幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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エイリアンが攻めてきた、地球防衛しなきゃ(使命感


17話 帰還思考

手配書が配られ厳戒態勢の中、潜入員は果たして任務を行えるだろうか。

事前に仕入れていた重要人物には護衛が張り付き、施設にも警備がおり、浮浪者の見た目をしていようと逐一顔をチェックし手配書と見比べる巡回の兵士。

 

「おい餓鬼、ちょっと顔見せ...あっ」

 

「あっ」

 

巡回兵と鬼ごっこしながらの首都の情報収集だが、私の手配書が撒かれ厳戒態勢が敷かれていた。

重要人物の周辺には厳重な警備が敷かれ、施設には対子供スパイ用の巡回も回っておりアリ一匹通さない構え。

 

「うん、無理だ、おうち帰ろう」

 

そもそもだ、この潜入任務だが始まりから躓いていており、最大の誤算は情報部のダキア公国軍の戦力を見誤っていたことだ。

ダキア公国にて始まった潜入任務。数だけは立派だが前時代的軍事ドクトリンや兵装のダキア軍は、ターニャ率いる即応魔導大隊に鼻先を叩き折られ、続く帝国軍に蹂躙されたのだろう。

要人の隠し子として潜入予定だったが、想定より早く侵略してきた帝国兵に補足され、逃げるときに肝心の要人は死亡。潜入作戦の前提はここですべて崩壊した。

一応国まで持ち帰られたが、その時点で私に価値という物は無く、ただの子供なら生き残りはしないだろうとそこら辺の森の中へ投下。

スー家に拾われ九死に一生を得たのだが、そうでなければ今頃冷たい体を雪の中に埋もれさせていてもおかしくは無かった。

 

スー家での療養後首都へ向かうも、アンソン・スーが無線か何かで連絡したのだろう。首都には情報が回り、碌に情報収集もできなかった。

仕方なく任務は断念。

この任務失敗は情報部の責任だ、私悪くない。

スパっと思考を切り替え帰国の手段を模索するが、帰国手段の提供を行ってくれる予定の現地潜入員はこの状況で迂闊に接触することは躊躇われた。

現地潜入員がバレれば帝国にとっては不利益となるため独自に帰国ルートを考えなければならない。

 

上の失態により現場の人間が被害を食らう話などいくらでも聞いてきたし見てきたことではあるが、まさか自身が体験しようものとは。

一生傍観者でいたかったよまったく。

 

 

さて、帰還するにあたり常識的な手段はいくつか思い浮かぶが、今ある情報の中で一つ気になる情報がある。

それは短期間首都にて潜伏していた時に立ち聞きしたことだが、帝国軍がノルデン方面に多数展開。協商連合軍はそれに対抗するため大部分をノルデンに集め、互いに睨み合っている状況が発生していると。

 

素直に考えれば、帝国は北方攻略のため攻勢準備といったところだろうが、なんと現在の季節は冬だ。

冬季攻勢を行うことがどれほどの愚策であるかはターニャから歴史的講釈を交え聞かされていた。もし帝国が冬季攻勢の愚を犯そうものなら私は亡命してやるとも。

しかし参謀本部が冬季攻勢を許可するのだろうかという疑問がある。

なにせ参謀本部にはターニャが評価したゼートゥーア准将殿がいるのだ。

ターニャがはっきりと有能だと言い切る人物は、そうはいない。いてもそのほとんどは歴史上の人物だ。

そんな人物が上にいる参謀本部が冬季攻勢を許可したというのは考えづらい。

何かしらの意図があるはず。そしてその意図に私の帰還を絡めることが出来たのなら、それは私にとって最上の結果といえよう。

 

少なくともノルデンに軍の大半が割かれているのは恐らくは事実。

参謀本部が無能でなければこれから何かしらが発生する可能性が高い。

参謀の意図を推察し、帰還するためのヤマを張り祖国へ帰る可能性を探るため頭を回す。

 

 

まずはプランA。

帝国北方軍のノルデン攻勢時、戦闘の混乱に乗じ帰還という流れだ。

ある意味一番安パイな考えと言っていいだろう。

混戦の中狙い打たれる可能性も、帝国兵に味方と認識されず撃ち抜かれる可能性もある危険な選択肢だが、一番帰れる可能性が高いように思えるルートだ。

 

だが待ってほしい、これはノルデンで戦闘が行われた時、つまりは冬季攻勢を選択したということ。

自分が所属する国がそこまでの泥船だという現実を見せつけられながらの帰還というのは気持ちの良いものではない。

つまりこれは選択肢としてあってないようなものだ。

 

次にプランBだ。

協商連合のどこか主要地域に潜伏し、何かが起こることを期待し、そのなにかに乗じて帰還。

博打要素が強いどころではない、もはやただの博打だ。参謀本部の意図を推測していけば博打要素は少なくなってゆき、帰還の可能性は高まる...はずだ。

 

