このままでは本当に初音島編合わせて百話超えてしまうかもしれない。
それはそれで面白そうだと考えてしまう自分がいる。ホント怖いです。
百話以上続いて完結させたら誰かプレゼントちょうだい。あっ、シャルルさん、その手料理はいらないです。気持ちだけ受け取っときます。
誰もいなくなってしまった学園長室には、まだ人影が二つ残っていた。一つは、蒼い髪を逆立たせた真紅の瞳の槍使い。そしてもう一人は、黄金の鎧を身に纏った世界最古の英雄王の姿を模した
言葉も交わさず、お互いを探るように視線で貫き合って沈黙を保って数刻。不敵にフンと笑って瞳を閉じたギルガメッシュが静寂を打ち破った。
「やはり貴様が真っ先に真相に辿り着いたか」
その科白は感嘆から来るものなのか――違う。クーはすぐに彼の試すような視線を察した。
抜け目ないというか、面倒臭い。以前のループ世界での記憶はほとんど存在しないものの、この男がこういう性格であるということは、何故かはっきりと思い出せたのだ。
「この程度で真相だったってなら、今すぐにここで卒倒してやるよ。つまんねーにも程がある」
退屈であることを大袈裟にジェスチャーで示しながら、しかし視線はギルガメッシュを射抜き返す。
暗に、その程度だったらお前程の大英雄なぞが出る幕もなく終劇を迎えるに違いないと嫌味を飛ばして。
「ほう、存外そこらの狗よりは頭が回るらしい。いつしかこの我に牙を剥けたことだけはある」
相変わらず嘲笑するような言い分である。相手がこの男でなければこの一言が終わる前に喉元に真紅の槍を突き立てていた。
それにしても、ギルガメッシュの方もどういう訳かループ世界の記憶をいくらか引き継いでいるようだ。でなければクーとギルガメッシュがとある平原で戦った時の話なぞできるはずもない。
もしかすればこの男ならばクーも誰も目指している本当の真相とやらを知っているかもしれないが――知っていたところでこの腹立たしい傲慢な王様からは訊きたくもない。
恐らく、そんなことを考えているということも全て筒抜けなのだろう。本当に面倒臭い男である。
「我もこの繰り返す世界にどんな
術者、即ち陽ノ本葵はクーによってその正体を暴かれ、そして同時に自分のしたことを過ちと認め、そして清算することを心に決めた。
死ぬ未来を予知してしまった、死にたくなかったから死ぬ未来が訪れないようにするために世界をループさせる魔法を使った。身も蓋もなく言ってしまえばそれが彼女の動機であり、それをクーは責めることはしなかった。責める気もなかったしむしろ彼女の行いを称賛していた。それは、人の生きたいという本質的な欲望から来るものであると。それを誰を否定することはできないと。
しかし葵は、それを他の今を生きる人の迷惑だと、邪魔をしていると、自分の行いを酷く後悔していた。自分が生きるために、他の人の生きる道を拒んではならない。その意志が、葵を事件解決へと駆り立てたのだろう。
ギルガメッシュは、ただ笑う。まるで小説の行く先を案じる読者のように。
「さて、真にこの世界にしがみつかんとする輩はどこの雑種なのだろうな?」
そんな意味深な問いを、誰にとはなしに問いかけていた。
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――ああ、またか。
既に何度も見てきたこの二人組の少女。また同じ人物の夢の中に入り込んでしまったようだ。
葛木清隆はカテゴリー4の魔法使いである。更に夢見の魔法の分野においては、あのリッカ・グリーンウッドを遥かに凌駕する魔法の才能の持ち主である。
特定の誰かの夢見によるカウンセリングをしているという訳でもなく、無意識の内に誰かの夢に入り込んでしまうというのは、言ってしまえば清隆が自分の魔法を制御しきれていないということである。しかし清隆もまたレベルの高い魔法使いと認定されているのは伊達ではなく、そこまで魔法が失敗するということもない。
それなのにここ連日同じ人物の夢の中に無意識に入り込んでしまうというのは、やはりこの夢の人物、あるいは第三者による誘導があるものと判断してよさそうではある。
