錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道   作:シエロティエラ

3 / 13

夫ミナトが亡くなって十六年、色々と事件は起きたけど、ナルトは健やかに成長してくれた。あの日、結局ナルトの中に九尾は封印されたけど、私はどうにかして蘇生させられた。
普通人柱力は尾獣を抜かれると死ぬ。私のように攻め入力の強い一族なら再び尾獣を封印すればいいが、通常は蘇生することはない。
でもあの日、九尾にどういう心境の変化があったのか知らないけど、私にチャクラの一部を流し込んで私を蘇生した。たぶん、あの時現れた不思議な少年が関係しているのだろう。
あの少年には本当に感謝している。ミナトがチャクラを練っているときも身を挺して時間を稼いでくれた。
あの日以来、少年はちょくちょく顔を見せに来た。容姿に全く変化がないことは、彼が別世界から来たが故だろう。
この十六年、親友が一族郎党皆殺しにされたり、その息子が二人とも抜け忍になったり、息子が他国のお姫様を落しちゃったりといろいろあった。そして今は、『暁』と呼ばれる脅威と全面戦争になるため、その準備に追われている。
人柱力であるナルトとビーさんを護るため、皆が力を合わせている。ミナト、どうか見守っていてください。




剣の御子と忍の世界 其の弐

 

 

 忍、言い方を変えるのならば忍者とも言われる職種。この世界では忍者という存在が当たり前である。

 初めて知ったときはとても驚いた。何故なら諜報だけでなく、所謂何でも屋みたいなこともしているからだ。迷子の捜索を忍者がやっていると知ったときは、開いた口が塞がらなかった。この世界では、スパイと警察、探偵業を忍者が兼任していたのである。

 

 

「……どの世界でも、人は争うのか」

 

 

 戦の準備を始める人々を眺めながら、俺はため息をついた。事の詳細は分からないが、世界を統べようとする組織を止めようとする戦らしい。そして鍵を握るのが、俺かこの世界で十六年前に助けた赤ん坊だとか。たしか名前はナルトだったか。

 あの後オレは元の世界に還ったが、師匠と凛姉に頼んで定期的にこの世界に来ていた。今回はこの世界で四年年、元の世界で十年経過した時点で訪れたが、時の流れは速いらしい。

 五年前まで『木の葉隠れの里』では、ナルトは里一番の問題児、いたずら小僧として有名だった。また意外性No.1忍者としても名を馳せていた。それが今や里の英雄になっている。人間どう化けるかわからないものだ。

 それにしても後ろからくる気配、随分と懐かしい感覚だ。

 

 

「ねぇ君、何してるの?」

 

「やっぱカカシさんだったか」

 

「あれ? その声……もしかして剣吾?」

 

「御名答」

 

 

 俺は腰かけていた岩から立ち上がり、声をかけてきた男性と向き合う。

 彼の名前ははたけカカシ。ナルトの班の隊長で、俺が救えなかった男の教え子。特別な力を持った左目は額当てで隠されており、顔の下半分はマスクによって隠されている。俺自身この人の素顔は見たことがあるが、久しぶりに見る彼の顔は、どことなく老けたように感じる。

 

 

「随分と疲れてそうですね」

 

「ま、戦争前だからね。色々と準備もあるし、気が抜けないのよ」

 

「戦争……ね」

 

「うん」

 

 

 それっきり俺たちは黙りこくる。どちらとも口を開くこともなく、空を見上げる。

 青い空が広がっていた。まるでこれからたくさんの血が流れるのを『知るかそんなの』とでも言いたげに太陽が照らしている。白い雲は優雅にそれを泳ぎ、風は大地に小波を立てている。

 

 

「……随分と見なかったけど、いくつになったの?」

 

「今年で二十五だな」

 

「じゃあそっちでは十年経ってるんだ。早いね~」

 

 

 自然と他愛もない会話を始める。互いに戦争のことなんて考えたくもないのだ。もしかしたら知人が死ぬかもしれない。同僚が、友が、教え子がこの戦争で命を落とすかもしれない。

