錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道   作:シエロティエラ

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第2弾、行きます。
時系列は剣吾の年齢で推測してください。





剣の御子と忍の世界 其の壱

 

 

 魔術使いとして活動を始めて早四年。父が世界から追放させられたのが一年半前。高校に入学してからは、あまり仕事をできる時間がなかった。そのため、長期休みに纏めて消化するような状態になり、この前宝石翁に叱られた。

 お仕置きとして世界を渡って修行することになったのだが、いきなり目の前に起こっているものを見て固まってしまった。

 考えても見てくれ、魔法陣を通った先には特撮怪獣並みにデカい九尾の狐がいるんだぞ? しかもそいつが伸ばした手の先には二人の男女が赤ん坊を庇って爪を刺されてるし。固まるなという方が無理だ。

 取り敢えず俺は狐に突進して蹴り飛ばした。序でに男女にも駆け寄り、簡単に治癒魔術をかけて傷を修復したのだが。

 

 

「……君は?」

 

「あとで話す。取り敢えずあの狐をどうにかするんだな?」

 

「あ、ああ。忍びないが、息子に九尾を封印する。あの子なら、仮令俺たちが死んでも、力を使いこなすと信じて」

 

 

 俺たちというと、あっちの赤髪の女性は母であり、この男の妻か。話の内容からすると、二人とも長くないのだろう。そして恐らくだが、助かる道は殆ど無いのだろう。

 

 

「なら急げ。時間は俺が稼ぐ。お前達の息子は、この先然るべきときまで俺が見守っておこう」

 

「……どうしてそこまで。さっき僕らの傷を治した技術からして、君はたぶんこの世界の人では無いのだろう? なのにどうして」

 

 

 確かに俺にそこまでする義理はない。見捨てようと思えば見捨てられる。俺は父さん達みたいな正義の味方にはなれない。でも親の背中を育って見てきた俺がここで彼らを見捨てたら、二度と一人前になれないと、親に顔向けできないと直感が告げていた。

 

 

「別に理由なんてねぇよ。ただ俺の親は、自分の大切なものを守りつつ、救いを求める人々に手を伸ばした」

 

 

 起き上がった狐がこちらを睨みつけてきた。その目には憎しみ以外の何も宿っておらず、我を忘れているようにも伺える。あの状態で赤ん坊に封印すると、もしかしたら赤ん坊が耐えられないかもしれない。取り敢えず頭を冷やさせるか。

 

 

「俺の夢は、俺の生まれ育った街を死ぬまで守り続けること。街を泣かせないよう、死ぬまで戦うことだ。あんたの羽織を見る限り、あんたは俺の夢の一端の体現者ということだ。ならそいつに協力しないわけがない。それに……」

 

 

 

 狐の口にエネルギーが収束し始めた。恐らく、エネルギー弾か火炎放射を放つのだろう。幸いすぐ近くから衝撃のためか、地下水が湧いている。使わない手はないだろう。

 

 

「俺の家系、衛宮の家系は、少なくとも二代前から人のために戦ってきた。争いがなくなるように、せめて目に映る人々に笑顔でいて欲しいがために。俺達衛宮は、その夢を踏まえて各々自身の目標を作り、人々に手を差し伸べてきた。ただ、それだけだ‼︎ 水よ、我等を守り給え(ラグス・エオロー・ソーン)‼︎」

 

 

 

 空中に三つのルーンを刻むと、地下水が勢いよく噴出し、俺たちを守るように壁となった。同時に狐が炎を吐いてきたが、それらはルーンの護りによって悉く防がれた。護りを解除すると、狐の表情が驚愕に染まっているのが見えた。さて、こちらも反撃に出ますかね。

 

 

焔と風を司る精霊よ(エンチャント・バースト)我に灼熱と疾風の加護を(サイクロン・ヒート)

 

 

 呪を紡ぐと、俺の着ていた黒のコートに紅と新緑のラインが張り巡らされ、それらのラインは俺の顔にも浮かび上がる。切り札は使えないが、今できる全力で挑まないと、俺は狐に殺されるだろう。手加減はしてられない。

 

 

