原作の流れの再チェックをしていたり、wi-fi接続のためのネットワークアダプターのドライバが勝手に消え失せたり、何とかインターネットに接続するために孤軍奮闘したりしていたらかなり遅くなりました。
「今日は、みんなに新しいお友達を紹介したいと思います」
クリスマスと新年を挟んだ冬の長期休暇を終え、風見鶏の学生は始業式に出席、各々のクラスでHRに参加していた。
ここ予科一年A組でも、クラスマスターであるリッカ・グリーンウッドが、教壇の上で新しいクラスメイトを紹介しようとしていた。
その高らかな一言に、クラスメイト全員の視線が前方のリッカへと釘づけになる。リッカはその期待の視線に応えるように一度頷いてみせ、そして教室の出入り口、扉の方へと視線を向ける。
「入っていいわよ」
リッカの言葉から僅か数秒、教室の中にいた生徒からは少なくともそう感じた。逆に入ってくる転入生(?)はその数秒をどう捉えただろう。
ゆっくりとドアが開かれる。
最初に視界に入ってきたのは、風見鶏の予科生の女子制服だった。つまり、新しいお友達は女子のようだ。
そして、次第にその特徴を誰もの目が捉える。リボンでサイドアップされた栗色のショートヘア、東洋系の黄色の肌、くりっと丸くて大きな瞳、何となく子犬を思わせるような雰囲気。その正体は、ここにいる誰もが知っているはずの人物だった。
ただ、いつもの恰好とは、服装が違ったから。
教室全体にざわめきが走る。どこかで見たような、とか、もしかして、とか、ちらほらと脳裏にその姿が過ぎった者もいるようだ。
その正体を、清隆と姫乃はよく知っていた。彼らがここに来て、初めて知り合った日本人だったから。
「あ、葵ちゃん?」
清隆が間抜けた声でその人物の正体の名前を確認する。
自分の名を呼ばれたことに反応してそちらを振り向いた少女は、同郷の仲間を認識しては嬉しそうに手を振り返した。
そして咳払い一つ。それで空気が変化したのか、全員が葵の方に視線を向けては話を止める。
「えっと、いつもは学食とか、フラワーズとか、皆さんの充実したお勉強の息抜きのためのお手伝いをさせていただいています、陽ノ本葵です。この度はちょっとした事情がありまして、皆さんと一緒に学園生活を送らせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします!」
深く勢いよく一礼。
葵が顔を上げてあのお日様のような笑顔を浮かべては、クラス内が歓声で沸きに沸いた。清隆からすれば、クラスメイト、エトからすれば後ろの江戸川耕助のはしゃぎ声がたまらなくうるさい。気持ちは分からなくもないが。
そして、陰ながら、教室からの光が届かない場所から、普段の彼には似合わない穏やかな笑みを浮かべて、葵の仲間入りが歓迎されているその様を、一人の槍の騎士が壁に背を預けて見届けていた。
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「いやぁ、びっくりしましたよ」
HR終了後は放課後ということで各自自由時間となったのだが、どうやら実際にそういう訳にもいかないようだった。
新しいクラスメイトと来れば、次の休み時間及び放課後がどうなるか――無論質問攻めである。特に、この風見鶏でも知らない者はいないと言われる程評判のある葵がクラスにやってきたとなれば、その興味も尽きてしまうことはないだろう。
チャイムが鳴った後、リッカは外に控えていた槍の騎士と共にどこかへと行ってしまったようだが、その次の瞬間には葵は人の渦に飲み込まれて質問の雨を一身に浴び続けていた。
葵の隠された事情を知っている清隆と、その義妹姫乃、エト、江戸川ペアは、その様子を離れた位置で見つめていた。
次第に質問も止み、笑顔で手を振って教室を去るクラスメイトたち。解放された葵は疲れ切った表情で清隆たちの下へとふらふらしながら辿り着いたのだった。
「急に決まったものですから、私としても慌てたというかなんというか」
どうやらこの件についてはつい一昨日決まったばかりで、葵へと通達が来たのが昨日、用意できたのが同時に届いた予科生の女子制服のみで、とりあえずは今日のところはそれを着てクラスメイトに挨拶、という感じだったらしい。
