僕は提督で海に出る   作:旅の物見666

11 / 12
31.32話

『仲間』

 

様々な雑音がなる海上。

 

分断された秋雲は一人水面に浮かんでいた

 

秋雲

「…ようやく…かな?」

 

砲弾の直撃を何度も受け

 

機銃もそれなりに受けた

 

これなら

 

これならようやく…

 

秋…秋…

 

秋雲心の声

「あぁ…呼んでる…皆…」

 

秋雲の体は自然にゆっくりと海面から下がっていく感覚だ

 

秋雲…秋雲

 

秋雲心の声

「…今いくよ」

 

秋雲は苦しみより悔しいより、笑顔で沈んで…

 

秋雲

「いか…ない?」

 

アラン

「秋雲!秋雲!」

 

秋雲

「て、提督ゥ⁉︎」

 

アラン

「あ、元気だね⁉︎あはは、いやぁ間に合った。

これでも僕負傷してるから辛いんだよ?

で?秋雲、今の気持ちはどうだい?」

 

秋雲

「苦痛」

 

アラン

「あっははは!苦痛かぁ!良いね、 僕が嬉々として喜ぶ感想をありがとう。では、もう少しその苦痛を味わってもらう事になるが問題はあるかね?いや、ないね!君が答える権利は今はない!」

 

龍驤

「提督!今はそないな話しとる前にはよう逃げるで!」

 

アラン

「あぁ、そうだね。自らの被害を顧みず仲間を助けにいく、実に素晴らしく面白い。

実に王道の様だがまたそれも僕は好きだ。

ではミズキ、秋雲を頼むよ?」

 

水鬼

「は、はい」

 

アラン

「天龍、君は左腕をやられている様だが行けるかい?」

 

天龍

「問題ないぜ」

 

アラン

「よろしい、なら僕と一緒に斬り込むよ。

龍驤、君は艦載機がボロボロの様だが戦えるかい?」

 

龍驤

「こんな時の為のとっておきがある、まだいけるで」

 

アラン

「ならば引き継ぎ空は頼むよ?

長月、ロ級。君達はしんがりを頼めるかな?」

 

長月

「任せろ」

 

アラン

「では、我ら沖浜艦隊!帰投開始だ‼︎」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『秋雲』

 

龍驤、ミズキ、秋雲は提督の部屋に椅子に座り提督が資料を読み終わるのを待っていた。

 

アラン

「さて、あの事件から数日が経ち。

皆無事にとは行かず負傷はあるにしても全員帰還」

 

アランは手元の資料をパサリと机に置いてパチパチと笑顔で手を叩く

 

アラン

「素晴らしい事だ、実に素晴らしい」

 

そして、目の前の椅子に座る秋雲や他の艦娘を見る。

 

アラン

「さて、僕が迂闊だった事も一つの原因だが、これは完全に罠だった。それに関して誰も異論はないね?」

 

皆答えない

 

アラン

「ここで疑問が浮かんでくるはずだ。誰が何故?とね、そこで一番に疑われるのは…」

 

水鬼

「違う!ミズキ知らないよ!」

 

アラン

「あぁ、勿論だ。君は知らないしロ級も知らないだろう。疑われるのは君達だが、実際はそうじゃない。

僕はもう答えを知った上で話してるんだ。

 

なぁ?秋雲?」

 

秋雲は一瞬ピクリと身を震わせた、アランの笑みが崩れ冷徹で鋭い目を秋雲へと向けたからだ。

 

アラン

「僕は君がした事は許せない、何よりも仲間を道連れにしようとしたことがね?」

 

秋雲

「…ごめん…なさい」

 

アラン

「謝る前にまずは君の全てを話すべきだよ、ただし、僕は君の答えを聞いた上でも辻褄が合わない事への疑問が消えないけどね。

君はあの事件の時に沈みたかった、そうじゃないのかな?」

 

秋雲

「その通りだよ…、ほんと…提督はどこまで知ってるのか怖くなるよ。

じゃあ…話そうか、秋雲さんの事。

秋雲さんはね、上が隠したがっている物の試作一号なんだよ」

 