 忍という立場に身を置いている以上、命の危険は承知の上であろう。だがそれでも、一度に沢山の命が失われることは殆どない。最後に戦争が起きたのはおよそ十数年前、ナルトが生まれる少し前である。その時もたくさんの死者が出たのだろう。カカシの友も、その時戦死したと聞く。

 

 

「剣吾はどうするの?」

 

「戦には参加しないつもりさ」

 

「そうなの。君がいたら、敵味方共に余計な犠牲が出ないと思うけどなぁ」

 

「俺はこの世界の人間じゃないから。十六年前は兎も角、今回は余程のことがない限り手を出さんよ。本来はカカシ達でやらなければならないことだからな」

 

「ま、それ言われちゃしょうがないね」

 

 

 たはは、とカカシは困ったように笑う。勿論手を貸したいのは山々だ。だが俺はこの世界では異物、おいそれと手を出して『世界』から目を着けられるわけにはいかないのだ。今までは抑止に抵触しない、最低限の関わりに済ませていたため、何も問題は起こらなかった。だが俺が戦争に参加することで抑止が働けば、死者を最低限に留めることが出来なくなる。

 

 

「クシナさんには会っていかないの?」

 

 

 考え事をしていると、カカシが話しかけてきた。クシナとはナルトの母親である。あの日、何とかして九尾、九喇嘛をなだめることに成功した俺は、九喇嘛に頼み込んでクシナさんを蘇生させた。その甲斐あってか、ナルトは母親の愛情を受けてしっかりと育ってくれたようである。

 

 

「少なくとも、この戦が終わるまで会うつもりはないよ」

 

「そう」

 

「カカシ先生、何さぼってるんですか?」

 

 

 カカシと話していると、桃髪の少女がこちらに駆け寄ってきた。彼女以外にも金髪ポニテの少女、頭で髪を二つの団子に結っている少女もいる。確か春野サクラと山中いの、テンテンだったか。三人とも年相応に成長しているみたいだ。

 

 

「あれ? この人誰ですか?」

 

「どっかで見たことあるような」

 

「こんな珍しい服着てる人、そうそう忘れないけどなぁ」

 

 

 三者三様に反応を示すさまを見て、俺とカカシは苦笑を浮かべた。これ以上俺がここにいると、作業に遅れが出て支障が出るだろう。無関係者は早々に立ち去るとしよう。

 

 

「じゃあなカカシ。元気そうでよかった」

 

「そうだね。生きてたら積もる話でもしようね」

 

「変な旗立てるなよ。またな」

 

 

 俺はカカシ達に背を向け、その場から去った。背後から俺が誰なのかを知って驚愕する声が聞こえたが、まぁ戦が終わればいくらでも話す機会があるだろうよ。それまでは傍観させてもらうか。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 結論を言うと、俺は結局戦に介入した。明らかに抑止力が働くような事案が起こったためだ。

 死者が大量に蘇ったことはまぁいいだろう。実際彼ら自身の手で死者をお封印できているし、最終的には術は解かれ、死者は黄泉に還っていったからだ。

 問題はその後だ。目の前で超巨大な怪物が出てきて暴れたと思いきや、何故か更に四人の死者が味方に付いて一時優勢に立った。そこまでは良かった。だが何者かがその怪物を吸収し、一気に情勢が崩れた。

 

 

 ――剣吾、聞こえるか?