恐らく、このA組に配属になったのも、事情を知っている清隆がいたからだろう。禁呪のことを知っている清隆がいてくれれば、何かと困ったことがあってもフォローしてくれることもあるだろう、それが学園長エリザベスとしての配慮である。当然この提案をリッカも、一も二もなく首を縦に振ることとなった。
「しかし葵さん、魔法使いではないですよね。どうしてまた魔法学園に?」
それは誰もが思っていたことだろう。それこそ葵の事情を知っている清隆でさえ。
彼女が魔法使いであるならまだしも、ほんの少しの魔力も持ち合わせていない少女が魔法学園に学生として入ってくるなど、不自然にも程がある。
何故エリザベスはこの提案をしたのか、そして何故リッカもその提案に乗ったのか。二人の思考がさっぱり読めなかった。
「えーっと、それこそ先程言ったように、とある事情で、としか……」
その中身を話そうとせず、言葉を濁す葵。
そのリアクションに、あまりその話題には触れてはいけないことを全員が理解する。
「とにかく、僕は葵ちゃんがクラスメイトになってくれて嬉しいよ。同じ日本人である清隆や姫乃ちゃんとは違って、あまり接点がなかったからね」
そう言って、姉譲りの整った美しい顔立ちから繰り出される、あの引き込まれるような笑顔を浮かべる。いつも同じクラスのサラ・クリサリスはこれに毒されているのである。
実際、エトが葵と初めてまともに話したのが、冬休みに姉とショッピングに出かけた際、クーと共にいた葵とばったり遭遇した時だった。それでも軽く自己紹介を交わした程度のものだった。
しかし、これで晴れて二人は友達である。
なのだが、葵は心中ではとても複雑だった。そこにいるのは、一人の少年ではなく自身の罪の具現に他ならないのだから。決して、その感情を顔には出さないように努める。
それから、談笑を少々。
この学園で魔法の何を学んでいるのか、とか、購買ではどんなものが人気だとか、逆に、葵には今週の学食のおすすめメニューや、フラワーズでの新商品についてなど、たくさんのことを聞いて話して。葵が学生として体験したかった色々な事の、ほんの一つを、今ここで叶えることができた。
「――清隆、そろそろじゃない?」
ふと、何やら神妙な面持ちで、エトがそう切り出した。
そしてエトの意味深な言葉に清隆はそうだなと頷き、そして姫乃に振り返る。
「姫乃、本当にいいのか?」
姫乃は少し緊張に固まったが、しかし深呼吸を一つ置いて、そして力強い眼差して清隆に視線を返した。
「大丈夫です。私は、どんな時でも兄さんの力になると決めたんですから」
「そっか」
姫乃の決意を確認する。
本当は清隆も、彼女を巻き込むべきかどうか迷ったのだ。彼女を危険に晒すかもしれない、苦しめるかもしれない、傷つけてしまうかもしれない。
そう思えば思う程に、彼女に欠ける言葉が次から次へと消え失せてしまう。
しかし、清隆が思いつめていることに、姫乃は鋭く察してしまったのだ。
彼女は言った。それは、清隆自身が危険に身を晒している、苦しんでいる、傷ついているということに他ならない。ならば、その危険も、苦痛も、傷も分かち合うのが兄妹であり、家族であると。
共に並び、共に進む。それができないのなら、葛木姫乃という人物はここにはいらない。
葛木清隆の妹は、いつの間にか成長していた。
「……悪いな、清隆」
俯いて呟いたのは、耕助だった。
彼にも事実のほんの一部を話した。そして、協力できるなら、協力してほしいと。
彼は清隆の力になりたがっていた。それを許さなかったのが、他でもなく、従者である
どれだけ無能であろうと、耕助という人物は江戸川家の次期党首であり、その身を危険に晒すことはできない。そして何より、清隆も、姫乃も、エトも、この話に乗っかるのに十分な資質と実力を備えていた。一方で、耕助の力は、彼らに比べてあまりにも劣っていた。ただの足手まといで済むのならそれでいい。しかし、それが誰かを傷つけることになるのは、何としても避けねばならない。
自らの身を親身に案じてくれる従者の言葉が痛い程胸に突き刺さった。