そう言ったメタ的な考察はここまでにしておいて、ようやく夢の全体像が見えてきた。
少し広い草原の向こうに、小さな家があった。恐らく後ろの森を抜けてきたのだろう二人はしばらくまともな食事にありつけていないらしく、どうやら足取りもおぼつかない。相変わらずいつものようにその輪郭はぼやけていてはっきりしていないが。
相談の末に今日のところはその家の人にお世話になることを決めたのだろう。やはり声も聞こえそうにはなかったが、二人の向かう先を見てみれば何となく予測がつく。
そして家のドアをノックし、しばらく待ってみれば、中から家の主人であろう男(やはり顔は確認できない)が姿を現した。
どんな会話を交わしているのだろうか。しかしその雰囲気から察するに、あまりいい感じではなさそうだ。二人を家に入れようとはあまり思っていないのかもしれない。
部屋に通され、しばらく荷物の整理などをしていた時、ふと部屋の外で大きな物音がした。
二人は慌てて廊下に飛び出してみると、そこにはもう一人少女の姿があった。その少女は、ふらふらしながらも立ち上がろうとしていた。先程の物音は彼女が倒れた音なのだろう。
二人は慌ててその少女を抱き起こすが、彼女は自分の力で立ち上がり、相変わらず力のない足取りで自室へとこもってしまった。自分は大丈夫だと無理をしている、恐らくそんな様子なのだろう。
場面は切り替わる。
場所は恐らく同じ家の、ここは廊下だろうか。自室へと戻ろうとする二人の前に、例の少女が姿を現した。
二人組の少女がその少女に一言二言声をかけているのだろうが、少女はそのまま別の部屋へと入ってしまう。二人は彼女を追いかけて同じ部屋へと足を踏み込んだ。
ベッドの脇に座り込む少女。その少女の視線の先にあったのは、一人の少年の姿だった。
そしてその少年の姿は、他の少女と違ってその輪郭は、あまりにもはっきりしていて。
「――こ、この子は」
信じられないものを見るような目で、清隆は驚愕した。
きっと別人に違いない、そう思おうとしても、しかしその面影は、確実にあった。
明らかに清隆もよく知る人物、その過去。何故彼の顔ははっきりと見えたのか。
分からない。友であるその少年が、今までの一連の夢にどんな関係があるのか。顔がはっきり見えてしまった以上、重要な役割を果たしているに違いない。その少年は一体何者なのか。この夢の主は、一体何を清隆に伝えようとしているのか。
清隆の胸の中に、一抹の不安が渦を巻き始めた。
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一人の少女が、己の弱さを霧で隠した。
霧の奥深くに潜ってしまえば、誰も自分を見つけることはできないから。
そして、誰にも見えないところで泣けばいい。誰かに見つかりそうになれば、気付かれる前に涙を拭いて、仮面を被るように笑顔を振り撒けばいい。
笑うことは大好きだ。自分が笑顔になれば、他の誰かも笑顔になるから。だから、たとえ無理をしていると分かっていても、笑っていられた。
その仮面は、真紅の槍によって打ち砕かれた。
身に纏っていた霧の衣も、全部が全部、綺麗さっぱり引き裂かれてしまった。残っていたのは、弱さしかない、全てを知っている自分。
その槍の先にあったのは、その槍が霧を引き裂く先にあったのは、きっと自分の新しい未来だから。
――だから私は、
――だから私は、
必死で手を伸ばして連れて行こうと思ってしまった。でもその願いは叶わない。
ずっと支え続けてくれてありがとうと。共にい続けてくれてありがとうと。守っていてくれてありがとうと。
感謝の気持ちは絶えない。それなのに、これからみんなと向かう
この足が、後ろめたい気持ちが、踵を返すことを拒む。
駄目だ。それではいけない。全ての人が、新しい世界を待っている。苦しんで、悲しんで、嘆いて、怒って、憎んで、恨んで、妬んで、そんな願いを叶えながら。
歪んだ世界を元に戻す。そう決めたから。
振り返りざまに、最後に視界に入った
