難産っていうかなんというか。
頑張って次書きます。
その後、幸い桜の木に頭部をぶつけて意識を失っていた清隆は、命に別状もなくすぐに快復して立ち上がることができた。
身の危険も顧みず、自ら死地へと飛び込むような真似をしでかした清隆に、リッカは無茶をしないように厳重に注意をすると同時に、どうしようもない絶体絶命のタイミングで突破口を切り開いてくれたことに感謝の言葉を贈った。
姫乃から一発ビンタを貰い、改めて仲間に心配をかけたことを反省する清隆。しかし姫乃はすぐに清隆の胸に飛び込んだ。
生きててよかった。心配した。でも、安心した。泣きながら、清隆の胸の中で想いをぶちまけた。
巴は腕を中心に、動くのに支障をきたす程の負傷をしていた。最後の決め手の斬撃を放つことができたのも奇跡に近い。
巴自身もここから先は足手まといになると判断したのか、しばらくここで休んでから合流することにした。
リッカ、シャルル、ジル、サラ、姫乃、そして清隆の六人は、最後の魔法の装置を自分たちの手で作動させるために、この地下で最も大きな枯れない桜の木を目指す。
一方、その数時間前に遡る。
ロンドン最大の時計塔、ビッグベンへと至る広い廊下に一人の初老の男、そして彼を阻むように、不敵な笑みを浮かべた青年が立ちはだかっていた。
アデル・アレクサンダー――元『八本槍』の、禁呪のプログラム、『騎士』の一人。そして、英国女王陛下、エリザベスの側近にして懐刀、杉並。
エリザベスを無事にビッグベンの魔法拡散装置の作動準備室に送り届けた後、すぐにビッグベンの異常を見つけ出し、駆けつけたのだ。
そして、その争いは一方的なものとなっていた。
廊下のあちこちには、戦いの中でつけられた傷跡と、そして血痕。
しかし杉並は、それでもなお余裕の表情を崩さなかった。
そう、一方的な戦いを強いられ、追い詰められていたのは、アデルの方だったのだ。
アデルが鳥獣の召喚獣を五体杉並に向かって飛ばす。
弾丸も斯くやという速度で飛来する光の鳥。杉並との距離はさほど離れているわけではなかった。
微動だにしない杉並、しかし先頭の一帯が喉元を食い千切ろうとしたそのタイミングで、杉並の靴底が地面の石畳を叩いた。
カン、と廊下中にその音が反響する。同時に、杉並の足元に丁寧に並べられていた石畳の内のいくつかが飛び上がった。そしてそれらは寸分たがうことなく光の鳥を叩き天井で押し潰す。
次いで、疾駆。
突然の接近に慌てて重装歩兵の使い魔を召喚、しかし杉並が指を鳴らすと同時にそれら全ては一瞬で消え去ってしまう。
驚愕の色を表す間もなく懐に潜り込まれ、掌底が鳩尾を襲う。
吐血、しかし休む間もなくその顔面は杉並の掌で押さえつけられた。
掌と顔面の間で何かが光る、と同時に、アデルは爆発音と共に十メートルは吹き飛ばされる。
のっそりと立ち上がるアデルを、杉並は揺らめくような笑みのままで見下していた。
「運が悪かったな、アレクサンダー」
沈黙の中で、アデルの靴の音、そして杉並の声が響き渡った。
アデルが次の使い魔を召喚しようとしているのを杉並は見逃さず、ひょいと右手の人差し指を上へと振った。
アデルの体がふわりと宙に浮く。そして先程の石畳と同じように、アデルは天井へと叩きつけられ、そして地面へと落下する。
「流石にあの英雄王を相手取るのは骨が折れるが――銃を持たん歩兵など怖くもない」
そもそもアデル・アレクサンダーが人の域を遥かに超越した存在である『八本槍』としての地位を手にすることができたのは、彼の召喚魔法による最大級の殲滅兵器、ギルガメッシュによるものが大きかった。
現在英雄王はアデルの支配から自らを開放し、独立した意思で思考し行動している。最早アデルでは制御することはできない。
