幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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皆様GWをいかがお過ごしでしょうか。

私は仕事です。


5話 ライン戦線

随分と長くなった前線での医療研修が不意に終わり、私はめでたく後方の医大に戻ることとなりました。

お久しぶりです、ティアナ・リースフェルト、医大の運動場より失礼します。

 

自分で言うのもなんですが、優秀な医療魔導師が前線から離れられるのかと不思議ではありましたが、謎はこの言葉で解決です。『魔女先輩が元凶』。

 

人間非常に辛い経験をすると、その経験を上限値として、それよりはマシな状況は耐えられるように作られています。

前線での激務を経験した私は、以前の詰め込みに対して耐性を得たために、まあ大丈夫かと思っていたのですが、一緒に帰って来れた先輩殿は私の限界を見抜くことが得意なお方。後方に下がったのに関わらずさらなる課題の追加で机上で死にかけました。

 

 

さて、後方のデスマーチにて医大の勉学を終えた私は当初の予定通り軍学校に戻り、晴れて嫌々渋々軍人として従軍と思いきや、先輩の実験に付き合わされることになり軍学校への復学が遅れることになりました。

その実験とは、拳にて敵の粉砕を可能とする強化術式の開発。

 

銃と魔法の世界、強化術式くらいあるだろうと思っていたのですが、意外にもその術式は未開発でありました。

一応開発はされていたのですが、筋肉が爆発したり肉体バランスが崩壊し二階級特進したりとうまくいかなかったところ、それよりも汎用性が高く手軽に扱える切断術式が開発され、肉体強化系統の開発は中止され廃れていきました。

先輩殿が強化術式の開発を行い、被験者として私が選ばれた時には勿論反射的にお断りの返事をしましたが、詳しく話を聞いてみると爆発の危険性は無く、二階級特進の可能性も低いため、渋々引き受けた次第。

 

術式構成としては。

防殻術式を応用した外皮を構成。射出術式を調整し速度の生成。二階級特進の成果、肉体術式での体の補強。

この三つを同時起動し厚さ20mmの鉄板を拳で無傷で抜いた時、実験の成功とする。とのこと。

 

被験者として望ましい者は、体の強弱に左右されず術式で粉砕できるとアピールするために素の力が弱い者、魔導適正が一定よりあり繊細な調整と術式の複数起動ができる者。肉体術式はまだ不安定な術式のため自分で体内を制御できる者。

これ先輩でも出来ますよね?当てはまってますよね?という私の言葉は黙殺され、「だって私痛いの好きじゃないし」とはコメント。いや自分でやれよ。

 

「強化術式実験、一回目を開始します」

 

グラウンドにあるもの。

幼女、鉄板、離れた場所にいる先輩と観測用機材とモニタリング用に拉致られた哀れな学生。いや哀れとは言ったものの誰が一番哀れかというと、無論自分に決まってる。

 

術式を起動、肉体は筋力を軽く強化し外皮を形成。

術式自体は既に先輩が開発し終わっており、この実験は主にどの術式に魔力を注ぐかのバランス調整が主となる。

その後調整された3つの術式を不眠術式のように一纏めの式にして一つに術式にすればこの実験は正式に完了される。

 

「逝きます」

 

誤字に非ず。

射出術式を起動、主に術式の試験なので体にあまり力は要れず自動的に進んでいく腕に合わせて体のバランスを取り、術式制御に意識を割り振る。

 

拳が鉄板に接触すると轟音と衝撃が辺りを揺らし、拳は鉄板をへこました。

鉄板は抜けなかったがそれよりも自身の肉体を確認。

 

視認した限りまず腕が折れている。

防殻による拳の保護は問題無く怪我は見られない、筋肉の状態は腕が麻痺しているため確認できないため観察術式による確認に移る。

確認した限りまず腕が折れている。

防核で保護していた拳に損傷は無いが、筋肉は所々引きつりを確認、殴った衝撃は防核に覆われた拳は守ったが、軽減しきれなかった衝撃が腕を傷つけたといったところか。

さらには肩が外れかかっている。これは射出速度を調整すれば問題無いか、しかしそれでは鉄板を抜くには威力が足りなくなる。

というかそもそも敵を殺すのに20mmの鉄板を抜く威力は必要ないのでは?この衝撃力で十分だろう。

 