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入学当初から、風見鶏にあるとある小さな研究室は、リッカとジルの二人で貸し切っていた。
そんなことでは他の生徒たちから反感を買うだろうから、公明正大な理由としては、この王立ロンドン魔法学園の設立と発展に際して多大なる力を貢献した、ということになっている。流石にこの風見鶏の存在を決定づけた引き換えに小さな研究室を貸し切ることができるということに異を唱える者はいなかったようで。
この研究室では現在、花を開花させた状態を永久に保存し続けるための実験と並行して、記憶喪失のさくらが握っていた桜の枝に関する研究をしていた。
この桜の驚くべき点は、幹と離れてかなりの時間が経過しているというのに、全く枯れる気配を見せず、さくらと出会った当初と同じくらいの生き生きとした力を放っていることである。
つまり、この桜の枝こそ二人が目指している最終目標であり、そして同時に、地上の霧を晴らすための何かしらの大きな手掛かりとなるかもしれない。
「とりあえず……これだけは間違いなさそうね」
自信たっぷりに頷いたリッカは、その視線をジルへと向ける。するとジルも同様、満足そうな笑みを浮かべてリッカに視線を送り返した。
デスクの上にあるのは二本の桜の枝。内一本は、さくらが持っていた桜の枝である。そしてもう一本は、魔法とは全く縁のない、桜が開花できる環境ならどこにでもあるような桜の一部を使用した桜の枝である。
無論、この十二月の冬の季節に桜の枝に花弁をつけているものなど、さくらが持っていたもの以外には存在しない。――はずだった。
しかし、さくらのものではないこの桜の枝には、既に満開状態とほぼ同等であろう量の花弁がびっしりと咲き乱れている。気分はプチ花見を開いている気分だ。
「まずは同系統のものを接触させてみるっていうのは魔法の研究において基本だけど」
ジルが近づいて桜の枝を持ち上げる。
少し前までただの寂しげな木の枝だったものが、今では立派に薄紅色の景色を広げていた。
「魔法を用いていない桜にも影響を及ぼす、ってことだね」
さくらの持っていた桜の枝と、通常の花弁をつけていない桜の枝を接触させたところ、花弁のなかったはずの桜の枝が、ゆっくりとその枝先に小さな蕾をつけ、そして次第に小さな花を開かせ始めたのだ。つまり、さくらの持っていた桜の枝は、他の何の細工も施されていない桜の枝に対して干渉し、開花を促進させる力を持っているということが判明した。そして、ここからは推測に過ぎないが、もしかすれば隣接した状態であれば、この枝は桜の花弁を永続的につけ続けるだろう。
無論、実際に桜の枝が花弁をつけるにはもう少し時間を要する。そこで、実験結果を素早く得るために若干の修正を魔法によって加えていたが、それでも実験結果に大きく影響を及ぼすものではない。
そして分かったことがもう一つ。この桜の枝は、何の干渉もなしに独りでに魔力を収集しているのだ。
「別に魔力を吸い取られてるって訳でもないから、悪意のあるエナジードレインのタイプでもなさそうだし――」
さくらの持っていた枝を拾い上げたリッカが難しそうな顔をして唸り始める。例え魔法の分野において最高峰を誇るカテゴリー5の孤高のカトレアとは言え、未知のものには苦戦を強いられるようだ。
「でも勝手に魔力を集めてきちゃうんだから、個人の魔力を蓄えるような宝石魔法型でもないんだよね」
宝石魔法とは、例えば掌の大きさの宝石に、魔法使いの個人の魔力を蓄えておくことで、その宝石の種類に適した魔法を瞬時に発動することができるタイプの魔法である。
実は、ここ風見鶏に使われている街灯の灯りの全てがこの宝石魔法によるものであり、ロンドンの地下の風見鶏の空気中に充満している魔力を集めて一斉に宝石にチャージし、それを街灯にセッティングすることによって、後は宝石に埋め込まれた光の魔法によって暗い道を照らしているのである。
しかし宝石魔法の宝石もまた、独りでに魔法を集めるなどと言うことは不可能であり、それにも当てはまらない。
リッカにとってもジルにとっても、この桜の枝に内包された魔法のタイプを、未だかつて見たことがないのだ。