プランC、このままノルデンか他国で穏やかに暮らす。

まあ、プランBに備えるも何も起こらず、冬季攻勢が行われた時の選択肢。

限りある兵士を冬季攻勢にて消耗したのならば、帝国は北方もしくは西方の攻勢を跳ね除ける衝撃力を失い、遠からず詰みとなるだろう。

帝国に置いてきたターニャが気がかりになるが、あいつのことだからきっと逞しく生きる。何食わぬ顔をして戦後他国で再会したとしても私はなにも驚かない。

 

 

まあプランBで様子を見てだめそうならプランCに移行が妥当か。

 

プランBについて考察を深めていこう。

協商連合軍の大部分は帝国軍の集結によりノルデンに拘束されているため恐らく後方は手薄になっていると予測する。

帝国北方軍のノルデン集結が本命作戦の助攻であるのならば、本命は恐らく後方地点への襲撃。

しかし襲撃地点がノルデンより近すぎればノルデンから援護が届き、遠ければ補給線の維持に支障が出る。

丁度良い地点をいくつか選択肢に挙げるが、そこには当然のように沿岸要塞が築かれている。

 

...うーん、正直わからん。

 

攻略されないための沿岸要塞だ。

突破できる策を見透せるのならば今頃私は参謀入りだが、私より頭の回るターニャが参謀入りしていないのに私が参謀入りしているわけがない。

だがターニャが突破口を開く作戦を思いつき、それを元に戦略を組まれこの現状が生まれているという可能性は無いわけではない。

僅かな可能性と言わざるを得ないだろう。

だがしかし、帝国の未來がある選択肢があるとすればそこ。私が賭けるとすればその可能性だ。

 

となると、最後は東か西だ。

丁度良い攻撃予想地点は主に二つ。

自身が知りえている情報から推測できるのはここまでであり、これ以上は運頼みとなる。

 

「表が出たら東、裏が出たら西だ」

 

適当なコインを一つ取り出し、親指で宙にはじき出す。

手の甲にて受け止められたコインが記したのは、表だ。

東への移動ルートを試算しながらふと硬貨に描かれているその顔を見て、行き先を西に変える。

どこの硬貨だかわからないが、神が描かれていた。

酷く曖昧で、印象的な、感情的な理由だが、私にとっては十分な理由たりえた。

 

「西だとオースフィヨルドあたりか。移動はまあ、なんとかなるだろう」

 

あの地形からして海から飛び出し帝国の船を見つけ保護してもらう手段も取れる。

飛行術式を起動し強硬的に帝国への帰還を目指す地として、そう悪い地点ではないか。

 

 

オースフィヨルドへの移動だが、基本は魔力反応を出さないため非魔道行軍となるのだが、これには協商連合の飛行補助魔導具が大活躍した。

飛行補助の魔導具は各国様々な形を取っている。

例えば帝国ならば腹にでかい箱状の魔導具を抱え、足の固定具から出力するような形だ。

飛行慣熟訓練に時間が掛かり適正も問われるが、飛行時の自由度は他の追随を許さないほどだ。

対して協商連合軍の飛行補助魔導具だが、背中に飛行補助魔導具の箱を背負い、スキー板状の固定具から出力するようになっている。

雪に慣れた雪国らしい補助具であり、非魔道行軍時にはなんと普通にスキー板として使うこともできる。

おかげさまで雪国での行軍にもかかわらず速度を出しながらの順調な非魔道行軍。この地域に適している有効な魔導具と言えよう。

 

「ワンエイティーン!!イェーッ!」

 

スキーのトリックをキメながらの楽しい行軍時間は、自己認識を容易く上回り、想定よりも体感としても早くオースフィヨルド近くに到着した。

と、遠方の空に小さな影。

素早く木の影に伏せ、スキーで冷えた体に鞭を撃ちジッと空を観察。

観測術式を一瞬起動し、一瞬の間に瞼に焼き付け記憶と照合。

 

「帝国の航空機か、なぜこんなところに?」

 

北方軍と協商軍が激突し航空戦が発生したにしてはおかしい、ノルデンから離れたこの地で航空機が飛ぶとすれば戦線離脱したにも関わらず敵地に飛ぶ方向音痴な阿呆か、何らかの作戦行動か。

希望的観測が入っていないといえば嘘になるが、張ったヤマが的中したことを期待せざるを得ない。

オースフィヨルドに異変が無いか素早く体を起こし、魔力という動力を入れ一息に飛んで確認しに行きたい気持ちを抑え、遠くに見えるオースフィヨルド沿岸の様子を伺う。

 

オースフィヨルド上空に黒い影が複数、観測術式を起動。

 

「パラシュートが複数、空挺降下か。...いい的だな」

 