「せんぱーい、腕折れました、痛いです」

 

「確認してるよ、じゃあ術式調整したからもう一発いってみようか」

 

「いやだから腕折れてますって」

 

「もう一本は折れてないだろう」

 

一本は折れて痛いんですってばー、という言葉は無視され改良された術式を受信する。

モニター係がひょろい体を酷使して鉄板を変える間に、ぶつくさ文句を言いながら術式によって麻酔生成され麻痺した腕を無事な左手で慎重に真っ直ぐに戻してから治療術式を展開させる。

 

小さな破片となった骨の欠片で折れた骨を継ぎ接ぎし、一応繋がったところで鉄板の入れ替えが終わり実験は再開される。

 

「はぁ...、第二回目開始しまーす」

 

今度は腕まで外皮が覆われる、肉体の補強は骨の補強がメイン。

しかし不思議と嫌な予感がするのは何故だろうか。

なんだろう、風、確実に吹いて、いや私が勢いよく射出されているだけか!ハハッ!

 

轟音と衝撃。

 

「ティアナごめーん、勢い良すぎたー」

 

朦朧とする意識、全認識によれば鉄板を貫通した腕によりかかって頭から血を流している幼女という構図。

頭部より出血、打撲多数あり、左指、全滅。

慌てて駆け寄ってくるモニター係の男を認識しつつ、鎮痛術式を起動。

 

「痛ってぇ」

 

痛みのあまり十数年ぶりに涙が出てきそうだ。

治療術式を展開、まず頭部を治療する。反射的に防殻術式を起動できたおかげで被害は切り傷だけで済んだことが不幸中の幸いだ。

 

「随分な有様だなティアナ、おいおいそう泣くな、どれ私が治療してやろう」

 

泣いてないわい、と言いたいところだが己の意思とは関係なくポロポロと目からは涙が。

この体は痛みへの耐性が低いと言いたいところだが、そういえばまともな怪我なぞ全認識があってからは縁が無く、数十年ぶりの痛みで心の方が耐えられなかったようだ。

やってしまったという顔をした先輩はこちらを抱きしめながら治療術式を展開、指がビキビキと音を上げる。

 

―ウヒョー、おっぱ

 

涙を堪えるように顔を胸に押し付ける。

初めてまともに治療術式を受けたが、全身がじんわりと暖かくなり意外と心地が良い。温泉に浸かってる気分だ。

心理的にもこれはなんとも絆される、医療魔導師は基本的に良い印象を受けやすいと言われていたがこういうことか、マッサージと称してこれを使うのもいいかもな、営業に使えそうだ。

 

「ティアナ、治療終わったぞ、左手は二日ほど安静だな。...ティアナ?」

 

思えばこうして人に抱かれたのはいつ以来だろうか。

前々世では人嫌いを自称しいつしか本当に一人孤独な人生を過ごし、前世では精神年齢を理由に人に甘えることが出来ず、なおかつ有能に生きようと圧倒的速さでの親離れしたため母のぬくもりなぞ記憶の片隅にも無い。

先輩殿は性質は最悪なれども“母性”だけはある、しかしポンポンと自分の頭を撫でる姿から意外と良い母親になるのかもとつい思うほど。

しかし彼女はマッド、なんて世の中だ。

 

「寝たか、今日の実験は終わりだな」

 

この実験が終了したとき、おそらく私はまた前線へ赴くのだろう。

先輩殿がまたこの実験のような引き留め工作を行うという希望的観測もあるが、これ以上の引き留めは厳しいということは先輩も理解している。先輩殿は無駄が嫌いであり、それ故に無駄を行うことが出来ない人なのだ。

 

狸寝入りのつもりだったが、本当に眠くなってきた。

連日徹夜の勉学に今回の実験で疲労は溜まっており、今までの経験から寝れる時にはどんな体勢でも寝れるようになり、この体が揺られる一定のリズムは耐え難い眠気を誘発される。

