錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道   作:シエロティエラ

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ああ〜書いちゃった。
それでは記念の一話目、どうぞ。





剣の御子と星屑の勇者たち

 

 

 

 青年は夜の街にいた。短く美しい朱銀の神は風にたなびき、身に纏う真っ黒なコートも風に僅かに揺れていた。彼が見つめる先には。建物にヒビが入ったり、一部か唐突に壊れたりなど、摩訶不思議なことが起きていた。そしてその中心には奇妙な服装をした男と、それと対するように立つ四人の男がいた。五人のうち四人は人型のようなものを背後に控えさせており、老人は薔薇のようなものを右腕に巻きつけている。

 

 

「……師匠の話だと、あの気持ち悪い格好をした男がディランか。あいつを討伐ねぇ」

 

 

 手元の紙に目を向けた後、再び男に目を戻す。今は一人の学生服の青年によって、四方八方から宝石の弾丸を打ち込まれている。しかし打ち込まれた男の方は、余裕を感じさせるような動きで最低限の攻撃を避けている。

 そして全方向から一斉射撃を受けそうになった時、男が人型を出して能力を発動した。瞬間、周りの世界は時が止まったように動かなくなった。その男と戦いを見つめていた青年を除いて。

 

 

「……時止めか。それが奴の能力。厄介だがいくつか対策は浮かぶ。問題は吸血鬼としての体だが……まぁ死徒ではないから問題ないか」

 

 

 そうこうしているうちに、攻撃をしていた青年の体は貫かれ、貯水機まで吹き飛ばされてしまった。傍観していた青年はその死にかけの青年に駆け寄り、腹部の傷を調べた。もう幾ばくもない命だろう。しかし黒衣の青年は懐から大きなルビーを取り出し、エネルギーをほとばしらせた。

 すると不思議なことに、死にかけの青年の傷はみるみるうちに塞がり、呼吸も安定したものとなっていた。

 

 

「うう……君は?」

 

「通りすがりの、ちょっと不思議な力を使える人間だ。それより動けるか?」

 

「ああ、なんとか」

 

「なら話は早い。もう今日は戦闘できないだろうが、あのキチガイの力はわかったのだろう? 早く仲間に知らせてやれ」

 

「待ってくれ‼︎ 君はいったい……?」

 

「話は後だ、早く行け。少なくとも俺は敵じゃないと言っておく」

 

 

 青年はそう言い残すと、そのまま跳躍して男と老人を追っていった。残された青年は人型の力を借り、急いで他の仲間の元に向かった。

 

 

 黒衣の青年がディランという男に追いつくと、そこには喉にナイフを刺して倒れる老人と、ディランと向かい合っている。二人の学生服の青年がいた。片方は青年が先ほど治療した青年だった。

 

 

「貴様、花月宮‼︎ 何故生きている」

 

「親切な方が治療してくれたものでね。流石にもう戦えないが」

 

「バカな……治癒能力のスタンド使いなど、お前らの一行にいなかったはず……ッ⁉︎ そこにいるのは誰だ‼︎」

 

 

 ディランの視線は物陰に隠れていた青年に向けられていた。観念したのか、黒衣の青年は両手を上げながら出てきた。

 

 

「貴様か、花月宮を治療したのは」

 

「さてね。俺はてめぇの討伐を依頼されただけだよ、万華鏡の爺さんにね」

 

「ふんっ‼︎ その爺いが誰だか知らんが、このディランに刃向かうとはな。死ぬ覚悟はあるのか?」

 

「井戸の中の蛙に持ち合わせる覚悟はねえよ。その能力をどう発動してるかは知らんが、吸血鬼如きに遅れはとらんよ」

 

「ほう、ならば思い知るがいい‼︎ このディランの『ザ・ワールド』の恐ろしさを‼︎」

 

 

 再びディランから人型が出てくると同時に、世界は再び停止した。ディラン以外動く気配はない。口元に笑みを浮かべたディランは、先ず後方に飛んだ後に花月宮にナイフを投擲した。そして三人の背後に周り、能力を解除した。

