幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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遅れて申し訳ありませんでした。

HoI4やってました。
あ、あの時代の世界観を体感していたんですよー。ホントウダヨー。


15話 行く先は...

ダキア大公国首都郊外上空

 

行けるところまで行く、と言ったデグレチャフ大隊長殿はその言葉通り、対ダキア戦での行けるところまでたどり着いた。

道中妨害という妨害もなく進軍し、首都上空まで到達しても未だに妨害は無かった。

散々お粗末なダキア軍隊を見たとはいえ、どこからか唆され戦争に参戦したのだ。流石に首都はそのどこぞの誰かがアドバイスを送り防備を整えているかと思えば、未だ対空射撃もなく迎撃もなく、警報すらも鳴っていないという。

長距離行軍で多少消耗したであろう部下たちを、間抜けな眼下の田舎国家を引き合いに出し笑ってやり、一仕事前の緊張の緩和を行いながら、ターニャは出撃前のことを思い浮かべ、同じくティアナも同じ場面を思い浮かべていた。

 

 

 

情報部通達

ティアナ・リースフェルトの潜入計画書

 

ターニャは事前にティアナがどういう所属でどういう役割を求められているかというのは知っていた。

諜報員などどこの国もやっている。だがその中でも子供という姿で、頭脳は大人顔負けであり人の心を見抜くことに長けている彼は、確かに適任であろう。

参謀本部直轄の大隊の中、一人だけ情報部の管轄であり、大隊の中で確固とした役割を与えられていないということはいずれ大隊から抜け工作員として活動するということは予想できた。

 

だがしかし、なんだこの杜撰な計画書とも言えぬ物は。

 

「あーらら、なんだこりゃ」

 

「ああ、ふざけているな、却下だこんなもの」

 

乱雑に計画書を机に放り投げるターニャ。

とそれを拾い流し読みするティアナ。

 

「ダキア首都への攻勢前に現地に潜入し工作員により亡命者と共に亡命、赴く国が唆したと確認取れ次第その情報を持ち帰ると」

 

「そんなものが計画書だと?情報部は計画書の書き方を知らんらしいな」

 

目的としてはダキアを唆し戦争に加担させた国への政治的批判やプロパガンダ利用。

とはいえダキア攻略後、ダキア上層部を締め上げどこが唆したかなど、唆した相手国は知りません証拠はどこかで終わることも考えられる。

しかしそうした攻撃要素が無いのとあるのとではだいぶ話が違う。我が祖国の政治家共がノーカードで勝負する阿呆な賭博士ではないということは、そう悲観的なものではないはずだ。

 

「なんとも面倒な任務になりそうだ」

 

「却下だティアナ、そんな任務他の者に回せ」

 

「まあ、万が一にも成功したらめっけもんって感じだしな。この計画書は」

 

潜入するまではある程度整えられているようだが、ダキア現地での亡命交渉はその場のアドリブで。そして潜入後に至っては何の計画も書かれておらず、実現性は非常に低いものだ。

 

「そんな物に貴様のような有能な人材を使い捨てられて堪るものか」

 

吐き捨てるような言葉。人間を人的資源という消費品であるかのような言いぐさ。

もしかしたら照れ隠しにそんな言動を取っているのかもとは、今更この合理主義者に対しては当然思わない。

本心だろう。

だがしかし、合理的な思考それのみがターニャの思いだけでなく、人を思いやる気持ち、友を思いやる気持ちもそこには含まれていることを悪友である自分は知っているのだ。

それでなければこんな奴の悪友などやってはいない。

 

だが。

 

「それでも行くよ、ターニャ」

 

「・・・」

 

ターニャが合理性を重視して行動するのに対し、刹那的な快楽を求め合理性を放棄したりする自分とつるんでいるのはよく不思議がられていた。

だが私ティアナの行動原理は、合理主義者と合致するところが多いのだ。

必要性があればそれを行い、その必要性の判断は自己価値基準と合理性に寄るところが大きく、それがゆえに私は合理主義者の友足りえた。

 