他の使い魔も十分に脅威に値するものの、英雄王の比ではない。精々英雄王なしのアデルは、リッカと同等かそれ以下の存在に成り下がる。
「それに――」
杉並が手を鳴らす。
同時に、アデルの体がその場の地面へと叩きつけられた。石畳の地面がミシミシと崩壊の音色の序章を奏で始める。アデルの周囲の重力を操作し、突如強烈な負荷をかけたのだ。
続いて懐からペンを一つ取り出すと、左手の甲に何やら紋様を描き始める。完成したそれを右手の平で強く叩いた。
光の剣が杉並の周囲に出現、後方に五、前方に三、急加速と共に疾駆させる。
杉並の背後の闇から牙を剥いていた獣の使い魔が全て消え去った。そして前方に飛ばした剣は次の魔法を行使しようとしたアデルの手の甲、腕、そして肩を貫いていた。
重力負荷から逃れようと術式を展開するも、先回りして阻害される。完全に身動きすら取れなくなってしまった。
この戦い、一度としてアデルは主導権を握れていない。常にアドバンテージを有していたのは杉並である。仮にも『八本槍』を相手にしているにも拘わらず、ここまで一方的な展開になる理由とは。
「『初見殺し』――それが俺の戦い方だ。同じ魔法は一生で二度と使わない、同じ結果を引き起こす魔法でも、そのプロセスは全く別のものを使う。故に俺の戦術は、対策できない」
実際、杉並が索敵のために周囲に張り巡らせている魔力探査の魔法も三秒に一度更新されている。つまりこれを掻い潜るだけでも三秒以内に魔法の構成の認識、把握、逆算、相殺術式の構成、そして発動の流れをこなさなければならない。
一度や二度なら可能だろうが、三秒に一度という超短期的なスパンを連続、継続して実行されると、掻い潜るのにどうしてもそちらにしか気が回らなくなる。そのため攻撃と防御に割くリソースが大幅に削られてしまうのだ。
そしてそこに打ち込まれる、見たことのない構成の魔法に対処するだけでもその構成を読む必要がある。一方で力づくで破壊しようとしても、召喚する使い魔が、彼の発動する相殺の魔法によって一瞬で消去される。
攻撃手段を絶たれ、防御が遅れ、そして戦略すらまともに練らせてくれない、そんな状況で戦闘を行うとなれば、敗北は必至である。
「陛下に反旗を翻す逆賊は、たとえ『八本槍』であろうと容赦はせん」
重力負荷により地面に伏せられたアデルのうなじに向かい、取り出した針を直線に投擲する。
音もなく突き刺さったそれは、魔法によって発光し、対象者の全身の生命活動を低速化、停止させ、命を絶つに至る。
絶命したアデル・アレクサンダーは、霧の粒子となってどこかへと飛散していった。
「地下では英雄王が暴れ二人を同時に殲滅、パーシーも同志が圧倒、『
同じ非公式新聞部の部下から送られてきた情報が羅列されたシェルの画面を眺めてそう呟く。
ぱたりと閉じてシェルを懐に仕舞うと、不敵な笑みを浮かべて女王陛下の下へと急いだ。
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今日は過去最悪の天気だ。
飛び退いた場所を後方から眺めていたエトは、流血する肩を押さえながらそう皮肉を思う。
クーの行く手を阻む最後の『八本槍』、ジェームス・フォーンの相手を引き受けたエトだったが、戦闘態勢に入った次の瞬間にはその地獄の洗礼が始まっていた。
上空から雨のように降り注ぐ刀剣の数々。突然の絨毯爆撃に動揺しながらも咄嗟に後退、躱しきれないものには自身の剣で打ち落とした。
しかし同じ方向ばかりの刀剣を気にしていたばかりに、異なる方向から飛んできた剣に肩を射抜かれてしまった。
燃え上がるような激痛を堪えながらも一旦飛び上がって建物の屋上に避難、屋根を撃ち抜く刀剣を躱しながら逃げてきて今に至る。
「まさしく雨みたいだ……」