 普通ならナイフは花月宮に飛び、避ける手段はないだろう。時間を停止し、その間に喉元にナイフが突きつけられているのだ。体感すれば、瞬きしている間に喉にナイフが刺さってしまう。

 だが能力を解除しても、花月宮が倒れる気配は一向にしなかった。それどころか、ディランは自分の腹部に鈍い痛みを感じていた。

 腹部に目を向ける。そこには先ほど自分が投げたはずのナイフが刺さっており、学生服ではない、黒衣の青年が何かを投げた体勢でこちらを向いていた。まさか、この青年は自分の能力下でも動け、自分の動きにもついてこれるのか?

 ディランの頭は疑問で埋め尽くされた。しかし悠長に構えてはいられない。現に今目の前で、大男を顕現させた学生服の男が、こちらに向かってきていた。咄嗟に自身もスタンドを出し、応戦する。しかし学生服の青年に気取られている間に、突如参戦した青年によって、せっかく無力化した老人を治療されてしまった、

 

 

「クソッ‼︎ 一旦態勢を整えるしかない。『ザ・ワールド』‼︎」

 

 

 能力を発動し、時間を止めたディランは、全速力でその場を離脱した。しかしディランは気づかない。その体に淡く輝くルーン文字が刻まれていることを。

 

 

 暫く、花月宮と老人が謎の青年に病院へ連れていかれているとき、残された学生服の青年、白銀浄ノ助は遠くからこちらに迫ってくるディランの影を見つめていた。先ほど自分の祖父が殺されかけたとき、自身の内から燃え滾る何かが湧いてくるのを感じた。

 無論今までのディランの所業に対しても怒りを感じた。しかし先ほどの感情はそんな生易しいものではなかった。あえて名前をつけるのであれば、それは殺意。あのとき、浄ノ助は確かにディランに殺意を憶えていた。

 

 

(まだだ。まだまだこんなものじゃねぇ。奴を倒すには、まだ怒り足りねぇぜ‼︎)

 

 

 浄ノ助は静かに闘志を燃やし、ディランを待ち構える。先ほどよりも力を増したディランの右手には、力なくぶら下がる数人の人間がいた。おそらく彼らから吸血することによって、己の力を幾分か取り戻したのだろう。ディランは手に抱えた数人は遺体を投げ捨てると、浄ノ助の目の前に降りてきた。その顔は先ほどまでとは異なり、不敵なものを浮かべている。

 そこで浄ノ助は察した。目の前の男は、今までのディランとは一味違うということを。

 

 

 

 病院で最低限の措置を行なった青年は、急いで自分がつけたマーキングを追っていた。先ほどからあっちこっちを移動していることから、残った一人と戦闘を繰り広げているのだろう。現在は巨大な橋の上にいるらしい。全身を魔力で強化して現地に向かう。そこで目にしたのは、ディランの人型が蹴りを、青年の人型が拳を繰り出し、互いに拮抗している場面だった。黒衣の青年は二人の近くに着地し、ことの成り行きを見守る。

 本来自分の仕事は、ディランが黄泉還らぬよう完膚なきまで抹消することである。しかし来てみれば、他の一行によって戦闘が繰り広げてられていた始末。加えて何かしら先祖の代から因縁があるような雰囲気だったため、なかなか手を出せずにいた。

 だが今はもういいだろう。目の前ではディランの人型が粉砕され、それによってディランもまた同時に粉砕した。ここまでやられたのなら、朝まで動けるようになることはないだろう。だが念には念を入れて、こちらの方法で完全消滅させることにした。

 

 青年の判断はある意味で正しかった。彼がバラバラになった体に近づいた瞬間、なけなしの力を絞ったのだろう、ディランは両腕を伸ばし、半分になった顔を愉悦に歪ませ、青年を見ていた。

 

 

