幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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投稿ペース取り戻していきたいかぎり。


13話 始まりの大隊 後編

俺はいつの間に眠っちまったんだ、確かにこの演習は碌な休みも与えちゃくれないが、俺は眠りについた記憶もないまま夢のような光景を目の当たりにしている。

 

爆撃機から身を隠し、ほんの少しの小休止を取っていた時のことだ。

魔導師は魔力を扱うからか術式を介さず感覚で多少魔力を感知できる。

魔力反応を出さないように気を張って感覚が研ぎ澄まされていたせいもあり、俺たちが出発した第一ポイントから魔力反応を垂れ流し飛ぶ一人の魔導士を確認した。

 

非魔導行軍を言い渡されているのだ、目標地点まで飛んでいく馬鹿はいない。従ってつまりあの魔導師は定期哨戒という設定だと思われる。

やはりそう楽をさせてくれはしないかとあの幼女に対する恨みを脳内に連ねるが、空に伸びる一つの狙撃術式の光によってその考えは否定された。

 

空を飛ぶ魔導師は遠くある場合ただの一つの点。そんな針の穴のような魔導師を正確に射抜く精度の狙撃を行える者はそうはいない。

ほぼ間違いなくこの地獄の演習考案者であり、白銀の名を与えられているターニャ・デグレチャフその人であろう。

次々と放たれる狙撃だったが、それを何ということもなく回避し、次いで放たれた爆撃術式の嵐を防殻術式で潜り抜ける彼はいったい何者か。

 

望遠鏡を覗き込むと、演習開始時に白銀を初めて見たあの衝撃をまたも受けることとなった。

 

医療魔導師として演習に同行し、いそいそとしおりを配っていたただのサポート班かと思っていたティアナ・リースフェルトその人だったのだ。

 

「最近の子供は改造手術でも受けているのか?」

 

「信じられん、あの子はただの医療魔導師ではなかったのか」

 

自分の他からも戸惑いの声が上がる。

当たり前だ、大の大人でもあの攻撃の中逃げに徹して生き残れるかどうかわからないというのに、彼女は引くことなくどんどんと距離を詰めているのだ。

 

「リースフェルト中尉はデグレチャフ大尉の陰に隠れてはいますが、撃破多数の立派なエースなのですよ」

 

声のした方を見ると、かつて白銀殿とバディを組んでいたセレブリャコーフ少尉が自慢げに彼女の解説を始めた。

ライン戦線にて医療魔導師として従軍しつつも、戦力の摩耗を直視した彼女は時折前線に赴き、しばらくすると白銀のバディとして活躍。

卓越した近距離格闘戦は白銀が認めるほどで、白銀のサポートに徹していなければ彼女も二つ名がついていたことは確実であっただろうと。

 

本当に医療魔導師か?と思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

死の閃光を掻い潜り喉元のインカムになにかを叫んでいると攻撃は中止され、空に一時の平穏が戻る。

 

『訓練生諸君、デモンストレーションの時間だ。戦場を知らぬ諸君らに彼女ほどの力量を望んではいないが、九七式をちゃんと扱えるならばそこいらの凡夫より多少はマシなはずだ』

 

戦闘が収まったにもかかわらず、動けばあの狙撃術式が降りかかってくるのではという恐れから我々は動けずにいたところ、デグレチャフ大尉から通信が届く。

こちらを侮るような内容ではあるが、その力量の一端を見せつけられては反抗の声も上げられない。

 

『そこで戦場を知っているティアナ・リースフェルト中尉にご協力いただいて九七式のデモンストレーションを行う。各位よく見ておくように。』

 

闘争が再開された。

先ほどの倍近くある狙撃術式は、ただ真っ直ぐ直撃させる軌道だけでなく回避行動を誘導させての二段構えであったり、魔力誘導を付属させて曲がる回避困難な高速光学術式、爆撃術式との併用しての囲い込みなど多様な戦術を見せている。

しかしながらそれらを全て回避し防ぎ突破しているリースフェルト中尉の技量も尋常ではない。

 

「リースフェルト中尉の回避力は正直異常です、あの人時々戦場で防殻術式切って飛ぶんですよ?」

 

その言葉を聞いたものは例外なく絶句した。

人は撃たれれば死ぬ。遮蔽物のない大空で魔導士が飛べるのは防殻術式あってこそだ。

遮蔽物のない大空で唯一敵の弾を防いでくれる防殻術式は魔導師の最後の砦と言っていい。

 

「正気ではない」

 

あはは、などとセレブリャコーフ殿は苦笑いしているが、あははではないぞあははでは。

 

「並みの攻撃では防御させることすらかなわないリースフェルト中尉に防御させるデグレチャフ大尉の力量もまた、尋常ではないのだな」

 

