た ば こ は 20 歳 か ら !!
お酒もね。
セレブリャコーフ視点
「8番動脈切れてるぞ!先そっち繋げろ!」
兵士と怪我とは切っても切れぬ関係。
小隊長殿にいつものように戦場で扱かれていると、敵魔導師と接敵。交戦し撃退できたものの敵貫通術式が掠めたのがつい先ほどのこと。
小隊長殿が大事を取って一緒に下がってきてくれたのですが、顔には一切出さずとも部下を大事にするそのお姿を見て、やはり小隊長殿は素晴らしいお方なのだなと思いました。
「14番状態悪化、レーリャに変われ!イワンはレーリャの患者のフォロー!急げ!」
小隊長殿に見送られ診療所に入ると、リースフェルト少尉の怒声が鳴り響く医者にとっての戦場がそこにはありました。
自身も患者の治療に当たりつつも、どうやってか他の患者を診ることもなく状態を把握し、他の医者に指示を回す。
鬼気迫るとはまさしくこのような様なのでしょう。
「っち、レアン!あと20秒でそっちへ行く、それ以上状態を悪化させるなよ!」
「きついっす!」
「持たせろ!」
小さい手を素早く動かし、魔力を用いない針と糸での縫合でその患者の治療を15秒で終わらすと、その患者の横にメモを書き殴り、飛びつくように状態が悪化したという患者の治療を開始。
医療術式を起動させ素早く手を動かしながらも、ミスをした原因、フォローの仕方、適切な対処を医者に教え込んでいます。
そのレアンという方も真剣な顔をして話を聞き、リースフェルト少尉の手元を観察。そこに子供と侮る姿などどこにもなく、医者の姿だけがそこにはありました。
「少し休憩に入る、次はミスるなよレアン」
「はい、ありがとうございました婦長」
婦長じゃないって言ってもほんと君らは聞かんな。とブツクサ言いながら、リースフェルト少尉は私のように軽傷と判断された人のエリアで治療行為を始めました。
「え?休憩?え?」
「そうだ、命が掛かっていないこんな怪我人の手当はまあ、休憩みたいなものだよ。久しぶりだなセレブリャコーフ伍長」
薬を塗ったり薬を処方して手早く診療所から軽傷者を送り出していると、思わず漏れた呟きを拾ってこちらへ来るリースフェルト少尉。
確かにこのような傷、すぐさま命に関わることは無いですが、その理屈はおかしいと言わざるを得ませんよ。
「はい、お久しぶりですリースフェルト少尉。あの、休憩はしっかり取った方がよろしいかと」
「人手が足りてりゃそうするさ、けど人手が足りてないのはここじゃどこもそうだろう?」
西方ライン戦線はどうにか戦線を維持、しかしそれは大量の物資と人命を賭しての維持。
人手不足となるのはどこも同じようです。
リースフェルト少尉に怪我をした腕を出すと、腕お腹足首と、今の怪我と違うところまで触診し始めました。
触診とは関係なく胸も揉まれましたが、同じ女性でなければセクハラですよ!
「睡眠不足に疲れの溜めすぎ、小さい怪我とはいえ放っておくのも良くない」
「これは医者としての言葉、私もここじゃそれが仕方ないとはわかってるけど、それでも言うのが私の仕事でね」
「あと、これは私の言葉だけど。セレブリャコーフ伍長、よく頑張ったね」
医療術式によって体がポカポカとしている中、慈愛の表情でそうおっしゃられたリースフェルト少尉は、まるで天使のようであらせられて。
こうして明確に労われたのが随分と昔のこと、つい涙ぐんでしまっても無理はありませんでした。
小隊長殿は行動によってそれを表すお人、周りの方もこう素直に言ってくることなど無いのです。
「軽傷者に魔力を使うのは非効率だから普段はやらないんだけど、女の子の体に針で縫った後なんかあるのは嫌だろう?だから、これは秘密でな」
そう言うリースフェルト少尉はいたずらっ子のような顔でした。
見てみると腕にあった傷は勿論、小さい火傷の痕や以前の掠り傷などが綺麗さっぱり消えており、体調は万全で心なしか肌の艶も戻っている気がします。
「セレブリャコーフ伍長、どんなに大きな怪我をしてもここに来たのなら必ず生かしてみせる。だから必ず、生きて帰ってきなさい」
「は、はい!ありがとうございます!」
リースフェルト少尉はいつも少し皮肉気な表情を浮かべていて、私は少し苦手かもしれないと思っていましたが、こんな優しい表情をする人をそんな風に思っていたなんて少し恥じてしまいます。
准尉は慈愛の人でありました。
私のような人員は他にも沢山いて、しかしそれでもその一人一人にきっと気を配ってくれるのでしょう。なんと優しい人でしょうか。
最後にポンポンと私の頭を撫でて次の患者へ診察するその一人の医者の姿は、いつまでも私の記憶にあり続けるのでしょう。
戦争が終わったら医者は無理でも、看護婦にでもいいから成れたらという私の夢が、一つ刻まれました。
視点回帰:ティアナ・リースフェルト