「この任務は私が適任だ。私と他の者では成功率の桁が違う」

 

「・・・」

 

「今、そして未来的にも帝国には少しでも手札が必要だ。そのカードが手に入るのなら私はそれを行うさ」

 

「・・・あぁ、お前はそういうやつだったな」

 

憮然としてターニャが言い放つ。

しかしターニャが憮然としていても、拗ねた子供の姿にしか見えないため少し笑ってしまう。

 

「なに、死ぬ気は無いさ。有能である人材なんだろう?なら軽々とこなして見せるさ。だからそう拗ねるなよターニャ」

 

「・・・拗ねてない」

 

コーヒーカップに口を付け表情を隠すも、それを通り越して見通してくるティアナのことが、ターニャは少し苦手だった。

 

 

 

 

 

「私たちには好機です。襲撃を?」

 

セレブリャコーフ少尉の声にハッとし、ターニャとティアナの思考は現在に引き戻された。

 

確かに今現在敵首都上空を抑えている今、襲撃の効果は絶大なものとなるだろう。

だがしかし、戦時国際法は軍事的必要性と人道性が重視されている。

警告無しに首都襲撃などすれば、それは人道に背く行為となり国際法違反だ。

ライン戦線では人道など意味をなさない地獄の戦場であったが、あそこは戦場であったのに対し、ここは一応平和な空だ。

 

無論、戦時国際法の適用範囲と解釈次第でターニャはそれを潜り抜けれるだろう。しかし我々は人殺し集団ではない、軍人という規律を遵守すべき職業者なのだ。

 

「セレブリャコーフ少尉、我々は戦時国際法を無視する野蛮な集団ではないのだぞ」

 

「は、失礼いたしました」

 

消沈する感情を軍人の仮面に押し込むセレブリャコーフ少尉、任務中に感情を抑える姿から成長を感じるものがあるが、時間が有ったら今度一緒に法律についてお勉強させようと頭のメモ帳に書き込まれた。

最も、時間というものがあればの話だが。

 

「全部隊に徹底させておけ。我々は、敵工廠施設を破壊するだけだ。おい、避難勧告を出してやれ」

 

ターニャの指示のもと通信機を国際救難チャンネルに設定する。

 

「少佐殿!それでは、奇襲の効果が失われてしまいます!」

 

常識を語るのは中隊長のヴァイス中尉だ。

自身と同じように呆れたターニャだったが、穏やかに諫めるのは大隊長の役割。

それにしてもどうしてそう正道での考え方しかできないのだろうか。

戦いとは邪道に走ってこそだろうに。戦争は相手の嫌がることが勝利への近道、正道で勝つことなど圧倒的な物量や質あってこそ。

それ以外正道など馬鹿のやることでしかない。

 

「要するに、相手に警戒されなければ良いのです。さ、マイクをよろしいですか?」

 

相手に警戒心を与えずに警告を発するという条件は、今回に限りそう難しいものではない。

通信機からマイクを受け取り、ターニャに寄り添う。ターニャは苦い顔をした。

 

「ティアナだけでいいだろう」

 

「確実性を増すためです。一人より二人、お判りでしょう?」

 

ターニャも同じ考えに至っているのだろう。実に、実に不愉快といった表情でマイクを見つめる。

 

「セレブリャコーフ少尉に...」

 

「デグレチャフ少佐?」

 

「作戦に必要があればわたくしめは、それを行う心持ちは十分にあります!」

 

往生際が悪いターニャに救いの手を差し伸べたのはターニャが名を挙げたセレブリャコーフ少尉だった。

ええい面倒な、私はただターニャが嫌がることをして楽しみたいだけだというのに。

 

「セレブリャコーフ少尉、この策は私とデグレチャフ少佐の二人の方が確実性が高い。いや、だがそうだな、セレブリャコーフ少尉にも協力願おうか」

 