戦術を切り替えたのか、大量の爆撃術式によってあの戦闘区域の空が爆撃の煙に覆われている。

逃げ場などどこにもない爆撃の雨は酸素を消費させ一酸化炭素中毒によっての戦闘不能をも視野に入れた確殺が約束されたエリア。

たった一人を相手にするにはオーバーすぎる火力だったが、それでも彼女は生き延び先ほどの位置より後方から煙を振り払い高度を取る。

追いすがるように爆撃が追い付こうとするが、切り返すようにしてその攻撃を潜り抜け爆風に乗るように圧倒的な速度で距離を詰める。

 

距離を詰める速度が速いほど、射手との距離が近いほど弾速は相対的に速くなる。

リースフェルト中尉の取った選択肢は機動の柔軟性を捨てたほぼ直線の飛行しかできないもの、出なければあの速度は出せまい。

しかし柔軟性をなくせば直撃コースを避けることは叶わず撃墜は確実。

 

そのような機動を取る相手に白銀が外すはずがない。

真っ直ぐ飛行する的に真っ直ぐ閃光が飛び、誰しもが被弾したと思った。

 

案の定閃光はリースフェルト中尉を呑んだ。

 

「おい、防殻術式の光も無かったぞ!」

 

「まさか本当に切って飛んでいたのか!狂ってる!」

 

誰しもが死を想像した。

模擬戦として出力を抑えていたとしても防殻抜きでは死んで当たり前の威力だったのだ。

 

「リースフェルト中尉はそんな無策で突っ込む方ではないでしょう。ほら!まだ飛んでますよ!」

 

唯一生きていることを想像していたセレブリャコーフ少尉が示す先には、こちら側から見えなかった閃光の向こう側でなお速度を落とさず飛行する姿に訓練生一同は安堵した。

 

「しかしどうやって」

 

見ていると速度を殺さず急激にその軸を横に移動させ飛行する姿が見えた。

原理はわからないが回避機動の方法はまだ持ち合わせていたようだ。

 

ようやくリースフェルト中尉がデグレチャフ大尉を射程圏内に捉えると模擬戦は終わりを告げた。

 

『以上で九七式のデモンストレーションを終えるが、最後のアレは参考にしないように。防殻術式のリソースすら割いたサーカス飛行だ、参考にした馬鹿は私が直々に撃ち落としてやろう』

 

できませんという訓練生一同の感想は声に出さずに行軍を再開する。

長い間伏せていたので体はすっかり冷えてしまったが、心は熱く燃え滾っていた。

 

この胸に下げている九七式はこの苦しい演習を乗り切らせるモチベーションを与えたのだ。

 

行軍後の第二ポイントでは苛烈な対尋問訓練が待ち受け、その後も険しいアルペン山脈行軍が待っていた。

しかしながらこの先に革新的な九七式、そしてそれを用いての英雄的な大隊所属は決して消えることのない希望として脱落者は訓練内容に対してあまりにも少なく済んだ。

 

「まったく冗談じゃない、あんな小さな足で踏まれて面罵されて大人をなんだと思っている」

 

「はは、違いない」

 

訓練の終わり際のことだ。

ヘロヘロになりながら皆が白銀殿への悪態を吐く。

しかしながらそこに悪感情はなく狂ったかのように誰しもが笑顔。そういう私も笑顔であった。

 

「しかしリースフェルト中尉は将来美人になるであろうな」

 

「デグレチャフ大尉も美人になるのは確定では?」

 

「あんなおっかないのは勘弁だ」

 

「苛められるのが好きなのには天使のような御仁であろうな」

 

わはははと皆が笑い合い苦しい行軍を潜り抜ける。

あのまま育てば将来は帝国の大英雄となるのは想像に難くない白銀様の部隊だ。

たとえこの部隊の行く先が修羅の道であろうと、帝国のためと胸を張って言える。そんな部隊に入れたのならば、きっとこの先後悔は無いだろう。

 

「何をちんたら歩いている!キビキビ動け!」

 

「白銀様がお怒りだ!総員あと少しでも気を抜くなよ、最後に何が待ってるかわからんからな!」

 

「違いない!」

 

我らはこうして笑いながら戦場へ赴くのだろう、たとえ死が待ち受けるその先であろうと。

 

 

 

 

 

視点回帰 ティアナ・リースフェルト

 

 

「は?身長が一向に伸びない?私に聞くな内科行け私は外科専門だ」

 

魔女にこれでもかと詰め込まれた範囲に内科の仕事内容も入っている気がするが、やはり私の専門分野は実際に執刀経験豊富な外科だ。

まして幼子の発育不足について相談されてもそんな知識など持ち合わせていない。持ち合わせていたら私自身成長しとるわ。

 