私の診療時間が終わり、死体となった兵士からかっぱらった煙草を吸う。
私のような年齢のお子様が煙草を吸っている姿を見れば、良識ある大人は必ずと言っていいほど喫煙を止めてくる。
こんな子供に有害すぎる物、それはまあ止めましょうさ、私だって止める。
が、私に関しては止めるな。仕事終わりは吸わせてくれ。
そんな健康というものに喧嘩を売っている子供の良識のある大人対策、それは良心を利用するというものだ。
アンニュイな雰囲気を醸し出し、医者という身分証明と、救えなかった患者の代わりに最後の一服をしているとでも言えば、半分ほどは黙認する。
半分ほどは俺が代わりにと強奪していき、三分の一が煙草に不慣れでむせる。
普段吸わないなら本当にやめてほしい、返してよ。
未だ至福の強奪犯が現れない内にゆっくり味わうが、日本の煙草と比べるとやはり不味い。
それでも耐えられないほどではないのでニコチンを存分に味わう。
「またですか婦長、本当にやめた方がいいですよ煙草」
「うん?レアンか。あと婦長じゃないって言ってろうに、やめろ」
最近ぼちぼち育ってきた医療魔導師見習いのレアン、煙草を強奪してむせた中の一人だ。
今は上司権限で半強制的に黙認派に入っている。
「はぁ~、今日もいっぱい死にましたね」
「そうだな」
今日もまた患者を見送ったのか落ち込んだ様子のレアン、患者の死を思うことが出来るなんてまだまだ若いな。と擦り切れた私が思う。
現実、先ほどセレブリャコーフ伍長に対して必ず生かしてみせる。だなんて啖呵を切ったものの、どうやっても人の命は零れ落ちるものだ。
もって数分や数時間の命があるとする、その命に時間と労力を割いてもその患者が死んでしまえばその労力は無に帰すのだ。
それよりもその労力を確実に助けられる患者に振り分け、助からない患者は切り捨てられる。
仕方のないこと、とは医者は言ってはいけないのだろう。
「ライン戦線初期はもっと酷かったらしいですけど、今がこれなら初期はどんなだったんですか」
「ああ、―――地獄だったなあそこは」
紫煙を吐き出し、煙の向こうに地獄の景色を思い出す。
今ほど医療環境は整っておらず、衛生的に不十分な環境での連続執刀。いつまでも診察待ちに居座り続ける死体の主。暴れる兵士をやむなく射殺することもあり、演算宝珠とピストルは手放せることはなかった。
「そんな医療現場じゃ精神を壊した医者が続出してな、一人あたりの負荷は減ることなんてなかった」
減る医者、増える患者。しかし治療をやめることすら思考に浮かばないほどのオーバーワーク。
「いっぱい死んだな、執刀中に患者を殺した数はもう両手に数えきれないほどだ」
「それ、婦長は悪くありませんよ」
我ながら悪趣味だが、人の感情が満ち溢れた死に様を見るのが好きだ。見ていて面白い。しかしあそこでの体験は、そう楽しいものではなかったのは確かだ。
「婦長言うな。私が一度倒れた事があったんだが、その時はもう酷い有様だったな。指示系統はもうめちゃくちゃで非効率に好き勝手に治療して、私が起きた時には物資も碌に残っていなかったよ」
医療物資が無ければ医者の出来る治療法は限られ、救える患者も当然少なくなり更なる死体の山が築かれた。
当時私主導の元診療所を運営し管理していたが、私が倒れたが故に無制限に物資を使った時期が発生した。しばらくは死亡率を抑えられ書面上の数字は向上。しかし私が起き物資の問題に突き当たった時、当然その数字は以前より悪くなり、その責任は私のせいだ。なんてひたすら罵られた。
長期的な視野で死亡者を抑えるべく立ち回り、効率的に患者を殺す医者がどんな気持ちか、など相手はまあ、知ったことではなかったのだろうな。
罵倒を受けながら一周回った無の感情とはこういう事なのかと私は知った。
今でも相手を撃ち殺さなかったことは勲章物の自制心だったと思う。
「それでも婦長は医療を続けられたと聞いています」
「なんだ、そこらへんは聞いてるのかい?まあそうだね、それが私の役割だからね」
わざわざ仕事の合間に顔を見せてくる馬鹿そうなお偉方に罵倒されながらの仕事は眠気対策にちょうど良かったほどだが、無視しているのかと殴り飛ばされるのは仕事の邪魔になるから勘弁してほしかった。
そんな情けない姿を見せても指示を聞き着いてきてくれた現場スタッフには、珍しく素直に感謝する思いだ。
たとえその時の状況が彼らのせいだったとしても、彼らは医者として患者を救うための行動をしたのだ。
そして今に繋がる効率的な仕事現場は、彼らの献身あってこそ。恨みは無い。
だが、婦長と呼ぶのはいい加減やめたまえ。
「婦長、煙草一本貰えますか」
「むせるぞ、やめとけ」
「じゃあ婦長が煙草やめましょう、そうしたらやめます」
私は一本煙草を差し出しライターも貸し出す。