だから耕助は、悔しさに涙を飲みながらこの話から身を引いたのだった。
そう、清隆はここにいる全員に、地上の霧の真実を、葵のことは一度伏せて置いた上で説明したのだ。
そして、霧を晴らすために立ち上がってはくれないかと相談を持ち掛けた。それは、エリザベスや、リッカの指示でもあった。協力者は一人でもいいと。ただし、命を落とす覚悟がある者、仲間の命が失われることに耐えられる者のみを連れて来いと。
「仕方ないよ。立ち向かうのが勇気なら、逃げるのもまた勇気がいることだ。話を聞いてくれただけでも、信じてくれただけでも、俺は救われたような気持ちなんだ。だから――ありがとう」
耕助は俯いた顔を上げる。
「負けんなよ、みんな」
「健闘をお祈りしています」
そして、江戸川ペアが教室を去った後、静寂を保ったまま清隆、姫乃、エト、葵の四人は教室を出て、彼らが向かうべき部屋へと向かう。
葵がこの事件に関係があることを清隆以外の二人は知らないが、しかし本日突然このクラスの仲間になったことを考えれば、この事件と何らかの関わりがあることは何となく予想がついていた。
そして辿り着いた、王立ロンドン魔法学園、通称風見鶏の、生徒会室。
その扉を、清隆は両腕いっぱいに広げて開ける。
部屋からに光が瞳を刺激する。瞼を閉じても突き刺さってくるようだった。
そして彼らが部屋に入った時、彼らを待っていたのは、霧の禁呪を打ち砕くために集められた精鋭たちだった。
エリザベス女王陛下、リッカ・グリーンウッド、ジル・ハサウェイ、シャルル・マロース、五条院巴、杉並、そしてクー・フーリン。他の『八本槍』は今ここにはいないようだ。
「こんなにも来てくれたのね」
葵と清隆を除いて、たったの二人。
たったの二人だというのに、リッカはまるでそれが多いかのように表現した。
リッカが協力者を集めるように指示したのは清隆だった。彼の求心力は目立たないながらも大きい。そして、彼が事情を話せば、エトは友人のためだと快く頷いたはずだ。
しかし、姫乃はどうだったろうか。リッカにしてみれば、そもそも清隆が姫乃に話さない可能性を大きめに捉えていた。清隆にとって姫乃は大事な妹である。その存在を自ら危険な場所に立たせるようなことをするだろうかと思ったのだ。
しかし、姫乃はそこに立っている。というのなら、彼女は自らの意志で、覚悟を決めてここに来たのだろう。
「さて、最終確認をしてもらうぜ」
そうして脅すような目つきで一同を眺めるクー。
自分の席にどっかりと腰を下ろしながら、ドスの利いた声でそう宣言する。
「今この場で死んでもいいって奴以外は、さっさと尻尾撒いて帰れ」
低い声で唸るように、元『八本槍』であるクー・フーリンがそう脅す。その右手には愛用の真紅の槍が握られていた。
十秒、一分、三分――背を向ける者はいなかった。満足そうにクーは唇を歪める。そして視線をリッカに飛ばした。
リッカはその視線に頷く。
「それでは――」
リッカが言葉を発しようとした。
しかし、次の言葉は別の音で遮られる。
再び生徒会室の扉が勢いよく開け放たれたのだ。
「待ってください!」
少女の叫び声。
一同が振り返る。
そこにいたのは、小柄な青髪のツインテールの少女、名門貴族、クリサリスの末裔にして、一族の期待の星、サラだった。
走っていたのだろう、その呼吸は荒かった。
「命を擲つ覚悟、できました」
それだけ言って、力強い足取りで、扉の境界線を跨ぐ。死地へと向かう門を、自らの脚で越えてしまった。
その意志揺るがぬ瞳に、名門貴族を背負う者としての気迫に、清隆も、姫乃も、そしてリッカたち生徒会メンバーも驚愕の色を示した。
そんな彼らとは対照的に、サラを待っていたかのように輝かしい笑顔を浮かべていたのは、エトだった。
「来てくれると信じてた、サラちゃん」
サラは、生徒会室の床を一歩一歩踏みしめて、そしてエトの隣に並び立つ。そして自然な流れで、エトの手を取った。
その眼差しは、他でもなくクーへと向けられている。
「ほう、言ってくれたな、小娘」
クーの表情がよからぬ獰猛なものに変貌する。エトはその表情に悪寒が走った。
