やあ皆様方、こちら新生ティアナ・リースフェルト。
帝国軍魔導士官学校から失礼いたします。
ええ、そうです、軍学校です。
齢十にも満たぬ私たちですが、孤児院出であり碌な資金もない私たち二人がまともな教育機関に入れる余地は無く、あまりない選択肢から道中議論を交わした末の選択は、帝都に着き次第すぐさま軍学校に入ることでした。
軍というのは能力さえあれば上に上がっていける実力主義なもの。軍学校も当然実力主義であり、能力が備わっているのならば年齢関係なく門戸を開いている。
しかしながらまさかこんな幼女二人が門を叩く事態など想定していない。
こんな子供、しかも女の子に何が出来るかと試験を受けるまでに一悶着あったものの、試験が始まってしまえば筆記は問題なく、体力兼魔導テストは魔導適正で押し切った感があるがなんとか合格。
審査官が自分でも信じられないといった顔で合格を告げてくるが、こちらは幼女の皮を被った大の大人二人なのだ。
基礎学問は前々世、特に前世で散々やったもの。
だが戦時中ということでその系統の授業で省かれた。
それは良いのだが、興味のあった魔導学というものを学ぼうにもまず戦場に必要な魔導学をみっちり叩きこまれ、幼子には厳しい基礎体力訓練や野外演習で体力を使い果たす日々。
任意で普通の魔導学を学ぶのは可能だが一年の頃は余力なんて残すことも出来ず泥のように眠る日々で学ぶ余裕は生まれず一年が終わった。
魔法を使うすべは確立され現在も発展し続けている、しかし魔法はどこから発生しているのか。
果たして魔力を発生させる体内器官があるのか、脳味噌が進化したのか、はたまた違う法則によるものか非常に興味をそそられるのはついぞ治らなかった厨二病の性。
二年になり多少の余力を残せるようになり、今後はこちらを主に調べようかと思います。ええ、趣味です。
「帝国魔導士士官学校へのご入学、おめでとうございます。私は貴官ら二号生の指導先任を拝命したティアナ・リースフェルト一号生です」
成績優秀者は、新しく入学する一号生に対する教育の一端を任される。
成績優秀ということは実務実戦において優秀だということではないのだが、それでも優秀であるということは昇進を期待されてもおかしくはない人材ということ。
昇進、上位の階級に行くのならば当然、部下を扱えることは前提条件。
成績優秀者が二号生の指導先任を任されるのはその予行演習ということなのだろう。
「まず一つ、貴君らに問います。貴君らが兵士になるには一体なにが必要でありましょうか」
とはいえやはりこれも訓練であり試験だ。
部下を扱う適正が無ければ、当然評価はマイナス。
たとえ自身にやる気が無くとも、内心面倒くさいと思っていようとも、顔はキリリと引き締め入学したての一号生を氷の表情で見下す。
「銃を、砲を、魔力を、武力を正しく扱う訓練。地を読み、敵を読み、戦術を知り、戦略を描くための座学。魔力を扱い、空を駆け、人智を超越した魔法の力を身に着ける訓練でしょうか」
自分が今やっていることは当人に告げずの訓示、演説の訓練だ。
それも練習無し、内容を考える時間も無し。本当にいきなりやれと言われ草案もなく喋らされている。
まあ、このように突然出撃命令を下されてこのような演説まがいのことを行うことは、以前の戦争では当たり前だったのだろう。
出撃前の士気統制力がどれほどあるかの資質、確かにこの方法はその資質を見るのには合理的ではあるが、十分でないと判断された場合どうなるのだろうか。
補修などで演説講習でも開かれるのか?是非とも参加してみたいものだ。
「否であります。それらの技術は出来るものが培うものであり、貴君ら新兵未満の一号生に必要なものではない。二号生の貴君らが兵士となるために必要なこととは、もっと簡単なことです」
実際、このようなお子様ボディでも出来る威圧的な演説テクニックは無いのだろうか。