慣れない様子で煙草に火をつける彼をからかいつつ、私は格好つけスマートに二本目の煙草に火をつける。
慣れていないのに思いっきり煙を吸い込み、案の定むせた彼を笑いながら、ターニャの入れたコーヒーを飲みたいと思った。
あいつの入れるコーヒーは素人意見でも美味く、煙草にはコーヒーと相場が決まっているからだ。
出撃前夜の夜は、紫煙渦巻き過ぎて行った。
「生きて帰ってきてくださいね婦長...」
血と死臭の染みついた診療所勤務の医療魔導師へ軍から前線への出動応援依頼が来る。
それは皆様お分かりの通りおかしなことです。
しかしながら、この私軍学校を卒業した職業軍人であったため、出撃できるね?と命令が下った次第にあります。
「第2診療所勤務、医療魔導師ティアナ・リースフェルト少尉。命令のためデグレチャフ小隊に合流させていただきます」
「うむ、小隊長のターニャ・デグレチャフ少尉だ。貴官の応援に感謝する」
合流を指定された部隊はターニャ班、顔見知りが故に茶番感が拭えないが、これも社会人として必要な茶番でもある。
とうとうお前も前線勤務かという皮肉気な顔が覗くターニャに着けていた表情(仮面)が剥がれかけるが、ここは他の部隊員も見ているため我慢して維持。
俺だって行きたかねーよ。
行きたくはない、逝きたくはないが、命令は遵守されるもの。
命令されてしまっては仕方がないのが職業軍人の辛いところだ。
「貴官は私とセレブリャコーフ伍長のツーマンセルについてもらう」
わかっているな?という視線を感じる。
ふむ、私の肩書は医療魔導師というもの。航空魔導師という肩書も名乗れはするが、その肩書の役割ではなくあくまでサポートに徹し、手柄は譲れといったところか。
まあ別に軍功が欲しいわけではないので異論はない。
「了解致しました、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますねリースフェルト少尉」
セレブちゃんが可愛らしく微笑んで挨拶してくれる。唯一の癒しかよ。
今回自分が所属するターニャ小隊は機動防御が主な任務となる。
拠点防衛や反攻時の陽動。
つまり以前ターニャとお散歩した時のように戦場を走り回りながら敵を押し返し、攻勢に出る時には囮役となる。
随分と刺激的な職場だなおい。
「準備は出来ているか?出勤の時間だ、行くぞ」
「はい、戦場勤務経験はあまりないのでお手柔らかに」
「はっ、軍学校で散々私を落としておいてよく言う」
いや、実戦経験がもう違いすぎるしエレニウム95式なんてチートアイテムも持ってねえんだよ。あの時と一緒にするな。
セレブリャコーフ伍長がなにやら驚いた顔をしているが、今は多分無理だからな。本当に。
「では地点Bに移動する、全員遅れるなよ」
飛行術式を起動。
睡眠を取っているので体調は問題無く、緊急時のドーピングが可能な状態。いざという時に頼れるものがあるというのは、命を賭ける戦場においては一つの安心できる要素となる。
不幸なことにターニャの持つエレニウム95式という新型演算宝珠は、神の加護(呪い)によって自身の意思と無関係に神を称えてしまう不具合を起こしているらしい。
しかし私の全認識はあの存在Xと違う超常から与えられたもの。私の自由意思は尊重されている。
ターニャに呪いのアイテムを押し付ける悪徳業者とは大違いだ。
「CPより通達だ、B地点は既に敵の襲撃を受けている、急ぐぞ」
片や宝珠に、片や頭に。異なる神の加護を手に、泥臭い戦場へ駆け込む。
たとえチートを、優れた能力を持っていたとしても、いつの間にか死んでしまう戦場で自身をどこまで使えるかが生き残るための一つの答え。果たして今日も外れを引かずに生き残れるか。
戦場での一日が、始まる。
休憩―きゅうけい!
部下を心配して一時後退を取り付け診療所まで送り届けるお優しいターニャ小隊長!―おさっし!
胸揉み―「ほぅ、また育ったね」「准尉!」ってセレブリャコーフが赤面なんてしてませんよ。
セクハラ―セクシャルハラスメント。
医療術式と心理効果のテスト―セレブリャコーフが純粋すぎてよくわかんなかった!
贔屓―可愛かったり美人だったりすると魔力を使って贔屓します。なおほぼおっさんの模様。
一人一人に気を配るティアナ―湿布バシーン!塗り薬ベタァ!薬ぽいっちょ!湿布バシーン!(ご褒美
喫煙―20歳になるまでは絶対に吸わないでください。出来れば一生吸わないのがいいよ。
馬鹿そうなお偉方―精神の均衡を保とうとしています。二階級特進しました。
わかっているな?―目線だけで通じ合う、ホモ、いや百合か。
悠木碧理論―ターニャとの絡みはBLにも百合にも通常のラブにもなりうる無限の(以下略
いやー、物語動かないですね自分の小説。
とりあえずセレブリャコーフ助手フラグ立てたくらいかな?今回は。