幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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遅くなりました。
え?いつも遅いって?ぜ、是非もないね!(震え声

一部修正いたしました。


14話 ダキア

ロンタイムズ

 

戦場には、嘘としか思えない真実があり、真実としか思えない嘘が多数存在した。

戦場の噂というものは待機中の兵士が世間話として各個の情報を勝手にまとめ上げ、面白半分で混ぜ合わされたものが大半だろう。

しかしその噂の中にロンタイムズに所属し調べている件が関わるのならば、我々はそれを調べ上げねばなるまい。

 

調べているのは大戦終了後の帝国で、平和の象徴となった一人の少女について。

医療魔導師として戦争初期から従軍し、あらゆる戦場を駆けずり回り人々を癒していった帝国の聖女についてだ。

婦長という名が有名だが、彼女については不自然なほど謎が多い。

人格者であったという彼女を貶めたいというわけではない、真実を追い求める者として私はただ、正しく知りたいのだ。

 

まずはわかっている情報から整理しよう。

彼女の記録は、なんと帝国医療に関わる学校ではなく、帝国士官学校から始まっているのだ。

しかも記録にある彼女の年齢から逆算するに相当幼い頃だ。

恐らくは彼女の出自が関係しているのだろう。

彼女は孤児だった。

これは知られた話であり、戦後多くの戦争孤児を私財を投じて支援した話は帝国の美談として今なお語り継がれている。

その後彼女自身の願いにより帝国医療大学に短期編入、そこで医療の基礎を学ぶ。

 

「やはりここから情報はぱったりと無いな」

 

「アンドリューさんが確かその時代の『xxxxxxxxxxx』について調べてたよな?情報共有をすればなにか発見があるかもしれないか?」

 

彼女の記録はこれより終戦までろくに無くなる。普通に考えれば医療魔導師として従軍していたのだろうが、彼女の従軍記録は不自然なまでに不透明なのだ。

我々が独自に調べたところ、帝国の主な作戦の所々に彼女がいたという噂話が出てきている。

 

先程アンドリュー記者が調べている『xxxxxxxxxxx』というのは、世界大戦資料の重要作戦に度々現れる謎の記号だ。

便宜上我々はその十一のxを『十一番目の女神』と呼んでいる。

それについて調べるならば、過去の帝国が行った重要作戦について調べることとなり、なおかつその重要作戦に現れたとされる彼女の情報も得られるのかもしれない。

 

アンドリュー記者に共同調査を頼み込むと彼は快く受け入れてくれ、共に十一番目の女神、並びに帝国の聖女を調べることとなった。

 

 

「私たちは今、V600というものについて調べている。これは先日新しい編成番号だとわかったばかりなのだがね」

 

「ああ、第六〇一編成部隊ですか」

 

「え?」

 

「あ、え?」

 

知っているの?という視線と、知らないの?という視線が交差する。

彼女について情報を仕入れていた中にそれらの情報が混ざっていたのだが、機密性や情報の確実性は考慮せずただ彼女に関わるかで仕入れた情報は選択されていた。その選択されなかった噂話の中にそのV600の情報はあったのだ。

頭を痛ませ得た情報をサラッと出され思わずといった風にガクガクと揺さぶられるが、知っているものは仕方が無いだろう。

 

後日、第六〇一編成部隊についての取材に出た。

 

出たのだが、正直芳しくないというのが実際のところだろう。

情報が得られなかったというわけではない。

取材に赴いた私たちの耳に入ったのは多数の情報であった。

曰く、プロパガンダ部隊。曰く、即応軍司令部構想の妥協案、曰く、消耗した部隊の再編部隊。

どれも確証を得られる情報でなく、真偽は自分たちで判断せねばならない。

 

しかし彼女については一つ情報が得られた。

プロパガンダだという言葉を受け、激昂のあまり骨折するほど強く机を叩いたという元軍人は治療のため医療室に向かい治療を受けたという。

そこでとても幼い子供に治療を受けたという。

その歳で医療魔導士をやっている人物など一人しかいない、彼女だ。

 

六〇一編成部隊を追っていけば彼女の行動を追えるかもしれない。

 

今後もアンドリュー記者と調査をしていけば彼女の動向が掴めるかもしれない。

一筋の光明をたどることはとても気の長くなる作業かもしれないが、私は諦めることは無いだろう。

 

なにせ、私は彼女のファンなのだから。

 

 

 

 

 

ダキア公国の宣戦布告、越境しつつあるのは約六〇万の兵士。

現状の国内戦力配置からすると絶望的な戦力差といえよう。

しかし遅延戦闘を頼んだデグレチャフ少佐は、軽く蹴飛ばして参りますと気負うことなく意気揚々と大隊を率いて出撃していった。

その中には少し前に話したリースフェルト大尉の姿もあった。

 

