幼女の友人幼女戦記   作:AMEKO

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まず最初に詫びを申し上げねばなりません。
前話の最後に秘密の任務を始めると入れたのですが、考えた結果その部分を削除し何事もなかったかのように今話に繋げさせていただきました。
期待していた方には大変申し訳ございません。

それでは、大変お待たせいたしました。
始まりの大隊編です。


12話 始まりの大隊 前編

軍人が行う訓練は、厳しい。

合理性を重視する軍という組織が訓練を厳しくするのには当然理由がある。

苦しい訓練で精神を鍛え、来るべき戦場で逃亡することなく、恐怖に打ち勝つ精神を、苦境を覆す奮戦を行うために、日ごろの訓練は厳しく成されているのだ。

当然厳しい訓練に耐え兼ね脱落する者も多くいるだろう、しかしながら訓練による選別が成されなければ脱落していたはずの者は命を失い、そのものが負っていた責務は味方に降り注ぐ。

 

私が無能を嫌う理由の一つだ。

 

訓練とは戦場のセオリーを学ぶこと。

セオリーとは、戦場での命の守り方でもある。

戦場での命の価値など、時に一発の銃弾より軽いものだ。その価値を大事に守れるのは自分自身であり、他の誰も守ってはくれない。誰も彼も自分という価値を守ることで忙しいのだ。

その価値の守り方、戦争という事象が行われている場合とても単純だ。

 

殺される前に殺せ。

 

兵は自身が守る価値のために日々訓練に励む。殺されないため殺す訓練に励む。

自身、家族、国、名誉。

価値を守るため励みたまえ、私たちは試練を与えよう。

なに、セオリーさえ守っていれば、少なくとも死にはしないさ。

 

 

 

「時間だ、始めるぞティアナ」

 

「りょーかい」

 

時は夜。

ターニャと共に帝国領アルペン山脈、ツークシュピッツェ演習場の宿舎上空に浮かび上がる。

先ほどまで高々度順応訓練を大隊志願兵と共に行っていたのだが、私たち二人は疲れも見せず地獄の訓練を開始するべく準備を行う。

 

より良い苦難を。などとほざくつもりは共に無い。

むしろ落ちるなら落ちろと思っている私たちは、教官失格なのだろう。

今回の訓練はターニャの初期のプラン、兵の練度不足により再編不可能悠々後方コースではなく、大量の志願書によりやむを得ず屈強な肉盾大隊プランに変更しており、この地獄の訓練を潜り抜けてこれるモノを望んでいる。

 

あのような応募書に大量の志願者がいること自体、時代がおかしいのかと目を覆いたくなるものだが、きっと存在Xの仕業に違いないそうに違いない。

 

「魔導砲撃用意、合わせろ」

 

「了解、いつでもどうぞ」

 

ッテェ!という甲高い声とともに発射されたのは威力が抑えられた模擬術式弾だが、当たり所が悪ければ当然死ぬ。

死なない程度とのことなので仮宿舎の廊下や人のいないであろう食堂などを滅多打ちにする。もしそこにいるのならばそれはもう死んでも仕方なかろう。

 

「おはよう諸君、爽やかな朝を迎えられて幸いだな」

 

壮絶な笑みを浮かべおはようのご挨拶に向かっているターニャの後ろで、目視による人員確認。

どうやら今しがた吹き飛ばされた宿舎の中で再度おやすみした者はいないらしく、今回は医療班という名のお飾りで楽ができるのではと多少期待する。

 

「さて、私は諸君らのために手ずから本演習のしおりを作成した」

 

私がしおりを配っている間にターニャが朗々と本演習の説明を行う。

しおり内の地図には三点のポイントが書き込まれており、開始時より第一ポイントに移動。

制限時間は四十八時間以内、悠長に休憩している時間など無く即座に行動せねば間に合わない位置にあった。

魔導師であればひとっ飛びで行ける距離ではあったが、しおりによれば魔力反応に対し観測射撃と魔道誘導砲撃を行うというもの。

一見非魔導行軍を促すものだが、決してその行為を否定するものではない。

 