着陸を成功させるための援護射撃もなく、無謀と言える空挺降下作戦。陽動にしてもわかりやすすぎる捨て石、案の定迎撃の対空射撃の火に焼かれ、パラシュートは穴だらけになる。が、様子がおかしい。

対空射撃が直撃するその瞬間、わずかに見えるのは防核術式の魔力光。

航空魔導師による空挺作戦か。通常の兵士と違い着陸できる可能性は高く作戦効率は通常の比ではない。

航空魔導師は空挺などせずともかっ飛んで強襲というのがこの世界での認識であったが、実際に目にしてみると敵の対応は目に見えて遅れ、非常に有効な作戦であることがわかった。

そしてその空挺部隊の数を数えてみると、その数即応大隊分。

使い物にならなくなったパラシュートを外し先導するように先頭を飛ぶその小さな矮躯は、見間違えようもない我らがターニャ・フォン・デグレチャフその人。

ヤマ感が当たったことに喝采を上げたい気分だ。

 

戦闘隊列を素早く組んだ即応魔導大隊は沿岸に設置されている砲台を手当たり次第に攻撃。沿岸要塞の防衛力を瞬く間に削ぎ取りにかかる。

一拍遅れ迎撃に上がるのはオースフィヨルドに駐屯していた魔導大隊。

緊急時のため隊列が乱れてはいるが、この緊急事態に対しあまりに早い出動だ。

即応魔導大隊は中隊ごとに分かれ砲台の無力化に勤しんでいたが、敵のスクランブルに対し一個中隊が敵魔導大隊迎撃として割かれる。

敵大隊に対し一個中隊で相手をするとは思い切ったことをする。

対魔導師戦闘のため高度を上げ、その行動に対し敵も高度を急速に上昇させていく。

互いに航空戦の有利を得るため高度を上げているが、敵に注意を向け自分のいる地点は全くの死角、援護するのならば今が絶好の機会。

その場に伏せたままライフルを構え、狙撃体勢を取る。

 

「狙撃は苦手なんだがなあ。長距離光学術式展開!狙いよーし、発射ァ!」

 

死角からの光学術式による高速での射撃、ターニャの悪魔的な勘の良さでもなければ回避しえないタイミング。

十二分に魔力を込めた光の弾丸は、冷え冷えとしたオースフィヨルドの空気を切り裂き、ただ、ただ空へ通り過ぎた。

 

「大外れ...」

 

 

観測術式により強化された視界には、慌てふためきながらも上昇を続ける敵大隊の唖然とした表情と、ターニャのゴミを見るかのような、この身に降り積もる雪よりも冷たい視線がよく見えた。

 

「い、いや。試射だから、今当てるからほんと!」

 

口からこぼれ出た戯言と共に二射目を放つ。

だが警戒された狙撃など航空魔導士にそう当たるものではなく、涙目で発射された五発の弾丸の内、二発の直撃コースも余裕をもって躱される。

ちらりとターニャに視界を移すと、親指で喉を掻き切る仕草と、高度を上げて切り込めというハンドサイン。

どうやら無線封鎖しているようだーと現状把握に思考を逃避させ、やけくそな気持ちで飛行補助魔導具に魔力を叩き込む。

ああ、この込み上げてくる涙はなんだろう。きっと久しぶりの再会が嬉しいんだ、間違いない。

やけくそな気持ちで高度を上げ、乱戦に入る準備を整える。

ああそうだ、メアリーに借りたジャケット置いてくるのを忘れた。血で汚れなければ良いが。

後悔を心の隅に残しながら、敵の注意を拡散するため肺に空気を取り込み、どうでもいい戯言を吐き出しながら速度を上げる。

 

 

「この欠陥宝珠が悪いんだ!協商連合は二流技術者だな!ちゃんとしたもん作れよバーカ!!」

 

「叫んでないでさっさと切り込めこの下手くそ!」




ティアナ警戒網―能力をフル活用すれば侵入できなくはないが、実際のところモチベーションが死滅しているため任務放棄。ティアナおうち帰るってさ。

各国の飛行補助魔導具―アニメ設定資料集参考。それぞれ理由あっての形だったので考察深め勝手にスキー行軍可能と設定ぶち上げました。おかしくはないはず...ですよね?

ワンエイティーン―ジャンプし180度回転するスキーやスノボーのトリック。久しぶりのスキーで楽しくなっちゃうティアナさん。満喫。

狙撃―適正、非常に低い。


今年最後の更新となりそうです。
4月から投稿し始め、散々迷走してしまいましたが、沢山のアクセスや評価感想に背を押されました。本当にありがとうございました。
これからも完結目指して続けます故未熟ではありますが生暖かい眼差しでお付き合いください。
それでは良いお年を~(スタンピートで街を廃墟にしながら

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