身振り手振りでもって自身を大きく見せる技術などを行おうにも、この体では小さすぎて滑稽。
したがって姿勢は直立不動、表情は氷のように動かさず目線は見下すように。
語りかける声は静かに、されど力強く、タイミングが来るまでは鷹揚もなく、ただ静かに。
「必要を成すこと」
腕をゆっくりと体の前にかざす。
長い間動かなかったからこそ、静から動へと変化したアクションはその効果を大きく上げ、人の心理を大きく動かす要因となりうる。
そして声の鷹揚も大きく、熱を込めるように。
「国を守り、民を守り、誇りを守り、戦友を守らんと願うならば、まず貴君らはたとえいつ如何なる事態が起ころうとも、冷静に、そして適切に行動せねばなりません」
見下すような上からの目線をゆっくりと下げ顎を引き、一人一人を見つめるように向き合う。
「鍛えましょう、私と教官殿でもって地獄のような訓練を施しましょう。血反吐を吐き涙枯れつくすまで絞りつくしましょう」
体の前に掲げた手をグッと握りしめる。
キュって感じに小さなおててが締まった。だめだ、締まらない。
「そうして貴君らが軍人へと、祖国を守り、民を守り、誇りを守り、共に戦う戦友を守るため、必要を成せる軍人へ成れるように!!」
声を次第に大きく、拳をゆっくりと上部に持って行く頃には張り上げんばかりに。
だがその大声に反して氷のような表情は一貫しており、視線は一号生より外されることはない。
こちらの声を聴こうとしている、集中しているという前提条件の元であれば、人の意識の誘導はそう難しいものではないと実感する。
必要なのは非日常的な何かしらの要素と、没入感を高めるテクニック。
演説の内容などそれっぽいことを適当に言っていればいいのだ、言ってしまえば盛り上がれれば何でもよい。
「たとえ火と鉄の試練が訪れようとも祖国を守れる軍人へと成れるように!」
眼下の二号生を見る。
訓示に自分が出てきた時のがっかりしたような、期待外れのような当初の目線から一転。倒錯するように、熱が入ったように、求めていたものを与えられたかのように目がぎらぎらとしている。
まあ、そういうのが欲しいのだろうと思いくれてやったのだから、盛り上がるのは当然だろう。
客が求めるものを提供するのが営業というものだ。まあ欲しいものと誘導するのも営業の仕事であり、欲しかったものと思わせるのもまた営業の技。
一流の営業マンは、一流の詐欺師でもあるのだ。
「ライヒ!ライヒ!ライヒ!」
感情に熱を感じる輩はどうせ叫ぶのが好きだろうという偏見の元、拳を突き上げ演説によって与えられた熱を吐き出す機会を与える。
「ライヒ!」「ライヒ!」「ライヒ!」
熱に浮かされた誘導しやすい馬鹿、もしくは熱心な愛国者の声を皮切りに全員が帝国への愛国心を叫ぶ。
もはや自分が声を出さずとも、こうして拳を掲げているだけで彼らは帝国よと叫び続けるだろうが、時間は有限でありいつまでもこのようなことをやっている時間は無い。
ほどよくボルテージが上がりきったタイミングで拳を振り下ろす。
輪唱していた声は今やピタリと鳴りやみ、痛いほどの静寂がこの場を支配する。
どうやら空気の読めない人間はいないようで、静寂が少し気持ちが良かった。
「貴君ら、もう一度だけ言おう、復唱したまえ」
振り下ろした拳を腰の後ろに回し両手を組み、体、顔の角度、視線まで全てを最初の不動のポーズに戻す。
違う点があるとすれば目の前の二号生の意識とその眼差し。
息を吸い込み、鋭く言い放つ。
「必要を成せ!」
「「「必要を成せ!!!」」」
ふむ、二号生のモチベーション上げならびに士気統制の訓練として、これは上々の成果ではないか?
満足げに壇上を降りる際、教官の顔をチラリと見やると異常者でも見るかのような視線を送られた。
え?もしかして趣旨違った?