精密極まりないターニャの狙撃を掻い潜り目標地点まで向かえる人材がいるのならば、それは歓迎すべきことである。

まあそれほど期待しているわけではないが。

 

各隊員はそれぞれに話し合い行動を開始した。

 

雪に埋もれた道無き道を行くのは体力的に厳しいものがあったが、冬の冷たい川を越え険しい山を登り、見事脱落者を出さず第一目標に到達した。

魔導反応を撒き散らし元気にぶっ飛んでいく元気な魔導師は居なかったようだが、どうやら根性はあるご様子。

ポイントに到達した彼らを笑顔で迎え、彼らが実に優秀だった場合のプランBを発動させる。

 

「諸君の有能さ故に、砲兵隊は弾を持て余らせているらしい」

 

砲兵の仕事とは、素早く弾を込め、目標地点に正確にぶっ放すことだ。

今回魔導反応が有り次第その地点にぶっ放し、その後も予測進路に向けぶっ放す予定の弾はなんとも盛大に余った。

砲兵の練度向上も兼ねることで今回砲兵隊を借り受けたのだが、一発も撃つことがなく返却というのは借り受けた言葉を違えるようでよろしくないのだ。

 

楽しく一緒に遊ぼうではないか、と魔力反応を盛大に撒き散らし、ターニャはデモンストレーションとして砲兵隊の定点砲撃をすべて撃ち落とす。一応自分という観測のバックアップがあるが、九五式を使うまでもなく、エレニウム工廠製九七式を用いた魔力誘導干渉術式でもって正確に撃ち落とした。

九五式は魔力演算機の四基同調でもって革新的な性能を叩き出しているが、今回隊に配られた演算宝珠は九五式の半分、二基の演算同調だ。

しかしそれでも既存の演算宝珠よりも遥かに高い性能を持ち合わせており、ターニャの持つ九五式と違い精神汚染も見られない。

ターニャは九七式にも精神汚染が成されると思っているようだが、神々が直接関与した九五式と違い、これは人が作り出した技術の結集物だ。

精神汚染に関しては九五式起動時の魔力に当てられるだけで意識が薄まるほど弱いらしい私の精神汚染耐性が何も反応を示さないため、きっと大丈夫だと思われる。

それにしても年々存在Xに対する耐性が薄まっているのはなんだろうか。

 

ターニャが隊員に与えた定点砲撃に対しての準備時間15分を過ぎ、時間通りに砲撃は開始された。

 

砲撃に使われている弾はほとんどは模擬弾だが、一部目覚まし用の実弾も混ざっており、それを見分け確実に撃ち落とすことにより損害を抑える手腕は見事なものであった。

たとえそれでなくとも一部が崩れればそれが連鎖し瞬く間に砲撃に対する迎撃網は崩れ、天に身を任せることになりかねないなか、訓練生達は一丸となり各役割を守り、誰一人落ちることなく36時間を無事に過ごした。

よくやるものだと素直に感心する。

36時間ぶっ続けて行われた砲撃は鳴りを潜め、安堵の空気が彼らの間に漂う。

 

「諸君、砲兵隊がまだ弾を余らせているという」

 

そこにターニャが絶望を装填した言弾をぶちかまし、この36時間で聞きなれた砲弾の飛翔音。

実戦経験からか素早く復帰したセレブリャコーフの迎撃に続くように再度迎撃を開始するが、一度緊張の糸を切られた後か、砲撃が終わる頃に人数は60人まで減っていた。

 

「怪我人や頭を打ったという者はここに来て診察を受け、脱落者もここへ集まるんだ。意識の無い者で重傷の者は動かさずすぐ知らせるように」

 