クーは机の上に置いてあるティーカップの、その側に置いてあるスプーンを手に取り、彼女の額へと向かって投擲した。
矢のように一直線に、流れるように迫るスプーン。それを打ち落としたのは、エトの手刀だった。そしてサラは、そのスプーンが迫ってきているのを目視していながら、全く動じることはなかった。
「私は、クリサリス家の未来のために今まで頑張ってきました。たとえどんなことが起きるのだとしても、その未来まで奪おうというのなら、私はそれを看過できません」
そしてサラは天井を見上げて、高らかに宣言した。
「もう一つ、私はこの戦いの中で、自分の力を証明してみせます。いえ、エトと共に、証明します」
エトが清隆に説明を受けた後、実はエトもサラに連絡をしていたのだ。
サラに、自分の力になってほしい、支えてほしいと。まるでプロポーズのような気がしないでもないが、そう言う趣旨のことを彼女に打ち明けた。
サラは迷った。死ぬかもしれない。ここで失敗をすれば、二度と生きて帰ることはできない。それでいいのか。今自分がすべきは、クリサリス家再興のために最も確実な選択肢を取ることではないのか。
その時、サラは気が付いたのだ。今まで自分が何をしてきたのか。
何を勘違いしていたのだろう、今まで何をするにしても、自分には大きな魔力がないという大きなリスクを抱えながら、それでもそのディスアドバンテージを何とか覆そうとそれこそ死ぬ思いで頑張ってきたはずだ。
そして、エトは自分の力を頼ってきた。それはエトが、サラにはこの事件を解決するための力を持っているということを信じている、と言っているようなものだ。
彼を嘘つきにしないために、その期待と、自らの責務に応えるためにすべきことは――もとより固めていた覚悟の段階を、数ランク上げることくらいのものだった。
一人ではできないかもしれない。逃げてしまいそうになるかもしれない。
それでも、エトが隣にいてくれるなら、きっとできる。そう信じた。エトが自分を信じてくれるから。
「さて――これで全員揃ったわけだが」
ここで初めてクーは立ち上がった。
その視線で、クーはエリザベスに目くばせをする。
「世界を取り戻すために立ち上がった勇気ある者たち――私は貴方たちを歓迎し、祝福しましょう」
女王陛下としてのエリザベスの祝福の言葉。
威厳溢れる一言に、誰もが胸を強く打たれる。
「これから私たちは、地上に蔓延する霧の禁呪に対抗し、打ち破らんがために行動を共にします。皆さんも、ここに来る前に、そしてたった今クーさんに言われた通り、この任務は生命の危機を伴います。それでもなおここに残ってくれたことに感謝し、そしてここに誓いを立てましょう」
エリザベスは、杉並が抱え、そして彼が蓋を開けたその中から、一つの盾を取り出した。英国のシンボル、ユニオンジャックの模様が施された金色の盾、そしてその中央には、一本の槍の模様が描かれている。
「私たち英国王室は、八つの猛き槍と共に誉れある者を守護し、そして障害を打ち破りましょう。今ここに命を賭すことを誓う者たちに、父なる神の祝福を」
一同は、その言葉を受けて地面に膝をつき、頭を垂れる。それはクーも例外ではなかった。
今ここにあるのは、生徒と学園長――教師の関係ではない。そう、これは紛れもなく、王と、王のために命を賭し、死力を尽くす騎士との主従の関係に他ならない。
「我々一同、一丸となりて王国の敵を排除することをここに誓いましょう」
そう宣言を立てたのは、エリザベスの側近である杉並であった。
彼が何者なのかはよく分かってはいない。彼自身とエリザベスのみが知っているのだろう。
ただ、彼が所属している非公式新聞部という組織は規模も大きく、情報収集能力は全世界を探し回ってもここを上回るところは存在しないという。
杉並が味方に付くということは、彼が代表をしているその組織のほとんどがこちらの味方になったようなものだ。情報という点では大きなアドバンテージとなる。
エリザベスが全員に頭を上げるように言うと、立ち上がったシャルルが先に一つの提案を口にする。