その時、研究室のドアが音を立てて開いた。姿を見せたのは、学生服を適当に着崩したクーと。
「やっほー、リッカ!」
彼に肩車をされ、頭上で何やらはしゃいでいる金髪ショートヘアの少女、さくらだった。
少し前まではか彼の鋭い目つきに怯えていた節もあったというのに、今ではすっかりこの仲である。子供に懐かれたクーもどこか機嫌がいいようだ。
「仲良くなったのはいいことだけど……あんまり子供扱いしたら駄目よ?」
さくらの見た目は子供だが、彼女がどこかの魔法使いであることは周知の事実である。魔法使いである以上、見た目の年齢が実年齢と合致しない例の方が多く、見た目はあまり過信できない。事実、若々しく見えるリッカも、ジルも、そしてクー自身も実は何十年も既に生きて経験を積み重ねてきている猛者たちなのだ。
故に、いくらさくらの体躯が小さいとはいえ、子供扱いするというのは彼女に申し訳ない。
「一人前に扱ってほしけりゃせめてエリザベスくらいになってから出直してこい。こいつが何歳だろうが俺様にとっちゃまだまだガキだよ」
つまり、エリザベスよりも魔法の才能を持つリッカと、他の追随を許さない繊細な魔法を操るジルの二人は、クーにとっては一人前という訳だ。実際クーがそう言った記憶はないが、ジルの独自解釈によってそう言うことになった。
「それで、何であんたとさくらが一緒にいるの?」
「昼休みの間に葛木がさくらのカウンセリングをしたんだとよ。こいつの記憶に関することとかな。そんで別れた後に俺と鉢合わせたらしい」
当時クーはまたドン引きされるかとこっそり冷や汗を流したが、そんな心配も杞憂に終わり、あっさり近寄ってきてくれた。
しかしこの時最も警戒すべきは、あの既に世界征服していましたみたいな面構えでエラそうに見下してくる全身金ぴかの王様がこの少女のことを大変お気に召しているようで、彼が本当に短気だった場合、さくらとつるんでいるだけで彼の宝によってハチの巣にされるかもしれないということだった。
誰の許しを得てその垢塗れの手で我が宝に触れておる。躾も施されぬ雑種の負け犬風情が、せめてこの我の手で土にも還られぬようにしてやる、などと激昂して金の雨を降らせる姿が容易に想像できてしまう。くわばらくわばら。
「それで、カウンセリングの結果はどうだったの?」
リッカは、肩から下ろされたさくらに視線を合わせるようにして屈みこむ。
さくらは少し悲しそうに、口を開いて言葉を紡いでみせた。
「少しだけ、少しだけなんだけどね。ボクの昔のことを、思い出せたんだ」
その一言は、さくらにとっても、そしてリッカとジルにとっても、大きな一歩となるものだった。
「ほう、こっちでも進展があったか」
術者である葵が魔法の霧を晴らそうと決心をした時から、少しずつ事が動き始めている。
もしかしたらさくらも、この霧の魔法に関わりのある少女なのかもしれない。彼女と初めて出会った日――彼女が記憶を取り戻し始めたタイミングと葵の決心のタイミング。
きっと彼女も、この大魔法の犠牲者なのだ。葵と共に何かを奪われ、この世界を彷徨うこととなった
その時、クーの胸の中に、いつか感じた小さな焦燥が震え始めた。
後ろ髪を引かれるような。そこに向かってはいけないと、誰かに囁かれているかのように。
真実に向かうことに恐怖している――そんなはずがないのに。
ギルガメッシュが言っていたことを思い出す。彼は別れ際に、何という言葉を呟いていただろうか。
そんな平常ではないクーのことなど知らず、さくらは深呼吸を一つ入れて。
リッカに促されて、さくらは思い出した自分の過去を、まるで他人事のように語り出した。
真相に至るための大ヒント回。もしかしたら原作プレイ済みの方なら、この霧の魔法の力の全貌が見えてきた読者の方もいるかもしれませんね。
原作ラスボス葵ちゃんの正体を見破るのが時期的に早かったため、さくらの記憶を取り戻すタイミングも大分ずれています。
宝石魔法について、某うっかり凡ミス一族のアレとは一切関係ありません。多分(適当)
そろそろさくらについても触れないといけないですねー。