雨の中傘を差さずに歩いていると、どれだけ当たらないように努力しようと濡れてしまうものだ。むしろ、傘を差しているだけで塗れずにいられるのは十分にありがたいことなのだと痛感する。
当然、刀剣の雨霰は傘などでは防げないからだ。
呼吸を整え、肩の痛みを意識しないように努める。痛いということをなるべく意識しなければ、しばらくの間は堪え切れる。
視界は広い。咄嗟の判断で屋上に飛び移ったのは正解だったようだ。
どこからでも撃ち抜かれる可能性はあるが、同時にどこから射撃されても十分に反応できる。建物に進路を邪魔されることもなく自由な行動ができる。
そもそも、障害物を利用した立ち回りといったトリッキーなことは、エトは技術も持ち合わせてはいないしそもそも向いていない。
その広くなった視界の中、別の建物の屋上に飛び乗ったジェームスの姿が視界に入る。
敵がどこからどのタイミングででも攻撃を仕掛けられる以上、時間を与える訳にはいかない。
蜂の巣にされる覚悟を固めながら、エトは建物の屋根を強く蹴り前に飛び出した。
刹那、霧の間から、僅かに集めた光を反射する刃の光源を四つ発見、
方向こそ異なる場面はあったが、現状ではその全てが真っ直ぐに飛んでくると考えていいだろう、エトはそれらが同時に降りかかる事態を避けるため、僅かに体の進路を左に逸らす。
先に飛んできた左の二つを先に、続いて右の二つを打ち落とす。
速度は落とさない。視線を敵の姿から外すことなくただ一直線に飛び込む。
その姿に向けて振り下ろす、握り締めた剣。
しかしそれは重く甲高い金属音と共に遮られる。
エトの視線は受けられた自分の剣と相手の剣にはない。
相手が双剣使いであるということは、剣を振り下ろす直前には気付いていた。
受け止められた剣に自身のものではない力が加えられる。恐らく、弾かれると同時にもう一方の剣が振り下ろされるのだろう。
ならば、と。
相手の力に翻弄されることなく、その力を受け切る。
エトの体勢を崩すために、ジェームスは攻撃を受け止めた剣を振り払う。そこに次の一撃を振り下ろす算段だ。
振り払うための力を利用し、そこに反発するように剣を握る腕の力を加え、その作用によって距離を置く。
直後、エトが飛び退いた先で地面――屋上の床が爆発した。
エトの着地と剣の射撃はほぼ同タイミング。
しかしエトはそこまで読み切り、着地の時にかかる負荷をバネの要領で踏み込みの力に変え、別の方向へと飛び退いたのだ。
屋根から屋根へと飛び、降りかかる数多の刀剣を切り払う。
大まかな行動パターンを読まれたのを察したのか、ついにジェームスが本格的に攻撃に移った。
刀剣の投影射出と同時に自分の手に握っていた同じ型の双剣をエトに向けて放る――その足で踏み込みエトへと急接近を試みる。
エトは敵の接近を確認、防御行動はとらない。後手に回る対応は各上相手に劣勢を強いられる。
ならばこちらが起こすべきアクションは、無謀とも言える、攻撃に対する襲撃。
弓兵隊の矢のように降り注ぐ刀剣を前に剣を構え踏み込む。こちらに飛び込むジェームスと正面から衝突する形だ。
同じ建物の屋上で、同時に足を床に着ける。それぞれの脚力により平らなコンクリートに二つの穴と亀裂が生まれる。
先制攻撃はジェームス、やはり『八本槍』の剣筋の速さは並ではない。
エトはそれを認識することなく直感と予測のみで、およそ最小限とは言えない動作により僅かに距離を空けて回避、しかしその無駄を埋めるようにすぐさま地面を蹴り反転。
ジェームスの視線が背中越しにこちらを捉えていることを把握しつつ、その背筋に刃を突き立てる。
しかし彼は前転で直進の勢いを殺すことなく避けきり、その流れで飛び上がりエトへと向けて剣を放る。
このくらいなら回避する必要はない――一瞬の判断の後に、前に踏み出し飛んできた剣を斬りつける。