演習終了後、私たちは地獄の演習フルコースを潜り抜けた訓練生を引き連れ帝都へ帰還した。

人員的に確定的な大隊結成するにあたり様々な事務仕事に専念していたのだが、九五式の精神汚染が抜けたのかターニャに相談されたことは発育不良についてのこと。この忙しい時期にそんな質問とは、実はまだ精神汚染抜けてないだろ。

 

内科行けと適当にあしらい仕事に向き合いつつ、九五式の魔力に当てられあまり意識の無かった演習後半を思い出そうとする。

存在Xによって意識を奪われているとき、影響が一定のラインまでは仮面に忠実に動くことが確認されている。

何やら治療中に何かを言っていたり発生した雪崩から救出に動く自身や、演習終了後に演説を行うターニャと訓練生を眺めていたことを薄っすら記憶しているが、やはり詳細は記憶ははっきりと再生され得ない。

 

しかしなんだろう、演習終了後から訓練生、いや今後同僚となる大隊候補者からの尊敬の視線が鬱陶しい。

演習開始前はただの医療スタッフかと無機質な視線から変わったまるで天使を見るかのような視線や畏怖の視線。

まあこれは良い、しかしキチガイを見るような視線はいったい何なんだ、眼球刳り貫いてやろうか。

 

仕事のし過ぎで多少気が立っていることを自覚した私は、一服がてら少し散歩することにした。

根を詰めすぎては仕事の効率にも支障が出る、適度な運動は健康にも良いしな。

 

「おや?レルゲン...中佐殿」

 

「あぁ、貴官は白銀のところのティアナ・リースフェルト中尉か」

 

参謀本部に所属している有望株は一応チェックしてあるがその中でもレルゲン中佐は昇進が期待しうる有能な者だ。

以前士官学校で会ったことがあるがそのときよりも心なしかゲッソリしているようにみえる。

 

「お久しぶりです、今日はいかがなされました?」

 

「ああ、今日はデグレチャフ大尉に用事だが、デグレチャフ殿は執務室か」

 

「はい、所用で離れていたもののそろそろお戻りになっていることでしょう」

 

「では丁度良い、貴官もついてきたまえ」

 

「はっ、了解しました」

 

会話も無く早足で執務室まで案内する。

せかせかと歩く子供の私に気を使ったのか歩調を緩めるレルゲン中佐の心遣いにできた人間を感じるが、歩きながら歩幅の関係で苦労しなくなるにはあといったい何年かかることかと少し落ち込んだ。

 

「デグレチャフ大尉、公用使のレルゲン中佐がお見えになられました」

 

 

案内を終えた私は室内にいたセレブリャコーフ少尉が退室を促されるのと違い、大隊編成の補佐という役割があったため扉横にて待機して話を聞くこととなった。

話された内容は以下の通り、ターニャ・デグレチャフの昇進、大隊の前線配備を匂わすもの、対ダキア大公国の戦域拡大予想。

 

全く以って頭の痛い限りである。

現在帝国は二つの戦線を開いている。それにさらにもう一つ戦線を追加しようなら帝国は間違いなく破綻することは私でもわかる。

小国の軍事的弱者ならばおとなしくしていれば良いものを。

 

対ダキアを匂わすことは公用使としての職務を超えた警告だ。

それに対してのレルゲン中佐への感謝を満面の笑みにて返したターニャだったが、いかんせんあいつの間の悪さはどうにも喜劇的だな。

 

対外的な評価は戦争大好きっ子なターニャが戦争に赴くことを暗に告げられているのだ、笑顔でお礼?どうなるかはレルゲン中佐の表情が物語っている。

これから先レルゲン中佐のターニャへの戦争狂という印象が変わることはそうそうあるまい。

 

「リースフェルト中尉、レルゲン中佐をお見送りしろ」

 

参謀との伝手が出来上がり次第私はターニャの印象改善に努める予定だった。

印象を改善し参謀本部に入れる、それが帝国が勝利する一手となりえたからだ。しかしながら印象改善が絶望的な相手を増やすことがお得意のターニャちゃん。

お見送りの短時間の会話でも人は望む印象を与えることができる、が。

 

ほんとどうしようか。




改造手術―ナニカサレてはいるね。

自慢げなセレブ―むふふんといった表情、可愛い。

セレブリャコーフ―書いてて思うけどいちいち名前が長い。

防核術式カット―宝珠の性能上仕方がなかった。九七式では切らなくても大丈夫だが切らないとは言っていない。

評価―ターニャはおっかないけどティアナは可愛い。大丈夫そのうち隊での評価落ちるさ。

魔女先輩―存在を忘れてた。

ターニャとレルゲンの会話―知りたくば原作買ってねというスタンスなので全カット!


FGOフラン水着可愛すぎるんやが?

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