 

「先輩…ありがと…」

 

しかしこの脳味噌はやれるときに好感度を稼ごうと半自動的に動く。これは前世で染みついた性質であり習性ともいえる。

決して素面で言えないことを状況に乗じて言ったわけではない。そうではない。

 

(すごいニヤニヤしてる、気持ち悪いほどにニヤニヤしている、正直気味が悪いぞ先輩殿)

 

(実は起きてること知ってるんだがなにこの可愛い生き物、前線に送られる前にもう拉致っちゃおうかな)

 

(ん?あれは魔女とその弟子?魔女があんなご機嫌だなんていよいよ弟子の解剖か?ティアナちゃん可愛かったんだけどなぁ、お別れかー)

 

周囲に誤解を振りまきながら拉致られるティアナの明日はどっちだ!

 

 

 

 

 

 

後日、無事実験は終了し、私は軍学校へ復学。

即日卒業と相成りまして、晴れて西方戦線へと飛ばされた次第にあります。

 

「ティアナ少尉?」

 

「ターニャ少尉ではないですか、若いの引き連れてお散歩ですか?」

 

帝国西方の地、フランソワ共和国から宣戦を布告され西方の前線を押したり引いたり引いたりの過酷な戦場に、医療魔導師として従軍。

ライン戦線と名のつく程度に戦線が硬直していた時期。

いつも通り黄色く見える太陽を拝みに行くと、我が友ターニャ・デグレチャフは、部下らしきを引き連れ出撃準備を整えているところであった。

 

「ええ、今日はまた、一段と酷いお顔で」

 

「なに、たったの4徹、ライン診療所の地獄はまだまだこんなものではありませんってー」

 

はーっはっはーと空元気で笑う幼女と、うわぁとドン引きする幼女とその部下がそこにいた。

というか、私達だった。

 

ライン戦線はまさしくこの世の煉獄ともいえる場所、どうやら彼ら新兵達ははここに来たばかりのご様子。

新兵が何日生き残れるかの賭け事が平然と行われ、次の日には賭けた張本人が二階級特進するようなそんな狂った戦場。

果たして彼らは何日持つのやら。

 

「デグレチャフ小隊長、彼女は?」

 

「おや失礼、ティアナ・リースフェルト少尉だ。良ければあなたの名前を聞かせて貰ってもよろしいかいレディ?」

 

以前はもう少し年相応の可愛らしい仮面(表情)を被っていたが、どうにもここにはそぐわないため、仮面の付け替えをした。

キャラクター設定は人生にお疲れの気障なロリババアのためこのように気障ったらしい口調となっている。

 

「は、はい!ヴィクトリーヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長です!」

 

「クルスト・フォン・バルホフ伍長です!」「ハラルド・フォン・ヴィスト伍長です!」

 

「あいよ、よろしくね」

 

野郎二人に名乗れと言った記憶は無いんだがな。可愛い子以外どうでもええわ。

という本音は顔に出さずにおく、いつの日か贔屓は良くないと言ったのは私自身なのだ、有言実行の時来たれり、だな。

 

「ティアナ少尉、私たちはこれからそこいらを散歩でもして親睦を深めようと思っていたのですが、よろしければ貴官もいかがでしょう」

 

新兵達に見えない角度でターニャが悪い顔をしているため、まあ言葉通りにただお散歩を楽しむという事ではないのは言うまでもない。

装備を整え、後ろに新兵を付けて、ライン戦線に居る。

となれば散歩とはつまりライン戦線を駆けずり回ることを言っている。

 

「ふむ、ちょうど眠気覚ましが欲しかったところでして、よろしければご一緒させていただきたい」

 

あの血と死の匂いが満ちた診療所に居ると本当に気が滅入ってしまって仕方がないのだ。ここは一つドカンと砲撃音でも聞いて気分転換としよう。

 