その瞬間、剣の刃から亀裂が生まれ、そこから光が生じたのを見て、エトの背筋に鋭く悪寒が走った。
「しまっ――」
ジェームスの放った剣が爆発を起こす。
建物諸共爆発に巻き込まれ、周囲を焦げた匂いと土煙の異物だらけの空気が充満する。
その破壊された建物の瓦礫の中に、エトの亡骸は横たわってはいなかった。
ジェームスが視線を映すと、その建物の先のもう一つ後ろの建物の屋上にエトはいた。
「……えっと、これで全力の何割くらい出してるのかな」
そう絶望感溢れる台詞を吐きながら、エトはその身を震わせていた。
満身創痍、肩は剣に刺し貫かれ、今の爆発も直撃こそ避けたものの、回避の代償にした左腕は制服が焼け落ちて皮膚が爛れ、指先から血がぽたぽたと滴っている。咄嗟に左腕を魔力で覆った即席のバリアおおかげで、丸ごと吹き飛ばされずには済んだ。
更に剣の爆発により四散した鋼の欠片が全身を切り刻み激痛を残していった。
身体が痛みに耐え切れず、悲鳴を上げ始めている。その結果が痙攣する四股だった。
エトの皮肉染みた問いに、当然ジェームスは答えない。エト自身回答を求めていない。
「ハハハ……」
言語中枢までおかしくなってしまったのだろうか、何か言葉を絞り出そうとして出てきたのは意味不明な乾いた笑い声だった。
どれだけ絶望的であろうと、それで敵はエトを待ってはくれない。
死を与える刺客が視界内で徐々にその姿を大きくしていく。目の前に迫るのに、一秒という時間を要しなかった。
拙い、と思った時には剣を握った右手が前に出ていた。
生存本能のみが刻み込まれた動作をトレースし剣を振るう。
双剣を使いこなす相手に片手剣で三合打ち合うも、その剣捌きの速さについていけない。
四合目の逆袈裟に対応できず、右脇腹から左肩にかけて一直線に刃を通してしまう。そしてその軌道上に、鮮血がパッと咲いた。
失血の影響か、一瞬意識が飛んだ。しかし鳩尾に入った蹴りにより一瞬で飛びかけた意識が体に戻される。嘔吐感に苛まれながら隣の建物に叩きつけられる。
建物の壁から剥がれ落ち、今度は地面に落ちると同時に、横たわった状態で食道に込み上げるものを吐瀉した。
口から出たのは赤黒いものだった。再び意識が遠のきそうになる。
「あぁ……苦しい、なぁ……」
うつ伏せに倒れた状態で、掠れた声でそう呟く。
痛みから、苦しみから、現実から逃避しようと思い浮かべたものは、一人の少女の姿だった。
青髪のツインテール、小さな体に大きな使命と責任を背負う少女、サラ・クリサリス。
こちらが手を差し出せば、彼女は困惑しながらも笑ってこの手を掴んで引っ張ってくれるだろう。
仕方のない人だと主導権を握ろうとしながら、頬を染めて駆けだしてくれるだろう。
「ハハ、ハ……」
やはりおかしくなってしまっている。こんな状況で、だらしなくも女の姿など想像して、その光景に笑ってしまっている自分が、おかしい。
壊れてしまった――それでもいいのかもしれない。あらゆるものから解放されるのなら。
そう思えば思う程、身体が勝手に力を入れようとする。立ち上がろうとする。いつまでも横になっていれば、これ以上彼も立ちはだかることもないだろうに。
今思い浮かべたこの少女の姿は一体何だ。自分にとって――エト・マロースにとって、どんな人間だ。
たとえ彼女が見ていなくとも、瞼の裏に焼き付いたこの可愛らしい姿を前に、情けない泣き言に押し潰されて寝転がっているのは、あまりにも格好悪いだろう。
目を閉じた暗闇の中に彼女の姿を写していられる間くらいは、せめて格好つけていたいだろう。
そして目の前の絶望的な敵に立ち向かって、激戦の果てに、ヒーローのように全力の一撃で相手を打ち倒し、そして、カッコいいねとヒロインに抱き留められる――そんな子供じみた妄想を、せめてなぞってみたいではないか。
「ハハハ――」