「んじゃ行ってくる。俺が合図を送ったら頼んだぜ」

 

 

 俺は言葉を発すると同時に駆け出した。

 

 

 四代目を始末しようとしたときに、突如虹色の光とともに乱入してきた小僧。奴はわしらの使う忍術や仙術とは全く異なる力を使っていた。もしかしたら使うエネルギーとチャクラではないのかもしれない。とにかくやることなすことが異質だった。

 その証拠に目の前の小僧は、全身に妙な力を張り巡らしてこちらに向かってきている。風のように早く鋭く、炎のように荒く雄々しい動きでわしを翻弄する。滅多なことで傷付かないわしの体が、どんどん傷んでいく。

 攻防を続けている中で、小僧は何度もわしに問いかけてきた。

 

 

「なぁ、お前さんは何に憎しみを持ってるんだ」

 

 

 何故そんな馬鹿馬鹿しいことを聞くのだろう。自分が憎しみを抱くのは人間以外の何者でもない。昔から人間はわしらを見下し、モノとして扱い、力として見ることしかしてこなかった。そんな存在にどうやって良い感情を持てと?

 わしが叫ぶように攻撃とともに吐く怨嗟の言葉を、小僧は口を挟むことなく聞いていた。生意気だ。何もかもわかっているような目をしている。その目が自分を余計に苛立たせた。

 

 

「どうせ貴様もそうだろう‼︎ 世界が変わろうが世代が変わろうが、人間の本質は変わらん‼︎」

 

 

 怒号とともに口から火を吐く。それを奴はまともに食らって、地面に落とされた。少し、ほんの少しだけ溜飲が下がり、小僧に目を向ける。そしてわしはまた驚いた。奴は殆どダメージを受けず、諦めを感じさせない目をこちらに向けていた。

 わしと戦った千手柱間でさえ重傷を負うのは必至だった。まぁ今の攻防の何倍も激しいモノだったが。それでもそこらの忍程度では悪くて死ぬほどのものだ。忍でもないものがここまで耐えられるものだろうか?

 疑問を頭で解消しようとしているときボソリと。

 

 

「……アーチャーと、話に聞いた親父の成れの果てにそっくりだ」

 

 

 小僧がそう呟いたのが聞こえた。その言葉を聞いたとき、頭が幾分か冷えたのが自覚できた。小僧の言葉から察するに、小僧の父親の成れの果ては、人間に憎しみを抱く乃至(ないし)人間に絶望したのだろうか? この小僧の父親はい何をしたのだ。

 

 

「……気になるか? なら取引だ。俺の全てを見せる代わりに、お前の全てを見せてもらうぞ」

 

 

 そう言った小僧はわしの頭に乗り、手を当ててきた。どうやら写輪眼のような一方的なものではなく、相互干渉するものらしい。だからか、写輪眼のような嫌悪感があまり湧かなかった。まぁ気持ち悪いのは変わりないが。

 手を当てられた箇所から妙な力が流れ込む。それと同時に頭の中に声が響く。

 

 

「これより汝が見るのはある男の末路。我が母より受け継ぎし、『世界』に囚われた別時空の我が父の記録」

 

 

 その言葉とともにわしの精神は、万華鏡のような天井と床に覆われた空間に入れられた。

 

 

 

 






九尾と青年の動きが止まった。まるで大暴れしていたのが嘘みたいに、今は二人とも目を瞑って佇んでいる。いったい彼は何をしているのだろうか?
そして今更ながら気づいたけど、彼は戦いながらこちらの治療をしていた。僕とクシナの周りには微量の風が渦巻いており、本来ならもう死んでも可笑しくない僕ら二人が生きている。そして少しずつだけど、チャクラも癒されて回復してきている。
地面を見ると妙な文字が刻まれており、僕やクシナにも形は違うものの、文字が刻まれだ石が結びつけられていた。これがどういう術なのかわからない。印や術式を用いる僕らでも、たった一文字や二文字で術を発動させるのは難しい。
でも今は彼の力に感謝しよう。僕はもう屍鬼封陣で死ぬことは確定してるけど、もしかしたらクシナは助けられるかもしれない。
あと少し、あと少し力が回復すれば。




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