婆ちゃんから預かった、宮水家先祖代々から伝わる妖怪を討つ刀“零葉”も持参した。

最も、私が繭五郎に歯が立つなんて思って無い。イタクさんに鍛えてもらったけど、一晩で剣の達人になんてなれる訳が無いし、光魔の鏡を自在に使いこなせるようになる訳も無い。だから気休めというか、お守りというか・・・・でも、心のどこかで、ピンチの時はリクオくんが助けに来てくれるじゃないかって、淡い期待を抱いていたのかもしれない・・・・

「あら?」

左手の、糸守湖の周辺の方が何やら騒がしい。どうやら、始まったようだ。

「じゃあ、私達もそろそろ・・・・」

言い掛けた時に、防災無線の放送が流れる。

『こちらは、糸守町役場です。・・・・』

え?もう放送?ちょっと早くない?まだ私達は、騒ぎを起こしてないのに・・・・

『信じられない事態です。町に、妖怪が現れました。住民の皆さんは、大至急宮水神社に避難して下さい。神社には、陰陽師により強力な結界が張られています。妖怪は、入って来られません。大至急、宮水神社に避難して下さい・・・・』

え?何で、宮水神社に避難するの?陰陽師の結界って何?そんな話聞いてない!

第一、宮水神社は、彗星の破片落下の中心になる。ここに来たら、皆助からない!

 

湖の近くでは、テッシーが住民の避難誘導をしている。しかし・・・・

「急げ!早う、宮水神社へ逃げるんや!」

それに誘導され、住民は一路宮水神社を目指す。

 

「きゃあああああああっ!」

「うわあああああああっ!」

町のあちこちで悲鳴が上がる。妖怪が住民を脅かし、宮水神社の方へ追い立てて行く。

 

「があああああああああっ!」

「ひひひひひひひひひっ!」

妖怪に扮した松本達が、住民を脅して追い立てて行く。やはり、宮水神社の方に・・・・

 

「た・・大変!皆、こっちに逃げて来る・・・・こ・・・このままじゃ・・・・」

空を見る上げると、彗星が大きな尾を引いて、空に紐のような模様を描いている。良く見ると、その先端が2つに割れている。

「ふ・・・2つになっとる。もう直ぐ、ここに墜ちて来る。」

私は、後ろの妖怪さん達の方を向く。

「み・・・皆、何でこうなったか知らんけど、このままじゃ皆死んじゃう!あなた達で脅かして、何とか町の皆を糸守高校に追いやって!」

『あ・・ああ、分かりやした、あねさん!』

「そうはさせんぞ。」

妖怪さん達の、更に後ろから声がする。この嫌な声は、忘れられる訳が無い!

「ホッホッホッホッホッ。」

『て・・・手前は?!』

闇の中から、繭五郎が姿を現す。

「あ・・・あんた、いったい何をしたん?」

「お前さんのお仲間は、全員わしの術中に嵌っておる。皆を、この宮水神社に誘導するようにな。」

「な・・・そ・・そんな事をしたら、皆死んじゃう!」

「その通り、皆、彗星の破片の落下で滅ぶんじゃ!」

「そ・・・そんな事、させへん!皆、こんな奴に構っとらんで、町の皆を避難させてっ!」

『へ・・・へい!』

「そうはさせんと言っておるじゃろう!」

繭五郎は、右手を前に翳す。すると、地面の中から何本もの蔦が飛び出し、私達を絡め取ってしまう。

「きゃああああああっ!」

「ぐうおおおおおおっ!」

「ぬうううううううっ!」

私も、妖怪さん達も、蔦に絡め取られ身動きできなくなってしまう。

「彗星の破片が墜ちるまで、大人しくしていてもらおう。」

「そ・・・そんな・・・・」

蔦で、体を縛られ、全く動けない。刀を抜きたくても、両手は体に固定されているので、どうにもならない。

「ぐぬううううううっ!」

「おのれえええええっ!」

妖怪さん達も、蔦を引き千切る事ができない。

「や・・・止めて!こ・・・このままじゃ、あなたも死ぬんよ!」

「望むところじゃ。わしも、一度死ぬ必要があるでな。」

「ええっ?」

な・・・何を考えているのこいつ?自分も死ぬ?まさか、町全体を巻き込んで心中しようって言うの?

「くっ・・・う・・ううんっ!」

どんなにがんばっても、蔦は緩むどころか、どんどんきつく締まっていく。

だ・・・だめ!このままじゃ、みんな・・・・た・・・助けてっ!リクオくんっ!

 






ぬらりひょんから告げられた、両面宿儺と繭五郎の正体。
そして、突如飛騨に現れた、両面宿儺と思われる大妖怪。その出現は、何を意味するのか?
一方、3年前の糸守では、遂に繭五郎が動き出した。繭五郎のせいで、避難計画は台無しにされ、絶体絶命の危機に陥った三葉。
繭五郎は、何を企んでいるのか?そして、三葉の運命は・・・・

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