龍驤

「試作…?」

 

秋雲

「そ、要はプロトタイプって奴。

ようやく原型になったものだよ。」

 

アラン

「艦娘の…か」

 

秋雲

「そ、”生きた人間を利用した”艦娘製造のね。

艦娘ってのは大戦が起きてた頃から研究され続けてたんだ、何とかして戦力を増やせないかとね。

だけど、秋雲さんが完成したのは全てが終わった後。

秋雲さんも記憶なんてあるわけもなし、あるとしたらそうだなー…どんな風に秋雲(わたし)が沈んだかと言うのぐらいかな。

その後も計画が進められたけど秋雲さん以外はうまく行かずじまいでね、遂には頓挫したのさ」

 

ミズキ

「そ、そのうまく行かなかった人達って…どうなったの?」

 

秋雲

「当たり前のように死んだよ、そして”失敗作”は海へと捨てられた…この頃からかな、深海棲艦と呼ばれる存在が現れ始めたのは。

そして、今度は人ではなく機械での作成が始まった。

ガイノイドといったかな?

こちらは上手く行ったようで直ぐに開発が進んで一時期はそれで対応してたよ。

秋雲さんも驚いたね本当によく人間のように動いて喋ってるをだもん、だけどそれだけじゃ物足りなかったのか…それとも資材の問題か、次は人間を一から作り出したんだよ」

 

アラン

「ホムンクルスの様に聞こえるがそれとはまた別なのかい?」

 

秋雲

「同じ解釈でも変わらないかなー。

ただし小さい人間って訳じゃないからね。

まぁ…そっちも良好、私が作られた時より技術がより進んだのか、物が違うからなのかは今やどっちでもいい事。

そして同じ艦娘が何人も出来上がり、これが建造艦として現れる事もしばしば。

秋雲さんはね、こんなのを何年何十年とあちこちで見てきたよ、目の前で沈んでく仲間、造られても直ぐに破棄当然の様に素材に変えられる子たちも見てきた。

いっぱいいっぱいだったよ正直、私は唯一成功した人間をベースにした艦娘だからね。

上は棄てるに棄てられなかったんだろうね、秋雲さんはこの島に派遣もとい流されされたんだ。

ここまでが秋雲さんの話、以上だよ」

 

アラン

「なるほどね、凄く興味深いものだ。

まずその話は誰までが知っているんだい」

 

秋雲

「世の提督も民間人も開発に関わった人間以外知らないだろうねー。人間を使った、なんて話が漏れたらおおごと間違いなしだからね」

 

アラン

「だからこそ上は秘密を知られるとまずいと僕を殺しにかかってきたわけか。

君が沈もうとした理由は…色々見てきたからだろうが…」

 

秋雲

「そうだね、解体もしてくれないし沈ませてもくれなかったよ」

 

アラン

「じゃあ何故このタイミングで?」

 

秋雲

「あれは秋雲さんも想定してなかったんだよ、計画では秋雲さん以外に被害は出ないはずだった」

 

アラン

「長月が捨てたあの箱だね?長月の話によれば…深海棲艦にしか聞こえない波数を放って呼び寄せる機会だったみたいだが…それも計画のうちかい?」

 

秋雲

「強い敵が数匹引き寄せるだけのものだったはずだけどねー…」

 

アラン

「聞けば聞くほど身勝手と言うのもあるし…辻褄が合わなさすぎるのが難点だ。

じゃ、まぁここらで一旦処罰を決めますか」

 

秋雲

「処罰…」

 

アラン

「残念だが、お咎めなしなんて上手い話はないんでね。処罰内容は以下の通り、”生き続ける”と言う一点のみだ」

 

秋雲

「本当に人の話を聞いてない人ですね…。

それが秋雲さんにとっての”苦痛”なのに」

 

アラン

「残念だけど僕は善人じゃない。

君の”苦痛”を望むものだ諦めたほうがいい」

 

龍驤

「ほんま…わけのわからん二人やなー」

 

ミズキ

「なんで二人とも笑ってるんだろうね」

 

辻褄が合わなくても

 

奇妙な信頼でも

 

今が一番の時もある


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。