よろしい、では準備をしてきたまえ。と言われたので診療所に戻り、置いてあった装備一覧を手早く装着していく。

装備を整えながら同僚に「ちょっと戦争行ってくるよ」と言うと、苦笑いと共に他の人員に伝達していく。

患者が列をなしている中随分とわがままな要求だが、この診療所の中で最も優秀で最も働いているのは自他共に認める私。

睡眠時間を削っての医療活動は他の人員の睡眠時間を生み出し、各医療員のレベルを割り出し適当な患者を割り振り効率化も行う。

共和国と戦争開戦から診療所に居る最古参の私は、その仕事ぶりから割と優遇されているのだ。

 

「6番トリアージ悪化、18番と19番が仮病だから叩き出しといて、あと他は任せて問題無いだろうから。居ない間は頼むね」

 

「はい、いってらっしゃい婦長」

 

「私はただの医療魔導師ですよせんせ」

 

ライフルを担ぎ軽く手を振り診療所から出る。

いつの間にか広まっていた通り名だったが、面白がって呼んでいるうちに定着してしまったものだ。

本当の婦長まで時折呼んでくるものだから新人が長い間勘違いしていることが珍しくないが、個人的にも社会人としてもやめていただきたい。

 

 

「揃ったな、ではゆこうか諸君」

 

砲撃と銃弾と爆撃の定期便。

ライン戦線の火の洗礼。

 

塹壕の中で砲撃から身を隠し、浸透してくる敵を弾丸で押し返し、砲撃によって人員の薄くなった地点に援護として塹壕の中走り回る。

衝撃を受けている新兵をせっつき次の地点に蹴り転がしていく、その場に留まっても対して良いことが起こることはそうは無い。

 

こんな新兵を任せられてターニャは大変だと他人事のように野郎二人を引きずり回すが、戦争の狂気に酔った彼らは銃をぶっ放すことに夢中でちょくちょくこちらの命令を聞かない。

セレブなんとかという子はあんなにも素直だと言うのに、いつの間にかこちらには野郎二人、あちらはターニャとツーマンセル。面倒なの回しやがってターニャの野郎。

 

「おい、次の地点に移動だ坊やたち」

 

「ハッハ、死ね、死ね!」「お、おい、クルスト伍長」

 

またである。

見たところクルスト伍長は闘争精神が不要なほど高く、人の話をあまり聞かない。

そしてハラルド伍長はクルスト伍長よりはマシだが、主体性が乏しく、着いていく人を見極める目も碌にないようだ。

おそらく二人は二階級特進コース間違いなし、同僚との賭けに使える有用な情報を得れた。思う事はただそれだけだった。

 

今度は蹴り倒し踏みつけ最終通告。

これで歯向かって来たのなら即座にここで射殺するのだが、私の隈に彩られた形相と殺意が漏れたのか、怯えて大人しくついてきた。なんだ、つまらん。

良き上官であるのなら、ここで教育を施すのだろうが、私は気分転換でここに来ただけでそんな義務は無いし、やるとしてもそれはターニャの役割だ。

大人しくなった二人を小突き回していると、あっという間に定期便の時間は終わった。

 

 

ゲーゲー吐いている新人共を捨て置きターニャの所へ行くと、こちらの方も無事セレブな新兵が生き残って吐いていた。

ターニャがわざわざ労力を割いてまで無能を守るとはまったく考えられないため、彼女はそれなりに使える人材なのだろう。

 

セレブちゃんは余裕が無さそうだったので一言二言一方的に喋り、ターニャに別れを告げる。

毎回私の仕事場に行列を作る定期便後の第二の定期便、中身は大量の怪我人で行き先は診療所。

今までの経験上呼び戻されることは確定だが、自ら赴いた方が仕事場での私の評価は良くなるだろう。

 

 

硝煙の匂いを漂わせながら血と死の匂いに満ちた診療所にただいまを言うと、大量の呻き声で迎えられたが。

果たしてそれは怪我人か医療員か、定かではなかった。




いつものを書きたいけど書く余裕が無いので後日追加です。
書く時間があまりなく、難産で何回も書き直したのでおかしなところが割とあるだろうと思います。

けど頑張って書いたよ、栄養(感想)をください。

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