うほっ!な温泉回ではない!何より私がそんなの書きたくなかったからな、安心したまえ!
とりあえず少しはクオリティ戻ったかな?(戦々恐々
我が心の祖国、日本に住まう日本人の魂と言われるものはいくつかある。
霊峰富士山、日本刀、調和の心。そのうちの一つは温泉と言える。
ここは帝国保養地として名高いマイネーンの温泉地。古来より湯治場として有名な温泉街、そのうちの一つに我らは大学の野外演習として来た次第であります。
戦場で柔らかいベッドで寝れるわけも無く、塹壕の中硬い土の上で泥のように眠るもまた戦場ではままあること、故に野外演習でもそれに倣い我ら演習組みは塹壕の中眠りにつくこととなります。
だがしかし、我が悪友ターニャと私ティアナは、軍関係施設にて宿泊を許されている。
帝国が魔導師を軍事利用する以前に存在していた女性士官は、皇族であり、それを前提に作成された軍規は名目的な軍務奉仕を想定したもの。
魔導師の希少性故に女性士官が増えた今でもその軍規は改正されていない。
いちいちそのような軍規を訂正するほど帝国軍人は暇ではないため、私たちは温かいベッドで眠ることができるのだ。
女性であることに感謝しかけたが、軍人となるしか選択肢を与えられなかった存在Xを思い出し、感謝の代わりに祈りを捧げることにした。
存在Xに災いあれ!
宿舎に到着した私たちは次の日の演習に備え、速やかなる就寝に付くのが道理。
しかしながら、私は模擬潜入作戦と称し、ここ付近の見取り図や見回り時間など、目標達成に必要な情報を演習一週間前に入手している。
これを提案した時、諜報教育官は面白がっていたが快く協力していただいたのでこちらには感謝。
早々に寝に入ったターニャを叩き起こし、潜入計画通りに見張りを擦り抜け、路地を走り抜け、番頭に賄賂を握らせ、ようやく我々のエデン、温泉へたどり着いた。
「はぁ~、極楽極楽」
「同意しよう、だが寄りかかってくるな、髪がうっとおしい」
肌のケアなど欠片も考えていないぞんざいな洗い方をして先に湯に浸かっていたターニャの隣に入り、弛緩していく体をターニャの肩に寄り掛からせるが即座に振り払われる。
風呂であれピシッと背筋を伸ばして入っているターニャは、いつも通り隙が無かった。
「どうよ今後は、まだ勝てるかい?」
「ああ、北方にいた主力部隊は西方に再配置が完了した。下手を撃たなければまだ負けることはないだろう」
趣味に使う時間は今の帝国軍人にはあまりない。
故に話は自然と仕事の話になる。
「西方はやや押し込まれはしたもののライン工業地帯は未だ無事だ、そこまで押し込まれていたのならば危うかったのだろうがな」
物資を生み出す工業地帯、それが落とされれば当然兵站は滞り飯や銃弾が不足する。
人は飯を食わねば生きられなく、兵は弾が無ければ生き残れない。
当初予定されていた北方から西方への再配置は大幅に遅れを見せていたためライン戦線の戦線死守には甚大な犠牲を払ったものの、よく持たせたものだと。
しかしそれでも、ターニャは勝てるとは言わなかった。
「そうか、じゃあ今後はどうなると思う?」
「恐らくはだが、即応部隊が設立されるだろう。プラン三一五は十分に機能しなかったが、その考え方は間違いではなかった。問題は規模が大きすぎたのだ」
参謀が企画したプラン三一五とは、各方面軍が戦線を維持しつつ、中央本隊の集中的な機動運用により敵を各個撃破せんとする戦略だ。
しかしながらその中央本隊の規模は大きく、わかりやすく言えば力は強いが足が遅いのだ。
ターニャの言う即応部隊とは、先日ターニャがセートゥーア准将に企画した即応魔導大隊のことだろう。
大隊規模ならば兵站への負荷も少なく、機動力もあり、一定の火力も有している。
人を鉄道やらで運ぶ。たったそれだけの行為で航空機のような機動力をもって戦車や火砲規模の火力を叩きだし、消費する武装は歩兵並。
私もその魔導師の一人なのだが、なんとも出鱈目な人種だ。
「そこは随分とブラックな部隊になりそうだな」
「ああ、恐らくどこの戦場にも引っ張りダコの部隊になるだろうさ」
はっはっはー。俺の予想では隊長はあんたなんですがね。