子供を戦場に送る、その罪深さはデグレチャフ少佐もリースフェルト大尉も変わりはしない。

しかしデグレチャフのような生まれ持った狂気の子供と違い。リースフェルトは帝国軍人が子供を戦場に送るという恥をまざまざと見せつけられる。

どちらも同じ子供だという博愛主義がいるのなら、奴の目に宿る狂気と生まれから軍人にならざるを得なかった彼女の目を見比べてから言ってみろというのだ。

 

「ターニャも私も、軍人にしかなれなかったのです」

 

彼女は公用使の任を終え送り出す際の少しの会話でこのようなことを言ったが、対してデグレチャフは以前何と言ったか私は今でも覚えている。

 

「他に道はない」

 

溢れ出る狂気を合理的に昇華させたとしか思えない返答。

軍人となるしかなかった。

彼女らの答えは一緒でも意味合いはまるで違うようにしか思えない。

 

「二〇三航空魔導大隊、間もなく接敵します」

 

もう引き返せる段階はとうに過ぎた、彼女が優秀であるという事実と、白銀の戦上手ということを信じるしかあるまい。

居もしない神に祈るのは趣味ではないが、帝国の未来である子供が戦場で死なずに済むというのなら神に、なんなら悪魔にでも祈ろう。

 

いや、悪魔は契約主義ともいう、悪魔に祈る方が多少はマシやもしれんな。

 

 

 

「ん?今いつもの不快な気配ではないものの何かしら不快な思念を感じた気が...」

 

「どうかしましたターニャ・デグレチャフ大隊長殿?尿意でも催しましたか?一緒に着いて行ってあげましょうか?」

 

「ティアナ・リースフェルト大隊補佐官殿、貴官はいつもデリカシーというものに欠けるな。黙って、口を閉じて、飛べ」

 

ギロリと睨みつけてくるターニャはとても十数の眼光とは思えないが、これは外国人の顔の堀の深さ故なのか、ターニャ自身の目つきが凶悪なのか。おそらくは後者だろうな。

肩をすくめ言われた通りターニャの隣で大隊をバックに黙々と飛ぶ。

 

これから飛び込む対ダキアの戦場は航空戦力の確認されていない、空を飛ぶ者にとっては非常に楽しいと予想される戦場だ。

諜報部に入っていると他国の情報が入ってくるが、ダキア公国は技術開発の遅れた弱小国家。たとえ他国の介入があったとしてもこの期間のうちに帝国と渡り合える力をつけられたとはとても思えない。

確かに帝国を殺す一手としてさらなる戦線追加は間違いなく有効だろう。

しかしそれは戦線を維持できる地力があってこその話。

 

その地力がないダキア公国は、戦争する資格も無しに突っかかってきた愚か者といえよう。

 

「ダキア大公国軍先鋒集団、あと二〇で交戦距離に達す!!」

 

敵は上から狙いやすいカラフルな軍服を纏い戦列にて行軍している。

戦列など火器が未発達であった時代の軍事ドクトリン、機関銃一つあれば気持ちよく薙ぎ払える軍事パレードにしか使えないものだ。

 

「大隊長より大隊各位!行動を開始せよ!連中に戦争を教育してやれ!!」

 

今回のような大隊の運用方としては、大隊を構成する四つの中隊の内三個中隊を三方向から襲撃し、残り一個中隊でもって制空権維持に赴くこととなる。

しかしながらこの戦場では事前情報通り空にいる敵は無く、珍しく暇を持て余すこととなった。

 

「ではターニャ大隊長、私もターキーシュートに行ってまいりますね」

 

「ああ、まあやることもないしな、行ってこい」

 

私の立場だが、編成補佐ということで大隊補佐官という肩書を承っている。

立場上ターニャの部下ということだが、大隊内の立場はどこの中隊に所属しているというわけでもなく医療魔導士としてバックアップや欠員の穴埋め戦闘員など、何かと便利に扱われる立ち位置となっている。

実際のところ別の事情もあるのだが、ターニャの許可もあって割と自由に動ける立場だ。

 

基本的にはターニャの横で飛んでいることが多いだろうが、必要があればこのように独自に動く。

まあ今回は暇すぎて離れただけだが。

 

こいつらに弾丸を消費するのは勿体無い限りなので術式を編み戦列を爆破していく。

逃げ惑う一人の兵隊が心の安定を欲して他の戦列に走っていく姿が見えたので先んじるようにその戦列を爆破して遊ぶ。

誰かに見られて何かを言われるのは面倒なのでカモフラージュとして他の戦列にも被害を与える。

 

散発的に飛んでくる旧式のライフルは防殻術式を抜く気配がまるで見えないので半場無視して一人の兵士を観察する。

行く先行く先を爆破され、ようやく自分がもてあそばれていることに気付いたのか、血走った目でこちらを見つけ何事かを喚き散らしながら銃撃を行うが、その弾丸がこの身に当たる、ましてや防殻を抜くことはありえまい。。

 

『ティアナ、悪趣味もほどほどにしておけ』

 

『ちゃんと仕事はしているさ』

 