二号生が言うことを聞くよう洗礼、もとい教育してからは実戦形式での教育、日々の学問に訓練、ターニャと行う予習や前世での歴史的解釈を交えた今の世界状勢講釈。最後のはほぼターニャの趣味。
ルーチンワークと化してきた日々の中、変わったことがあったと言えば、二号生の洗礼、銃殺刑だろう。
兵士とは必要に駆られ人を殺すことがある職業だ。いざという時引き金を引けない兵士に用は無い。
二号生の授業内容の一つ、銃殺刑は引き金を引ける者かそうでない者かを選別するものだ。
的は強姦殺人強盗テロ犯と、世に不必要なゴミ共がズラリと張り付けにされている。
「さて犯罪者諸君、代表してあなた。最後に言い残すことは?」
命乞いをして二号生の決心を鈍らせないよう、薬で頭の逝った強姦殺人犯を選び猿ぐつわを外す。
「へへお嬢ちゃん、これ外しちゃくれねえか?気分が良くなる飴ちゃんと俺様の逸物で天国に連れてってやるからよぉ、ヒヒヒヒヒッ」
「ドラッグ決めないと天国にイかせられない粗チン野郎はお断りしてますの、ごめんあそばせ」
おっと確かに薬物と性欲で脳味噌がおかしくなっている屑を選んだのだが思ったより酷かった。
だがまあこうして喋らせておくと初めての人殺しという重圧は勝手に軽くなり引き金も軽くなるというもの。
人殺しというものは善良なる者の精神を壊しかねない行為であり、メンタルケアの手間と屑のお喋り、どちらが手間が少ないかというと後者だろう。
「さて、諸君。人殺しは初めてでしょうがあなた方が行うのはこのような社会的に必要性の無い屑の掃除です」「最後にそのちっちゃいお口でしゃぶってくれよ」
「これらは世に病魔を振りまき悪をなす害悪、これを排除することは軍人の義務であり」「そのちっちゃいXXXで扱いてくれてもいいんだぜ?すぐにぶっ壊れちまうだろうけどなぁギャハハハハ」
「怠ることの許されない義務です。我々はこの世の秩序を乱すこれらに正義の鉄槌を落とすためこれより銃殺を執行」「おい聞いてんのか、ちっちゃいおててで扱けっつってんだよ。溜まってんだよ、おい聞いてんのか!」
「うるさい!」
―切断術式
腹を一閃、デロンと中身がこぼれ出てくる。
しまった、少し深すぎた。
パフォーマンスとして猿轡を外したがこのゴミが元気すぎてついやってしまった。
今はまだぎゃあぎゃあ煩いがこれではすぐ死んでしまう。
別に死ぬのは良いが銃殺によって殺されるのがこれの最後の役目であって、私によって殺されるのは趣旨が違うんだよ。
治療術式を展開、バイタルは少し持てばいいが練習ついでに少し真面目に行使しよう。
真面目にとはいっても片手間にではあるが。
「えー…、では正義の鉄槌として銃殺刑をここに執り行う、構え!」
モツがこぼれたままの治療術式だったが少しずつモツは体内に戻されつつある、魔法の力ってスゲー。
死刑囚のすぐ横で術式を展開しながら腕を振り下ろすと銃撃音が綺麗に重なり、防核術式に血しぶきが飛ぶ。
万が一銃弾がこちらに飛んできても大丈夫なように展開していたのだが、無駄に軍服を汚されずに済んでなによりだ。
ビクンと体が銃弾に震えるが、術式は関係なく腹部を中心に肉体を修復し続ける。
たとえ頭に銃弾を受け生死が不明であろうと肉体の修繕は行われるのか、興味深いが治療術式をカット。役割は終わった。
「本日の授業はここまで、吐くならトイレで吐け。解散!」
銃殺を終えた二号生達を解散させ、興味本位がてら先ほどの強姦魔の死体のもとへ向かう。
「おやおや、悪運の強いゴミだなおい。生きてんのか」
「腐れ、XXXめ」
「すまんな、あの外した下手くそは後でファックしてやるからさっさと死ぬといい」
なんとゴミは生きていた!まあどうでもいいが。
腹の出血はマシとはいえ今なお続いているし、運良く貫通したとはいえ顔はぶち抜かれている。もって数分とはいえ本当によく生きているものだ。
まあそれはどうでもいいとしてここに戻ってきたのは私の趣味によるもの。
以前話した魔法はどこから発生しているのかという話だ。