「それにしてもティアナ、最近また隈が出てきたみたいだが、また趣味に没頭して睡眠とおさらばしているのか?」
そう、帝都に来てからは規則正しい生活が出来ていたのだが、この前情報部に入ってからはまた睡眠時間が削られたのである。
勧誘に来ていた男が諜報部の指導員としてビシバシとスパイ指導、その時間帯は真夜中から朝にかけて行われる。
三徹までなら行動に支障はないと調べられているのか、足音の消し方、雑踏への紛れ方、情報隠ぺいに拷問方法、スパイに必要な技能を容赦なく叩きこまれている。
苦笑いしながら趣味と偽り誤魔化しておく。
仕事に関してターニャが口が堅いことは十も承知だが、言ってはならないことを黙っているのは社会人以前に人としての常識だ。
「うー、癒しが無いんだよー」
「馬鹿、離れろ気色悪い!」
誤魔化しがてらターニャに抱き着く。
男同士であったのならば気色悪い限りだが、今目の前にいるのは金髪美少女、もとい美幼女。
若干筋肉質とはいえ数年ぶりの女体、本音を言うのならばセレブリャコーフのような成長した女性に抱き着きたい限りだが、お子様ボディというのもこの際悪くないとしよう。
なにより、若さというものは一つの正義であるし。
見た目バシャバシャと子供のように風呂ではしゃいでいるが、抵抗するターニャと私はもはや格闘戦の域にまでその悶着は行われ、いつも通りターニャの鉄拳により収束し、私たちは仲良くのぼせた。
「で、帰りはどうするのだ」
「えーっと、うん、まあ、頑張るのさ」
「おい、忘れたのかおい!」
さて、本題だ。
昨晩はマイネーンの温泉を堪能したわけだが、今回私達は温泉旅行に来たわけではない。
戦時下において有能な参謀はいくらいても良い。しかして、有能な参謀とはどのような存在か。
常に冷静であり、優れた洞察力と判断力を持ち合わせ、極限状態にあっても合理的判断を下せる存在といったところか?
今回はその極限状態を生み出すべく、塹壕の中雑魚寝を強い、起床後には過酷なハイキングが予定されている。
「白湯です、どうぞ。お疲れでしょう」
私達も本来ならば劣悪な寝床とも言えぬ塹壕内の固い土の上で寝ているのが筋だったのだが、私達は制度を利用し柔らかいベッドで快適な睡眠を取った。
そのことを恨む小さな人間は居ないとは思うが、私とてその心を全て覗けるわけではない。
故にこうしてターニャと共に白湯運びを行いヘイト管理に勤しんでいる。
「感謝するリースフェルト中尉、あぁ、体に染み渡る」
「いえいえ、今日も頑張りましょう!」
グッと両の握りこぶしを目の前で固め可愛いポーズ。
握りこんだ拳からはなにやら血の匂いが漂うが、知らなければ子供の小さな手。この姿を是非とも侮り可愛がり腑抜けるがいい。
頭をグリグリと撫でられつつちらりと周りを覗ったところ、私たちが宿舎に泊まったことによる悪感情は、見たところあまり無さそうだ。
若干そういうものとは違う嫉妬の視線も感じるが、これは校内でも感じるもの、無視で良いだろう。
解消できる悪感情は出来るだけ解消するのだが、優秀な者を妬む輩は正直どうしようもないのだ。
そういう奴らを懐柔する労力はリターンが釣り合うことはほぼ無い。何せ自身の無能さが故の感情。
そして何より懐柔する旨みが碌にないため無視するに限る。
いずれ上の階級に属する同期達に媚を売り、定時にて楽しい楽しいハイキングが始まった。
通常軍事訓練は、当たり前のことだが幼子が行うことは想定していない。
故に消耗の一手を担う完全装備は規定通りの重さとなっており、私達には少々荷が重い。文字通りに。
しかし一番辛いのはターニャであろう。
私はもはやお得意となった肉体強化の術式にて負荷を軽減しているが、これは医療術式に精通しているからこその芸当であってターニャには扱えないものだ。
ぜーはーと非常に消耗している姿を晒している目の前のターニャは、それでも挫けることなく懸命に足を動かす。その後ろでサクサクと足を動かす私の姿は、体力お化けと勘違いされないだろうか?
術式でカバーしているが、私とて疲れてはいるのだ。また温泉に入れる隙間が発生すれば再度抜け出す元気はあるが、確かに疲れているのだ。
ホントウダヨ?
