錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道 作:シエロティエラ
年内に更新できてよかった。
さて、この外伝も今話可クライマックスに突入していきます。
それではゆったりとお過ごしくださいませ。
ある時から相棒、ヴィルヘルムとの連絡がつかなくなった。その時は丁度フィンランドのほうで大きな出来事があったらしい。
何やら星のエネルギーとやらを喰らう存在が人工的に起きだし、偶々ヴィルヘルムがそれに対抗出来る唯一の切り札だったらしい。エネルギーを吸い付くしたソレが地球を出ようとした際、ヴィルは対抗力を全開にしてソレを撃破、消滅させた。エネルギーは星に還っていったが、ヴィルも消息不明となった。
そのことを非常に焦った様子で、彼の伴侶たるシェリア・エーデルフェルトが涙ながら電話してきたのは、記憶に新しい。彼女の義妹でヴィルの実妹をはじめ、あちらでの仕事仲間たちも血眼になっているらしいが、見つからなかったようだ。
で、オレは何をしているかというとだ。
「……お前はいつまでそうしているつもりだ?」
「念のために見て回ってるんだ。地脈も、フィンランドを中心に色々と傷ついているからな。」
「そんなもん、お前ひとりでやらなくても……」
「オレも当事者の一人だ、オレが負うべき責任なんだよ。」
件の彼をとっ捕まえて縛って座らせている最中だ。偶々イギリスとフィンランドから離れた地、アメリカに仕事があってきてみたら、なんとサンフランシスコ近郊の、とある町の地脈を調べているこいつを見つけたわけだ。まぁこいつが連絡を入れないのはいつものことだし、今回もどうせ使い魔を使ったから大丈夫、なんて考えているんだろう。
「念のため聞くが、電話は?」
「……あのとき壊れた」
「連絡はしたか?」
「使い魔を送った」
やっぱり。こいつの使い魔は送って到着するまでに時間がかかる。通常の使い魔の二倍は確実にかかる、理由は知らないが。ただでさえ国を跨げば一日、二日単位の時間はいるのに、こいつのなら一週間かかったりするのだ。こういっちゃなんだが、使うだけ無駄である。
「はぁ~、電話貸すから自分で無事を伝えろ」
そう言って俺は携帯を取り出し、相棒に渡した。まぁこれでシェリアさんの心配事も一つ減るだろう。そう言えばこいつには二人、男の兄弟の息子たちがいたな。彼らも高校生故に表には出してなかったが、行動の端々からこいつを心配しているのは理解できた。なんだかんだ言って家族思いのこいつは、子供も大きな反抗期を迎えることなく、円満な家族生活を送っていたのだろう。
「すまない、助かった」
「……泣かれたろ?」
「……ものすごく」
「だろうな。こいつを渡しとく」
俺が取り出したのは小さなピアス。一見ただのアクセサリーだが、実は高性能の魔術礼装である。これと附合するピアスを付けている人間とは、仮令地球の反対側にいても交信できる代物だ。因みにその附合するものは、シェリアさんが付けている。まぁ相棒からのちょっとしたプレゼントだ。
「気を付けろ。嫌な話を聞いている」
「ああ、魔術師のドッペルゲンガーの噂だろ?」
「目撃されたのは全て灰すらも残さぬよう処理されているらしい。ロードが時計塔の長となった今では非道さは成りを潜めているが、未だ昔のように人体実験などをする輩も多い。今回の騒動も、その一環かもしれん」
「そうだろうな。元々俺がここに来たのは、それの調査だからな」
今回アメリカに来たのは、そのドッペルゲンガーの調査をし、運が良ければアジトを見つけだすというもの。相手を消すなどという依頼は受けていないため、罠をはられたり、ヘマを犯さない限り危険なことになることはないだろう。
というより俺もこいつ同様、妻子を持つ身の上である。養子である翔太郎は故郷に戻って探偵として活躍しているが、それでも心配はかけさせたくない。だから余計な藪を突くことはしたくない。
◆
ヴィルと別れて、俺はワシントンへと向かった。何人かの諜報員や軍人とも親しいため、彼らの仕事に関係ない、有益な情報を仕入れるためでもある。今回のドッペルゲンガー事件は、彼らにとっても他人事ではない。何しろ魔術師に関係ない人物の事例も確認されているのである。首謀者が魔術師だけに、使えるものはなんでも使うということなのだろう。