魔力を貯蔵する体内器官というものが一つの仮説としてあるのだが、この世界基準で内臓が作られているのだとしたらこの世界に住む者にはきっとわからないだろう。
なにせこの世界では当たり前にあるものなのだから比較しようがない。
しかし私は違う世界、違う知識を持った異世界人。
魔法の無かった世界の人体構造を知っており、逆に言えば前世で無かった内臓器官を見つけることが出来たのなら、即ちソレが魔導器官と言えるのではないかと。
帝国は魔導の運用法を研究してはいるが、魔力がどこから発生しているかというものは仮説はあるものの実際はまだわかってはいない。
なおかつ時代が発展していないのか、私が図書館で見つけられなかっただけか軍学校だからなのか、医学系統の蔵書は少なく人体の資料は見つけられなかったのだ。
故にこの腹を裂かれた死刑囚は都合が良く、こうしてモツを拝見させてもらっている。
切断術式で再度腹を切開しまずは内臓を検分。
むわっとした血の香りが周囲に立ち込める。
大腸、小腸、胃、肝臓、これなんだっけ、膵臓、ああ脾臓だあれ。
あとは上の方裂かないと無理そ― 「ティアナ一号生、…なにをしている」
死刑囚を解体していると訓練場の入り口から声がした。
「これは教官殿、ああ!失礼いたしましたこんなに散らかしましてお恥ずかしい限りで」
教官殿沈黙、いくら死体になるために連れてこられたと言っても死体を処理するのは他の者だ。掃除の手間は出来るだけ少ない方が良い。辺り一面の血だまりは掃除が大変だろう。
初めての腑分けにちょいと夢中になりすぎた。
「なにを、しているかと聞いている」
「はっ、人体とはどうなっているか知的興味に基づいて死体の解剖を行っておりました!」
「そう、か」
「はい、本で読んだ通り様々な内臓がどこにどう入っているか実際に知ることが出来、実に興味深い体験となりました!」
丁寧に並べてあった内臓に教官どん引きしている、けどここは子供の無邪気さでゴリ押そう。
子供の無邪気な笑顔は人に伝播する。だがまあナイフ片手、背景に血だまりと腹が裂かれた死体じゃ流石に無理があるか。
「ティアナ一号生は、医学に興味があるのかね」
「はい、しかしながら図書室には蔵書が少なく、こうして自習していた所存であります」
ん?これは後方チャーンスというやつでは?
日々ターニャと後方勤務プランについて話し合っているのだが医療員というのは前線で酷使される可能性もあるが後方で仕事に励める可能性の高い職と結論付けられていたのだ。
問題は我々にコネが無いこと。
しかし教育機関というものは様々な方にコネがあるものだ、きっと医療機関にもコネがある。
千載一遇のチャンス!悪いなターニャ!俺は後方に下がるぜ!
「そうか」「はい」
にっこり笑顔で応じる。
「ティアナ一号生、貴官の知識欲は素晴らしい。が、無断で解剖をしていい理由にはなりえない」
ああ、まあ、そうだな。そうだった。
人体の解剖は無断で行うことはたとえ犯罪者相手だろうが犯罪行為だったな。そりゃそうだ。
「よって罰を命ずる、ここ掃除しなさい」
「はっ!」
黙認!こうして逃れようのない犯罪行為を目の当たりにして黙認していただけるとは!
そっと安堵の息を吐き後ろを振り返ると、ピクピク白目で痙攣する腹を裂かれた男の死体のグロ映像。
血溜まりのなか綺麗に並べられた内臓、むせ返る血の匂いとアンモニア臭、そして微かなイカ臭さ。
「教官殿」「なんだね」
「やりすぎましたことをここに反省いたします」
深い溜息で応えられた。
今にして思えば、生かしながらの方が魔力反応を調べられたか?
いや、魔力反応は機材が無ければ観測しづらいし別に死んでても問題なかったか。
とりあえず清掃員さーん、モップ貸してー。
訓示―うん、正直わかんね。
幼女に馬鹿にされクルもの―(ご褒美では)ないです。
ターニャ班―お察し。
「うるさい!」切腹―顔に血が掛かりまくってる、かわいい(錯乱
悪いなターニャ!俺は後方に下がるぜ!―ここにフラグがあるじゃろ?
さて次どうしようか。
追記・書き直し終わり、視点変更を終わりに持ってきました。
追記・さらに書き直しました。もうしません。