「せめて貴様だけでも道連れダァ‼︎ 喰らえ、気化冷凍法‼︎」

 

 

 ディランがそう叫んだ瞬間、青年の掴まれた両足が凍りつき、身動きが取れなくなった。全くの予想外のことに、先ほどまで冷静だった学生服の青年も咄嗟に動くことができない。その事実にディランは己の勝利を確信した。ディランにとって両足を凍らせている青年は、治癒能力を持つ少し人より強い人間としか見えていなかった。

 だからこそ彼は理解できなかった。目から高圧で液体が発射される『空烈眼刺驚』を放とうとした右目が潰れているのか。左目から見える光景が信じられなかった。右目がある位置に、いつの間にか一本の槍が刺さっていたことを。謎の青年の両腕は、気化冷凍法によって凍りつき、凍っていないのは胸から上だけ。槍を隠していたとしても、取り出して使うことはできない筈だった。

 そしてディランは気づいた。自分の周囲に、十字架のような不恰好な剣が突き立っていることを。そしてその剣から得体の知れない雰囲気が滲み出ていることを。

 

 

「私が殺す、私が生かす。私が傷付け私が癒す」

 

「ッ⁉︎ グギィィィイアガアアア⁉︎⁉︎」

 

 

 青年が何かを呟き始めた途端、ディランを襲ったのはおよそこの世の苦しみ全て共言えるものだった。ディランを支配するのは痛みはもちろん、焼かれる、溺れる、切り刻まれる、崩れる、破裂する、そういった苦しみが同時に襲ってきた。

 

 

「休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる」

 

 

 青年の言葉は入ってこない。意識が朦朧とし、自分のどこが崩れ去り、どこがまだ残っているのかもわからない。

 

 

「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。永遠の命は、死の中でこそ与えられる。

 ――――許しはここに。受肉した私が誓う」

 

 

 もはやディランには苦しむ気力もなかった。体が浮遊するような感覚が全身を満たし、頭も冷静になっていく。凍っていた青年はいつの間にか自由の身になり、その手にはロザリオが握られていた。ディランの周りには金の多数の淡い光が集まり、渦を巻き、はるか上空に立ち上っている。その様子を学生服の青年は驚きを隠せない顔で。病院からはもう一人の学生と老人、そして先ほど運ばれてきた妙な髪型のフランス人が眺めていた。

 

 

Kyrie eleison(この魂に哀れみを)

 

 

 締めの言葉と同時に、金の光は弾けた。その時ディランは、なんとも言えないような充足感に満ちていた。自分では考えられないような、まるで因縁の始まりであるジョバンニ・ジョーンズが今際の際に浮かべていた笑みを、ディラン自身も浮かべていた。

 次があるのなら敵ではなく、純粋なジョバンニの友人としてありたい。そう夢見ながら、ディランは完全に消滅した。

 

 天に立ち昇る光の筋を見ながら、浄ノ助は意識を目の前な青年に向けていた。年齢は自分とさほど変わらない。だがその実力は高く、外見は自分よりも細身だが、純粋な肉弾戦では自分が負けるだろう。浄ノ助は警戒を崩さないまま、青年に近づいた。そしていつでもスタンドを出せるようにしながら、青年の隣に並び立った。ディランに刺さっていた槍と、五本の剣はいつの間にか消えている。

 完全に光が消えたところで、浄ノ助は青年に向き合った。

 

 

「お前のおかけで、ディランを倒せた。感謝する。だがお前、何者だ。スタンドも見えているようだが」

 

 

 浄ノ助が訝しげに尋ねると、青年は苦笑を浮かべて浄ノ助に向き直った。

 

 

「……俺は衛宮剣吾。こんな見た目だかれっきとした日本人で、通りすがりの魔術師だ」

 

 

 これが白銀浄ノ助と、彼の最も信頼する三人の相棒の一人、衛宮剣吾との出会いである。

 

 

 

 





如何でしたか?
こちらは時系列的には、メインで第3章が終わるぐらいです。
それではまた。



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