 

 

 そのとき頭の中声が響いた。既に座に招かれた父の声が、何故か俺に語り掛けてきた。父は元の世界だけでなく、移動した後の世界でも英雄と崇められ、そのまま天寿を全うした。その後、座に招かれたことは分かっていたが。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 ――『世界』からの通達だ。『抑止』が働くことになった。

 

「成程、父さんが出るのか?」

 

 ――いや、オレが出るのは後だ。まずはお前が出る、それでも困難ならオレも出る。

 

「了解、そんじゃ父さんが出なくてもいいように頑張りますかね」

 

 ――ならお手並み拝見だな。

 

 

 そこで念話は途切れ、俺に力が湧くのがわかる。成程、俺は世界と契約はしていないが、これが抑止の加護という奴か。ならば早速行くとしますかね。

 崖の上から立ち上がり一気に駆け降りる。そして降り立った場所は、木造りの巨大な千手観音の前だった。周りは急に現れた俺に対し、動揺が隠せないようだ。だがその中で一人、冷静にこちらに目を向ける者がいた。

 

 

「久しぶり、になるのかな? まさか死んでたとは思いませんでしたが」

 

「そうじゃのう。懐かしいが積もる話は後じゃ。おぬしがここにいるということは、手を貸してくれるのか?」

 

「ああ、でもここではなく向こうの杖持った奴だけど」

 

「ならば早く駆けつけるといい、ここはわしらに任せて行け」

 

「了解!!」

 

 

 全身に強化をかけ、全速力で杖を持つ奴の許に向かう。そしてそのスピードが乗ったまま風と炎を纏った拳を叩きつけた。叩きつけられた奴は、面白いように吹っ飛んでいく。だが殴りつけた感じ、どうやら人間とは違った感触がした。恐らく怪物を取り込んだ時に、色々と対組織が変質したのだろう。

 

 

「……あれ? もしかして剣吾兄ちゃんだってば?」

 

「随分とでかくなったな、二人とも。それに、強くなったようだ」

 

「……」

 

 

 俺の後方にいるのは、あの日助けた赤ん坊とその親友だったもの。どうやら片方、サスケのほうは何やら狂気に侵されかけている気がするが、まぁ今はいいだろう。

 意識を前方の敵に向けると、両隣に二人とは別の人物が立った。片方はとても懐かしい人物だ。

 

 

「やぁ、君にとっては久しぶりになるのかな?」

 

「そうだな」

 

「四代目、こやつは何者だ?」

 

 

 ミナトとは逆側から問いかける男性。古風なしゃべり方をしているということは、ミナトよりも前の人間なのだろう。得体のしれない俺を警戒しているのがわかる。

 

 

「ま、警戒するのは構わない。でも今はあいつを優先しましょうよ」

 

「ん、そうだね」

 

「はぁ、気楽な奴らだ」

 

 

 男が呆れてるのがわかる。苦笑すると同時に、前方の瓦礫から人が勢いよく飛び出した。俺が殴った頬はひび割れ、切り傷と火傷が体を襲っている。どうやら()()()()()とやらは効かないらしいが、俺の攻撃は通るらしい。ならば話は早い。

 

 

「――投影開始(イミテーション)

 

 

 両の手に鋼の槍を生み出し、それぞれに風と炎を纏わせる。それを見た隣の男性とサスケは驚愕を、空に浮いている男は憎悪を浮かべた。何故俺を憎々しげに見ているかわからないが、殴ったことではないのは確かだ。

 

 

「さてナルト、ミナト。準備はいいか?」

 

「ん!! 問題ないね!!」

 

「いつでもいいってばよ、兄ちゃん!!」

 

 

 ミナトの隣にナルトとサスケが並び、それぞれ構える。どうやら準備万端みたいだ。

 んじゃまぁ、行きますかねぇ。

 

 

 

 




結論から言うと、戦争は無事に終わった。何やら敵の親玉が変わったり、急にみんなが木の根っこに繋がれたり、真のラスボスが太古の人間だったりといろいろあったが、無事に終わった。
その後、サスケとナルトが殺し合って互いに利き腕なくしたりしたが、まぁそれは当人たちの問題だ、俺の関与するところではない。
クシナさんに一言挨拶しようとは思ったが、俺もこれ以上この世界に留まることは好ましくないだろう。それにこの世界に来ることはないだろう。だから俺はナルトに伝言と別れの言葉を言い、この忍の世界を去った。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。