作戦に貢献できることに目を輝かせ喜ぶセレブリャコーフと、対照的に逃げ道を塞がれ瞳を濁らすターニャ。

セレブリャコーフに指示し一本のマイクに対しぎゅうぎゅうと体を寄せ合う。

 

両手に花だな、天国はここだったのか。いや違うな、隣に悪魔がいる。

 

「セレブリャコーフ少尉、あまり気張らないように。友人たちと冗談を話すようにだ、簡単だろう?」

 

「はい、頑張ります!」

 

「おい、始めるぞ」

 

小さいマイクに顔を寄せ、三人のうら若き乙女たちによって、ダキア公国首都への警告はなされることとなった。

 

 

『『『けいこくします』』』

 

この世界のラジオ普及率はそう高くはない、故に首都全域に盛大にこの声が響き渡ったわけではない。

だがしかし二人の幼い声に一人の若い女性の声は、たとえその内容が避難を呼びかけるものであっても真面目にとらえられることは無いと言っていい。

恥辱を噛み殺し精一杯幼さを演出するターニャ、緊張で強張っているものの笑顔で演じるセレブリャコーフ、ニヤニヤと楽しげな私。

 

控えめに言って、ギャグだった。

 

 

「少佐殿達は演劇をやられていたのですか?」

 

「演劇?意味がわからないな」

 

「まあそう不機嫌になりなさんな大隊長殿。見てくだされ!ダキアは今だ警報も鳴らさず偵察も出さず呑気に工廠は営業を続けています。作戦遂行には何の支障も発生していません」

 

「そうだな」

 

「この様子なら私の任務も滞りなく遂行できるであろうことは想像に難くありませんな」

 

「そう、だな」

 

ターニャの不機嫌な返答から変わり返答に一瞬の詰まりが起こる。

 

 

「では二〇三航空魔導即応大隊、大隊長ターニャ・デグレチャフ少佐殿。私ティアナ・リースフェルトは任務遂行のため大隊から離脱いたします」

 

「了解した。セレブリャコーフ少尉、下に降りリースフェルト大尉の装備を回収しろ」

 

「は、はっ!」

 

事情を知らぬ大隊員が困惑の目線を向けてくるが、それらを相手することなくターニャに一つ敬礼を行いすぐさま降下する。

でかい箱のような魔導具と連結された足の装備も外し、マガジンなどを装着するタクティカルベストも外し魔導具の上に置いておく。

これで丈が余りまくりダボダボの航空魔導士用の服も脱ぎ捨てられるが、ダボダボすぎて若干脱ぎ辛い!

 

「リースフェルト大尉、これからどのようになさるか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「好奇心は身を滅ぼすぞセレブリャコーフ少尉」

 

ダボっとした服を全て脱ぎ去り、魔導具の裏に仕込んでいた服を取り出し見聞する。

これから潜入任務だというのになぜ動きづらいスカートをチョイスした。情報部は馬鹿か。

 

「まあいい。先ほど言った通り私に下った命は潜入任務だ。ダキアを唆した敵国へのな」

 

ダキア内部にいる工作員と接触し、対帝国は敗北すると予測した賢き上院議員の隠し子として敵国に亡命。

もしその上院議員が私を敵国への生贄としたのならば私は絶体絶命というものなのだが、そこは情報部を信じるしかないのだろう。

人に運命をゆだねるなどしたくはないのだが、軍人は基本、任務に逆らえない生き物なのだ。

 

「お戻りのご予定は」

 

「未定だ。一生を祖国の外で過ごすやもしれんな」

 

「...これでお別れなんて嫌ですよ」

 

しおらしいセレブリャコーフの言葉に答えず、ほぼすべての準備を終える。

 

「セレブリャコーフ少尉、これを頼む」

 

最後に胸元から九七式を外し、セレブリャコーフ少尉の手に預ける。

 

「戻った時に返してくれ」

 

エレニウム九七式は帝国の最新技術とも言えるものだ。

量産化可能な域に落とし込んだ九五式の劣化版とはいえ各国の演算宝珠より性能は格段に上だ。

これを敵国に渡すことはあってはならない愚行であろう。

 