ターニャにたしなめられたものの、楽しく観察しつつ戦列を爆破する手は休めておらず、効率よく敵の被害拡大に努めている。

お子様にも出来る簡単なお仕事ではあるが、ちゃんとやることはやりつつなのだ、多少は許せ。

 

かつての数少ない友人達は性根が腐っている、愉悦部自重しろ、麻婆食ってろなど散々言われたものだが、楽しいものは楽しいのだ。人生長生きするコツは楽しいことをし続けることと誰かが言っていたからそれを実践しているだけだ。最も長く生きれたことは不思議とないのだが。おかしい。

 

玩具を処分しつつあたりを見渡すと、ダキア兵達は一か所に集まり正方形の隊列を組んでいるのが見えた。

 

『パニックでしょうか』

 

人は孤立することを恐れ、緊急時に群れようとする本能がある。

しかし正方形の中心には前線指揮官らしき男の姿、どうにも意図して行ったように見える。

 

戦況の変化を感じたのでターニャの分隊に合流する。

この変化した戦場についてのんびりと議論中のターニャ中隊だが、実際よっぽどの何かでも起こらなければ戦況は帝国の圧倒的優勢が約束されているのだ、無理もないだろう。

 

「あれはパニックではなく、方陣では?」

 

説明しよう。

方陣とは。銃剣と銃撃、二段の戦列を組み死角のない対騎兵用の陣形だ。

銃剣にて突っ込んでくる馬を足止めし、後ろの戦列の者が狙撃し仕留めるというもの。

むろんその運用は三次元からの攻撃も、遠距離からの銃撃も想定していない前時代的なドクトリンであり、今の時代それをやるのはまさしく時代遅れと言えよう。

 

的が的の形を形成する姿に思わず呆れてしまう。

ターニャは一応ダキアへの列強からの新ドクトリンの可能性を考慮し慎重に一当てするつもりのようだが、この惨状から今更というのは無理があるだろう。

 

実際、教範通りに動きマニュアルに使われているヴァイス中尉を連行し、ターニャと共に方陣に突っ込んだが何事も無く方陣は爆破された。

 

その後特に語ることもないほど抵抗もなく敵先鋒集団を壊滅、敵前線司令部破壊ならびに敵司令官捕縛、確かな功績が刻まれる。

ターニャは出発前の訓示で、対ダキア戦を実弾演習といったが、これでは演習の方がまだ厳しいものだ。

正直実戦とは程遠いものだが、初の実戦でこの戦果というのは大隊の箔付けとしてはまあ良いかと納得。

 

「ヴァイス中尉、部隊の集結は完了したのだな」

 

「はい少佐殿、残敵掃討を?」

 

敵司令部を処理したのち、大隊はターニャの元へ集結。

敵先兵を引っ掻きまわし混乱に陥れさらには司令部も刈り取った、敵の進行は間違いなく止まり司令部からの任務は完遂したと言える。そして次の行動を再設定するのは大隊長であるターニャの役割だ。

 

残敵掃討で戦果の拡大を提案するヴァイス中尉だったが、そんな誰にでも出来る仕事など誰かに任せればよい。案の定却下された。

この大隊はただの大隊ではなく即応大隊なのだ。

機動力と打撃力こそがこの大隊の本文、やはりこの大隊の特異性を理解するにはまだ経験が足らないと見えた。

 

「残敵掃討は友軍に任せる。我らは前進するぞ」

 

「はっ、目標はどちらでありましょうか」

 

友軍の航空艦隊は出撃されており、今この戦場に必要な殲滅力はそちらの方が持ち合わせている。

効率を考えれば大隊がちまちまと爆撃術式を用いるよりもはるかに効率的だ。

 

「首都だ」

 

笑みを、攻撃的な満面の笑みを浮かべるターニャ。

 

「さらに前へ、もっと前へ。行けるところまで行こうではないか」

 

狂気の笑みは感染する、ターニャから大隊へ、私の元へ。

飛行を開始した大隊の中で、私は薄っすらと、仄暗く、嗤った。

 

しかして狂気に染まった笑みは、本当に感染したものかどうかは、誰にもわからなかった。




ロンタイムズ―時系列としては大戦後。原作では世界大戦の謎について調べる記者がいたが、それとは別の記者は帝国の聖女について調べていた。

帝国の聖女―いったい何ースフェルトなんだ...。はたまた別ルートに入った閣下か?いやきっとセレブちゃんだ!(すっとぼけ

視点移動―記者、レルゲン、ティアナとなっております。サラッと視点移動させたかったので実験的に○○視点というのを廃棄しました。

ターキーシュート―七面鳥撃ち。

趣味―愉悦部。

「ビザはお持ちですか?」―ダキア編を一話で終わらせたかったのでカット。とても心温まる愉快なシーンなのでぜひ原作で。

ダキア編―一話で終わらせるには少し余った模様。ポンコツ作者。


フラン引けました!ノッブ引けませんでした!

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