「現在入手している情報その他は全部非公式新聞部の杉並くんに管理してもらっているから、とりあえずここのみんなは一度非公式新聞部に仮入部――っていうのかな、という形をとってもらって、身動きを取りやすくするのがいいのかな」
あくまで情報を管理しているのは非公式新聞部である。つまりは現在赤の他人でしかないシャルルたちは、いちいち杉並に断りを入れないと情報を入手、あるいは確認と精査ができないという状況にある。その流れを円滑にするにはここにいる全員が非公式新聞部に何らかの形で関わりを持つことで情報へのアクセスを容易にすることが必要である。
その考えには賛同していたが、リッカは一部分に対して大きな不満を抱いていた。
「異議あり」
と、どこぞの裁判のように異を唱える。
「私からは二つ。これから私たちが一世一代の大きな作戦を遂行するというのに、まず非公式新聞部という名前がよくないわ。非公式=裏方とも取れる。おまけにこそこそと杉並なんかの傘下に入って杉並に代表気取られるのも気に入らない。まるで悪徳業者の下っ端じゃない。それからもう一つは、私がどこかの組織に属するより、私が新しい組織をつくってしまう方が手っ取り早いじゃない。すぐそこにエリザベスだっているんだし」
「……俺は別に構わんが」
間接的な罵倒を浴びせられた杉並は、しかし余裕を湛えた笑みを崩すことはない。
エリザベスからの許可も下りたことで、リッカは下唇に人差し指を当て、視線を明後日の方に飛ばしながら何かを思考する。
そして、唇に当てていた人差し指は、リッカのあっという一声と共に天井を差した。
「非公式新聞部に対抗して、公式新聞部がいいんじゃない?」
「センス悪っ!?」
「そこうるさい」
一瞬でクーからの容赦ないツッコミが入った。
一瞬で黙らされたクーは肩を竦める。
そこに追い打ちをかけるようにコソコソと小声で言葉を発し始めたのは巴だった。
「……どう見てもリッカの私怨だったな」
その視線はシャルルへと向かう。
「……私怨だよね」
その視線はエトへと向かう。
「……僕にも私怨に見えたよ」
その視線は姫乃に向かう。
「……私怨ですね」
その視線はサラに向かう。
「……私怨です」
その視線は清隆に向かう。
「……リッカさんって、杉並先輩にはやたらとムキになるんですね」
その視線は葵へと向かう。
「……リッカさん、意外と子供っぽいところもあるんですね」
「こら、そこ!」
リッカからの怒声が部屋中を揺らした。
特にシャルルからエトへの距離はリッカとの距離よりも遠いのに、エトに聞こえてリッカに聞こえない訳がない。むしろリッカが一連の茶番を終えるまでよく耐えていられた方だ。
「いや、今の流れ見ても、誰がどう見ても私怨だし、テメェがガキっぽいのなんか昔からだろうに」
半眼状態でリッカを見据えているクー。
しかしリッカは、そんなクーを無視して続けることにした。
「とにかく、新しい組織をつくることはエリザベスからも許可が下りたんだし、名前も公式新聞部に決定なの!文句ある?」
「あるけどないです」
と、ややこしくなりそうな答えを返したのはクーだった。
何故この男はここまで火に油を注ぐのが大好きなのだろうか。戦闘狂だからだろうか。頭がイカれているのだろうか。
「――それでは」
リッカが纏めようとしていては話が進みそうもない。代わりにエリザベスがこの場では指揮を執ることにした。
「これから私たちは、公式新聞部として行動を開始します。今回このように少数精鋭のメンバーにしたのは、現在その実態が明らかになっておらず、調査中でもある、禁呪に対する抵抗を鎮圧する『騎士』と呼ばれる者たちの出現を警戒してのことです。その脅威が『八本槍』に匹敵するかどうかも定かではありません。ここにいる皆さんは、だれ一人残らずその禁呪のシステムに襲撃される危険がありますので、十分に警戒をしてください」
ここに、新組織『公式新聞部』の設立が完了した。
タイムリミットはワルプルギスの夜、日付が変わる瞬間まで。
そして、霧に包まれた閉鎖空間の中で、未来の存亡を決める最後の戦いが、幕を開けようとしていた。
やっと本格的にラストバトルまでいけるぜぇ~!
戦支度に二、三話使って、そこから遂に最終決戦!
ゴールは目の前だ!(初音島編から目を逸らしながら)