「ヴィクトール、丘陵に敵の防衛火点を構築したとする。貴様は大隊を速やかに前進せねばならない」
参謀教育というものは実に容赦がない。
登山にて疲弊した士官達に戦闘指揮を想定した指揮を質疑する。
間違えれば罵声が飛び、正解すれば難易度を上げた難問が飛んでくる。
普段と異なり、劣悪なコンディションに対応することが出来なかったヴィクトールをどやしつけると、教官殿は矛先をターニャに切り替えた。
しかしながらターニャは実に的確に正解と思われる回答を行う。
比較的まともとはいえ元ブラック社員、劣悪な労働環境は既に経験済み。まさしく人生経験が違うと言わせてもらおう。
「ではリースフェルト、今より訓示を行え」
「はっ!了解であります!」
前線指揮官は作戦前に訓示を行うことが多々ある。
そしてそれは緊急時など事前に用意する時間も無く、その場のアドリブ本番一発勝負が基本となる。
「教官、作戦概要はどのようなものでしょうか」
いきなり訓示を行えと言われましても、何に対してか知らねば何とも言えぬ。
参謀教育からして、作戦行動前を想定しているのであろうが、その内容があれば今までの経験からしてアドリブでも出来ないことは無いだろう。
「作戦目標は防衛火点の攻略。そうだな、先ほどの魔導師と歩兵による散兵戦術としよう」
「了解しました、では失礼して」
先ほどターニャが答えた散兵戦術とは、簡単に言ってしまえば魔導師が上から襲撃を掛け、歩兵が下から砲撃によって纏まって吹き飛ばされぬよう散らばりつつ攻めるというもの。
しかし魔導師による防衛地点への圧が弱ければ、歩兵は各個撃破の的となり、歩兵がしっかり目標地点まで上がって来れねば魔導師はただの嫌がらせとしかなりえない。
訓示では各役割の仕事を伝達し、注意し、鼓舞する。
なかなかの頭脳労働である。
「えー、諸君!我々はこれより敵防衛火点に襲撃を掛ける!」
「敵火点にて当然迎撃があるだろうが、そちらは魔導師が引き付ける。歩兵は散らばって進むだけの簡単なお仕事だ」
まずは目標と戦術の説明、効率的な行動を行うには自分がこれから何を行うのか明確な指針があってこそ。
効率化を望むのならばこれを怠ることはならない。
「さて魔導師諸君、敵はわざわざこのような温泉街まで来た団体旅行客、帝国民としては是非とも歓迎してやりたい」
「しかしながら彼らはどうやら山岳にてまごついているご様子。諸君らの仕事は彼らに歓迎の意を示すことだ」
「銃撃をもって、爆撃をもって、砲撃をもって、擲弾をもって、是非とも彼らを歓迎しようではないか!」
簡単だが事態の説明を終えると、次は士気上げのお時間。
戦場ならば適度に下品な表現を用いるのだが、ここは授業の場。士気上げは必要なプロセスと思っているのだが、ユーモアに対しての評価は果たしてされるのだろうか?
教官は確か戦場を経験なされていたはず、恐らく理解は得れるはず。評価が付くかはやはり別問題だが。
「ヴィクトール、貴官ならばどう歓迎する?」
「はっ、歓迎でありますか?」
ヴィクトールに振る意味は特にない。
だが奴が上手く答えればそれに乗っかり、外せば私が今行っている訓示などへの評価は下がる可能性はある。たとえ後で文句を言われても、最初教官の問いに対するミスの挽回の機会を与えたのだとでも言えばよい。
しかし個人的には間違ってくれれば私は嬉しい、軍大学にまで入りエリートコースにまで乗った奴が落ちていくさまは、なかなかの見物なのだ。
「そうですね、わざわざ温泉地にまでお越しくださったのです、熱湯をぶちまけて歓迎いたしましょう」
「ヴィクトール、貴官の歓迎方法だとこの高地ではあっという間に湯冷めしてしまうぞ?」
歓迎方法としては論外だが、この高地での嫌がらせとしては実際なかなかの効果を上げるのでは?まあそんな手間よりも銃弾をプレゼントするほうが断然早いのだが。
「しかし熱を持って温泉気分を味わわせるというアイデアは良いものだ」
「熱をもって奴らを歓迎しよう、彼らにちんけな花火だと笑われぬよう盛大なる熱を浴びせてやろう!」
「では諸君、仕事に掛かろう」
評価はぼちぼちだった。
一対一ならばともかく不特定多数の感情を纏めて上げるのは正直得意じゃないし、そもそもノウハウが無いんだ。
日本は外国のようにスピーチの授業など無い、会社で行われるプレゼンも感情を排した効率重視。
ノウハウが積める経験が無かったことが敗因だろう。
しかしターニャにまでユーモアが足りないと言われるとは、屈辱だ。
温泉回―神(読者)がそれを望まれる。
「うー」―どう抱き着くか面倒臭くゲフンゲフンッ
グッ!―散々敵兵の腹ぶち抜いた拳で可愛いポーズ!
妬み―まあ発生するよねそういうの。こいつらでイベント発生させれるけど、どうしようか(予定なし
疲れ―医療術式でどうとでもなる模様。
訓示評価 ぼちぼち―作者の限界...コフッ!(吐血
執筆ペースは只今失速中でございます、申し訳ありません。
初期衝動を思い出すべく原作を読み返し努力はしております。
いえ、決してゲームにうつつを抜かしてなどはッ―――。