脱落者の治療、心理的なケアを設置された簡易診療所にて行うのが今回私に割り当てられた仕事だ。

砲撃を防御しきれず腕を折ったもの、着弾の衝撃で裂傷を負ったものから、砲撃に対する恐怖心への適度なケア。

心理的に弱っているため洗脳染みたケアはできなくもないが、戦場と砲撃は今の時代切っても切れない関係なため、完全に恐怖心を消し去るという処置は戦争中の今は行えない。

恐怖心は時に命を奪いもするが命を守りもする、必要なのは恐怖を抑えつけて動ける程度に恐怖心を取り払うことだ。

この場ではあまり有効な治療を行う時間が無いため演習終了後に回さざるを得ないが、恐怖を緩和させる手段を伝える程度はできる。

 

「リースフェルト中尉殿、すみませんが右腕が折れてしまい治療を頼みます」

 

「うん?貴官は脱落組とは違うだろう?添木でもして演習を続けたまえ」

 

脱落者の治療にあたっていると、未だ脱落者となっていない者が治療を受けに来る。

医療に携わる人の仮面としてはこの状態の者を放っておく気はないが、今は試験中のため脱落していない者に対しての治療は行えない。

 

「しかしこの怪我では今後の演習に差支えが」

 

「ならば脱落したまえ、貴様のような軟弱者は隊には不要だ」

 

一応観察術式で状態を見るも後遺症の残る折れ方ではなく、第二ポイントへの移動は問題なく行えると判断。

脱落者の仲間入りしたいのなら治療を受けられると説明すると、渋々といった顔でこの場から離れ演習に戻っていく。

私の予想ではたとえ怪我をしていなくとも彼は脱落だろう。もっとも、最終的な合否を判断するターニャの視点から考えるに、まだ任務継続可能であるのに引こうとする彼は彼女の望む人材ではないため不合格だろうが。

 

「ではこれより第二ポイントへ移動してもらう」

 

私が仕事に当たっている間に、ターニャと訓練生達はさっさと次の目標地点に移動する。

 

「過酷なものでしたな、いったいこの後の演習では何が待ち受けているか考えると、恥ずかしながら安堵している自分がいます」

 

「安堵したまえ、この後にはドーベルマンや急降下爆撃機が放たれてるなか行軍し、第二ポイントで対尋問訓練後アルペン山脈の登山コースだ」

 

「それは、なんとも」

 

絶句し青い顔になる脱落者、彼が想定していたであろう困難を軽く超える演習コースは、この時点で落ちてある意味幸運であったのだろう。

 

「言ってはなんだが、正直戦場で戦争している方がまだ楽だろうな、もっともこちらは命を失う危機は少ないわけだが」

 

「戦場帰りの貴官がそこまでいうとは」

 

「だがまあ、今回貴官が経験したことはそう無駄にはならないだろう、一仕事終えた後の緊急事態など、戦場ではそう珍しくはないからな」

 

緊急呼集に緊急出撃に緊急退避、戦場では緊急という言葉に事欠かない。

第一ポイントでの仕事を終えターニャのもとへ飛行していくと、前方より魔力反応を感知。

 

長距離狙撃術式から始まり多数の魔力誘導術式が飛んでくる。

出力は抑えられているもののその分のリソースはえぐいほどの誘導に成されている、ライン戦線にしてももう少しましだったぞ。

デコイで誘導し、空間爆撃によって誘導弾を誘爆させ回避し近づいていくと、遥か遠くに見えるは案の定白銀ことターニャ・デグレチャフ。

 

「ターニャ私だ、攻撃中止、攻撃中止!」

 

「デンパガワルイヨウダ、よく聞こえない」

 

嘘をつけ!爆裂術式の雨で面制圧して削りに来るなんて私対策でしかしてこないだろう。

おかげで身体中煤だらけだ。

 

しかしこの九七式は随分といい性能している。

飛行術式と防核術式が並列起動し、一時的に攻撃術式を発動させる。これは以前の宝珠でできたものだが、これに調整術式や不眠術式の並列起動を足そうならば攻撃術式を起動した途端宝珠は機能を停止する。