もしもの時を考えて交通機関ではなく、自分の足でワシントンに向かうことにした。幸いとある世界でもらえた「ホイポイカプセル」にバイクが入っていたから、乗り物の心配はなかった。
アクセル全開で太陽が照り付ける中、まっすぐ伸びる道を進む。何日かバイクを走らせ、そろそろネバダ砂漠に差し掛かるころ。この砂漠は核実験場としても有名な砂漠である。まぁ本来この地域は度重なる実験で放射線濃度が高く、通る人も少ない。というか規制されているかもしれないが、俺はこの地を走っていた。
暫く走っていると、急にあたりが暗くなる。まだ時間は昼過ぎだったため、スコールなどの急な雨じゃない限り、空が暗くなることはない。しかし暗くなってはいるものの、雨が降るような雲行きではない。というか先ほどまで雲一つない快晴だった。いきなり暗くなるなど、ありえる話ではない。
「となるとやっぱ魔術師、なのかな?」
『御名答』
俺の独り言に応えるように出てきたのは、全身を妙なボディースーツで固め、妙なヘルメットで顔をも覆った人物。魔術礼装だろう、父とは少し意匠の異なるアゾット剣を携えている。ということはこいつは魔術師。
「答えはしないだろうが一応聞こうか。お前、一連のドッペルゲンガー騒動に関係しているか?」
『……どうだろうな』
「まぁいい。んで、俺を張っていたということは、やるってことか?」
『いやいや、そのつもりはない』
こちらの問いかけにもはぐらかすような応じ方をする、目の前の魔術師。正直声もマスクで変えられており、男女の判別もつかない。腰にアゾット剣を携えているが、攻撃する気配もない。が、罠という可能性もあるため、油断はできない。こちらはこちらでいつでも対処できるように、魔術回路を開いておく。
『エミヤよ、気を付けろ』
「何?」
突如目の前の人物は語りかけてきた。敵かと思ったが、何故か忠告してきたから、ペースを崩されるのも仕方がないだろう。
『この先には、この騒動の魔術師たち
「魔術師、たちだと? まて、それ以前に何故俺に教える!? お前は一体……」
『ただのファンだよ』
「ファンだと?」
『お前と、生死をかけた戦いをしたいが、邪魔者がいると面倒だ。俺たちの戦いに、観客席は愚か、特等席も必要ない』
妙だ。どうやらこいつは自分と戦いたいそうだが、この地に蔓延る異分子が邪魔らしい。そしてこいつの話から察するに、その異分子が、ドッペルゲンガー騒動の首謀者たちらしい。どうもきな臭い。
『いいか。奴らに手を出すならば、出し惜しみなどするな。お前なら、どういうことかわかるだろう』
「……教えろ、なぜそこまで俺に肩入れする。お前は誰なんだ」
『言ったはずだ、ただのファンだと。だが一つ明かすとすれば、俺もお前も、奴らの被害者ということだな』
「被害者?」
『これ以上話すことはない。知りたくば早く任務を終わらせるといい』
そう言い残し、目の前の人物は姿を消した。気配遮断にしては完璧すぎる。知り合いの殺人貴並みの気配の消し方だ。こうなっては自分では到底見つけることは不可能である。今は諦め、先に進むしかないだろう。
アクセルをふかし、バイクを走らせる。何故か知らないが、この上ない寒気を感じる。このような悪寒がするときは、たいてい死にかけるようなことが起こる。そして今回の悪寒は今までの比ではない。四十を越して多少は衰えを感じてはいるものの、最盛期とあまり変わらない実力を持つ今の自分が、死ぬかもしれないような予感がする。仮面の男が言っていた、最初から本気を出さないといけないような案件になっているのだろう。
念のために連絡しておくか。
「……久しぶりだな」
『――――? ―――。』
「あー、ちょいとばかり面倒な案件でな。今回ばかりは若しかするかもしれん」
『―――!? ――――!!』
「ああ、簡単にはやらせんさ。だが一応な」
『……――』
「悪いな、忙しいのに。じゃあな」
――――何かあったら頼んだぞ、翔太郎。
如何でしたか?
今回は本編「錬鉄の魔術使い」でプチ登場をしたあの人が出てきました。そしてこのクライマックスの元ネタがもうわかった方、ネタバレは禁足事項です。
さて、平成最後の大晦日、皆さま健やかにお過ごしください。
今上天皇が退位されても、日本が戦争に関わることのない世の中であってほしいですね。
それでは皆様、また来年にお会いしましょう。