おかしい。
自分でも何がしたいのか分からなくなっている。
血と鋼の闘争に身を投げ入れ、命のやり取りをする戦場に足を踏み入れた、身の程を弁えぬ子供の末路。
どうせ敗北の先に末のは死のみ。失うものは命だけだ。
なんだ、ここで立ち上がっても、ここで立ち向かっても、寝ているだけとの違いなんて、その程度なんだ。
頭がそう思考している頃には、エトはもう立ち上がっていた。
その背中に、更なる絶望が覆い被さる。投影射出された、大小様々な刀剣の数々。
エトは剣を握り、振り返る。
そして、肺一杯に空気を吸い込んだ。
「ハアアァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!」
乾坤一擲。
魔力を掻き集め術式魔法によって出力を増大させた剣の一振りが、その剣圧を最大限に高め、降りかかる刃を一撃で全て吹き飛ばす。
心の中の靄が晴れ渡るようだ。雨のように降り注ぐ刀剣が、まるで雨雲が過ぎたかのように一滴も落ちてこなくなったからかもしれない。
エトは血に塗れ土の付着した拳の中で剣を握り締める。これだけが信頼に足る刃。これだけがこの既に使い物にもならない体を動かし続ける魂。
敵の加速、接近。その動作に合わせ真正面から飛び込む。
先制して飛んでくる刃を剣先の僅かな動作で討ち払い、無駄のない流れで敵を斬り捨てるための予備動作に入る。
衝突――振り下ろした剣が相手の横に薙ぐ双剣に阻まれる。剣を握る右腕がその反動による衝撃を受け痺れが走る。
ジェームスの第二撃、素早く右手を引いたエトの剣の柄の先端がかろうじでこれを阻む。
変則的なガードにリズムを崩されたジェームスは一度後退、追撃を許さぬよう十数の刀剣を投影しエトへと放つ。
エトはこの後退を、絶好の機会と捉えた。
左足を前に半身に構え、右手で握る剣を引いてその先端を相手に向ける、刺突の構え。
そして彼の剣の刀身から、真紅の光が溢れ出した。
力のこもる両足の、その圧で地面を砕く。
口でゆっくりと空気を吸い、肺の中で酸素を満たし血液中に行き渡らせる。
そしてゆっくりと肺の中の不要物をゆっくりと、すぅっと吐き出す。
――
大地を蹴る。粉砕された、舗装されていた道路の下の地面が更に亀裂をつくる。
弾丸の如く飛翔する無数の刀剣に、真正面から相対するように飛び出した。
紅く輝く光は、その衰えを知らない。
「――≪
紅い隕石が駆け抜けた。
こちらに向かい飛んでくる刀剣を羽虫のように弾き飛ばし、未だ空中で体勢を整えられないジェームスへと肉薄する。
その真紅の光は、ただ目的物を破壊することのみを運命づける。
ジェームスは咄嗟に刀剣を以って障壁を生み出すも、瞬間的に破壊され砕け散る。
そして。
――剣先が、肉体を穿った。
エトの剣の発する紅い光は既に消え去っている。
ジェームスの動きも完全に止まっていた。
そう、彼の動きが止まっていたのは。
「……ぅ、あ」
エトの動きが、完全に停止していたからだった。
その横腹に双剣の一方を叩き込まれ、同時に吐血。ただしジェームスもこの時ばかりは攻撃時に差し出した左腕が完全に機能を停止していた。
しかしそれ以外はジェームスは無傷。エトの一撃を受けてしまう前に、空中での体捌きでカウンターを叩き込んだのだ。
エトの一撃は師匠のオリジナルとは違い、因果の逆転までは成立しない。
あくまで目標をロックオンし、それを確実に破壊するまで障害物を無視し破壊して追跡するものだ。
つまり、効果が発動してもその動作中に術者を止めてしまえば多少負傷してでも阻止することができる。
ジェームスはエトの横腹から剣を引き抜くと同時にその腹に蹴りを入れて地面へと撃墜する。
今度こそ、エトはその意識を完全に手放し、夢へと堕ちていった。
エト、ここで脱落か……?
次回へ続く。