已むを得ず以前私は防殻術式を切り回避重点の戦闘機動を取っていたのだが、この九七式はその全ての常駐術式を起動させてもまだ余裕があるほどだ。

 

「訓練生共への九七式デモンストレーションにはちょうど良いのだ、しばらく付き合いたまえ」

 

「...遺憾ながら了解」

 

「私秘蔵のコーヒー豆を勝手に飲まれた恨みを知れ」

 

私をコーヒー党に引きづりこんでおきながらうまい豆をちゃんと隠さない方が悪い。

 

爆炎の中を突き破ってくる多数の魔力誘導弾とすれ違うように距離を詰め、想定内だと言わんばかりの爆裂術式を障壁をもって突き破る。

一瞬の停滞も許さないように四方八方から弾丸の雨に気を取られることなく前方からの狙撃術式を回避、以前とは違い防殻術式が常駐できるので多少の被弾はよしとする。

回避力を知っているせいか面制圧が多発する戦闘は、下から見たらさぞ派手に見えるだろうが、相手にしているこちらからすれば堪ったものではない。

 

ターニャの予想を振り切るように前方ではなく後ろに下がりつつ急速上昇、追尾してきた誘導弾を切り返すようにして再度全速力で一直線に飛行し、爆撃の海を抜ける。

全速力とは、文字通りの全速力だ。

 

防殻術式を切り、常駐術式も観測術式以外全てを切り、そのリソースを全て飛行術式に費やす。

こちらに飛んでくる弾丸に向かって進むのだ、相対的な着弾までの時間は先ほどの比ではなく回避は困難になった。

 

「また最後は特攻か突撃馬鹿が」

 

「そいつはどうかな」

 

セオリーから外れた論外の戦闘機動に対しても、面食らうことなくターニャは冷静に狙撃術式を発動。

それが外れることは、あの戦場でスコア稼ぎを手伝っていた私にはとても期待できない。

そして何よりもわかっていたことだ、こういう状況であいつはヘッドショットを狙いに来ると。

 

鉄拳術式を起動。

何もビームを拳で突き破るヒーローごっこがしたいわけではない、そんなことしたら拳が焼き切れる。

鉄拳術式の構成は簡単に言うと自身に張った防殻術式に射出術式を打ち込み、その推進力を威力に変える至極乱暴なものだ。

 

「クイックブーストか、味な真似を」

 

その射出術式の出力を体の横に設定すれば、いつかゲーム画面で見たような急激な横移動が可能となる。

その場の思いつきでやってみたものの、なかなか良い出来だ。

 

「距離千まで到達、そろそろ良いのでは?」

 

「ふむ、まあ良いだろう。協力感謝する」

 

デモンストレーションの終わりを互いに合意すると、訝し気にこちらを見やるターニャに目もくれず、すぐさま高度を下げ森へ降下する。

突発的な思いつきを実験も無しにやるものではないな。

 

防殻術式に受け止めさせているとはいえ、射出術式の衝撃を直に受けるのだ。

腕や背中からならともかく、横っ腹はまずかった。

 

 

森の中ゲーゲーと胃液を吐き出す私と、背中を擦るターニャ。

あたかも心配でついてきたターニャの姿だが、そのような言葉は一切無く、後であれのやり方を教えろと要求するターニャはただの一人の男の子であった。




より良い苦難を―ぷるすうるとらー!

存在X―無実。か、な?

プランB―ねえよそんなもん!

コーヒー豆―隠してはいた。

デモンストレーション―という名の九七式の慣らし。

クイックブースト―アーマードコアが元ネタ、ドヒャアッドヒャアッ!

連続クイックブースト乱発する高機動幼女が二人爆誕したかもしれない。

前話の最後、そろそろオリジナル話を突っ込みたいなー、と適当にぱなしましたが、考えたところ今この現状でやることは別に無いと気付き申し訳有りませんがそのまま原作ルートを続けさせていただきました。
ちなみに残りの演習は後編となります。

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