「では、達者でなセレブリャコーフ」

 

「はい」

 

崩した敬礼に対してピシリと返された敬礼に苦笑を浮かべ、ダキア郊外の森から街中に紛れ込んでいった。。

 

 

 

防弾性もない布の服。装備は小さな隠しナイフが一つ。

ひのきのぼうと布の服よりは攻撃力が多少高いとはいえ演算宝珠が無いのはやはり痛い。

 

もし裏切りが発生すれば、少し鍛えた程度の身体機能では生き残ることは難しいと言える。

演算宝珠の有用性と、魔導師の非人間性を再度認識した。

 

「すみません、少し道をお尋ねしていいですか?」

 

「ん?どうしたお嬢ちゃん、どこに行きたいんだい?」

 

「修道院への道を」

 

事前情報にてある程度の地図は頭に入れてあったのだが、ダキアへの出撃は緊急的なもの。再度地図を頭に叩き込む時間的余裕はあまりなく、修道院の細かい位置など正直おぼろげにしか覚えていなかった。

情報部から指定された合流場所は、何の因果か修道院だった。

ある存在の介入が感じなくもない所だが、場所の性質上密会を行うにも適しているというのもある。

 

親切なおじさんに道を教えてもらい早足で向かっていると、後方から幾筋もの光が伸び、着弾音と凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

「ふむ、誘爆したか。...かーぎやー!と言うべきかな?」

 

派手な花火のように吹っ飛んだダキア工廠を見ながら、ブラックジョークが好きな同郷である彼女ならば花火に対する感嘆符を言っているだろうと小さく微笑みながら呟く。

最も本物は空で火種を撒き散らすのに対し、こちらは爆破に伴い煉瓦や屋根が地上に降り注ぎ辺りは惨劇に見舞われているが。

 

熱された煉瓦をヒョイと避けながらそのまま早足で目的に向かうと、奇跡的に被害の無い修道院に辿り着いた。

 

修道院内には男が一人、長椅子の端に座っていた。

その男の後ろに座り、手を合わせ祈りを捧ぐポーズを取る。

 

しばらくすると、踵で床をコツッと叩く音が一つ。目の前にいる男からだ。

こちらも床を靴で二度鳴らし咳払いを一つして座り心地が悪いと身動ぎをして椅子を小さく軋ませる。

 

小さな音と仕草で自身が確かに工作員だという合図を返し、その後も声無きやり取りで簡易的な作戦会議を行う。

よもや映画で見たようなこんな真似を本当にする日がこようとは、小さな感動と共に言葉もなく男と共に修道院を出た。

 

扉を開けた時、ようやく男がこちらを見たのだが、無表情に隠された微表情は、驚き、疑念、抑制など。

 

本当にこのようなお子様がスパイとして来たという驚愕。世界情勢を俯瞰的に見る必要性のある職業柄、本当に亡命するのやもという疑念。任務に集中するための自戒といったところか。

思考はどうあれ任務に集中してくれそうならば問題は無し、よろしくという意を込め微笑むと、顔の裏に理解不能と浮かべながらも微笑み返され、関わりを避けるように手早く上院議員の元へ預けられた。




ティアナが諜報員―ターニャ「知ってた」

必要性―必要ならば社畜にもなるし何徹もするし人助けもするし仮面も被るし人も殺すし裏切るし自分を死地に追いやりもする。

相棒のブラックジョークに聞こえずとも答えるティアナ―これはもう、相思相愛の百合では?(錯覚


はい、久しぶりの更新でございます。
エタる気は全くなかったにもかかわらず、はんばエタっていましたね。

違うのです!歴史物が故にね、どうしても調べものがね、発生するのですよ。
そこで色々と調べものをしているうちに【Hearts of Iron 4】、通称HoI4というその時代を体験できる戦略ゲーがあるじゃないかと辿り着いてしまったわけでゲームしてましたごめんなさい(ジャンピング土下座

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